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第五話 力の解放

 翌日、馬場の家を訪問してきたのは、一人の少女だった。年齢は馬場と同じくらい。装備は厚手の服を着ている。武器は持っていない。色々な事態を想定しているのか、ベルト・ポーチにポケットがいくつも付いているベストを備えていた。


 バック・パックも背負っている。髪は金髪で肌は色白だった、丸い顔は優しそうに見える。ダンジョンにいる探索者というよりはメイド・カフェにいそうな雰囲気だった。お互いに挨拶をして、バイクでダンジョンに向かう。ダンジョンの入口は島の中央にある背の低い山の中腹にあった。


 入口には監視小屋がある。根津は監視員に挨拶して身分証を提示した。馬場も身分証を見せて入る。ダンジジョンの中は明らかに人工的な造りになっていた。入口から続く階段を降りる。幅が広く、背の高い石畳の通路を進む。所々に灯りがあるので、見通せない状況にはないが少々暗い。


 挨拶をしてからダンジョンに入るまで、馬場は根津を観察した。根津を見ても強いとは思えなかった。だが、仏さんや八重も強さはわからなかったので、侮ったりはしない。


 根津は目的地がわかっているのか、すたすたと進んで行く。罠を警戒したり、敵との遭遇を心配したりは一切していない。横で見ていると不安になる。地下一階は何もない場所なのだろうか? 本番は地下二階からか?


 歩いて行くと途中で地下二階へと続く階段があったが根津は素通りする。あまり話をしないのも変な空気になる。怖気づいていると思われるのも癪だった。


 会話を始めようかと思うと、直径十五mの円形の部屋に出た。部屋の中央には黒い大鬼がいる。以前に遭遇した黒鬼と見た目の違いはない。根津が命令する。


「馬場くんの出番よ。戦って。危なくなったら助けるから、安心していいわよ」

 黒鬼には負けない。馬場は勇者刀を出すと力を解放する。先輩が見ている前で力を出し惜しみして、負けたら無様だ。


「灯せ、長命寺源氏蛍」

 馬場の呼びかけに勇魂武器が薄ぼんやりと輝く。長命寺源氏蛍の、力の解放第一段階。一段階解放で切味が上がる。同時に長命寺源氏蛍の能力も発動する。


 長命寺源氏蛍は見る者の距離感を狂わせる。結果、相手は間合いを読めなくなる。黒鬼が軽く片手を上げると、鬼の手の中に金棒が現れる。


 黒鬼は勇魂武器のような特殊武器を使ってくる。前に会った黒鬼よりは格段に強いはず。馬場は中段に刀を構えた。攻撃するための構えであると同時に、長命寺源氏蛍の能力を発揮させるためだ。黒鬼が馬場をしっかりと見据えた。


 黒鬼の瞳がわずかに揺れる。能力にかかった。一気に間合いを詰めて斬りかかる。黒鬼の動きが一瞬だけ停まった。不審に思ったが、そのまま切りつけた。堅い。刀は黒鬼の肌に傷一つ付けられずに弾かれた。黒鬼が叫ぶ。


「舞い上げろ、破城槌」


 馬場の体が軽くなった。黒鬼が大振りをする。普通なら回避はわけない。だが、馬場は回避できなかった。踏みしめる大地の感覚がない。馬場の体は地上から浮いていると感づいた。


 宙に浮いた状態では回避できない。刀で鬼の金棒を受けると刀が折られる危険性があった。反応の遅れた馬場に金棒が振り下ろされる。勇者刀で地面を突いた。体が二歩分だけ横に移動する。


 普通なら金棒が掠りくらいはした。だが長命寺源氏蛍のせいで黒鬼は、馬場の位置を見誤っていた。黒鬼の攻撃が逸れる。


 体が重くなった。踏ん張りが効くので距離をとった。黒鬼の武器の能力はわかった。ほんのわずかな時間だけ、相手を宙に浮かして回避を不可能にする。


 勇魂武器の特殊能力は第一段階で一つしかない。だが黒鬼は、武器の持つ能力の他にも別の能力があると見ていい。いくら堅いとはいえ、勇者刀で傷一つ付かないわけがない。


 また、攻撃が当たる前の不自然な硬直。黒鬼は動きを停める行動で、体を硬化できる。余裕をぶっこいて出し惜しみしていたら、死んでいた。


 これがダンジョンか。中々に面白い。馬場は久々に楽しくなってきた。黒鬼も笑っていた。

 長命寺源氏蛍の第二段階解放をする。

「儚なく吹き消せ。長命寺源氏蛍」


 刀が一瞬だけ強く光った後に、刀の光が消えた。馬場の視界も暗くなる。目の前には、太く伸びる灯が灯った蝋燭のみが見える。馬場は距離を詰める。蝋燭の火の部分に一撃をいれる。蝋燭の火が消えて、真っ暗闇になった。光が戻った時には黒鬼が倒れていた。


 長命寺源氏蛍の第二段階を解放すると、術者には現実世界が見えなくなる。相手は蝋燭に見える。馬場は死神視点へ変わると表現していた。


 死神視点で見える蝋燭の火が消える時、相手は寿命がなくなり死亡する。いくら堅くても、生命力があっても関係ない。寿命があるものなら全て息絶える。視界と引き換えに得る、即死攻撃だった。


 黒鬼から煙が立ち上がり、クルミくらいの大きさの石になる。石は紫色に光っていた。根津が機嫌よく歩いてきて、石を回収する。

「初めてにしてはよくやったわ。とりあえず、一階では死にそうにないわね」


 ここはまだ地下一階だった。

「このダンジョンって何階まであるんですか?」

「わからないけど、御主人とは地下十五階まで行った経験があるわ」


 地下十五階! 仮に敵が下に行くたびに強くなるなら、地下十五階の敵ってどうなるんだ? 根津が驚愕していると、部屋にくすんだ宝箱が現れた。


「ラッキー」と根津は喜んで宝箱を開ける。空間に警告音が鳴り響いた。空間から半裸の筋肉質の魔神が煙と共に現れた。男の上半身はランプから出ていた。


 馬場はぞくりとした。一目でわかった。こいつは戦ってはいけない奴だ。逃げたい。だが背を向ければ、死は不可避。


 馬場は構えると、根津が動いた。根津が残像を出しながらすーっと前進する。

「はい、どーん」と根津が軽い調子で言う。魔神が壁まで飛だ。魔神は壁に激突してそのまま消えた。後には手の甲を突きだした根津がいる。


 ただ振り払っただけ。ランプの魔神は根津の一撃で倒された。後には青林檎のような光る石が残っていた。


 楽勝でもなく、圧勝でもない。暴力とも呼べない、イジメにすらなっていない。ただの突っ込みのごとき一撃で、ランプの魔神は何もできずに倒された。根津が機嫌よく石を回収しているのが冗談にすら思えた。根津は作業しながら教えてくれた。


「ここはトラップ付きの宝箱が確率で出るのよ。罠は召喚タイプ一択。宝はゴミだから、罠を外さずに開けて宝を消す。そんで、モンスターを出して倒す。最後にボーナスの碑文石を取るのが定石なのよ」


 ダンジョンを作った存在がいるなら、根津の言葉を聞いて苦い顔をするだろう。魔物の強さからいって、絶対にボーナス・ステージとして用意した仕掛けではない。

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