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第二十八話 新たな流れ

【報告】8万字まで書いてきましたが、ここまでのようです。残り六話くらいで一度、締めようと思います。

 いつものように玄奘とダンジョンに潜る。地下二層で三度戦うが問題なく勝てた。お互いに勝手がわかってきたのもあるが、馬場の成長の賜物だと正直に思った。


 休憩時に玄奘が機嫌もよく提案する。

「調子も良いようだし、二人の時は地下三層に修練の場を移そうかのう」


 馬場は問題ないが、玄奘の身が心配だった。玄奘には言わないが、馬場のほうが玄奘より強い。玄奘が足手まといとは思わない。だが、ダンジョンでは不測の事態が起きる。


 地下三層では突発的なアクシデントの発生時に玄奘を守れない。玄奘には世話になっている、死んでほしくはない。


 玄奘もまた探索者である。身の安全の心配は気を悪くするかもしれない。それでも、下手に気を遣った結果、『死にました』となれば不誠実だ。馬場は迷ったが指摘した。


「俺は強くなりました。だからあえていいます。今の俺は玄奘さんより一回りは強い。地下三層となれば俺は玄奘さんを守る自信がない」


 勇気のいる発言だった。玄奘が怒るかと思ったが玄奘は笑った。


「心配無用、死んだら死んだで、その時じゃ。儂も全滅するくらいなら馬場くんを見捨てる。だから、馬場くんも危険を感じたら儂を見捨てたらよい。それだけじゃ」


 覚悟はあるが、玄奘には死んでほしくない。気遣ったが無駄だった。わかってはいたが、こういう話の展開のあとに玄奘がポックリ死んだりするのがダンジョンでもある。


 もやもやとした感情を抱えていると、玄奘が床に座る。玄奘が裾を捲った。両足には厚手のバンドがしてあった。玄奘がバンドを外す。次に袖を捲り、同じようにバンドを外す。


「それはなんですか? 防寒具や防具にしては小さいですが」

「カカカ」と笑って玄奘が教えてくれた。


「これはまあ、体を鍛える錘のようなものよ。さすがにこんな物を付けて地下三層で連戦すると年寄りには辛いからの」


 気になったので、錘を一個だけ貸してもらった。重さは三㎏に満たない。だが。手にしているだけで、気力が少しずつ吸われていく。四個も付ければ、かなりの負荷になる。玄奘はまだ本気ではなかったと知る。


 錘の負担がどれほどのものか気になったので頼む。


「玄奘さんが使わないのならこれを貸してもらっていいですか? これを装着して俺も一回、地下二層で戦ってみたい」


 玄奘は馬場の頼みをやんわりと断った。


「止めておきなさい。まだ、馬場くんには早い。こんな物を付けてダンジョンを歩いたら危険じゃ。なあに、時がきたら上の者から指示が出る。それにこれは儂の修行のための物じゃ」


 玄奘もまた雑用の見習いであれば、上を目指す者。当然、虚無皇の方針として修業をさせられている。玄奘は最期に笠を外すと裏に貼ってあった護符を外す。玄奘が護符を手にして呪文を唱えると、護符は瘴気を放って燃え尽きた。


『玄奘より上にいった』など思い上がりでしかなかった。玄奘は馬場の実力に合わせていただけだった。


「俺は完全に馬鹿者だな」と馬場は苦く思った。勘違い野郎ほどみっともない者もいない。はっきり言えば、これではダンジョンのやられ役であり、魔物の餌でしかない。


 地下三層に下りて少し歩くと魔物に遭遇した。魔物は長身で灰色の亡者。やたら手が長い。だらりと下ろした手は床に付きそうだった。馬場は刀を構えて、力の一段階目の解放をしようとした。声が出なかった。理由はわからない。


 亡者が手を突きだす。亡者との距離はまだ十mあるが、体が瞬時に亡者の前に引き寄せられた。気が付けば亡者の目の前。馬場は背後にも敵の気配がした。力の解放を妨害され、前後を敵に挟まれた。


 後ろには玄奘がいる。馬場は玄奘に背後の魔物を任せると決めた。背後の魔物の正体はわからない。姿も見えない。だが、前の魔物が危険な存在なのは間違いない。


 魔物の腕が不自然に動いて襲ってくる。殴る動作ではない。鞭で打つ動きに近い。馬場は伸びて来る魔物の腕を切り落とそうとした。魔物の腕は斬れなかった。ゴムバンドを木刀で討った感覚だった。


 ならばと、魔物の攻撃を掻い潜る。魔物の頭に一撃を入れた。理想の一撃が入った。されど、やはり斬れない。魔物の頭が殴られたゴムマリのように歪む。魔物は笑っていた。ダメージになっていない。飛び退いて間合いを空ける。


 苦戦を覚悟すると、体が軽くなる。体に起きた変化は知っている。玄奘が使った霊能力だ。

「灯せ、長命寺源氏蛍」


 力の解放の言葉を口にすると発声ができた。刀がぼんやりと光る。魔物の鞭のような腕が襲ってきた。斬りつけると腕を切断できなかったが、刀は通った。魔物の腕から血のような黒い液体が飛び散る。


 魔物は驚愕の表情を浮かべて背を向けた。仕留めるチャンスだ。踏み込み一撃を繰り出す。刀が宙を斬った。魔物の動きが速くなり。目測を誤った。逃げられると、覚悟したが、魔物の動きが急に遅くなった。


 好機と思い駆け寄り背後から一撃を加えた。魔物は背中を大きく斬られて碑文石になった。後ろを振り返ると玄奘が既に碑文石を拾っていた。玄奘は馬場の背後に現れた魔物を馬場より早く倒し、馬場をサポートしてくれた。


 クランの実力最下位はまだ俺なんだな、と馬場は思い知った。そのあと二度、魔物と戦ったがなんなく倒せた。玄奘も馬場も無傷だった。もっとも、無傷で済んでいるのは玄奘のサポートがあればこそだ。


 一度、地下二層に上がり休憩を取る。玄奘が世間話をするように話し出した。


「馬場くんも地下三層で通用するようになったの。今年の人材は豊作かもしれん。人が増えれば虚無皇の運営も楽になろう」


 気になる言い回しだったので質問をする。

「新しくきた人材は俺だけ、豊作とはいいづらいでしょう。他にも見習いが増える予定があるんですか?」


「馬場くんの後にも入団希望者が四人きておる。二人は新規加入で、二人は移籍希望者じゃな。移籍希望者の技量に問題はない。新規加入者は詩人さんの指導の下で基礎訓練中じゃな」


 うかうかしてられない。下手をすれば後から来た人間に追い越される。探索者の世界は実力主義。先に入っていようと、弱ければいつまでも上がれない。当然、興味がある。


「どんな四人なんですか? 教えてもらえるのなら知りたい。仲間がいると良い刺激なります」


 玄奘の表情は渋かった。明らかに新人を歓迎していない。

「移籍希望者は嫌われ者のウロボロス・ファミリーと外様組から移籍して来る。虚無皇に入れば問題を起こす気配がおおありじゃ」


『クランが変わったので、前歴は無視してください』は都合が良すぎる。他のクランはおおっぴらには仕掛けてこないかもしれないが、恨みを持つ者がいればやり返しに来ても不思議ではない。状況によっては馬場にも被害が出る。


「なんでそんな人材を受け入れるんですか?」

「知らんが仏さんの決定じゃ。下は従うしかあるまい。おそらく、根津さんの移籍騒動が出た時に何かあったんじゃろう?」


 根津を押し付けようとしたら逆に人を押し付けられた? 交渉失敗なのか、何か裏があるのか、怪しいところではある。だが、仏さんが一方的に損な取引をしたとは思えない。


 玄奘は苦い表情のまま告げる。

「後の新人の二人じゃが、これもまた変わり者。一人は脱サラで探索者になった中年の男性。春までは肉屋の卸売の営業じゃったか。もう一人は子持ちの女子高生だと言っておったな」


 たいていの事では驚かないが、二人の受け入れには大いに疑問が残る。まともに聞けば探索者になっていい人間ではない。両者ともダンジョンに入れば初戦で死ぬ。


「仏さんは何を考えているんでしょうね」


 正直な感想を漏らすと、玄奘が注意する。

「他人事のように言ってはいかんぞ。初期研修が終われば、どちらかは馬場くんが面倒を見なければいかんようになる。もしかしたら、二人の教育係になる事態もあり得る」


「ハア?」の言葉を飲み込む。馬場の異能者としてのキャリアは長い。だが、弟子を取った経験はない。人に物を教えたこともない。


 脱サラ探索者に子持ち女子高生を加えた三人パーティでの探索なんてやりたくない。だが、上からやれと命じられれば、やらねばならない。困難だからできません、では無能の烙印を押される。

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