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第二十七話 宝部屋へ続く扉

 ダンジョンに入った。ダンジョンはいつもと変わりがない。魔物の気配がある。


 俺の実力なら地下二層で碑文石を集めるのが安全だ。修行を兼ねるのなら地下三層。玄奘となら地下三層でも問題ないが滝沢となら不安だ。滝沢が行動不能になれば背負っては戦えない。


 馬場があれこれと考えると、滝沢は小さな太鼓をリュックから出した。子供の玩具にしか見えない。太鼓の鼓面には狸の絵が描かれている。滝沢が太鼓を通路に向けた。


「ポン」と可愛らしい音がした。音のした方向に進んで行く。分かれ道に来ると滝沢がまた太鼓を向ける。同じく「ポン」と音がする。


 滝沢は音によって進路を決めていた。太鼓に導かれ進むと、魔物に遭わない。そのまま、地下二層、地下三層とへと降りて行く。気になったので尋ねる。


「太鼓が行き先を決めているけど、先には何があるんだ?」

「ダンジョンに時折、安全で宝が多くある部屋があります。宝部屋と呼ばれています。無常の太鼓は宝部屋へと行き方を教えてくれます」


 以前、草餅を無常さんと呼ばれる狸の置物の前に備えた。狸の無常さんと太鼓は関係あるのだが、どうやったら太鼓が手に入るかは不明。馬場が新人なので教えてもらえなかったのかもしれない。


 とすれば、滝沢はウロボロス・ファミリーの中では着実に事績を積んでいる。


 幅が六mの廊下に出た。踏み出すと壁に灯青い炎が連続して灯る。明るくなった廊下は長さが五十mある。馬場は警戒すると、滝沢が銃を構える。滝沢の銃は以前の銃と変わっていた。


 自動小銃タイプの銃だが、全身が銀色で魂の紋様が入っている。ダンジョン産出製の銃と見えた。

「高そうな銃だな。どこで手に入れたんだ」


 滝沢は誇らしげに気に語る。

「先輩が使っていた品です。先輩が新しいのを手に入れたので、安く譲ってもらいました。買うと結構するんですよ」


 銃に詳しくないが、銃からは品や格が漂っている。買えば高い品だ。そもそも市中に流れる品かわからない。団員が多いと良い装備を安く譲ってもらえるメリットもあるんだな。


「馬場さんは後ろの警戒をお願いします」


 滝沢が小走りに進むと廊下の向こう側から、真っ黒な顔で紺のスーツを着た男たちがぞろぞろと歩いて来る。サラリーマンタイプの魔物か、変わっている。


 滝沢の銃が火を噴いた。弾丸が吐き出されて魔物に命中する。魔物には遠距離攻撃の方法がないのか、打たれ放題になっていた。


 魔物が次々に倒れるが、倒れた後ろからぞろぞろと新手が歩いてくる。空いていた距離が少しずつ詰まっていく。


 弾丸の補充と後退を滝沢が繰り返す。弾には限りがあるが、弾が切れるまで滝沢に戦わせたほうが効率よさそうだな。


 背後で気配がした。入口の通路にピッタリサイズの鬼瓦が出現していた。鬼瓦がゆっくりと前進してきた。馬場が近づこうとすると、鬼瓦が青白くスパークする。迂闊に近付くと、電撃を浴びる危険性があった。


 後ろからトラップ、前から魔物の大軍。前後を挟まれた。馬場は慌てなかった。前は滝沢に任せる。馬場はゆっくり鬼瓦を観察しながら通路の先へと後退する。観察の結果、鬼瓦のスパークが止まる隙があった。隙ができた時に斬りつける。材質が固く刀が弾かれた。


 鬼瓦が再度スパークする前に下がる。再び隙を突いて斬る。すると、今度は鬼瓦がスパークするのだが、前進はしない。気になったので次にスパークが止んだ時に斬る。今度は鬼瓦が前進した。


 鬼瓦にはスパーク中止時に触れると前進が止まる場所がある。スパークの停止は均一ではない。目、角、鼻、口、髭がランダムに遅れて電気を放つ。


 当たりを付けて刀で遅れて光る場所を突いた。馬場の想像通りに鬼瓦の進行が止まる。わかってしまえば、トラップは問題ない。あとは、滝沢が前方から迫って来るサラリーマン風の魔物に対処できるかだ。


 鬼瓦の進行を止めていると、銃撃の音が止んだ。鬼瓦のスパークが止み、機能を停止した。振り返れば、魔物のサラリーマンはいない。


 滝沢が汗を拭う。危機は去った。二人で碑文石を拾う。五十円玉ほどの黄色く光る碑文石にどれほどの価値があるかはわからない。


 塵も積もれば山となるだ。小さな碑文石でも回収するに限る。ここで捨てて、富士山の穴を塞ぐ時にあとちょっと足りませんでした、となったら、馬鹿らしい。


 碑文石を拾って、廊下を進んだ先に大きな姿鏡があった。鏡はくすんでいて姿は写らない。滝沢が手で触れようとすると、鏡面が青く光った。


 滝沢が暗視ゴーグルを付けて準備する。

「先に行って安全を確認してきます。確認できたら呼ぶので来てください」


 罠を切り抜けた先に宝物庫への扉があるとは限らない。斥候がいるのなら先にいかせるのは一般的な判断だ。


「俺にはまだ余力があるから、そこらへんを考慮して」


 宝があるのなら諦める気はなかった。滝沢が鏡に触れると姿が消えた。鏡の向こうはどこかに繋がっている。滝沢が消えると、鏡に赤く光る文字が浮かんだ。


『不夜城の女王を倒せ、さすれば未来への扉は開かれる』


 女王が何を意味するかわからない。もし、鏡の先に『不夜城の女王』と呼ばれる魔物がいれば滝沢が危険だ。どんな魔物か知らないが、名前からして強そうだ。滝沢の残弾も気になる。


 俺に倒せるか? 振り返れば鬼瓦は消えて退路ができていた。いまなら滝沢を見捨てる選択肢もあった。


 だが、馬場は滝沢を追うために鏡に触れた。強烈な光が馬場を包んだ。光が消えた時に馬場はダンジョンの外にいた。外はすっかり陽が落ちていた。体感時間ではまだ夜になるには早過ぎる。


 外に見えたが、実はまだダンジョンの中なのかもしれん。油断は禁物だ。もし、迷宮島に見えるだけで、ダンジョンの階層なら違いがあるはず。馬場は武器を消した。


 今いる場所がダンジョンの外なら武器を出したまま歩く訳にはいかない。島民や探索者の目に異様に映る。下手に誤解されれば攻撃対象だ。


 ダンジョンの中なら油断していると見せたほうがいい。魔物が島民に化けているなら襲ってくる。すぐに攻撃に移ってこなくとも、気配ぐらいは出る。


 どこかよく知る場所があれば向かって違いを探すのだが、そこまで知った場所が自分の部屋くらいしかない。歩いてアパートに向かう。島の雰囲気はいつもと変わらない。殺気や敵意は見られない。監視されている様子もない。


 警戒していると人が集まる気配がした。気配のする方向に行くと島の人が浜辺に集まっている。人数は多く、これだけ人が集まるのは珍しい。何かの祭りかもしれないが、魔物の罠かもしれない。


 人数は二百を超える。もし、全てが人に化けた魔物で一斉に襲ってきたらさすがに対処できない。どうする? 近づくか?


 馬場が迷っていると、馬場に近付いてくる人陰があった。桜色の浴衣をきた子供に見えた。馬場が近づいて行くと、子供が手を振る。


「ドーン」と音がして浜辺から花火が打ち上がった。光に照らされて子供の顔が浮かぶ。相手は八重だった。八重は笑顔で話し掛けてくる。


「馬場も花火大会を見にきたのか?」


 八重の言葉に違和感を覚える。疑問を顔に出さないようにして質問する。

「いいんですか? こんな時に花火大会なんて。本土が魔物の襲撃で大変なのに」


「なにそれ?」と目をパチクリさせて、八重が聞き返してきた。八重の顔を見るが惚けている風には見えない。


「島に本土から避難してきた客船が来てるでしょう?」


 八重は小首を傾げる。

「変なことを言うな。客船は花火大会を見るために寄ったんだぞ」


 八重の説明でも、客船が迷宮島にきた理由になる。滝沢と八重では話が大きく違う。どちらが、正しいのか迷って。ドーン、ドーンと花火が空に上がっていく。花火の存在が八重の正しさを証明しているように思えた。


 だが、あえて大がかりな仕掛けで探索者を騙そうとしている可能性も捨てきれない。馬場が困っていると、八重が手を引く。


「行くぞ、向こうには屋台も出ている」


 馬場は用心していた。それでも、簡単に利き手を握られた。並の魔物には不可能だが、本物の八重なら可能。完全に信じたわけではないが、八重に手を引かれ花火を見物するのによい位置に行く。


 浜には屋台があり、チョコ・バナナが売られていた。屋台は根津がやっていた。八重がチョコ・バナナを買う。馬場の分も奢ってくれた。気になったので根津に尋ねる。


「なんで根津さんはチョコ・バナナを売っているんですか?」


 機嫌よく根津が答える。

「利益率がいいからよ。こういう場で原価を聞いちゃだめよ。気分が壊れるからね」


 商品選択の理由を聞いたのではないが、根津らしい回答ではある。本物かどうか確かめるには斬りかかるのが一番だが、根津の副業を妨害すれば魔物より恐ろしい攻撃がくる。


 馬場はチョコ・バナナを口にするか迷った。ここはダンジョンの中ではなく外であると思えてきたので口にした。チョコの苦味とバナナの甘味が口に広がる。美味いと正直に思った。チョコレートがよいのか。


 価格を確認するが一般的な夜店の値段と変わらない。だが、品質は格段に上。理由は想像が付いた。根津が虚無皇で貯蔵している品を持ちだして使っている。奴隷の役得だろう。


 なるほど、原価を教えられないわけだ。馬場は納得すると同時に、根津は本物だと思った。花火大会は派手なもので景気よく上がっていく。


 周りの人間も花火大会を楽しんでいた。こうなって来ると。八重の話が正しく、滝沢が嘘を吐いていたことになる。


 馬場のアパートからでも打ち上げ花火の音は聞こえる。夜になれば簡単にばれる嘘をなぜ滝沢が吐いたのかが疑問だった。

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