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第十八話 海辺の清掃

 翌日、玄奘がやってきたので確認を兼ねて報告しておく。

「無常さんに草餅を供える仕事は無事に終わりました。ですが、ダンジョン内で襲撃に遭い滝沢とは逸れました。滝沢の生死は不明です」


 馬場の報告を聞いても玄奘は驚かなかった。

「滝沢の護衛までは引き受けてはいないから問題ないのう。大方、他のクランの探索者にでも襲われたんじゃろう。ウロボロスの連中は嫌われておるからのう」


 見て来たように言い当てたな。さすがは年の功か。襲ってきた探索者の手の内が気になったので、相手の姿と何が起きたかを玄奘に見たままを話した。顎に手をやると、目を細めて玄奘は教えてくれた。


「相手は二人じゃな。甲冑の女性の能力はわからん。だが、持っていた銃は異能を込めて打ち出す銃じゃな。エピック大学の発明品じゃろう」


 異能が籠った道具はダンジョンから生み出される。だが、製造は現代の技術では不可能と世間では言われていた。


 製造法を既に確立しているのならたいした物だ。発表すれば名声は欲しいままに手に入る。金だって小さな国の国家予算ぐらいはもらえる。それでも、外に知識を出さないのだから、エピック大学には何かこの島でやろうとしている計画があるのかもしれない。


「気配しか感じられなかった相手はどうなんでしょう」

「犬がいたのならもう一人の探索者は魔物使いじゃな。魔物を飼いならして使役する技術もエピック大学の人間なら持っている」


 異能の中でも特にユニークな技術と力を持つのがエピック大学、か。いやはやこの島は何とも面白い。


 講釈が済んだので玄奘が明るい調子で告げる。

「馬場くんの今日の予定じゃが、今日は浜辺の掃除をするぞ」


 果たして掃除は言葉の通りの作業なのか気になった。

「掃除ですか、浜辺に魔物が出るとか」


 玄奘は軽く首を横に振った。

「いんや、これは町内会の付き合いの一環じゃ。だからといって、手を抜くでないぞ。誰が見ているかわからんからな。あと、海の浅瀬のゴミを拾うから水着の準備もしてくれ」


 不満はない。雑用での採用なのでこういう仕事もやらねばならない。誰かがやらねばならないなら、一番下の人間がやるのが筋だ。


 浜辺に行くと百人近い人間が集まっていた。恰好は動きやすい服装で武器を携帯している者はいない。浜辺は広くないので、清掃には多すぎる。ただ、二十人近い人間は竃を作り、焼肉の準備をしている。清掃が終わったあとに、親睦会をやると見える。


 玄奘はゴミ袋と火鋏を馬場に渡した。

「儂は飯焚き係になった。馬場くんはゴミを拾ってくれ」


 馬場は浜にある海の家で着替え、波打ち際でプラゴミを拾う。島の人間が海にゴミを捨てると思えない。また、島では見ない菓子の袋などがある。海流の影響で本土のゴミが流れ着いている。


 作業をしながら、滝沢の姿を探した。滝沢の姿はない。迷宮から帰っていないのか、ウロボロス・ファミリーが清掃イベントに不参加なのかはわからない。清掃には子供も参加していた。男女比は半々だった。


 海辺の清掃に参加している人間は全員が探索者とは考え辛いが、女性の探索者は思ったより多いのかもしれない。

「ちょっと手を貸してくれ」


 誰かが叫んだ。叫んだ男は胸まで海に浸かっていた。男の手には丈夫なロープが、握られていた。男衆が波打ち際まで近ると男がロープを投げる。


 馬場も参加してロープを引く。ロープはピンと伸びた。ロープは重量物にかけられているのか、男が六人がかりでも簡単には引けない。横幅のある黒人男性が腕組みして見ている。髪は黒髪で四十くらいで、短い髭を生やしている。男は水着のため体格がはっきりとわかる。男は筋骨隆々だった。


 男は手伝わないのではない。手伝いたいが我慢しているように見える。男には威厳があるのでどこかのクランの幹部だ。幹部が手を出すと、若い衆が気を遣うと思って出さないでいる。ないしは、弱い団員を不甲斐なく思っている。


 他のクランの幹部が見ている前で情けない姿は見せられない。下の者が弱いとなると、団の評判が下がる。「虚無皇も昔は凄かったんだけどね」等の評価をもらいたくない。


 努力はした。だが、ロープの先が何に結ばれているのか不明だが、動かない。見ている男性の顔が不機嫌になり、声を上げる。

「情けない。もういい、代われ。日が暮れる」


 ロープを引いていた男性が詫びる。

「団長、申し訳ありません」


 五人が諦めてロープから手を離す。馬場も場所を譲った。馬場は謝っていた男性に尋ねる。

「随分と強そうな方ですね。きっと名前の知れた猛者なんでしょうが、あの方は誰なんですか?」


 尋ねられた男は自慢気に答える。

「我らがウイン・ゴッズの団長、ハマーさんだよ」


 団長と教えられて納得した。いかにもできそうだ。ハマーがロープを引くく。六人で引っ張ってもどうにもならなかったロープが嘘のようにスイスイと動く。ほどなくして、ロープの先につながった物が見えてきた。ロープの先にあった物は金属製の黒い馬の像だった。


 馬といってもサラブレットのような細い体型の馬ではない。ばんえい競馬で見る太った馬だ。なんの金属かはわからないが、大きさから四tはありそうだ。なぜ、海中に馬の像が埋まっているかはわからない。だが、ゴミとして流れてきたにしては謎が多い。


 浜辺に上がった馬の像を見ていると、浜から声がする。

「手が空いたらこっちも頼むぞ。今回は物が多い」


 見れば浜にはロープを引っ張る集団が五つほどできていた。これは中々重労働だ。一般人には荷が重い。


 午前中に浜には九つの珍品が上がっていた。金属製の馬の像が一つ。身長二mの女神の石像が一つ。まるで生きているような探索者の石像が五つ。高さ三mのトーテム・ポールが一つ。人が隠れられるほど大きな縄文土器の壺が一つ。


 馬場が気になった品は探索者の石像だった。探索者の石像には銃を持つものがある。馬場は銃には詳しくない。銃は新しい軍用銃に見える。細部も精巧にできていも。もし、銃を持つ石像が作られたのなら最近だろう。


 石像が誰かの手によって彫られたとは思えなかった。手造りにしては精巧すぎる。誰かが石を彫ったのではなく、誰かが石になったと考えるほうが腑に落ちた。


「気になりますか?」


 金髪の白人女性が寄ってきた。エプロンをしており、醤油と炭の匂いがする。さっきまで肉を焼いていた調理係だろう。


 エプロンには下手くそながら赤字で『ベッキー』と刺繡がある。女性の立ち姿は一般人のものではない。姿勢が良く、戦い慣れている。女性は軽く微笑んで挨拶をする。


「エピック大学所属のレベッカです。皆さんはベッキーと呼びます」


 声に聞き覚えがあった。昨日の甲冑の女性と思われた。幻術を使って俺を騙したので、こっちは気が付いていないと思っているな。


 滝沢の安否が気になるが、馬場はあえて聞かない判断をした。知らないほうがよいこともある。それに、声だけで襲ってきた人物と同一だと決めつけるのは危険だ。


「初めまして、虚無皇の馬場です。この島の海には不思議な物が上がるんですね」

「実に興味深いですよね。この石像は昨日まではなかったものです」


 ベッキーが昨日、海で泳いでいたとは考え辛い。ベッキーは昨日、馬場たちを襲撃してきた。ならば、石像が昨日は海に沈んでいなかった、とベッキーはなぜ言い切ったのだろう?


「どうして、わかるんです?」


 ベッキーはフッと笑った。

「石像は昨日、私たちがダンジョンで処分したものですから」


 処分が何を意味するかわからない。エピック大学の探索者が他の探索者をダンジョンで始末した結果できたものなら、経緯を知っていたとしても不思議ではない。滝沢を襲った理由も石像にするためだったのだろうか? でも、滝沢の石像はない。


 滝沢が逃げ切った可能性もあるな。処分と曖昧な言い方も気になるところである。探りを入れようかとかと思ったところで、馬場が玄奘に呼ばれた。


「馬場くん、トーテム・ポールをトラックに載せるぞ、梱包を頼む」

 馬場は仕事に戻る。梱包が終わった時にはベッキーの姿はすでになかった。

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