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第十七話 滝沢の事情

 滝沢が進んだ先から戻って来た。表情は渋い。滝沢が小声で告げる。

「内部の構造が変わっていました。この先は行き止まりです」


 昨日と今日で地形が変わる。ダンジョンでは珍しくはない。引き返すしかないが、尾行してきている探索者の行動が気になる。相手がこちらを仕留めるつもりなら、今が好機だ。


 さてどうするか、と迷うと足音が近づいてくる。探索者はこちらの異変を察知していた。足音を隠さないなら、接触してくる。足音からすれば一人分。だが、気配は三つあった。


 二対三の戦い。滝沢の戦力は一人分とはいえない。馬場が三人を斬らねばならない。通路は通常の広さがあるので三人が並んで武器が振るえる。相手が同格なら苦戦は必至。


 相手の姿が見えた。相手は全身甲冑を着た人物だった。武器は銃のような物を手にしている。銃は一見すると銃剣付きのマスケット銃に見えるが、わざわざライフルより性能の劣るマスケット銃をダンジョンに持ち込むとは思えない。きっと、なにか仕掛けがある。


 甲冑の人物は大きな白い犬を連れていた。犬種からして狼犬だ。だが、普通の狼犬と違い体躯が立派であり虎ほどある。狼犬は動物用の甲冑を着ていた。気配はあと一つあるが、姿は見えない。


 遠距離から銃で攻撃。こちらが近づくのを犬で牽制しつつ、銃に弾を装填。犬が倒されるか、装填できなかった場合は、隠れている伏兵が動く。普通ならそんな戦術が予想されるが、おそらく違う。


 馬場は武器を出してはいたが、まだ抜きはしない。全身甲冑の人物が止まった。

「いつぞやの借りを返させてもらうぞ」


 声でわかったが、全身甲冑の人物は女性だった。声のトーンからして若い。また、声に恨みが籠っている。馬場はその女性と初対面である。甲冑を着ていない時に会っているかもしれないが、声に聞き覚えがない。チラリと滝沢を見る。


 滝沢は自動小銃を構えてサラリと教えてくれた。

「借りが、なんのことかは私にもさっぱりわかりません」


 滝沢は無罪を主張していた。どうも怪しいが、声にこもった感情からして人違い、とは考え辛い。馬場が疑うと全く気に留めた様子もなく滝沢が言葉を続ける。


「もっともうちのウロボロス・ファミリーは揉め事を多く抱えすぎているので、誰かが恨みを買っている場合が否定できません」


 他のクランの厄介事に巻き込まれた。本来なら投げ出したいところだが、そうもいくまい。女性に「俺は関係ない」と弁解しても無意味だ。また、玄奘が一緒に行けと命じているなら、滝沢を護衛する意味合いもある。ダンジョンでの躊躇いは死を招く。馬場は戦う覚悟を決めて走り出す。


 女性がマスケット銃を馬場に向けて発砲した。狙っている場所がわかるので回避は容易い。マスケット銃から弾はでなかった。強烈な光が出る。一瞬視界が白くなる。見えるようになった時には、狼犬も女性もいない。


 背後で気配がする。振り返ると視界の先に甲冑の女性が見えた。位置関係を把握した。馬場は知らないうちに女性を追い抜いていた。狼犬が見えない。奇襲を警戒するが襲ってこない。滝沢のほうに行った様子もない。


 馬場の一瞬の隙を突いて消えた。だが、わかる。狼犬は近くにいる。馬場は滝沢を助けにいくか迷った。滝沢までの距離は二十m。全力で走ればすぐだが、狼犬の足は馬場より速い。狼犬に背後を見せる形になれば後ろから首筋をガブリとやられかねない。


 また、潜んでいる三人目がどう動くかが全く未知だった。迷っていたら滝沢がやられる。馬場は危険を覚悟で滝沢を助けに走った。滝沢は鉈で女性の銃剣攻撃を防いでいた。


 馬場は女性の甲冑の首の隙間目掛けて一撃を見舞う。女性は振り返らずに馬場の一撃を避けた。女性は少し距離を取る。馬場は背で滝沢をかばう体勢になった。背中がざわりとなる。死の予感がした。馬場は本能に身を任せて動いた。


 振り返り滝沢を袈裟斬りにする。滝沢は派手に血飛沫を上げて倒れる。馬場は滝沢を斬った勢いに任せて体を捻る。正面にきた女性の兜に一撃を入れた。


 女性の兜が割れた。兜の下には額を割られた滝沢の顔があった。床に二人の滝沢の死体が転がる。咄嗟の判断で動いたが、何がどうなっているかわからない。


 混乱する暇はない。甲冑の滝沢が襲ってきた女性で、もう一人の滝沢が狼犬の変化だったとしても敵はあと一人いる。通路の闇からカランと乾いた音がした。音のした方向の気配を注意深く探る。いつのまにか存在したはずの気配は消えていた。


 視線を死んでいた滝沢に戻すと甲冑を着ていた滝沢の死体が消えていた。高度な幻術だったのか? 後には斥候の姿の滝沢の死体が一つ残っている。


 敵に踊らされた味方の滝沢は斬ったかと、苦しく思う。だが、背後から感じた死の気配は本物だった。あのとき、背後の滝沢を斬らねば馬場は死んでいた。


 滝沢が操られたのなら、敵が上手だったと認めるしかない。せめて、草餅だけは持って行こうとした。滝沢が所持して袋を持ち上げる。袋が異常に軽い。口を開封すると中は空だった。おかしい、滝沢の袋の中には草餅が入っていた。どういうことだ?


 滝沢の死体に異変が起きた。滝沢の死体が床に沈んでいく。慌てて、馬場は引き上げようとした。滝沢の体がボロボロと崩れ床に消えた。手にしていた袋も風化した。後には紫の小さい碑文石が残っていた。


 死後に碑文石が残ったので死んだ滝沢は魔物だった。だが、いつから魔物だったのか疑問に思う。魔物は普通ダンジョンの外には出られない。床に消えた滝沢は草餅を所持していなかったので、ダンジョンの中に入ってからが怪しい。


 タイミング的にマスケット銃から光が出た時に入れ替わったと考えるのが妥当。だが、考え直す。斥候である滝沢は一人でダンジョンの奥に先に行って確認を繰り返していた。狡猾でやり手の魔物なら滝沢と入れ替わる機会はいくらでもあった。


 ダンジョンの恐ろしさを噛みしめつつ歩き出す。少し歩くと、前方に人の気配があった。人数は三人。気配を隠していない。殺気もない。用心しながら歩いて行くと、相手の姿が見えた。


 相手は八重と他二名の探索者だった。探索者二人は馬場を見ると警戒の気配を出す。八重の恰好は鉢金に胴鎧を装備した和装装備。胴には沢瀉紋が見えた。お供を八重は気にせず明るく挨拶してきた。


「馬場、元気にしていたか」

 八重が挨拶すると他の二人から警戒の色が和らいだ。八重も偽物かもとは疑わなかった。八重は馬場を疑っていない。理由はわかる。馬場が偽物で襲ってきても、問題ないからだ。


 仮に偽物の馬場が百人同時に現れても脅威ではないと見えた。八重は自覚していないのだろうが、強者の余裕がありありと出ている。現在地は地下一層。ここまで強い存在なら、本物の八重に違いない。


 馬場は丁寧な態度で打ち明けた。

「草餅を無常さんに持ってきたのですが仲間と逸れました。無常さんのいる場所は仲間しか知らなかったので、困っていたところです」


 明るく笑って八重は返す。

「災難だな。いいぞ、無常さんのいる場所はここから近いから教えてやる。こっちの通路を真っすぐいって次を右に曲がれ。しばらく進むと狸の石像がある。それば無常さんだ」


 これは聞かなきゃわからなかった。ダンジョンの内部が変わっているので八重の教えてくれた道が正しいかわからない。だが、格上の八重の言葉を信じることにした。


「ありがとうございます。助かりました」

「いいって、いいって。お礼をする気ならお菓子を送ってくれ」


 それぐらいなら安いものだ。馬場は頭を下げて八重と別れた。八重に教えられた通りに進むと、高さ百五十㎝の雄狸の石像があった。石像の前に机があり草餅が載っている。他の探索者が備えたものだ。


 馬場も空いているスペースに草餅を供えた。

「よきかな、よきかな」


 草餅を供えると男の声が聞こえた。気配はしない。だが、確かに草餅を供えた時に馬場は声を聞いた。馬場の役目は終わった。滝沢がどうなったかはわからない。広いダンジョンを闇雲に歩いても危険なだけ。下手すれば滝沢は無事に帰ったが、馬場は死にました、となる可能性も充分ある。


「子供じゃないし大丈夫だろう。地下一層なら一人でも死にはしまい。もし、借りを返された結果、死んでもう遭わなかったのなら自業自得だな」


 滝沢なら大丈夫だろうと、決めて馬場は足取りも軽く帰路に就いた。

【ほやき】思ったより評価が低かった。問題は戦闘シーンが楽しくないせいだろうか? それとも、問題は別の箇所だろうか。わかっている人がいたらアドバイスがほしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] >問題は別の箇所だろうか。 一番はタイトルじゃないですか? このタイトルだとなんのジャンル化もわからないですし。 私は作家フォローだから読んでみようと思ったけどタイトルだけだったら多分開い…
[良い点] 続き楽しみです [一言] 主人公が淡々としすぎて感情移入しにくいとこ 周りが化け物だらけなのはいいけど、主人公はもう少し人間臭くても良いかと
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