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第十一話 誰がための幸運

 地下一階に上がる階段はすぐそこなので、問題なく戻った。滝沢はすたすたと歩いて行く。滝沢が向かっている方向は出口ではない。


「どこに行くんだ? 出口はそっちじゃないぞ」

「特に消耗しているわけではないから、このまま試練を受けましょう」


 ダンジョンに入って一戦もしていないので、疲労感はない。試練はどんなのが来るかわからない。修行をしてから挑んだはいいが、『知恵』や『運』に頼るものが出たなら意味がない。無理なら玄奘が止めているはず。滝沢が行くのなら、一度目を挑んでもいいのかもしれない。


 馬場は滝沢の案に乗った。


 ダンジョンの南北を貫く大きな通路を、北に進んだ先が試練の会場だった。試練の会場まで、敵とは遭遇しなかった。試練の会場の前には、いかにも何かありそうな大扉があり、横には仮面が掛けてあった。


 滝沢が仮面に話しかける。

「検定料を払います。大人二人分」


 仮面の口が開いた。滝沢が銀貨を六枚入れる。大扉が静かに開いた。先は円形状の闘技場になっていた。直径が百mはあるのでかなり広い。天井までも三十mはある。闘技場の外周の上に窓があり、下を観戦できるようになっていた。


 二人が闘技場に入ると、大扉が閉まる。天井に闇が集まる。闇の中から、蝙蝠の羽を持つ女性が降りてきた。身長は四m、手足に鉤爪があり、顔は鬼女だった。


「戦闘開始」の声が響く。試練は戦闘だった。下手に頭使うよりはいい。滝沢が自動小銃をフルオートで撃つ。的がでかいだけあって、ほぼ命中する。致命傷にはなっていないが、蝙蝠鬼女に傷は与えられていた。出だしは好調だ。


 馬場は刀を出現させる。力の解放はまだ行わない。滝沢が弾を撃ち尽くした。馬場は距離を詰めて斬りかかる。滝沢が弾倉を交換するまでの隙をなくすためだ。


 蝙蝠鬼女の鋭い爪による一撃が、馬場を襲う。蝙蝠鬼女は動きが俊敏ではなかった。回避は容易い。刀で蝙蝠鬼女の脛を斬りつけた。脛に薄っすらと刀傷がつく。力を解放しなくても刀は効く。だが相手が大きいので、もう一段の切味がほしい。


「灯せ、長明寺源氏蛍」


 力の一段階解放。刀身が輝くと、危険を感じたのか蝙蝠鬼女が上空に退避した。上空に逃げられると、馬場には手立てがない。どうしようかと思うと、滝沢の自動小銃が火を噴く。蝙蝠鬼女から血がぽたぽたと流れ落ちる。


 滝沢には上空の敵を攻撃する手段があるので、手詰まりにはならない。だが、火力が足りていない。滝沢がどれくらい弾を持ち込んでいるかわからないが、滝沢の攻撃だけでは不安だ。


 蝙蝠鬼女が大きく息を吸い込んだ。馬場は耳を塞いだ。蝙蝠鬼女の甲高い叫び声が響いた。鼓膜をやられるほどの大きな音ではないが、不快なことこの上ない。蝙蝠鬼女が滑空して滝沢を狙った。


 瀧澤は何かを投げた。強い光が発生する。馬場はとっさに左腕で目を覆った。ドンと鈍い音がした。続いてギャー、と蝙蝠鬼女が叫ぶ声がした。見れば蝙蝠鬼女が落下していた。蝙蝠鬼女は光で目を潰された結果、壁にぶち当たって落ちた。


 馬場は走った。蝙蝠鬼女が体を起こそうとする。蝙蝠鬼女の足を踏んづけ、体に昇る。翼に大振りの一撃を見舞う。翼に大きく傷ができた。蝙蝠鬼女は起き上がり、空に逃げようとした。


 だが傷ついた翼では、バランスが上手く取れない。加えて、長命寺源氏蛍の効果により、距離感が狂っていた。蝙蝠鬼女は再び壁に激突した。


 馬場は駆け寄って、接近戦を挑んだ。斬れ味が上がった刀の一撃は、蝙蝠鬼女の体を裂く。蝙蝠鬼女は馬場に攻撃を当てようとする。だが滝沢の銃が、蝙蝠鬼女の顔を集中攻撃する。蝙蝠鬼女は視界を潰されたも同然だった。


 馬場はフットワークを生かして、蝙蝠鬼女を斬りまくった。蝙蝠鬼女がたまらずに膝と手を突いた。馬場は蝙蝠鬼女の下に潜り込んだ。蝙蝠鬼女の首から上に刀を突きあげる。蝙蝠鬼女の動きが止まる。馬場が飛び退くと、蝙蝠鬼女が大量の血を首から流して倒れた。


 勝利が確定したと思ったが、気は抜かない。試練の敵が一体とは限らない。二階の観覧席からパチパチと拍手をする音がする。


 蝙蝠鬼女が揺らぎ消えた。碑文石は残らない。代わりに豪華な木製の宝箱が現れた。拍手が止むと、滝沢が宝箱を調べる。滝沢の顔は輝いていた。

「罠はないようね。開けるわよ」


 馬場の返事を待たず、滝沢は宝箱を開けた。光が花火のように噴き出した。罠を外すのに失敗したかと焦った。けれども、滝沢が光を浴びても問題なさそうだった。馬場も光に触れるが何もおきない。その内、光が止む。部屋を閉鎖していた大扉が開いた。


「これで終わり?」と馬場は滝沢に尋ねる。

「そのようね」と滝沢から短い返事があった。


 終わってみれば無傷で倒せた。一人なら苦戦する展開もあったかもしれない。戦いの流れによっては大怪我をしたかもしれないが、今回は事なきを得た。


 宝箱が消えたので大扉から出る。あとは、滝沢が警戒し魔物を回避しながら、出口を目指した。陽がまだ高いうちに、ダンジョンから出られた。

「じゃあここで解散しましょう」


 滝沢は気分よく帰っていった。一人でダンジョンに行くのは危険だ。馬場は少し早いが昼飯を食べに行く。店はよく知らないので、玄奘から教えてもらった蕎麦屋にした。


 注文をして待っていると、玄奘がやってきた。玄奘は馬場を見て目を丸くした。

「馬場くんいったいどこにいってたんじゃ、探したぞい?」


 何を言っているんだと、不審に思った。

「滝沢さんと試練に行っていましたよ」


「滝沢って誰じゃ?」と玄奘が小首を傾げる。

 はてな? と馬場は疑問に思いつつ答える。


「玄奘さんがダンジョンに行けなくなったから、代わりに派遣してくれた人ですよ」

「知らん」と玄奘は眉を顰めて教えてくれた。


 何か話がおかしい。今日の探索はいったいなんだったんだろう? 馬場は今朝から今まで起こった一連の出来事を話した。玄奘は黙って聞いていたが表情は渋い。


 全てを聞き終わって玄奘が口を開く。

「馬場くん、知らない人についていっちゃいかんぞい」


 この年になって、こんな当たり前の内容を注意されるとは思わなかった。

「滝沢は馬場くんを利用して試験に挑んだ。戦闘の流れによっては捨て石にされたぞ」


 今回は色々と運が良かったのか。だが腑に落ちない。

 玄奘は何が起きたのか説明してくれた。


「滝沢の身分証の紋様から推測するに、滝沢はウロボロス・ファミーじゃな。あそこは、地下一階の試練を受ける時に一人でやると決まりがある」


 おかしい話だ。なら俺を誘った理由がわからん。

「いざとなったら捨てる気でも、俺に協力させたらダメでしょう。一人で受けたことにならない」


 玄奘は馬場を憐れんだ。

「ウロボロス・ファミリーでは騙されるアホウな探索者は道具扱いなんじゃよ。人として見做していない」


 仲間は捨てない。でも、道具なら使い捨て有り。きっと素人探索者を騙せるかどうかも、ウロボロス・ファミリーの試練の内なのか。


「性格が悪いですね。よくそれで狭い島でやっていけますね」


「だから嫌われ者と呼ばれるんじゃよ。ウロボロス・ファミリーにとってはダンジョン内では他のクランを出し抜いたり、騙したりはありなんじゃよ。必要とあれば襲ってくるぞ。証拠が残らないならな」


 これで滝沢はウロボロス・ファミリー内で認められる。試練は通った。利用されたがこちらも検定料を出してもらったことだし、貴重な経験ができたとしてよしとするか。

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