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19.王宮からの使者

「エルヴィラ様、今日も王宮からの使いが来ていますが、どういたしますか?」


「そう。同じ返事をしておいてくれる?」


「かしこまりました」


カミラがしっかりとうなずいて部屋から出て行く。

当主変更の儀が行われていると知って、カミラも静かに怒っていた。

もともとカミラはお母様についていた侍女だ。

お父様の裏切りを知って食事ができなくなり、やせ細っていくお母様のそばにいた。

悲しんで死んでしまいたいというお母様に何もできなかったと嘆いていた。


お母様が亡くなったのはお父様のせいだと思い、恨んでいる使用人たちは多い。

王宮からの使者も公爵家の敷地の中に入れず、

使用人たちからも冷たくされているようだ。


「今日で十日過ぎたか……焦っているんだろうな」


「焦ったところで、もう遅いのよね」


当主変更の儀を行うと決めたのは陛下だ。

今さら私に何とかしろと言われても困る。


開始から一週間が過ぎた頃、最初の使者が来た。

この状況を説明するために王宮に来いというものだった。

それには当主変更の儀を行っている間は敷地の外に出られないと答えた。

今日の使者が八回目。一日に三回来たこともあるが、同じ返事をしている。


「一か月終わった後、どうなるんだ?雨は止むのか?」


「止まないと思うわ。お父様が当主として立っている間はずっと雨が降るわ」


「それを陛下に言わないのか?」


「あの時それを言っても聞かなかったと思うの。

 下手なことを言えば脅すつもりなのかとか言われそうだし」


「それもそうか」


精霊が、精霊王が認めなかったらこうなりますと言うのは簡単だ。

だが、あの場でそれを言ってしまえば当主変更を嫌がっているようにしか思われない。

実際に雨が止まないことを理解しない限り言っても無駄だっただろう。


「二週間たっても同じように使者が来るようなら、

 当主変更の儀をやめれば雨もやみます、どうしますか?って言ってみる」


「やめると思うか?」


「すぐにはやめないでしょうね……でも、きっと雨だけじゃなくなる。

 精霊が雨を降らせただけで満足することはないと思う。

 きっと、陛下がやめると言いたくなるような状況になると思うわ」


「それまでは待つしかないか」


さすがに離れの中にずっといるのに飽きてきたのか、アロルドがため息をついた。

離れにあった本もすべて読んでしまったらしく、することがなくて退屈なんだろう。

私のほうに向いて座ると、私の髪をさわり始めた。


「ルド?何しているの?」


「いや、暇だからエルの髪を編む練習でもしようかと思って。

 毎日カミラが結ってるの見て、なんだかできそうな気がする」


「もぉ……絡ませないでよ?」


「大丈夫だよ」


本当に結い方を覚えたのか、器用に編み始めている。

いつもカミラにされている時は気にならないのに、

アロルドにされていると思うとくすぐったい。


「昔はさぁ、精霊たちがエルの髪の毛で遊んでいたよな。

 髪がふわふわって持ち上がったり光ったりして面白かった」


「そういえばよく遊ばれてたわ。ルドの髪もそうだったじゃない」


「そうだな。今は短くしたから遊ばないだろうけど……。

 昔は部屋の中にも精霊が遊びに来てたのに、来なくなったのはどうしてなんだ?」


「え?」


言われてみて、精霊たちが部屋の中も飛び回っていたのを思い出した。

朝起きてから寝るまで精霊たちに振り回されて、一緒に遊んでいた。

少しも寂しいなんて思う暇もないくらい私の周りには精霊がいてくれた。

いなくなったのは……。


「……あの時だ。

 ルドと婚約できないってわかって。

 もう一緒にいられないんだってわかったら悲しくて泣いてたの。

 それで慰めてくれた精霊たちのことも嫌になって、

 一人にして!って叫んだらここには入らなくなった……」


そっか。私が一人にしてって強く願ったからそれを叶えたんだ。

あまりにも悲しすぎて、アロルド以外に慰められるのが嫌で、

それくらいなら一人でいたほうがいいって思ってしまった。


「……俺のせいか」


「ルドのせいじゃないよ」


誰かのせいだっていうのなら、陛下とお父様のせいだ。

公爵家の当主としての仕事をしてもいないくせに当主代理だなんて。


精霊の加護を外されたというのに、

そのせいで不幸になっていることにも気がつかない。

何を考えているのか、まともに話したことも無いからわからない。


今頃、お父様の周りは暴風雨が続いているはず。

ダーチャ侯爵家の屋敷がいつまでもつだろうか。

精霊に手加減という言葉は存在しない。

精霊王も好きに動いていいと言っているし、

お父様のほうも雨だけで済むとは思えなかった。





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