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16.公爵家の当主

「四歳にもならない公爵など認められるわけがないだろう!」


「いいえ、国法に則ったものです。それに二か月ほど前にも、

 公爵家当主として私が署名した書類が認められているはずです」


「何の書類だ?そんなものは知らないぞ?」


「オーケルマン公爵家の次期当主を決める書類です。

 問題なく受理され、陛下の承認も終わったと聞きましたが?」


あの後すぐに受理されたとおばさまから聞いている。

私が当主として署名した書類を陛下自らが承認したのだから、

私が当主だと知らないとは言えないはずだが。

こういう正論を言っても聞いてくれないのが陛下なんだよね……。


「そんなものは知らん!とにかく、エルヴィラ嬢が公爵だとは認めない!」


やっぱり。まぁ、ここで認めてくれるとは思っていない。

この手はなるべく使いたくなかったけれど、あきらめるしかない……。


「私はお父様に公爵を譲らないとは言っておりません。

 ただ、当主を変更する時には儀式が必要だとお伝えしただけです。

 これがないと他の公爵家から認めてもらえないと思いますので……」


「なに?」


「公爵家の規定を無視して当主を決めるようなことがあれば、

 きっと他の公爵三家は王宮まで抗議しに来ると思います」


あの三人なら陛下相手でも黙っていない。

聞き流されるだろうけど、しつこく文句を言い続けるだろう。

それを思い出したのか、陛下の顔が渋いものに変わる。


「その、当主を変更する儀式をすれば、

 公爵を変えても文句を言われないと?」


「はい。当主変更の儀というのは、精霊王にお伺いするのです。

 次の公爵を認めてくれますか?と。

 一か月の間、何も起こらなければ次の公爵として認められます。

 そうなれば他家の者が口を出すことはできません」


「エルヴィラ嬢もそれをしたと?」


「もちろんです。一か月、晴天が続きました」


実際には、お父様の裏切りによって雨続きだったのが晴れた。

当主を変更しなければ、この国は祝福も加護もなく大変なことになっていた。

もちろん、他の公爵たちはそのことを知っている。


「わかった。では、その当主の儀を行うがいい。

 一か月後、あらためてエミールを公爵と認める。いいな?」


「かしこまりました」


ちょっとだけお父様の顔が引きつっているのがわかる。

お父様は精霊王に会ったことがあるから、無事に終わるとは思っていない。

だけど、陛下と宰相は精霊王の力を信じていない。おとぎ話だと思っている。

一か月待てば問題なくお父様を公爵にできると思っている。


顔色が悪くなったお父様を残して、先に謁見室から出る。

そのまま馬車に乗ると、ようやく落ち着ける気がした。

だけど、これからのことを考えると気が重い。


「すぐに精霊王に会いに行くのか?」


「とりあえず、戻ってから他の公爵家に手紙を書くわ。

 当主変更の儀を行う時は先に知らせることになっているの」


「…災害対策か?」


「そういうこと」


公爵家に着いてすぐに手紙を書いて届けてもらう。

急いで届けるように言ったので、すぐに返事がくるはずだ。


いつもなら夜を待つけれど、まだ明るいうちに精霊王に会いに行く。

異変を感じていたのか、精霊王は私たちを待っていた。

まずは深く頭を下げてお詫びをする。



「リーンネア様。申し訳ありません。

 私は公爵家の当主から降ろされそうです」


「エルヴィラ以外に当主になれるものがいないのにか?」


「陛下はお父様になるようにと」


「当主変更の儀は?」


「行っていいそうです」


「……では、今日の日没から一か月だ。

 精霊たち、行っておいで。好きに暴れていいぞ」


「……できれば、被害は抑えて欲しいのですが」


「無理だな。関係のない領地は多少手加減されると思うが。

 ここのところ、この国は精霊をないがしろにし過ぎた。

 精霊たちも怒っている……聞こえるだろう」


あぁ、ざわめきが聞こえる。興奮しきっている感じ……止められないか。


「わかりました。よろしくお願いします」


「うむ。エルヴィラとアロルドは離れで過ごすように。

 当主の儀の間、公爵家の外に出てはいけない」


「「はい」」


顔が見えないはずの精霊王がニヤリと笑ったような気がした。

まるで楽しんでいるかのような……って、そんなわけはないか。


止められなかったことが悲しくて、しょんぼりしながら離れへと戻る。

戻ったら、オーケルマン公爵家からの返事がもう来ていた。


「父上から?なんだって?」


「オーケルマン公爵家は私以外を当主と認めない、と」


「だろうな」


そんな話をしているうちに、他の公爵家からも返事が来た。

どちらも当主を私だと認めるものだった。

それもそうだろう。三公爵はこの国から祝福が外されたことを知っている。

だから、これ以上何か起きるのを防ぐために私を当主としたのに、

その苦労を陛下たちが無駄にしてしまった。


「日没から開始すると連絡するわ。

 なるべく外に出ないようにと警告もつけて」


「王都は荒れるだろうな……」


「一応は王宮にも連絡するけれど、意味はないでしょうね……」


精霊王の言葉通りに、その日の日没から雨が降り始めた。

当主の儀が始まってしまった……

と、同時に敷地の外で騒ぐ声が聞こえてくる。

誰の声までかはわからないが、予想はできた。


「…騒いでいるのは、もしかして愛人とブランカか?」


「精霊に追い出されたんでしょうね。

 もうあの二人は公爵家の敷地内に入れないと思うわ。

 きっとお父様もそうでしょう。

 王宮から戻ってきたら、三人で違う場所に行くしかないわね」


「どこに行くと思う?」


「……おそらくお金も無いし、公爵家のつけで宿に泊まることもできないから、

 お父様の生家ダーチャ侯爵家に逃げると思うわ」


「ダーチャ侯爵家に助ける力なんてあるのか?」


「無くても助けるんじゃないかしら。今までも助けて来たみたいだし」


お父様に愛人を作るようにそそのかしたのは、お父様の兄ダーチャ侯爵だった。

弟が婿入りしたことで、自分が公爵家をいいようにしようと思っていたのに、

領地関係の仕事は文官に代行してもらっているため、他家の者が関わるのは無理だった。

愛人を作らせたのは、お母様というより、公爵家への腹いせだったようだ。


そのせいでダーチャ侯爵家の領地は加護が外されている。

もう十五年ほど不作が続いているが、なんとか生き残っていたのは鉱山があるからだ。

その鉱山も思うように鉱石が取れなくなっている。

この当主の儀の後で生き残るとは思えない。



夜が更けるにつれて、雨が激しくなっていく。

それでも、公爵家の敷地内に雨は落ちてこない。

まるでぽっかり穴が開いているように公爵家の敷地を避けて雨は降る。


一番ひどく降るのは王宮だろうか。それとも王領だろうか。

私を当主だと支持した公爵家の領地は大丈夫だと思うが、他の領地は悪天が続く。

一か月後、どれだけ被害が報告されるか考えると胸が痛い。


それでも精霊の怒りは止まらない。

もし、陛下が考えを変えなければ、この国は終わる。





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