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第126話 喋りしかしないお前は追放だ

「不二崎晶! お前は今日限りこの配信者パーティーから追放だ!」


 この僕、不二崎晶が追放を宣言されたのは、新宿ダンジョンに入り、生配信を始めた矢先だった。


「えっ……な、何でですか!?」


 僕は思わず声を上げる。


『えっ』

『いきなり何』

『どうしたのリーダー』

『え? 追放?』


 コメント欄も、いきなりの追放宣言に混乱しているようだった。


「何でじゃないだろう。そもそもお前は配信中の道中に喋ってばかりで、ろくに戦っていないじゃないか!

 戦闘の役に立たない、いや……立とうとしない奴にダンジョンを探索する資格はない!

 ダンジョンを無礼るな!」


 リーダーがまくし立てる。

 た、確かに僕は弱いし、だけど……その言い方はちょっと、と思ってしまう。いや、仕方ない事なんだろうけど。


『これはぐう正論』

『いやちょっと違くね』

『まあ確かに戦ってる最中に喋られたら気が散るが……』

『いや、でも配信者ってそういうもんだろ?』

『確かに』


 コメント欄も僕に対して同情的だ。


「そ、それはそうですけど……で、でも僕は戦闘が苦手で……」

「そんな言い訳は聞きたくないな。とにかくお前は追放だ」


 リーダーの冷たい言葉に僕は思わず俯く。

 いや、分かってる。リーダーの言っている事は間違ってない。僕が悪いんだ。

 だけど、それでも……。


「……わ、分かりました。今までありがとうございました」


 僕は絞り出すようにそう告げるしかなかった。


「おい、ケン。この役立たずのお喋り太郎を入り口まで送って行ってやれ」

「あ、ああ……行こうか、晶」


 メンバーの一人、ケンさんがリーダーに言われて、僕の肩を抱く。

「す、すいません……ケンさん」

「謝んなよ。ヨシも言い方悪いだけで、まあなんつーか……うん、しゃーねーよ」


 ヨシとはリーダーの名前だ。吉宗朝、が本名である。


「……ありがとうございます。ケンさん」


 僕はいたたまれない気持ちになりながら、ダンジョンの階段を昇っていく。

 歩きながら自分のスマホを見る。配信画面にはリーダーたちの姿があり、そしてコメントが流れている。


『リーダー厳しすぎ』

『まあ、正論ではあるが』

『晶君可哀想』

『ヨシ、ちょっと言い過ぎじゃね?』

『いや、でも……なあ?』

『普通に邪魔で草』

『晶君は頑張ってる』

『ヨシは言い方悪い』

『晶君可哀想』

『ヨシ、追放は言いすぎだろ』


「あ、あはは……」


 いや、でもこれは仕方ない。僕は弱いんだから。

 だけど……やっぱりちょっと辛いなぁ……。

 そんな気持ちを抱きながら、僕はダンジョンの階段を昇っていく。

 そして入り口まで来たところでケンさんが言った。


「なあ晶。お前はよく頑張ってるよ。だからよ、その……なんだ? もう探索者やめてさ、別の配信やれよ。ゲーム配信とかやってただろ、あれに専念するとかさ」


 ケンさんはやはり優しい人だ。僕を励まそうとしてくれている。


「あ、ありがとうございます……」


 それもありかもしれない。

 ゲームでは、命の危険も無い。スキルやレベルという超常の力が働くとはいえ、実際にモンスターと戦う危険のあるダンジョンよりははるかにマシだろう。特に僕のような弱い人間には。


「……確かに、潮時なのかもな……」


 そうつぶやきながら、僕はダンジョンを後にした。


 せめて個人チャンネルで、今回の事のお詫びをしておかないとな……。


 ◇


 そんな事があって数日。


「なんで?」


 気が付いたら僕は、なんか変な場所にいた。

 和風の屋敷であった。

 そして僕の眼前にはゲーム機、隣には小さな着物の女の子がいた。


「なんで?」


 なんでこうなったのだろう。

 いくつかあるモニターのひとつには、


『うっわ拉致されてるwwwww』

『これは犯罪ではないでしょうか』

『いや妖怪だから人間の法律は適応されないだろ』

『いちおうさっき同意取ってたからセーフ』

『いきなり女のコが次元ぶち抜いて現れて誘って来たらハイというしかなくね』

『キチクもついにガチ犯罪か』


 というコメントが流れている。


 いや、だからなんで?


 状況を今一度思い出そう。

 僕はあの後、やっぱりダンジョン配信を諦める事が出来なくて、パーティーが無理ならソロで、とダンジョンに潜った。

 そして配信をしていたら、コメントにこんなのがあったんだ。


『追放されたそうだね。仕事なくなったんなら、ボクのチャンネルでゲーム配信のコラボしてみない?』


 それに僕は答えたんだ。


「いいですよ、元パーティーメンバーの人にもゲーム配信勧められたりしましたし、そっちやってもいいかなって」


 次の瞬間。


 背後から無数の青白い「手」が伸びて僕を掴み、そして僕の身体は闇へと引きずり込まれた――



「というわけでっ! 座敷わらし千百合ちゃんのゲーム実況配信、今回はダンジョン配信者パーティー『ダンジョンズ&フラミンゴズ』に所属していた、不二崎晶クンをお迎えしてのコラボでーすっ! いぇーい!」

「……い、いえーい?」

「くふふ……ダンジョンであるならもはや東京まで死者の手を伸ばせるほどに力を増したこの私……やはり可愛さは力……」


 そして、なにやら陰気な女の子がくすくすと笑っていた。

 いや本当、何ここ。


『ようこそ晶くん』

『説明しよう! そこにいる女の子はどちらも妖怪で君は妖怪の誘いに迂闊にも返答してしまったのだ』

『↑説明というか脅しになってて草』

『安心しろただのマヨイガだ』

『君はもう逃げられない(帰る事は出来る)』

『俺も誘われたい』


 結局。


 話を聞いた所、彼女たちもダンジョン配信者であるらしい。そして妖怪だとか。

 僕も名前だけは聞いたことのある新鋭の有名探索者にして日本初のダンジョンマスター(仮)である『キチク』の仲間らしい。

 そして僕たちの配信を見て、僕が追放されてフリーとなったのを知って声をかけたのだとか。


「キミのゲーム実況配信よく見てたんだよね」


 千百合さんは言う。


「え? あ、そうなんですか?」


 僕は驚く。まさか僕の事を見ていたとは。


「うん、中々いい筋してるなーと思ったよ。そして何より、トークがいいよね!」

「そ、そうですか?」


 正面から褒められると、なんというかくすぐったいというか……でも嬉しい。特にこんな美少女だ。

 僕がロリコンだったらこの時点て惚れていたかもしれない。


『確かにいいトークしてたよ』

『俺も千百合ちゃんの紹介で見たけど面白かった』

『ゲーム実況もそうだけど、ダンジョン配もよかったぜ』

『移動中の間を持たせるトークって実力が出るよな』

『キチクとかトーク力がゼロっつーかマイナスだったからなあ』

『そのせいでずっとフェイク扱いされてたキチク』

『戦いの時も実況しっかりしてたから見てて混乱しなかった』

『戦闘中のアドバイスのコメント拾ってメンバーに伝えるのも的確だった』

『俺も探索者やってるけどメンバーにそういう役がいるといないとで大違いなんだよな』

『客観視点出来るし、連携取りやすいし』

『トーク役の重要性はもっと広まるべき』


 コメントも盛り上がっている。

 なんかちょっと恥ずかしいな……だけど嬉しい。自分がこうも評価されているなんて。

「さて! まあ嫌な事は忘れてゲームしようよ! キミはボクに実況トークの極意を教える義務があるのさ!」


 千百合さんは拳を握って力説した。

 そうだな、なんかよくわからない流れだけど。


「はい、わかりました! それじゃあやりましょう。千百合さん!」


 僕は笑顔でそう言った。


 ◇


 それから。

 僕は何度かマヨイガへとお邪魔することになった。

 もっとも、僕はマヨイガダンジョンを踏破したわけではないから、近所のダンジョンから日狭女さんの『死者の手』でワーブするという方式だ。


 正直、何度やっても慣れない。あれ怖い。

 ともかくそうやってゲーム実況コラボ配信をしていると、不思議な事に運が向いてきたというか、いいことが起きるようになった。


 例えば、宝くじが五千円当たったり。

 財布を拾ったので届けたら、お礼に菓子折りをもらったり。

 買った卵が全て黄身がふたつの双子だったり。

 タコ焼きを買ったらタコがふたつ入ってたり。


『それ座敷わらしパワーだな』


 そのことを配信で話すと、そういうコメントが来た。

 千百合さん、座敷わらしだって言ってたからな。


『まあそれにしては些細な幸せだが』

『まあそんなもんだろ』

『過度な幸運は破滅を呼ぶって言ってたしな』

『頑張った分だけいいことが帰って来るだけ、って千百合ちゃん言ってたっけ』

『晶くん頑張ってるからなあ』


 そんなコメントが流れていく。

 そういうものなのだろうか、でも確かにわかる。僕は調子に乗りやすい方だからな。

 前も調子に乗りすぎて、パーティー追放されたわけだし。

 みんな、元気にやってるかなあ……。

 そんな事を考えながらマヨイガでゲームをしていると、それは起こった。



「日狭女、仕事が入った、力を貸してくれ……っと、悪い配信中だったか」


 そう言って部屋に入ってきたのは、このマヨイガの主であるダンジョン探索者、キチクさんだった。


「あれ、シュウゴ何かあったの? 今日は東雲さんとこに怒られに行ってるんじゃ」

「怒られにじゃねえよ!?」


 千百合さんの言葉にキチクさんは激しく反論した。


「ふひひ、それで仕事って何……? 私これからライブ配信の予定あるんだけど。私のファンたちが私の歌と踊りを待ってて……」

「それは後回しで頼む。人命救助なんだ」


 そう言ってキチクさんはモニターの画面を操作する。

 そうだ、この日狭女さんはダンジョンとダンジョンの空間を繋げることの出来るスキル持ちなんだっけ。

 だからダンジョンで事故が起きた時に酷使される、と彼女はどや顔しながら愚痴風自慢をしていたな。

 ということは、またダンジョンで何か……


 そう思った時、僕の目はそのモニターの画像に釘付けになった。


『くそっ、敵が強すぎる!』

『撤退だ! とにかく逃げろ!』

『そんな事言ったって囲まれてる!』

『だから下層なんてまだ無理だって言ったのに!』


 それは地獄のような光景だった。

 大部屋でモンスターの群れに囲まれている探索者たちの姿だ。


 そして彼らは……


「リーダー、ケンさん、アキちゃん、ハル……」


 僕の知っている顔ぶれ。かつて僕がいた探索者パーティー、ダンジョンズ&フラミンゴスの面々だった。



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