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夜行さん  作者: 原月 藍奈
人喰いの屋敷編
68/69

決着 8

 私は『喫茶 百鬼夜行』の前に立っていた。

 中からは前と違って、妖怪の気配がしている。


 呪いが解けた今、まだここにいるのかは半信半疑だったけれど。……良かった。


 私は空を仰ぎ見る。


 綺麗な橙色の夕焼けが視界に映る。その夕焼けを見ながら、ゆっくりと深呼吸した。


 今日はけじめをつけに来たんだ――。


 しっかりとした足取りで、『喫茶 百鬼夜行』の中に入っていく。と、すぐさま「いらっしゃいませ~」と明るい声が聞こえてきた。出迎えたのは雪女だ。

 雪女は私を見ると、笑顔を張りつけたまま止まる。


「……」

「……」

「……コホン」


 おもむろに雪女は私から目線を逸らすと、「いつものでいいんでしょ。夜行さん呼んでくるから、座ってて」と早口で言われる。


「あ、うん」


 いつもの席に座る。窓から見える日本庭園は橙色に染まって、綺麗だ。


 そのうちに「来たのか」という声と共に、目の前にみたらし団子とオレンジジュースが置かれた。

 もちろん、目の前に置いたのは夜行さんだ。


 夜行さんはいつもと同じ、黒の着物と青の羽織を着ている。黒の眼鏡を通して、こちらを真っすぐに見ている。


 私はゴクリと唾を飲んでから、きちんと頭を下げた。


「『人喰いの屋敷』を退治するのに、協力してくれて。ありがとう…………」

「いや。元々共闘するということだったからな」


 そう答える夜行さんは、何故か居心地が悪そうだ。


 そんな夜行さんの様子に気付きつつも、私は口を開く。


「あのさ。夜行さんはさ、その…………」

「……なんだ」

「その。母さんのこと。好き、だったの?」

「――――――は?」


 ずっと聞きたかったことだ。

 それなのに、夜行さんは心底意味が分からないというようにポカンとしている。


 その様子に思わず「え!!! 違うの!?」と大声を出してしまった。もう閉店前だからか、他にお客さんがいないのが幸いだ。


 夜行さんはあからさまに眉をしかめる。


「……どういう思考でそうなったんだ」

「だって。母さんのことになると、表情が変わるし。父さんも夜行さんに対して、敵意剥き出しだし。だから。その。好きなのかと……」

「お前なぁ」


 ため息を吐かれた。夜行さんはガシガシと自身の頭を掻きながら、ポツリと話し始める。


「アイツは恩人だ」

「恩人?」

「昔と違って、今は妖怪の存在が薄れてきている。雪女や天狗はそれなりに知名度があるが……。知名度の無い妖怪は力が弱いし、最終的に消えるしかない」

「……それって。妖怪は「とある物事・事象に『人間』が関わったときに生まれる」っていう話と同じ?」

「ああ」


 夜行さんは頷いてから、日本庭園の方へ目を向ける。つられて私も再び日本庭園へ目を向けた。

 景色は橙と黒が合わさった、紫のような色合いになっている。


 夜行さんはそのまま日本庭園を見ながら、「アイツはこの場所を用意したんだよ」と目を細める。


「アイツ曰く、「場所だけなら貸してやる。だが知名度がないのを言い訳にするな。自分の居場所ぐらい掴み取れよ」だそうだ」

「……うん。母さんなら言いそう」

「だから。こうやってアイツからもらった場所で喫茶店を営んで、妖怪の名前、もとい俺らの存在を地道に広げていっているわけだ」


 それじゃあ夜行さんは、これから先も『喫茶 百鬼夜行』を営んでいくのか。


 そのことにホッとしつつも…………、寂しい。

 なんだか泣きそうになる。


 私は真っすぐに夜行さんを見る。


「あのね、夜行さん」

「……今度はなんだ」


 一度、大きく深呼吸をして。口を開く。


「私、退治屋になることにした。というよりも、なりました」

「なんで敬語なんだよ」

「…………だから」


 再度大きく深呼吸をした。


「――――だから、ここに来るのは最後にする」


 これが私なりのけじめだ。


 グッと唇を噛みしめて、話を続ける。


「も、もちろん。妖怪も守れるくらい強い退治屋になる、って言葉を忘れたわけじゃないよ。で、でもさ。積極的に妖怪と関わるのは、なんかこう、違う気もして……」

「なら。……泣くなよ」


 ほんの一時、共闘しただけ……だったけれど。人間じゃなくて、妖怪だけれども。それでも。この空間が好きだった。

 だから、寂しい。

 自分で決めたことなのに。


 涙がこぼれないように奥歯を噛みしめる。


「泣いてない……」

「そうか」

「泣いてない」


 夜行さんは私の頭をガシガシと撫でる。


「誰にだって別れはある。……雪女や天狗も。しばらくしたら、いなくなるしな」

「……。…………え? いなくなる?」


 一瞬にして涙が引っ込んだ。


「いなくなるの? 何で?」

「アイツらは喫茶店の噂を聞きつけて、たまたま巻き込まれただけだからな。地元があるし。わざわざここにいて、名前を知ってもらう必要性も無いしな」

「……」


 皆、離れ離れになって、それぞれの道を進んでいく。それは人も、妖怪も。変わりはしない――。


「やっぱり、さみしい」


 そう小さく呟いた。

 夜行さんはそんな私の呟きを聞こえなかったふりをして、日本庭園へ目を向けている。


 しばらくすると「もう帰るんだろ」と話しかけられた。

 そのあっけからんとした口調に、「あ、うん」と曖昧な答えを返す。


 夜行さんがおもむろに立ち上がる。私もそれにならって立ち上がった。


「……」

「……」


 お互いに言葉は無い。


 私達は『喫茶 百鬼夜行』から外に出る。紫の空にわずかだけれど、星が瞬いていた。


 私は覚悟を決めて『喫茶 百鬼夜行』と、夜行さんを振り返る。


 (かわら)屋根の大きなお屋敷。それから。黒の着物に青の羽織、黒髪で眼鏡をかけている妖怪、夜行さん。


 もうきっとここに来る事は無い。そう思うと。やっぱり…………。


 私はブンブンと首を横に振る。それから深く頭を下げた。


「……本当にっ。ありがとうございました」

「ああ」


 これ以上、一緒にいたら。離れがたくなってしまう。


 余計な雑念を払うように、一気に(きびす)を返す。そして振り返ることなく、しっかりと足を踏み出した。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

これにて『人喰いの屋敷編』は完結です!

本当にありがとうございました。


次回はちょっと番外編を載せまして、次章へいこうかと考えております。


これからも『夜行さん』をよろしくお願いいたします!

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