決着 7
夜行さんと共に首無し馬に乗って、鳥居の前で降ろしてもらう。意外にも父さんは鳥居の前で待っていなかった。
今は母さんのことで、私の迎えまで気が回らないのかもしれない……。
思わず俯いてしまう。
山本さんが見つからなかったことに加えて、母さんの最期を思うと……。自然と下を向いてしまっていた。
そんな私に夜行さんは「日髙 剣には『人喰いの屋敷』について伝えてある」と、ポツリと話始める。
「あの無神経野郎でも。娘のお前にこれ以上何か聞いてくることはないだろ」
「……うん」
「だから。…………大丈夫だ」
「……うん」
私が頷いたのを確認して、夜行さんはおもむろに片手を上げた。かと思うと、私の頭をグリグリと押さえつける。
「ほら。早く帰れ」
「うん」
夜行さんに促される形で、私は夜行さんに背を向けた。けれど。
「っ!」
振り返る。勢いのまま、夜行さんの腕を掴んだ。夜行さんの困惑した顔が間近に映る。
「何だ」
「あの……。その……」
い、言えない。なんとなく離れがたくて、なんて――。
……駄目だ。人間、気が落ちていると人肌が恋しくなる。しかも妖怪が恋しくなるとは。
私は言葉を飲みこんで、「父さん怒ってなかった?」と分かりきった質問をする。
「ああ」
「そっか」
「…………」
「…………」
会話が続かない……。
本当はたくさん話したいことがあった。特に母さんとの関係について。でも。お互いに疲れているし、なんとなく今日する会話じゃない。
私は夜行さんの腕からゆっくりと手を離す。
「……じゃ、行くね」
「ああ」
名残惜しい気持ちを残したまま、今度こそ夜行さんに背を向けて鳥居をくぐった。
「た、ただいま」
平屋の戸を開けながら声をかける。
「――――」
返事は無い。けれど確実に父さんはいる。
私は大きく肩で息をしながら、いつものように広間の障子を開けた。
広間にはやはり父さんがいた。ただいつもと違うのは、父さんの前に黒色へと皮膚が変色している遺体、母さんがいることだ。
広間に漂う酷い臭いに嘔吐きそうになるのを我慢して、「父さん」と声をかけた。
「『人喰いの屋敷』に巻き込まれた人間はどうなった」
父さんはこちらを振り返らない。
「それは…………。助け、られなかった」
「そうか」
相変わらず父さんはこちらを振り返らない。
「陽は、本当に退治屋になるつもりか」
「え?」
「退治屋だからといって、必ず人を助けられるわけじゃない。それどころか、母さんみたいになることも、母さんみたいな人をまた斬ることもある」
「っ」
『人喰いの屋敷』を倒したら、退治屋になることを認められる――。
どうして父さんが退治屋になることを認めてくれなかったのか。今更、分かったような気がした。
「それに……」
父さんにしては珍しく歯切れが悪い。
「お前の母さんは実家と問題があった」
「え?」
初耳だ。
「田中家の女は、代々、同じ家系の一番強い男と子を生さねばいけなかったからな」
「…………ん?」
あまりにスラッと言われたので、心の中で言葉を噛み砕いてい噛み
ダイダイ? イチバンツヨイオトコ? ――オナジカケイ?
それって……。
「近親相姦?」
そう言葉にした瞬間、ぞわっと背中が寒くなった。と、同時に繋がった。
『人喰いの屋敷』に飲みこまれた母さんが、どうして「生家が恐い」と言ったのか。何故『人喰いの屋敷』となってしまったのか。
父さんは頷くと、やっと私の方へ体を向ける。
「明愛梨はお前が退治屋になるのを反対していた」
「……」
「そのうえで聞く。本当に退治屋になるのか。お前にその覚悟はあるのか」
思わず足が下がった。
簡単に「はい」と言っていい問題じゃない。だからといって。「いいえ」とも言えない。
慎重に答えなきゃ。
父さんが私から目を逸らすことはない。
だから私も。父さんから目を逸らす事はしない。
「私、退治屋になります」
ずっと憧れだったんだ。子供の頃から。退治屋になって人を助けることが。
母さんの事情ごときでやめるわけがない。
退治屋をしていて、人を助けられないこともあるけれど。だからといって。人間に危害を加える妖怪をそのままにしてはおけない。
それに。誓ったんだ。私は。
「――私は、強い退治屋になります」
父さんは私の言葉に「そうか」と頷く。
「怪我だけはしないように気をつけろよ」
そう言うと、父さんは再び私に背を向けた。




