決着 5
気を取り直さないと。
私はパンと乾いた音を響かせて両頬を叩く。それから『喫茶 百鬼夜行』の皆に向かい合った。
「あの。お願いがあるんだけど」
「「「「?」」」」
妖怪達は顔を見合わせる。
「……山本さんを探すのを手伝ってほしい」
「ナンだよ。そんなことか。ビックリさせやがって」
河童は自身の頭をボリボリ掻くと、一つ頷く。
「ま、言われなくてもそうするつもりだったしな」
「むしろこっちが助けられたんだから。そんなこと言わなくてもいいのにのぅ」
「!」
河童とコナキ爺の言葉に、私はまた涙がこみあげてくるのを感じながら、ギュッと唇を噛んだ。それから頭を下げる。
「ありがとうっ。お願いします」
「ほんと、どのあたりがあの母親に似たのかしら……」と雪女が小声で呟いたのと同時に、私はクシュンとくしゃみをした。
―夜行さん視点―
朝日が顔を出している。こうして『喫茶 百鬼夜行』以外の場所から、朝をむかえるのはかなり久しぶりだ。
それなのに。……その朝を一緒にむかえる相手が、田中 明愛梨の夫である日髙 剣とはな。
俺が神社に着くと、すでに日髙 剣は鳥居の前で待ち構えていた。
日髙 剣はこちらを睨みつけている。だが首無し馬に乗せられた「モノ」を認識すると、目を見開き顔色が悪くなった。
それもそのはず。首無し馬に乗っている「モノ」は、田中 明愛梨の死体だからだ。
俺は馬から明愛梨を抱えて、剣の目の前に降ろした。
「…………」
降ろしてから五、六歩下がったが……。剣はすぐには明愛梨の死体に飛びつかず、こちらを睨みつけている。
この警戒心……。
俺はこの男の娘である、日髙 陽を思い出す。
思い浮かぶのは涙を流している姿だ。
妖怪を信用するどころか、妖怪の為に涙を流すとは。ほんと、どのあたりが両親に似たんだが。
どこかでクシャミの音が聞こえた気がした。
物思いにふけっていると、「それで。陽はどうした」と声がかかる。
剣の言葉に一気に現実に引き戻される。
剣は相変わらずこちらを睨みつけている。
「どうせお前と一緒に『人喰いの屋敷』を倒しに行ったんだろう。倒したのか。陽は……無事なのか」
「ああ。『人喰いの屋敷』を倒して、お前の娘も無事だ。今、『人喰いの屋敷』に巻き込まれた、うちの店の常連を探している」
「そうか」
剣はホッと安心したかと思うと、やっと明愛梨の死体に顔を向けた。剣はそっと明愛梨を抱き上げるが、顔が再び険しくなる。
「この明愛梨は何だ」
「……」
一瞬、答えに詰まった。だが、結局正直に言うことにした。
「『人喰いの屋敷』の成れの果てだ」
「…………――――」
そう答えた瞬間、剣の雰囲気が変わる。明らかな殺気――――。
足が後退してしまいそうなのをグッと堪える。
「お前、明愛梨が『人喰いの屋敷』だと知っていたな。そのうえで娘を巻き込んだのか」
「…………ああ、知っていた」
知っていた、というよりも、勘づいていたの方が近いだろう。その上で、『人喰いの屋敷』でなければいいと思っていた。
アイツは俺の「恩人」だから――――。
『人喰いの屋敷』がアイツだと勘づいたうえで、日髙 陽を利用した。娘がいれば多少は情けをかけるだろう。そうすれば、かけられた術を解きやすくなる。
そういう思惑があった。
剣は鋭い目つきを向ける。今すぐにでも殴りかかってきそうだ。だが明愛梨を抱えては殴れないと思ったのか、こちらに背を向ける。
「やはり、お前とは一生分かり合えないな」
そう言って、鳥居の奥へ入っていった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
陽の父親と夜行さんの確執については、近いうちに出てきますのでお楽しみに!
次回は美術館に残った陽視点です。




