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夜行さん  作者: 原月 藍奈
人喰いの屋敷編
63/69

決着 3

 異様な気配は消え去り、私達はムンクの『叫び』の前に戻っていた。


 『人喰いの屋敷』を倒した。けれど、まだ妖怪達は荒井先生と戦っている。

コナキ爺は小刀を荒井先生に投げる。それを易々と荒井先生は避けた。河童は荒井先生が避けるのをよみ、避けた先に巨大な水の塊をぶつけた。


「!」


 水の塊は見事に荒井先生にぶつかって、荒井先生はよろよろと二、三歩後ろに下がる。


 『人喰いの屋敷』を倒して術が解けたからか。荒井先生と最初に戦っていた時よりも、皆、圧倒的に強くなっている。


 本当は私も加勢するべきところなのだろう。けれど、今はそれどころじゃない。


「っ! 夜行さん!!!」


 『人喰いの屋敷』を倒して影から解放された夜行さんがドサリと力なく床に落ちる。私は夜行さんに駆け寄り、上半身を抱えた。


「しっかり……。しっかり、して下さい」

「――――――」


 夜行さんが目を開けることも、問いかけに答えることはない。ただただ姿が透明になっていくだけだ。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう。このままじゃ夜行さんが……。

 私は退治屋だから。だから。妖怪が消えたとしても本来なら構わない。でも。でもっ。嫌だ。『喫茶 百鬼夜行』の皆だけは。夜行さんには消えてもらったら困る。いてもらわなきゃ困る。


「おねがい。きえないで……」


 堰を切ったかのようにボロボロと涙がこぼれ落ちる。


 夜行さんが答えることはない。すでに下半身は消失し、抱えている上半身も消え始めている。


「ぴぃ」


 ぴーちゃんがふいに肩に止まった。ぴーちゃんは何か言いたげにこちらを見ている。


 一体何を……。


「…………」


 ぴーちゃんの瞳をジッと見つめる。

 そう言えば……と、瞳を見つめている間にある出来事を思い出した。


 前に夜行さんに聞かれたことがあった。「妖怪はどうやってできるか知っているか」と。答えは「とある物事・事象に『人間』が関わったとき」だった。


 ぴーちゃんと夜行さん。新しい妖怪と古い妖怪。違いはあるけれど妖怪は妖怪。同じ部分がきっとある。


 私は涙をこぼしながら「夜行さんっ」と呼びかける。


「っ……夜行さんは強い、妖怪です。『人喰いの屋敷』の術にかけられていたのに。私のことをたくさん、たくさん、助けてくれた」


 言葉一つ一つに真心を込める。


 夜行さんは最初から私のことを助けてくれた。いろいろ意地悪も言われたけれど、最初から優しい妖怪だった。

 私の言葉で夜行さんが助かるなら……。


「だから、夜行さんは負けません。強いんだから。『人喰いの屋敷』なんかにやられたりしません。誰にも負けたりなんかしません」


 どうか、お願い――。生きて――――。


 涙がボロボロととめどなく流れてくる。


「…………退治屋のくせに。妖怪のために…………泣く奴があるか」

「っ!」


 その聞き慣れた声に食い入る様に夜行さんの顔を見つめた。ゆっくりと夜行さんの瞳が開かれていく。体の消失もいつの間にか止まり、夜行さんの姿は完全に元の姿に戻っていた。


「夜行さんっ」

「まったく……」


 夜行さんはおもむろに手を上げて、瞳からボロボロとこぼれる涙を優しく拭ってくれる。


「よかった……。本当に。よかった」

「ああ。もう大丈夫だ」


 夜行さんは上半身を起こす。


 本当は言いたいことも、聞きたいこともたくさんある。

 どうして囮になったのか。あの悲しい表情は何なのか。

 けれども今はそんなことをしている場合じゃない。


 夜行さんは立ち上がり荒井先生に大刀を構える。私も涙を乱暴に拭ってから、荒井先生と対峙した。



応援してくださる皆様、いつもありがとうございます!


やっと一段落。かと思いきや、一難去ってまた一難です。

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