決着 2
夜行さんから合図が出た。夜行さんの体は徐々に透けていっている。
「!!!」
足が重い。喉がキュッと痛くなって瞼から自然と涙が溢れてくる。本当は夜行さんを助けに行きたい。でも。
夜行さんの瞳が真っすぐにこちらを捉える。
「っ――――」
私は強引に瞼を袖で拭って、夜行さんに見せつけるように刀を構える。一度息を吐いてから深く息を吸う。
今のうちに。人喰いの屋敷が夜行さんに引きつけられている今のうちに。早く。
私は一気に息を吐いて地面を蹴った。影に貫かれた夜行さんの横を見向きもせず通り抜けていく。そしてそのまま人喰い屋敷の、母さんの前に出た。
影が私に気付いて下から湧き上がってくる。けれどもう遅い。影が出た時にはすでにもう私の刀は母さんに向けられていた。
「……母さん、ごめん。夜行さんを、返して」
刀は綺麗に弧を描き、母さんの胸元を斬りつける。斬りつけられた母さんの胸元から赤黒い血が流れる。極めつけに口からも血が滴り落ちた。
「っ!」
母さんはもうとっくに死んでいるはず。それなのにどうしてっ。
思わず動きが止まる。その一瞬の隙で、周囲を影に取り囲まれてしまう。
「陽!!!」
「!」
夜行さんに名前を呼ばれた。だがその夜行さんも影に突かれたままで、今すぐにも消えそうだ。
このまま負けるわけにはいかないのに。私は人も妖怪も守れる退治屋になりたいのに。
けれど影は容赦なく一気に私に向かってくる。
貫かれるっ!!!
そう覚悟を決めた瞬間――。
「ぴい!!!」
懐かしい声が聞こえた。
そうだ。ぴーちゃん。山本さんを追っている時にはぐれてしまって。それからいろいろありすぎて探す暇がなかった。
「ぴーちゃん! お願い! 力を貸して!」
咄嗟に叫んだ。と、何故かぴーちゃんが夜行さんの服から飛び出してきた。ぴーちゃんはみるみるうちに巨大化していって、私と影の間に入る。そして私の代わりにぴーちゃんが影に貫かれた。
「ぴーちゃん!」
ぴーちゃんはみるみるうちに小さくなっていく。けれど。違和感があった。――――ぴーちゃんはまだ死んだわけではない、と。
山童も夜行さんも。透明になって消えるのに対して、ぴーちゃんはそうなっていない。元々ぴーちゃんは新しい妖怪で、言霊によって生まれていて……。
そこまで考えてハッとした。
「ぴーちゃんは夜行さんを助けて! 私はもう一度人喰いの屋敷を斬りつける」
するとぴーちゃんは再び巨大化していく。
やっぱり。私の言霊でぴーちゃんは強くも弱くもなる。
ぴーちゃんは大きな嘴で夜行さんを貫いている影にかぶりついていく。そのぴーちゃんの様子を見て、私も力が湧いてきた。
一緒に戦ってくれる仲間がいる。それだけで自分が無敵になったかのような感覚がある。
今度こそ。人喰いの屋敷を。
もう一度地面を強く蹴って、母さんの前に飛び出す。影はぴーちゃんと、弱りきった夜行さんを取り込もうと必死で、こちらに向かっては来ない。
刀を大きく上に振り上げる。勢いのまま、母さんを斬りつける。斬りつけるのと同時に大量の血が顔にかかった。
「っ」
けれど顔にかかった血を振り払うことなく、続いて二撃。三撃。攻撃を続けるごとに影はボトボトと地面に落ちて消えていく。
「……陽」
母さんの声が微かに聞こえる。けれどその声を無視して唇を噛みしめ、母さんの心臓めがけて刀を突き刺した。
その瞬間、磔にされていた母さんが床に崩れ落ちる。影は消え去り、異様な気配はなくなった。
お、終わった……。
ホッと息を吐いて肩を落とす。
「元気で、な…………」
「!」
そう最後に母さんの声が聞こえた気がした。
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二日続けての投稿でした。




