決戦 9
光が徐々に弱まる。かと思えば、その光は一箇所に固まっていき、人型になっていく。
私は目を細めてその様子を眺めていた。光が型取る人物に見覚えと、そして懐かしさがあった。
「全く。世話の焼ける娘だな」
光が型取る人物の口元が動く。やがて光が消え、目の前にはっきりと人物が浮かび上がった。
「!」
光から現れたのは田中 明愛梨。――私の母さん。
私は光から現れた母さんと偽物の母さんを見比べる。
偽物の母さんが巫女服なのに比べて、母さんは桃色のTシャツに黒の短パンというめちゃくちゃラフな格好だ。
偽物の母さんは悲しい顔から一変、険しく、そして鋭く、もう一人の母さんを睨んでいる。
光から現れた母さんは私の肩にそっと触れた。…………かと思ったら、思いきり頬を叩かれた。
「っ!?」
痛…………くはない。というよりも叩かれた感触自体がない。
「成長して立派になったかと思えばなんだ。このざまは」
「ご、ごめんなさい」
思わず謝ってしまう。
「よく見てみろ。あんな偽物の、どこがっ、この私に似てるって言うんだ」
ふんす、と光から現れた母さんは鼻息を荒くして仁王立ちをしている。
その仕草で何となく分かってしまった。こっちが本当の母さんだと。
優しくて。温かくて。どんな時でも私を優しく包み込んでくれる。そんな私の想像する母さんとはだいぶ違ったけれど。
「……っ、母さん」
思わずボロボロと涙が溢れ出す。そんな私を見て母さんは「仕方がないな」と優しく涙を拭ってくれる。だが、拭われた感触はない。
もしかして母さんは……――。
嫌なことを想像してしまって、さらに涙がこぼれていく。
「いいか、陽」
母さんは再び私の肩に触れる。
「こんな偽物さっさと斬って、早く人喰いの屋敷の本体を斬りに行け」
「うん」
私は乱暴に鼻水と涙を拭って、刀を偽物の母さんに目を向ける。偽物の母さんは相変わらず悲しい目を向けてきた。
「私を……斬るの? 本当に?」
その言葉を聞いても私の心は揺るがない。
強く刀を握る。チャキッと音が鳴った。
偽物の母さんの顔が歪む。周囲を取り囲む黒い靄と異様な空気が濃くなっていく。
けれど私は取り乱すことなく、冷静に偽物の母さんに狙いを定める。そして今度こそ偽物の母さんの肩に刀を振り下ろした。
斜めに走った刀傷から黒い靄が溢れ出し、偽物の母さんが黒い靄に飲みこまれていく。かと思えば、一瞬にして偽物の母さんは消えてしまった。
終わった……?
そう思った瞬間、一気に景色が変わった。場所が美術館に変わっている。辺りを見渡すと『民衆を導く自由の女神』が目に飛び込んできた。
良かったぁ。戻ってきた。
ホッと息を吐いた。次いで母さんに目を移す。だが……。
「っ!」
母さんの姿は薄っすらと消えかかっていた。
「かあさ……」
「陽」
母さんの優しい声にまた泣きそうになってしまう。
「大事な話がある。今から言うことをよく聞け」
私は唇を震わせながらしっかりと頷く。
「まず、私はこの世にいない。とっくのとうに死んでいる」
「……」
「今の私はこのお守りに残した思念だ」
「……う、ん」
ああ、やっぱりと思う――。
頬を叩かれた時も、涙を拭かれた時も。母さんは実体を持っていなかった。それに何年も行方不明になっていた人が。それも職業が退治屋という危ない職業に就いている人が。生きている確率の方が少ない。
「陽。人喰いの屋敷を倒せ。必ずな。それが私の最後の望みだ」
「う、ん」
泣かないように震える唇をグッと噛みしめる。
「いいか、人喰いの屋敷の正体だが――――――」
いつも読んでくださってありがとうございます。
自分で言うのもなんですが。陽の母親である田中 明愛梨、めちゃめちゃ好きです。かっこいい女性って良いですよね~。
まぁ、それはそれとして。母親になってほしいかと言われると。悩むというか……。どちらかというと偽物の田中 明愛梨の方に母親になってほしいという笑




