お誘い 2
「オイ」
「……」
「オイッ!」
「………………ん?」
誰かに呼びかけられて私は瞼をこすって目を開けた。何度か瞬きを繰り返してようやく周りの状況が見えてくる。
大きな和室にたくさんの長机に座布団。そして窓からは綺麗な夕焼けと見事な日本庭園が見える。
「……なんだか。『喫茶 百鬼夜行』に似ているような……」
「似ているじゃなくて、まさにその場所に居るんだ」
「!」
隣からふいに声が聞こえてきて私は飛び上がる。目の前には夜行さんがいた。
「な、な、な、な!? 何でいるの!?」
「何でいるの、はこっちの台詞だ。ぐ~すか寝てたぞ」
「嘘っ!?」
とは言ったものの、ようやく頭がはっきりしてきて『喫茶 百鬼夜行』でオレンジジュースを飲んでいたことを思い出してきた。
私は体にかけてあった薄いブランケットを「これ、ありがとう」と夜行さんに渡す。夜行さんはというと眼鏡を上げてから「いいからとっとと帰れ」とため息を吐いた。けれど私はなかなか首を縦に振れない。
坂東さんのことでショックを受けているのが父さんに密かにバレてそうで。家に帰りにくいし。それに……。実は今日この場に来たのは夜行さんに会うためだ。
「あ、あのね。この前の。その。坂東さんとぴーちゃんのことを相談してきた荒井先生って人がいるんだけど。二件とも無事に解決したって言ったらこれをくれて」
私はポケットに手を入れて、目的のものを取り出す。手の中にあるのは大塚国際美術館のペアチケットだ。
大塚国際美術館は鳴門市にある。陶板で再現された西洋絵画が見られる美術館で、レオナルドダヴィンチの『最後の晩餐』などが展示されている。
大塚国際美術館は鳴門市、『喫茶 百鬼夜行』は三好市。徳島県の端と端みたいなものだからかなり距離はあるが。夜行さんを誘うには大塚国際美術館ではならない理由があるのだ。
「これナイトミュージアムのチケットで」
夜限定の入場券。これなら昼間に外を出歩けない夜行さんでも美術館に行ける。
夜行さんは私からチケットをとってマジマジと眺める。その反応にちょっと恥ずかしくなって俯きながら、けれども明るく口を開く。
「その。い、一緒に行かない?」
「……。何故俺なんだ。友達の蘭とかっていうやつと行ったらいいだろう」
「それはそうなんだけど……。夜遅くに蘭ちゃんを連れまわすなんて出来ないし。それに」
「それに?」
「……――」
私は顔を真っ赤にしながら夜行さんを見た。
「ここ最近助けられてばかりいるから。そのお礼、です」
「――――」
夜行さんはポカンと口を開ける。その珍しい様子を見て私はぷくっと唇をとがらせた。
「行きたくないなら別にいいんですよ」と夜行さんからチケットを奪い取ろうとする。だが夜行さんはスマートに私の手を交わすと「いや、行こう」とチケットを着物の懐に入れた。
「…………」
「…………」
お互い気まずい沈黙が続く。その沈黙をどうにかしようと「それじゃあ明日の夜の八時に現地集合で」と口を開いた。その時。
「せっかくなんだから一緒に行けばいいんじゃないか」
「「!!!」」
急に後ろから声をかけられ、私も夜行さんもサッと後ろを振り返る。後ろにいた人物は『喫茶 百鬼夜行』の常連、山本さんだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
ちょっとずつ夜行さんとの距離を縮めることが出来たらいいなぁーと思いつつ、久々の山本さん登場です。
山本さんも結構好きなキャラですよ




