見知らぬ退治屋 2
一瞬、何を言われているのか分からなかった。
退治屋? 退治屋って私の知っている退治屋? 妖怪退治の?
そんな私の困惑を見透かされているのか、坂東さんは苦笑いをしながら「何言ってるか分からないよね」と前置きをした上で話を続ける。
「幼少期から妖怪退治を生業にしているの」
「妖怪退治!?」
私は思わず声を上げた。
私と同じ、妖怪退治をしている人がいるだなんて!!! あれ? でも。このあたりに坂東なんて退治屋いたっけ?
とそこまで考えて私は首を振った。
そんなのどうだっていいじゃない! 私と同じ退治屋をしている人が他にもいただけで嬉しいし。それにお互いに協力できるかもしれない。
私は興奮そのままに「あのね!」とかけた。
「実は私も退治屋をしているの」
「え!?」
今度は坂東さんが声をあげる番だった。
「本当に? 本当に退治屋なの?」
「うん! 本当!」
私達はお互いにキラキラとした瞳を向け合う。お互いがお互いに存在を求めあっていた……。そんな感じだ。
私達はどちらからともなくお互いに手と手を取り合う。
最初に言葉を発したのは坂東さんの方だった。
「たしか名前は日髙さん、だったよね。あーあ、その時点で気付けば良かった。あの有名な退治屋だって」
お互いがお互いに砕けた口調になっていく。それがなんだか心地がいい。
まさか蘭ちゃん以外にも友達が出来そうだなんて。
私ははにかみながら坂東さんを見る。長い黒髪に切れ長の瞳。私は黒髪のショートだけれど、どことなく外見も私に似ているような気がする。
坂東さんはサイエンス部の部長だし、三年生だろう。私の方が下級生だ。けれど坂東さんはそんなこと気にせず、「今までどんな妖怪と対峙してきたのか教えて!」と明るく話しかけてくる。
「えっと……」
「あ、その前にコーヒーでも淹れようか」
「コーヒー?」
ここは学校ですが……。
私が首を傾げていると坂東さんは「うふふふふ」と謎の笑いを浮かべた。
「コーヒースティックは持っているから。お湯さえ用意できればなんとかなるのよ」
ボコボコとガラス瓶の中の水が沸騰していく。
私達は理科準備室から出て、実験室の白い椅子に座っていた。ちなみに今はアルコールランプでフラスコにためている水を沸騰させている状態だ。私と坂東さんの目の前にはビーカーが二つ。ビーカーにはコーヒーの粉が入っている。
「そろそろいい頃合いかな」
坂東さんは布巾でフラスコを掴むとビーカーにお湯を注いだ。コーヒーの粉が溶けて芳醇な香りが漂う。
「さ、どうぞ」
「ありがとうございます」
私はチビッとビーカーに口をつけた。
美味しい。ものすっごく苦いけど……。やっぱり私はカルピス入りのオレンジジュースの方が……。
そう思っていると坂東さんが「さてっ!」と声をかけて手を合わせた。その声に思考が途切れる。
「さっきの話の続きをしよう。日髙さんの武勇伝を聞かせて」
「そんな武勇伝ってほどのことじゃあ」
私は苦笑いしながらも昔の記憶を引っ張り出し、父さんと一緒に妖怪退治をしていたところから話始めた。
坂東さんは話に頷きながら、そして時には退治屋同士ならではの返しをしてくる。
「あー。人に憑かれるのがやっぱり面倒だよね。退治する前に妖怪から引き剥がさなきゃならないし」
「そうなの。この前も狸に憑りつかれた人を払うのが大変で」
やっぱり何も気兼ねなく妖怪の話が出来るのは気が楽だ。
「あ、それでその後……」と話したところで私はギュッと口を閉じた。
この後は夜行さんと会って協力しあうことになるところだけれど。
「どうしたの?」
「えっと」
坂東さんの問いかけに私は上手く答えることが出来ない。
夜行さんのこと、言っていいものか……。本当は言ってしまいたい。それで一緒に『人喰いの屋敷』を倒してくれたら最高!!! ――なんだけど。
なんだろう。そう簡単に夜行さんのことを言ってはいけないような気がする……。どうしてかは分からないけれど。
私が俯くと「大丈夫?」と坂東さんは顔を覗いてくる。その顔が本当に私のことを心配している顔で……。
私は思わず「あのね」とあらいざらい言ってしまおうと口を開いた。その時だった――。
べちゃっ、と嫌な音と共に頬に液体がかかった。
「え?」
俯いた顔を上げる。
そこには後ろから胸元を大きな刃物で刺された坂東さんがいた。そして坂東さんを刺していたのは……。
「……どうしてっ」
黒の着物に青の羽織。黒髪に特徴的な黒の眼鏡――。
「夜行さん!!!!!」
いつも読んでくださってありがとうございます。
急展開、そして急展開です。本当はもっと坂東さんとの絡みを書きたかったけれど。ここを長々と書いても飽きられちゃうかな~と思ってあえてのスピーディーを選択です。




