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夜行さん  作者: 原月 藍奈
人喰いの屋敷編
37/63

見知らぬ退治屋 2

 一瞬、何を言われているのか分からなかった。


 退治屋? 退治屋って私の知っている退治屋? 妖怪退治の?


 そんな私の困惑を見透かされているのか、坂東さんは苦笑いをしながら「何言ってるか分からないよね」と前置きをした上で話を続ける。


「幼少期から妖怪退治を生業にしているの」

「妖怪退治!?」


 私は思わず声を上げた。


 私と同じ、妖怪退治をしている人がいるだなんて!!! あれ? でも。このあたりに坂東なんて退治屋いたっけ?


 とそこまで考えて私は首を振った。


 そんなのどうだっていいじゃない! 私と同じ退治屋をしている人が他にもいただけで嬉しいし。それにお互いに協力できるかもしれない。


 私は興奮そのままに「あのね!」とかけた。


「実は私も退治屋をしているの」

「え!?」


 今度は坂東さんが声をあげる番だった。


「本当に? 本当に退治屋なの?」

「うん! 本当!」


 私達はお互いにキラキラとした瞳を向け合う。お互いがお互いに存在を求めあっていた……。そんな感じだ。

 私達はどちらからともなくお互いに手と手を取り合う。

 最初に言葉を発したのは坂東さんの方だった。


「たしか名前は日髙さん、だったよね。あーあ、その時点で気付けば良かった。あの有名な退治屋だって」


 お互いがお互いに砕けた口調になっていく。それがなんだか心地がいい。


 まさか蘭ちゃん以外にも友達が出来そうだなんて。


 私ははにかみながら坂東さんを見る。長い黒髪に切れ長の瞳。私は黒髪のショートだけれど、どことなく外見も私に似ているような気がする。

 坂東さんはサイエンス部の部長だし、三年生だろう。私の方が下級生だ。けれど坂東さんはそんなこと気にせず、「今までどんな妖怪と対峙してきたのか教えて!」と明るく話しかけてくる。


「えっと……」

「あ、その前にコーヒーでも淹れようか」

「コーヒー?」


 ここは学校ですが……。


 私が首を傾げていると坂東さんは「うふふふふ」と謎の笑いを浮かべた。


「コーヒースティックは持っているから。お湯さえ用意できればなんとかなるのよ」




 ボコボコとガラス瓶の中の水が沸騰していく。

 私達は理科準備室から出て、実験室の白い椅子に座っていた。ちなみに今はアルコールランプでフラスコにためている水を沸騰させている状態だ。私と坂東さんの目の前にはビーカーが二つ。ビーカーにはコーヒーの粉が入っている。


「そろそろいい頃合いかな」


 坂東さんは布巾でフラスコを掴むとビーカーにお湯を注いだ。コーヒーの粉が溶けて芳醇な香りが漂う。


「さ、どうぞ」

「ありがとうございます」


 私はチビッとビーカーに口をつけた。


 美味しい。ものすっごく苦いけど……。やっぱり私はカルピス入りのオレンジジュースの方が……。


 そう思っていると坂東さんが「さてっ!」と声をかけて手を合わせた。その声に思考が途切れる。


「さっきの話の続きをしよう。日髙さんの武勇伝を聞かせて」

「そんな武勇伝ってほどのことじゃあ」


 私は苦笑いしながらも昔の記憶を引っ張り出し、父さんと一緒に妖怪退治をしていたところから話始めた。

 坂東さんは話に頷きながら、そして時には退治屋同士ならではの返しをしてくる。


「あー。人に憑かれるのがやっぱり面倒だよね。退治する前に妖怪から引き剥がさなきゃならないし」

「そうなの。この前も狸に憑りつかれた人を払うのが大変で」


 やっぱり何も気兼ねなく妖怪の話が出来るのは気が楽だ。


「あ、それでその後……」と話したところで私はギュッと口を閉じた。


 この後は夜行さんと会って協力しあうことになるところだけれど。


「どうしたの?」

「えっと」


 坂東さんの問いかけに私は上手く答えることが出来ない。


 夜行さんのこと、言っていいものか……。本当は言ってしまいたい。それで一緒に『人喰いの屋敷』を倒してくれたら最高!!! ――なんだけど。

 なんだろう。そう簡単に夜行さんのことを言ってはいけないような気がする……。どうしてかは分からないけれど。


 私が俯くと「大丈夫?」と坂東さんは顔を覗いてくる。その顔が本当に私のことを心配している顔で……。


 私は思わず「あのね」とあらいざらい言ってしまおうと口を開いた。その時だった――。


 べちゃっ、と嫌な音と共に頬に液体がかかった。


「え?」


 俯いた顔を上げる。

 そこには後ろから胸元を大きな刃物で刺された坂東さんがいた。そして坂東さんを刺していたのは……。


「……どうしてっ」


 黒の着物に青の羽織。黒髪に特徴的な黒の眼鏡――。


「夜行さん!!!!!」


いつも読んでくださってありがとうございます。


急展開、そして急展開です。本当はもっと坂東さんとの絡みを書きたかったけれど。ここを長々と書いても飽きられちゃうかな~と思ってあえてのスピーディーを選択です。

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