偽狼 3
これは――かなりマズいかも。
思わず顔をしかめる。
今の私には刀はない。けれど。このまま引き下がるわけにもいかない。
私はスクールバックから赤の財布を取り出す。花の絵柄が可愛くてここ最近の私のお気に入りだ。
紙幣入れから真っ白な紙を取り出す。
「真神!!!」
名前を口に出す。その瞬間真っ白な紙に墨で描かれた狼が浮かび上がった。私は紙を野田君と偽狼の間に投げ込む。
「真神! 野田君をこちらへ」
紙から黒い狼が姿を現す。狼は黒い墨で描かれた線が実体となったものだ。一見するとただの線のため弱そうだが、この狼『真神』は日髙家代々の式神だ。ただの線だと侮ってはいけない。
真神は大きな口を開け、野田君を丸呑みする。そして偽狼を横切って私の後ろへとついた。真神は再び大きな口を開け、野田君を吐き出す。
「ありがとう真神」
私は真神へと手を伸ばし、頭を撫でる。感触はない。
私は真神を撫でながら偽狼へと目を向ける。
偽狼は相変わらず黒い影のままで実体は見えない。だが遥か上の方に赤い目玉が二つあるのは視認できた。
偽狼はジロリと赤い目玉を私に向けて睨んでいる。いや、正確には私ではなく野田君を、だ。
「さて。それじゃあ、真神いこうか」
私は真神に目配せすると真神は私の意志を汲み、偽狼に襲いかかった。真神は黒い影で覆われた偽狼を挑発するように左右に飛び交い、思い切り偽狼に噛みついた。
だが偽狼は真神のことなど気にする様子もない。ただジッと赤い目でこちらを睨んでいる。
「っ! 真神!」
鋭い声で名前を呼ぶ。と真神はその場で飛び上がり、軽々と偽狼の目玉に喰らいつく。
「――――!!!!」
偽狼のギュルルルルと機械音のような叫びを上げる。
「!」
偽狼の弱点は目玉か!!!
私は正面から偽狼の赤い目玉を見据える。
「真神、殺れ!!!」
ぐちゃっと嫌な音が聞こえたかと思うと、偽狼の目から黒い液体が飛び散る。
「――――!!!」
偽狼がまた機械音の悲鳴を上げる。
よし。効いている。
地面に降り立った真神に私はもう一度指示を送る。
目を潰せばひとまず野田君を神社から避難することくらいは出来るはずだ。
真神は私の指示通り偽狼の反対側の目に喰らおうとする。偽狼はさすがに反対の目を潰されたらマズいと思ったのか黒い影が細く伸び、真神を襲う。黒い影は真神を一気に貫いた。真神を形作っている線があちこちに砕け散る。
けれど。
「真神!」
グッと拳をつくって名前を呼んだ。それに応えるように真神の砕かれた線が戻っていく。急速に真神は元に戻り、今度こそ偽狼の目に噛みついた。
偽狼は叫びを上げながら、再び真神の体を影で貫く。だけど。
「無駄だ」
真神は元の姿に戻る。
真神は本体をいくら攻撃しても意味がない。術者である私の気力が尽きない限り、永久に殺られる事は無い。
けれど弱点もある。刀に比べると圧倒的に攻撃力が弱いのだ。妖怪を滅せられるだけの力がない。
だからあまり真神を使うことはないのだけれど。
偽狼は叫びを上げながら、黒い影を不自然に揺らめかせる。影はこちらに手を伸ばすわけでもない。
一体何を。
目を細めて影を観察する。と、影は段々と薄っすらと晴れていく。影に包まれていた偽狼の本体が徐々に見えてきた。
偽狼の大きさはだいたい三メートルくらいだろうか。隣の平賀神社より少し小さい。真神と同じ狼の形をしている。違うところといえば真神が黒い線なのに対して、偽狼は橙の毛皮に波のような模様が入っていた。
そして何より特徴的なのは、その波のような模様を避けて真っ赤な目がびっしりと生えていたところだった。
びっしりと生えた真っ赤な目の視線全てが私に注がれる。
私は思わず体をブルッと震わせた。
「うわぁ。気持ち悪い」
ここまで読んで下さってありがとうございます。2023年もよろしくお願いします!
今回は真神の解説を。インターネットを調べれば多少のことは分かるとは思うのですが。一応。
真神はニホンオオカミを神格化された神様です。この小説の『夜行さん』では式札になっちゃってますが。
『夜行さん』では日髙家代々の式神で、神社で「動物霊に憑りつかれた」と相談をしに来た人達を助けるために使役しています。そのため攻撃型ではなく守備型の式神の設定です。
今まで主人公の陽が真神を使わなかったのは攻撃力が弱いからです。あと、陽は退治屋としてまだまだ未熟なので刀を振るいながら真神を使える力がないからですねー。




