第二章 -天獄編-
『西暦2265年-Stratosphere-』
私たちは月を目指す。
一度完全停止してしまった為、再加速に時間がかかる。
天罰機はブラックホール炉と補助の原子炉が搭載されているので、
エネルギー切れを起こす事は殆どない。
タンパク質を分解すれば循環油や冷却液を生成する事が出来る。
通常であれば、地球までの帰投に問題は無い。
ただ、弾切れのパールバティとバーニア故障で機動力が下がったバイラヴィ。
アスラに襲われたら……
呼吸用の空気は地球まではギリギリ間に合うかな?
もし足りなければ月で補給するか?
月から地球までは人類の勢力圏、とにかく月までたどり着く事。
スイングバイか……あるいは月で救助を待つか……
空「咲夜……ねえ、咲夜………」
咲夜「何?今考え事してるから……黙ってて………」
空「でも、アレ……アスラだよね」
咲夜「えっ?」
背面モニタに光り輝く塊が見えた。
背筋が寒くなる……
空「咲夜……僕を……置いて逃げて………」
咲夜「アホっ!こっちは弾切れっ、奴らの方が速い。で・・・そっちの残弾は?」
空「ファランクス300、レーザートマホーク5」
逃げきれない…やるしかないか?
咲夜「機首を後ろに向けてエンジンOFF……敵は引き付けて打ちなさい。」
後ろ向きのバイラヴィを砲台代わりに牽引しつつ飛行…これしかない。
空「うん、とにかく撃ちまくるよ」
咲夜「弾は節約っ。わかった?」
空「……はい、注意します。」
咲夜「解ればよろしい。」
『西暦3276年-Atmosphere-』
セラ「灯火、対人ミサイルJ9接近、距離12000メートル」
灯火「了解、レーザートマホーク発射」
セラ「撃破確認6、後続2」
灯火「レーザートマホーク発射」
セラ「2機爆破確認、ミッションクリアです。自信は無いですが……」
灯火「撃墜成功やったね私!」
セラ「でも……このままでは危険かもしれないのです。たぶん。」
灯火「ん?危険?何で?」
セラ「今はレーザートマホーク1発あたり内部生成2日、必要なのですよ。」
灯火「一日一発以上撃つと赤字って事か……」
灯火「確かに最近ミサイルが降って来る間隔が狭くなってるし……」
灯火「レーザートマホーク一発あたり、そーめん換算だと、どのくらい?」
セラ「約300トンで一発です。そんな気がします。」
灯火「もっと栄養のあるものを食べさせないとダメか……」
灯火「栄養のある物ってそもそも何?」
セラ「やっぱり核燃料じゃないかと思いますよ。たぶん。」
灯火「核燃料……どこにあるんだろう?」
セラ「場所はバイラヴィが知ってるって言ってます。」
灯火「なんだ、じゃあ取りに行こうよ。そうしよう。」
セラ「あんまり……良い思い出が無い場所なのですよ……」
灯火「ん?まあ、とりあえず行ってみてから落ち込めばいいじゃん。」
セラ「………」
灯火「お弁当持って、桜も乗っけて、核燃料を探しに行こう!!」
セラ「お弁当!!なんでしょう……なんだか心が躍る響き。
昔食べた事がある気がします。たぶん」
灯火「ふーん、でもセラってロボの割に、庶民派な食べ物が好きだよね。」
セラ「ロボでは無いのです、半生体人造アンドロイドなのです。」
灯火「自信は無いですが…たぶん。でしょ?」
セラ「もう、灯火が意地悪なのです。自信満々です。」
灯火「え~めずらしー」
『西暦2265年-Stratosphere-』
咲夜「空、また来る。」
空「レーザートマホーク発射」
空の射撃は敵の行動を確実に読んでいる。
撃てば吸い込まれるように敵に命中する。
しかも、パールバティに牽引され、フラフラした状態からの射撃だ。
咲夜「空っ残弾は?」
空「ファランクス120、レーザートマホーク1」
咲夜「撃破数8……あと4体が限界か………」
空「咲夜、レーダーに新しい敵……」
咲夜「くっ、だめ……これ以上迎撃は無理か……」
空「どうしよう……」
咲夜「月のデブリに逃げ込んで隠れるしかないわね……そこまで持たせて」
空「うん、あのさ……」
咲夜「何よ?何か文句でもあるの」」
空「あっあの………咲夜…………あっ…ありがとう………」
空「僕一人なら………とっくに死んでたね………」
咲夜「なっ何よいきなり……あっあくまでも……ついつい追っかけちゃった…
だけ…なんだからね……勘違いしないでよね。」
空「咲夜は良い人だね。」
咲夜「なっ何言ってるのよっ空。わたしは……」
咲夜「私は…嫌われ……もの………だから………」
空「僕は咲夜の事、好きだよ。」
咲夜「なっなんてこと言うのよ。時と場合を選びなさいよねっ、
ほらっ敵機接近、敵機接近!」
バイラヴィは迫りくる敵を確実に、弾を節約しつつ殲滅し続ける。
空「ねえ、咲夜……」
咲夜「なっ何よ……」
空「生きて……生きて帰ろうね。」
咲夜「ふん、あたりまえでしょ。帰ったら何かオゴりなさいよね。肉だからね肉!!」
『西暦2265年-Stratosphere-』
明弘「迎えに行く事が認められないって…何だよ、それはっ!!」
セラ「地球統合軍作戦本部はバイラヴィとパールバティをMIAと判断しました。」
明弘「MIA……作戦行動中行方不明……クシャトリアシステムの動画は
送られて来てるんだろ?」
セラ「はい、月軌道に向けて加速中ですが……突如出現したアスラの大群に
追尾されています。」
明弘「あのクソシステムで咲夜が死にゆく姿を配信中って訳かよ……」
俺はたまらず、セラの胸ぐらをつかむ。
セラ「本部は……突如出現したアスラの大群から地球を守る事を最優先としています。」
明弘「だったら、俺一人で行く。それなら問題は無いだろ。」
セラ「地球統合軍作戦本部に申請してみます。」
ドゥルガーには通信機能があり作戦本部と直接通信が出来る。
セラ「申請は却下されました。明弘はヴァン・アレン帯軌道の守備が命じられました。」
明弘「なんで俺が地球の直掩なんだよっ、
今までヤヴぁい最前線ばっかりだったのに。」
セラ「地球統合軍作戦本部は…レトリバー小隊……明弘を最精鋭として評価しています」
セラ「なので……地球の最終防衛線に配置した、との回答です。」
明弘「くそっ……せめて月での迎撃に回してくれっ、セラ申請しろ、早く!」
セラ「申請しました。………回答は却下……です。」
怒りで手が震える。
セラ「新情報です………」
明弘「なんだ?早く言えロボ女っ!!」
俺はセラの首筋を締め上げる、人間の力ではドゥルガーに苦痛を与える事は
出来ないかもしれないが、自分を抑えきれない。
セラ「地球統合軍作戦本部は、月の制空権放棄を決定しました。」
明弘「それは、どういう事だ……答えろっセラ!!」
セラ「……咲夜と…………空は……………」
セラ「もう……帰って……かえって、これないという事なのですよっ!」
セラ「私には、どうしようも無いって事なのですよ明弘!!」
セラは俺の手を払いのけ、崩れ落ちた……
セラ「さくやあああ……空……ごめんなさい……ごめんなさいなのです……
うわあああああああ……」
地面に突っ伏しながら、子供のようになきじゃくるセラ。
俺はコイツのこういうところが心底…大嫌いだ。
『西暦3276年-Atmosphere-』
セラ「灯火っお弁当は……お弁当はまだ食べないのですか?」
灯火「お弁当はお昼に食べると何度言ったら解るのかね?腹ペコポンコツロボ……」
セラ「ロボじゃないのですよー」
桜「一切何も食べなかったら…死にますか?ひょっとして光合成とかするのですか?出来るのですか??」
セラ「私は出来ませんがバイラヴィは出来るのです。」
桜「ほうほう……」
核燃料を求め、私と桜はバイラヴィの狭いコックピットに二人ですし詰め状態だ……
セラ「あっ……見えてきました……これから…………」
灯火「えっ何あれ……」
桜「バイラヴィ?」
バイラヴィによく似た戦闘機が真っ二つに折れ地面に突き刺さっている。
セラ「あれは……第134打撃戦隊所属、モグラ小隊の天罰機です………」
桜「灯火、アレ………」
無数の戦闘機が横たわっている……どの機体も穴が開いていたり一部が砕けたりしている。
灯火「セラ……私達………どこに向かっているの?」
セラ「地球統合軍本部イズモです。」
桜「何かと戦って……負けたんですか?」
セラ「いえ、まだ負けてはいませんよ。たぶん。」
灯火「『まだ』って事は……まだ戦っているっていうの?」
セラ「灯火は不思議な事を言うのですね。」
灯火「はあ?」
セラ「灯火が毎日戦っているじゃないですか。」
灯火「………………………………………」
『西暦2265年-Stratosphere-』
私たちは月軌道上の大破した戦艦の中に忍び込んだ。
幸いドックが無傷だったのでバイラヴィとパールバティを係留出来た。
弾は全て打ち尽くしてしまった。
天罰機は内部で弾を再生産出来るが……なにぶん時間がかかる。
敵を突破出来るくらいの弾を再生産する時間、ここに隠れているしかない。
実は以前から逃げ込むならこの戦艦……と目をつけていた。
月には無数の戦艦の残骸がある……静かに隠れていれば見つからないだろう。
アスラ大量発生には本部も気が付いているだろうから、打撃戦隊が来てアスラを一掃してくれる……かもしれない。
問題は呼吸用の空気……
空「わっ咲夜……もう少しゆっくり………」
咲夜「ちょっと大きな声出さないでよね……敵に気づかれるでしょ」
空「ごめん……」
咲夜「まったく……」
私達は真っ暗な戦艦の中を手を繋ぎながら進んでいる。
これは仕方ない事で、月面なので重力が弱い……しかも真っ暗だから手を繋がないと危ないからだ。
けっして、やましい気持ちがあるわけじゃないんだからね。勘違いしないでよね。
どこかに酸素ボンベくらいは……
空「ねえ、咲夜……あれって………」
咲夜「ん?あのマークは?旧世紀の放射能ハザードシンボル?」
空「………………………」
咲夜「原子炉?いや核ミサイル?旧世紀の?」
空「これでアスラを倒せないかな」
咲夜「核ミサイルは威力はあるけど………
レーザートマホークを避けるバカに当たるかどうか……」
空「そっか……」
咲夜「いや…でも使えるかも………」
咲夜「空……地球へ帰れるかも……肉おごってもらうわよ」
空「……うん?」
『西暦3276年-Atmosphere-』
無数の残骸の上をしばらく飛ぶ、ひときわ大きな建物が見えて来た。
やはり所々風穴が開いている。
しかし、空中にピタリと固定されているようにも見える。
セラ「あれが地球統合軍本部です。」
桜「千年経っても風化しないなんて……凄い建物ですねえ」
セラ「まあ、人類最後の砦……核爆発程度ではビクともしないように作られましたから!」
灯火「いや……人類最後の砦、思いっきり陥落してるじゃん……」
桜「セラさんとバイラヴィは無事だったんですね」
セラ「うーん、よく覚えていないのですが……何かをやって怒られて……」
セラ「基地に閉じ込められていたと思いますよ。自信は無いですが………」
灯火「最終兵器………だめじゃん………」
桜「灯火…どうしたの?ご機嫌斜めだけど……」
灯火「バイラヴィと同じ物があれだけの数壊れてるって事は……いったい何と戦ってたの?」
セラ「え~っと……何でしたっけ?」
桜「でも、私達が生きてるって事は……倒したんじゃないの?」
桜「敵の生き残りがミサイルを打ってる……のかな?」
灯火「ねえセラ……私達……勝てるの?そいつに……」
セラ「私には無理ですが…バイラヴィなら。たぶん。」
灯火「えっ?」
セラ「ファランクスもレーザートマホークも大気圏を越えられないので……核燃料を補充して宇宙に出れば……」
灯火「空を祓える……か………」
セラ「空を………どうしたのでしょう、胸騒ぎがします………」
『西暦2265年-Stratosphere-』
圧搾酸素ボンベのバルブを回す。
新鮮な空気がパールヴァティのコックピット内にあふれ出す。
1本だけしか見つからなかったので、もって30分。
お荷物状態のバイラヴィから受け取ったエネルギーも含めてレーザートマホーク五発分
オーバーブーストは核燃料が足りないので使えない。
私は小さく深呼吸をする。
戦艦に残る選択肢もある……でも、救助は来ない。
そもそも上層部は私達の命に核燃料程度の価値も見出しはしない。
突如発生した大量のアスラとの戦いを優先するだろう。
戦略的に考えて地球軌道で迎撃した方が効率が良いはず。
自分の選択を理論立てて肯定する。
落ち着け……落ち着け私………
空「ねえ咲夜………」
咲夜「ちょっ…動かないでよ……」
空「あっ、ごめん……だって狭いから………」
咲夜「仕方ないでしょ。ボンベ一本しか無かったんだからっ」
咲夜「変なとこ触ったら両手両足ヘシ折るからねっ。変な事しないでよね!」
空「そっそんな事言われても……」
天罰機は勿論一人乗りだ。コックピットは一人でも狭い。
私は空を上に乗せた状態で座っている。
顔が真っ赤になっているのを空に悟られたくない。
落ち着け……落ち着け私………だいたいクシャトリアシステムで
この姿も元クラスメイトに見られてるんだから。
くそっ
咲夜「天罰機パールヴァティ最大戦速、レーザートマホークうてい!!」
照れ隠しに思いっきり叫んでやった。
戦艦の壁が吹き飛び気密が破られる。
パールヴァティの加速と共に戦艦内の空気が外に吸い出され……破片がデブリとなって宇宙空間に放出される。
デブリに紛れ、バイラヴィを括り付けた状態でパールヴァティは飛び出した。
眼前に光り輝く集団が見えた。
やっぱり囲まれてたか……
『西暦3276年-Atmosphere-』
私たちはバイラヴィを降り一番大きい建物の中に入る。
ここが人類最後の砦……
崩れた廊下を桜にカラマレながら歩く。
桜「いっやあああああ、あかり、あかり、あれっあれっ……」
セラは落ちていた生首を拾ってコチラに見せる。
セラ「ああ、彼女は第093近衛戦隊、ハーレーダビット小隊のタラですね。」
灯火「そっそんなもん拾うなっ。何?知り合いなの?」
セラ「さあ?会った事はないかもですが、データベースにあるような、ないような……」
灯火「人の遺体は……1000年経ってるからさすがに無いか……」
セラは人間の骸骨をコチラに見せる。
セラ「あっコチラ……地球統合軍、打撃戦隊、経理課のタクミ課長補佐です。」
桜「ぎゃあああああああっ」
灯火「だから拾うなっ!!」
『西暦2265年-Stratosphere-』
咲夜「空っ……あと4発………いける?」
空は目を閉じている……頭の中でシミュレーションしているようだ。
空「うん、大丈夫。」
咲夜「よしっ行くわよっ覚悟なさい。」
空「咲夜……一緒に地球に帰ろう………」
咲夜「空……貴方の命、私に預けて…」
空「うん、咲夜と一緒なら……僕は……信じてるよ。」
戦闘の緊張で冷めた頭が一気に火照る。
咲夜「ああああっ天罰機パールヴァティ姿勢制御アブソーバー全開!」
空「5……4……3……2……1」
咲夜「いっけええええええ」
戦艦内に保管されていた核弾頭がタイマーで起爆する。
大量の核弾頭が誘爆を起こし月を揺さぶる大爆発を起こす。
パールバティとバイラヴィは核爆発で飛び散ったデブリの衝突で更なる加速を得る。
突然の大爆発にアスラが一瞬混乱する。
空「レーザートマホーク発射っ!」
空が最初の一撃でアスラ…恐らく観世音タイプを撃ち取った。
あと3発。
『西暦3276年-Atmosphere-』
気を失った桜をセラが背負いながら先へ進む。
奥に行けば行くほど人骨が増える。
壮絶な戦い……虐殺の後にも見える……
セラ「あ、ここ……指令室です。たぶん。」
壁は独特な光沢を持った金属で出来ていて、
他の部屋とは違い少し豪華な雰囲気がある。
デカい机……偉い人の机かな?
気になって近づいてみると…足元に人骨が見えた。
骸骨に穴が開いてる……机の上に銃のような物が置いてある。
この人は自殺したのだろうか?
目を覚ました桜が机の上の本を手に取り取りつかれたように読みふける。
桜「ずるい……」
灯火「なに?何が書いてあるの?」
桜「殺される前に自決する…と。」
灯火「この人って偉かったのかな?」
セラ「この方は統合地球軍司令長官の熊耳元帥です。」
灯火「王様が先に自殺しちゃったって事?」
桜「うん………………」
灯火「セラ?どうしたの?」
セラの表情から感情が消えた。
セラ「秘密保持規定第4526条32項に基づき当文章を破棄します。」
桜の持っていた本が青い炎を出し、燃え出した。
灯火「ちょっと…セラっ何してんのよっ」
セラは能面のような顔で停止した。
セラを揺さぶってチョップを入れまくって10分、
セラ「あれ?灯火?私どうしてましたっけ?」
灯火「何?何が書いてあったの??」
セラ「何が?何でしたっけ??」
桜「セラさん……いいかげん話して下さい。」
桜「あなた……いったい何をしたんですか?」
セラ「えっえっ?何を言ってるのですか桜……」
桜「裏切者……人類を裏切った天罰機バイラヴィ…その仲間セラ……」
灯火「えっ………」
桜「人々は恐れたんです……貴方たちを……そして縛り付け閉じ込めた。」
灯火「まさか……ここの人たちを皆殺しにしたのって……セラなの?」
セラ「えっ……そっそんな………」
桜「『空』……って誰なんですか?」
セラ「そっ空……そら……そら……そら……そら……誰でしたっけ?」
桜「私の……お父さんとお母さん……殺したのは誰っ!?」
セラ「えっ……えっ…………」
桜「ミサイル打ち込んでる奴は誰なのっ!」
セラ「あっあれは……よく……解らないのです。」
桜「ごまかすなっ。」
桜はセラに掴みかかる。
セラ「ほっ本当に……よく解らないのです………」
桜「ふざけるなっ……」
桜は渾身の力を込めてセラをぶん殴った。
『西暦2265年-Stratosphere-』
核爆発で勢いを得たパールバティは混乱するアスラの群れを突っ切る。
咲夜「ちょっ空……撃ってっ!」
空「大丈夫、かわして」
咲夜「無茶言わないでっ……」
といいつつもアスラの横をギリギリですり抜ける。
空「レーザートマホーク発射!」
前方の観世音タイプが吹き飛ぶ……
咲夜「あと二発っイケる?」
空「たぶん……」
空は立て続けにレーザートマホークを連射、二体の観世音タイプを葬り去った。
もう弾切れ……あとは逃げ切るしかない。
「告白されたあの日……」
咲夜「そんな………」
「悪く無いと思っていたでしょ……」
空「………………」
「何で断ったの……」
三体のセラフィムε(イプシロン)が前方に見えた。
「もういいんだよ……」
咲夜「やだな……これまでなの?」
1体のセラフィムεがパールバティを捕らえた。
抗いようがない、速度が一気に落ちる。
後方から無数の観世音タイプが迫る。
咲夜「ねえ、空……キスしていい?」
空「………」
咲夜「このまま死ぬの……なんか……ムカつくから………」
空「………………来る」
咲夜「えっ?」
眼前のセラフィムεが砕け散った。
咲夜「なに、何なの?」
明弘「ひゃっはああああ、ヒーロー到着っ!」
咲夜「あっ明弘?」
オーバーブーストで超加速したトリプラが一瞬で2体のセラフィムεを撃破した。
明弘「咲夜、空……生きてるかっ?」
咲夜「明弘……バカっ……アスラの数が解らないの?あんたも逃げきれない……」
明弘「はっはっはー地球統合軍の奴ら、いよいよ、ヤヴぁいと思ったようだぜ」
咲夜「えっ?」
明弘「グラビティー・ブラスト三連正射!」
後方でマイクロブラックホールが生まれ、アスラが吸い込まれる。
何これ?
最新兵器なの?
トリプラは追加ブースターを切り離し反転する。
こんな物まで支給されたなんて………
明弘「いくぜええええ二度目のオーバーブースト」
トリプラは牽引用フックをパールバティに引っ掛けた。
物凄い衝撃がコックピットに伝わる。
次の瞬間……体がシートに押し付けられる。
明弘「あと30秒超加速します……お客様、シートベルトをお締めになって
超音速の旅をお楽しみください。」
私は空とシートに挟まれてもがく………
咲夜「ぐっぐわあああああ、あっ明弘……無茶……しずぎ………」
静かに静まり返る教室、40人ほどの生徒がモニターを見つめている。
トリプラがパールバティを捕らえた時点で安堵のため息が漏れた。
一人の女子生徒が嗚咽を漏らす……
「咲夜っ………よかった……よかったね………」
『西暦3276年-Atmosphere-』
桜は私に抱き着き泣きじゃくっている。
セラ「桜…………………」
セラ「えっ……バイラヴィ……はい、解りました。」
セラ「灯火、桜っミサイルが来ます」
灯火「えっ?何で?ここにも落ちるの?」
セラ「いえ……彼女の狙いは……私と選ばれた者の末裔…………」
セラ「二人はバイラヴィに戻って下さい。」
セラ「桜……思い出しました…………彼女はカーリー……」
桜「カーリー………」
セラ「懲罰戦隊所属、対暴徒用人罰機カーリーです。」
セラ「灯火……カーリーは天罰機と選ばれし者を懲罰する為に作られた最強の兵器です」
灯火「セラ…………」
セラ「桜…………こうなったのは……私が悪いのかもしれません。自信は無いですが……」
セラ「だから……私は彼女を倒します。」
桜「セラっ待って……」
セラ「ごめんなさい……桜……」
セラは物凄いスピードで飛び去って行った。
『西暦2265年-Stratosphere-』
今日もトリプラは最高だったぜ。
俺はいつも通りビチグソ野郎どもに中指を立てる。
明弘「オラ、クソども見てるか?今日も生き残ってやったぜ!!」
しかし空にはお灸をすえてやらねばな。
咲夜を危険にさらしやがって、3発はぶん殴ろう。
トリプラをドックに付ける。
バイラヴィとパールバティは切り離され、作業員によって繋がれた。
とりあえず咲夜を迎えに行こう、ハグとかキスとか…ご褒美タイムがあるかもしれん。
俺はパールバティのドックへ急ぐ。
パールバティのハッチが開き、咲夜が出て……あれ?
空が出て来た……何っ?
その後、咲夜が出て来た……パールバティの狭いコックピットで二人っきり!!
なんて…なんて…うらやましい事を……5発にしよう。
咲夜と空が何かもめている。
まあ、そりゃそうだろう……危険に巻き込んだんだから。
次の瞬間……空が伸びをしたように見え……………
空は咲夜にキスをした。
なっなっな……なんだとおお?
事の真相を確かめようと二人に近づこうとした瞬間、数人の男に抑え込まれた。
「3276番……命令違反の容疑で逮捕する。」
くそっ……
セラ「明弘を放して下さい。明弘は……明弘は悪くないのです。」
セラが泣きながら懇願する。
ふん、俺はコイツのこういうところも大っ嫌いだ。
『西暦3276年-Atmosphere-』
今だ泣きじゃくる桜の手を引いてバイラヴィへと走る。
爆発音が聞こえた。
ミサイルだ……近い………急がないと………
建物を出た処で空を見上げる。
ミサイル……いつもより多い?
私達に向かって来ている?
目の前を炎のようなモノが走る……あれは……セラ?
灼熱の炎をまとったセラをミサイルが追いかける。
手に持った銃のような物から弾が出てミサイルが砕け散る。
あれがファランクス……?
あれがセラの本当の姿……?
炎をまとい自在に飛び回る姿はまるで女神のようだ……
私たちは何とかバイラヴィに乗り込む。
セラが近づいて来る。
セラ「核燃料発見しました、自動補給システム生きてます。」
セラ「バイラヴィ…座標を転送します。あとファランクスと
グラビティブラストもチャージ可能です。」
セラ「私が時間を稼ぎます……バイラヴィ、灯火と桜を守って……」
桜「セラ……………さっきはごめんね。死なないで………」
セラ「大丈夫ですよ桜……私はカーリーを倒します。」
セラ「大気圏突破モード、オーバーブースト」
灯火「セラっお弁当……食べていきなさいよ」
セラ「いえ……帰って来てから食べるのでとっといて下さいね。」
灯火「アホっ食っちゃうにきまってるでしょ……桜が……」
桜「ええええっ、私?」
セラ「あははははっ、では行ってきます。」
セラは翼を広げ飛び立って行った。
『西暦2265年-Stratosphere-』
クソっ……最悪だ……
俺は命令違反容疑で牢獄に叩き込まれた。
シュードラ転落か?
しかし……希望はある。
アスラ大量発生で地球圏までの制空権を人類は放棄した。
奴らは俺の才能が欲しくて仕方がないだろう。
しかし、この牢獄はマジで最悪だ。
宇宙空間に浮かぶ監獄船ガルーダ、脱獄は不可能・・・なんせ周りは宇宙空間だからな。
飯はクソまずい。臭い。周りはシュードラの奴らばっかりだから、悲鳴がうるさい。
ド変態の看守共のオモチャ…奴らは人権を失うって事がどういう事なのかをココで学び社会に出荷されて行く。
男だろうが女だろうが、とにかく無茶苦茶やりやがる。
まあ、俺は刑罰未確定のエースだから……奴らも手を出してこないだろう。
じめっと湿ったベッドでまどろんでいると……がちゃがちゃっと鍵をいじる音が聞こえた。
何だ……新入りか………ヤヴぁい奴じゃなきゃ良いが…美少女なら大歓迎!!
ん?
セラ?
明弘「セラ、おまえまで牢獄入りか?」
セラ「はい……監督義務違反と命令違反ほう助の罪です……」
そりゃあ悪い事したな…しかしドゥルガーまで牢獄にぶち込むとは……
いつも通り狂ってやがる。
一応…女?
だと思うんだが……同じ牢屋でいいのかよ?
もう一人……見覚えがあるような…無い様な……あれ?
明弘「あれ?おっおまえ……ひょっとして………空か?」
空と思われる男は黙ってコクっとうなずいた。
明弘「どうしたんだそのツラ?」
顔面がボコボコだ……
ぶん殴ってやろうと思っていたが……こんだけボコボコだと殴る気も失せる。
看守どもに殴られたのだろうか……奴らは加減というものを知らないからな………
明弘「まあ、いいか……オマエも命令違反の疑いか?」
空「えっ……あの………その……僕は……」
イラっとくる喋り方……
明弘「もっとハッキリしゃべれって!!」
空「ごっごめん………ぼっぼくは……敵前逃亡のうたがい……だって………」
敵前逃亡というよりは……敵に突っ込んで行った感じだが……
俺は、どうしても気になる事をついつい聞いてしまう。
明弘「なあ、さっき……咲夜とキスしてたろ……」
空「うん。咲夜がキスしてって言ったから……」
咲夜から誘ったのか?
嫉妬の炎がメラメラバーニングだ。
明弘「そっそうか……」
空「なのに……どうして、あんなに殴ったんだろう……」
咲夜に殴られたのかよw
明弘「ん、まあ……その………気にすんな………」
なんて声をかけて良いのか解らんかったので適当な返事をしておいた……
セラ「みんな仲よしですねw」
俺はコイツがすごーく大嫌いだ。
『西暦3276年-Atmosphere-』
セラ「対人ミサイルJ9接近……ファランクス起動……」
J9に照準を合わせて引き金を引く、ファランクスがJ9を粉々に砕く。
私はフレアを全開にして全てのJ9を引き付けながら進む。
どうして忘れてしまったのでしょうか?
カーリーの事……
成層圏を抜け……大気圏を超える。
核燃料を補充したので今までとは出力が違います。
天罰機カーリー、彼女も壊れているようです。
J9を時々生産しては灯火達の島に打ち込んでいます……
裏切った天罰機と選ばれしもの達を狩る為に作られた特別な天罰機
彼女が本調子ならドゥルガーの私では勝ち目がまったくありません。
でも成層圏以下に降下する事も無く、J9を打ち続けている事から故障が疑われます。
グラビティブラストやレーザートマホーク無しなら私にも……
大気圏を超え真空の宇宙空間に出た。
なんだか、随分と懐かしい感じがします。
いた……カーリー………やっぱり……
カーリーは片方の羽を損傷している。
あれはアスラにやられたのでしょうか?
私はカーリーに話しかけてみる。
セラ「カーリー、お久しぶりです。私の事覚えてますか?」
カーリーは答えない。
セラ「もうJ9を撃つのはやめて下さい。」
セラ「地球統合軍もシュードラも…もう無いんです。」
【カーリーの声は咲夜の声優さんにお願いします。】
「せっ…かいは……」
セラ「えっ?」
「まだ……す……くい………を………」
セラ「ま、まさか……カーリーあなたっ」
カーリーが光り輝く。
先端から黒い光の柱が生まれ、私めがけて振り下ろされる。
グラビティセイバー?
超高速で逃げ回るセラフィムを倒す為に作られた重力の剣。
まずい……私は必死で逃げ回る。
小回りの利くドゥルガーでもかわしきれない
大気圏を超える為オーバーブーストを使い切った私が……どこまで逃げ切れるか………
グラビティセイバーを掻い潜り、ファランクスの届く距離まで……近づかないと………
『西暦2265年-Stratosphere-』
牢獄に閉じ込められてから20日が過ぎた。
看守「おい、差し入れだぞ。」
明弘「あざーす」
これは……弁当か?
咲夜の手作り弁当だ!
咲夜だけは何のお咎めも無かった。
離脱はアホな行動を起こした同僚機を救う為の行動であり、
困難な状況下での冷静な判断が評価された為だ。
ひょっとして金で何とかしたんじゃなかろうか?
俺たちは一応、公務員……毎月給料が出る。
撃破ボーナスも出るぞ。
咲夜はその辺の駆け引きが上手いから……くそっ金で何とかなるなら俺も……
しかし誰を買収したら良いかなんて、俺のファッキン脳みそじゃ良く解らん……
しかし、牢獄も金しだいだ、金さえ払えば何でも手に入る。
差し入れも楽勝だ。
セラ「美味しい、美味しいですよ明弘、空」
ってもう食ってんのか……この食いしん坊ロボ……
俺も味わいながら食べるか……
空「ん?あれ何か入ってる……」
紙のような物が空の弁当の中から出て来た。
咲夜からのメッセージだ。
『アスラ大量発生、一部地上降下……イズモ守備戦隊が撃退した模様』
なんてこった、アスラが再び地球に到達したのか……
『打撃戦隊に深刻なダメージ、偵察戦隊はヴァン・アレン帯で待機中』
『大人たちは真っ青、もうすぐ出られるから、大人しくしてなさい。』
そりゃそうだ、初戦でセラフィムεを撃破したルーキーと
一人で三体倒した不動のエースだからな……
俺たちが弁当を食べ終えた頃、看守が扉を開けた。
看守「全員、出ろ……釈放だ。」
明弘「やっと娑婆に出られるか……いや、地獄に戻るだけって気もするな。」
セラ「疑いが晴れて良かったです。」
看守「いや、一時処分保留と聞いている」
明弘「けちくせー」
明弘「まあ、俺たちが居なきゃ全員アスラと一緒に極楽浄土に旅立つ事になるって事だ。」
看守「あんまり、調子にのるなよガキ」
明弘「うるせーぞド変態。クシャトリアなめんなよ。」
セラ「まあまあ、長い間閉じ込められて気が立っているのです。ゆるして下さい。」
セラがこっそり看守に何かを握らせた。
看守「ちっ……」
ん?
セラにしては随分と……ああ、咲夜の入れ知恵か……
道すがら周りの牢獄が目に入る。
シュードラ達がコチラを見ている、奴らの殆どは出撃拒否で自ら人権を捨てる
選択をした。
死ぬよりはマシって事か……俺には出来ねえな。
いくつか見知った顔もある。
アスラとの戦いで戦意喪失した者……絶望に満ちた暗い瞳でこちらを見ている。
未希「あっ……あの………」
シュードラの少女が声をかけてきた。。
明弘「ん?コイツ……たしかモグラ小隊の……」
結構かわいいから記憶にある。
未希「アスラが……ここまで来たって………ホント?」
明弘「ああ、おかげで俺たちは釈放だ。奴らを狩らなきゃ人類そろって
極楽浄土にランデブーだからな。」
未希「がっ頑張って……明弘さん……」
地球の衛星軌道が陥落したら・・・コイツらはどうなるんだろう?
救助される事はまず無い。
作り笑いを浮かべる少女、大人たちのオモチャになってまで生き残る事を選んだのに……アスラに殺されたんじゃ、たまらんもんな。
明弘「ああ、アスラは殺す。じゃあな。」
明弘「本当にヘドが出るぜ……このシステム作った奴をマジぶん殴りてえ。」
『西暦3276年-Atmosphere-』
私は一旦デブリに身を隠し、一瞬のチャンスを待つ事にしました。
地球の衛星軌道にはアスラとの戦いで失われた施設が多数残っています。
逃げ回りながら……身を隠せそうな大きな施設を探していると………何やら大きな影が見えました。
巨大な船体……あれはガルーダ?
監獄船ガルーダ。
1000年……地球軌道を回っていたにもかかわらず、船体も綺麗なまま……
元々頑丈に作られていたようだ。
セラはガルーダに滑り込む。
セラ「懐かしい……そうそう、私もここに閉じ込められた事がある様な……無い様な……」
カーリーのグラビティ・セイバーが船体を切り裂く。
セラは一番頑丈な監房に逃げ込む。
牢獄の中には沢山の死体が腐敗する事も無く浮かんでいた。
気密が破られ真空状態になった監獄は微生物の生存すらも許さなかったようだ。
セラ「そうですか……やっぱり……」
徐々に戻ってゆく記憶の中に…懐かしい名前を見出した。
セラ「明弘……そう、明弘なら……」
『西暦2265年-Stratosphere-』
咲夜「最低…」
私は明弘たちの出獄を待っていた。
監獄船ガルーダ、待合室すら匂いそうな最低の船。
私のパールヴァティ、トリプラ、修理されたバイラヴィもガルーダのドッグに係留されている。
ここから出撃してアスラと戦えって事ね。
新しくシュードラになった者達が鎖に繋がれ一列になって歩いている。
アスラ大量発生後、シュードラの数が倍増したそうだ。
私の前を通るとき……照れ笑いを浮かべる者もいる。
笑えない……単純にバカにする気も見下す気にもなれない………
生存を選ぶのも一つの道か……でもアスラが地球衛星軌道に来たら…みんな天国行きじゃない?
シュードラになる者達とすれ違い…見知った連中が歩いて来る。
セラ、明弘……そして空。
明弘「よう、咲夜!助かったぜ、ありがとな!」
セラ「咲夜、お弁当…凄く美味しかったのです。また作って下さいね。」
咲夜「明弘、こちらこそ…ありがとう。助けに来てくれなかったら、死んでたから……」
咲夜「セラ、心配かけてごめんね。」
咲夜「空、私のファーストキスを奪った罪で殺すから、覚悟OK?」
空「咲夜……だってキスしてって……」
顔が一気に真っ赤になる。
咲夜「死にそうになった状態で…気の迷いっが生じたの……
生還してから不意打ちでキスするなっ!!」
咲夜「私……初めて……だったんだから……」
空「僕もキスした事、無かったから…おあいこだね。」
私は空の顔面に正拳をぶちこんだ。
咲夜「責任とってもらうからね。覚悟しなさいよね!!」
PV動画
https://www.youtube.com/watch?v=aM6Gb1Wp8SM
プチのサンサーラ
https://www.youtube.com/watch?v=g0hoI7HoNLA
http://kaze-no-sansara.net/