第一章 -煉獄編-
『西暦2265年−Stratosphere−』
今年も新入りがやってきた。
どいつもこいつも・・・・・・暗い目をしていやがる。
まあ、ここは刑務所以下の地獄、いや天国に一番近い場所と言った方が適当か・・・・・・
西暦2100年、奴らは天から降ってきた。
神々しく、天使のように涼やかで、仏のように慈悲に満ち満ちている
このくだらない現世から魂を開放し、涅槃へと導く存在『アスラ』
全人類を幸せにする為、人類を殲滅しようとしている狂った連中だ。
このアスラとの戦いで人類は半減した。
追い詰められた人類はアスラの体から未知のテクノロジーを入手、
アスラの首を狩る為の超兵器を作り出す。
「天罰機」と呼ばれたその機体はパイロットの脳と情報をリンクさせる事により、
簡単な基礎訓練だけでアスラと戦う事が可能であった。
そこで頭のキレる連中は狂ったアイデアを思い付いた。
全ての人間が15歳の春、クラスの中から一人を多数決で決める。
選ばれた一人は『クシャトリア』と呼ばれ、天罰機に乗りアスラと戦う。
選んだ方は『ヴァイシャ』と呼ばれ、自分たちが選んだクシャトリアの戦闘、生活、
死の瞬間をダイジェストで見せられる。
これにより、責任感ある人間が生まれる・・・・・・
と、かつて一人の生贄を選択し、生き残った大人達は信じている。
優秀なパイロットを育成し、社会への負担を最小限に抑えつつ、戦闘を続けられるシステム。
優秀な人物を残し、生産性の低い人材を排除する為のシステムでもある。
俺も2年前に選ばれ、アスラとの戦闘に明け暮れている。
同期の仲間も1割くらいしか残っていない。
ほとんどがアスラに殺されたか自ら命を絶った。
一部人間辞めた奴らもいたな…・・・
天罰機に乗れるのは15歳の春から18歳の春までだ。
なんでも3年生き残れば巨万の富と世界を牛耳る地位が与えられ、
一生楽しく暮らせるらしい。
まあ、ここから『卒業』した奴は見た事が無いが・・・・・・
俺を選んだ奴ら・・・・・・暗く意思の無い瞳、安堵の表情を浮かべる奴、大喜びする奴、
上辺だけの同情の言葉を口にする奴・・・・・・
あと1年か・・・・・・長いな・・・・・・
見せつけてやろう、巨万の富と絶対的な地位を得る瞬間を・・・・・・
隣に誰かが立っている、気配はまったくしなかった。
セラ「明弘…午後から新しいメンバーが来ます。」
俺は思わず舌打ちをした。
美しいツラ、均整の取れたエロボディ、思いやりのある優しい性格。
俺はコイツがヘドが出るほど嫌いだ。
こいつらはドゥルガー
天罰機で戦う俺たちクシャトリアをサポートし、主に索敵を行う戦闘用アンドロイド。
天罰機を含め、こいつらも個別に名前がつけられてる、こいつは「セラ」
俺たちのチーム専用のドゥルガーだ。
二年間共に戦ったが、俺はこいつが今だに苦手だ。
セラ「このチームに一人新人が来るらしいですよ」
明弘「美少女か?」
セラ「いえ、男の子だそうですよ」
明弘「なんだ、つまんねえな。」
咲夜「美少女はもう間に合ってるから必要ないでしょ?」
咲夜「で?イケメン??身長高い???」
セラ「身長152cm、イケメンという言葉は随分と古い表現ですね?」
咲夜「なんだチビか……つまんねー」
こいつは咲夜、俺たちのチームの一員だ。
まあチームと言っても他の連中は全員死んだんで、半年ほど二人で戦っている。
しかし半年も増員無しでよく生き残ったもんだな……
明弘「しかし、まあ……一応歓迎会でもしてやるか」
咲夜「私、パス」
セラ「コミュニケーションを取っておいた方が絶対いいですよ」
咲夜「あんまり仲良くなりすぎると死んだときダメージ多いからパス」
セラ「…………………………」
セラはアンドロイドのくせに今にも泣き出しそうな悲しげな表情を浮かべる
俺はコイツのこういうところが大嫌いだ。
咲夜「解った、わーかっーたー、私も行く、だからそんな顔しないでっセラ」
セラ「咲夜…………………………」
セラは本当にうれしそうな表情で答えた。
何度も言うが俺はコイツのこういうところが大嫌いだ。
『西暦3276年−Atmosphere−』
桜「ねえ、灯火……もう少しゆっくり歩いて………」
今日は親友の桜と我が神社に伝わる秘密の祭具殿を探検中だ。
灯火「本当に迷路みたいね」
桜「ねえ、もう引き返さない?」
灯火「もう少しで着くから、もう桜ちょっと離れてよ。歩きにくい」
桜「だって怖いんだもん」
灯火「一応、ここも神域。だからお化けとか出ないから安心しなさい。」
桜「お化けは出なくても、幽霊とか……」
灯火「それ、おんなじでしょ?」
灯火「桜だって巫女なんだから……バイトだけど………」
桜「バイト、バイト!正社員と同じ仕事はおかしいと思いますよ灯火!」
灯火「あっ、ここだ……この扉………」
灯火「なんでも神々の最終兵器が眠っているらしいよココ」
桜「ねえ、開けるのやめない!?」
灯火「入ったのがバレると一発牢屋行きの祭具殿……」
桜「えっそうなの?」
灯火「桜も同罪だよっ」
桜「灯火いいいい」
灯火「開けても引き返しても一緒でしょ」
桜「引き返しても一緒なら……引き返そうよっ」
灯火「だーめ、天空神社の巫女たる灯火が申し付ける、開け禁忌の扉」
扉が音もなく左右に開く
灯火「おおっこれが伝承にある声認証自動ドア!!
伝承は本当だったんだ、凄い凄すぎる!!」
桜「えっ、いやああああああああああ」
急に叫びだした桜をなだめながら、私もドアの中を覗き込む。
女の子!?
灯火「ねえ、あなた生きてるの!?」
私は反射的に鎖を緩めようとするが……鎖はびくともしない。
桜「だから、止めようって言ったのに……」
灯火「いやっコレ幽霊的なモノじゃないと思うよ。あ、そういえば伝承にある「ぱすわーど」が必要なのかな?」
桜はブルブル震えて後ずさる。
桜「ねえ……灯火、やっぱり帰ろう………」
灯火「だーめ、嫌なら一人で帰りなさいよ」
桜「灯火の意地悪……」
我が家に代々伝わる秘伝書…『はじめてでも解るドゥルガーの使い方』……なになに?
灯火「『我を助けよ、翼よ、よみがえれ』」
突然拘束された少女の体に芯が生まれる
セラ「こんにちは。初めましてでしたっけ?」
あっけに取られている私達をよそに自己紹介を始めた。
セラ「私はドゥルガーのセラです……多分そうだと思います」
セラ「自信はありませんが……そんな気がします!?」
セラ「あってますか?」
灯火「ダメだ、こいつ……寝ぼけてやがる……」
セラ「自覚はありませんが、そうなんですか?」
灯火「それとも壊れてるのかな?」
灯火「ねえ、あなた……神々の最終兵器なんだよね?」
セラ「はあ?」
灯火「いや、だから強いんでしょ!?」
セラ「いえ……私は偵察機だったと思いますよ、自信は無いですけど……」
灯火「偵察機か……ハズレだなこりゃ………」
セラ「えーそうなんですか、残念ですねっ」
桜「灯火、そんな事言ったらセラさんが可哀そうですよ!!」
桜「偵察は最も重要なファクター、強制偵察部隊こそ軍団の花形っ!!」
あ、桜のヤヴぁいスイッチ入った……わが身が危険すぎるから謝ろう。
灯火「ごめんごめん、私は灯火、こっちのめんどくさい子が桜」
セラ「灯火、桜…良いお名前ですね」
セラ「仲良くしてくださいね。」
『西暦2265年−Stratosphere−』
さて、新入りが挨拶を始めて早五分……
ぷるぷる震えたまま一言も話さない。
まあ、俺たちは筋金入りのダメ人間の集まり、こういう奴も偶にいる。
明弘「まあ、そんなに緊張しなくてもいいぜ。俺たちもお前と同じようなもんだから」
言ってて悲しくなる。
咲夜「私まで一緒にするなっ、ねえアンタ名前くらい名乗りなさいよ」
咲夜「死ぬまでは覚えておいてあげるからっ」
空「ぼっ……ぼくは………」
空「空」
咲夜「空……いい名前じゃない、
天罰機で空から降って来るクソと戦うにはピッタリの名前ね」
咲夜が嫌味全開で空をイジる。
空「えっ……あっ……ありがとう…………そんな事言われたの………はじめて
……だから…………」
空が顔を真っ赤にした………天然かっ!?
咲夜「ちょっ……別に……善意で言った訳じゃないんだからねっ、勘違いしないでよねっ!」
咲夜は耳まで真っ赤に染めている。
セラ「ふふふっ、相性良いみたいですね二人ともっ。」
やれやれ。先が思いやられる……
『西暦3276年−Atmosphere−』
灯火「ねえ、本当に覚えてないの?」
セラ「えーっと……なんでしたっけ?」
私たちは神社の社殿でセラを尋問している。
灯火「だから、偵察機でも戦えるんでしょ!?」
セラ「戦う事は……出来たと思いますが………たぶん。」
灯火「だめだ、こりゃ………」
セラ「すいません……」
灯火「でも、偵察機って事は……空は飛べるんだよね?」
セラ「さあ、飛べたような飛べなかったような……」
次の瞬間、唐突に耳をつんざくような爆発音がした。
桜「灯火……いやあああああ、助けてっ!」
灯火「桜っ大丈夫、社殿の中にいれば安全だからっ大丈夫」
桜は私の腕の中でガタガタと震えている。
また村にミサイルが着弾したか……
この村だけじゃなく、世界には時々ミサイルが降って来る。
しかし何故か不思議な事に…この神社にはミサイルが落ちない……
すくなくとも落ちたことが無い。
一度ミサイルが降り注ぐと決まって何発か落ちる。
村人たちがミサイルを避けるために駆け込んでくる。
セラ「……………」
セラ目の色が変わる
灯火「セラ……あれ迎撃出来る?」
セラ「空………?」
灯火「えっ?」
急にセラの翼が開き、物凄い風圧と共に外へ飛び出して行った。
やっぱり伝承は本当だったんだっ。
私は外へ飛び出した。
セラが天を見つめて立ち尽くしている。
灯火「ねえ、セラっ!」
セラ「ファランクス……起動………」
今までとは別人のようなセラ
セラ「飛翔体接近……ロックオン……」
セラ「フレア起動……ドッグファイトモード……」
セラの体から物凄い勢いで風が生まれる。
セラ「テイク……オフ」
セラは天空高く飛び上が………りはせず……
少し浮いた状態でぐるぐる回り思いっきり地面に突き刺さる。
灯火「やっぱり壊れてたああああああ」
セラ「あれっ……ファランクス………弾切れですか?」
セラにミサイルが突き刺ささり大爆発を起こした。
セラ「私、故障中のようです。自信は無いですが……」
あ、生きてた……頑丈だな………
灯火「ダメだこの最終兵器………………」
『西暦2265年−Stratosphere−』
天罰機、アスラを狩る為だけに作られた半生体機械
セラは苦手だがコイツは最高にイカしたマシンだ。
スピードとスリル、アスラを撃破した時の高揚感。
俺は戦闘が好きだし得意だ。
得意じゃなきゃ生き残ってこれなかったからな……
戦闘時のコックピットは中継され、奴らにも届いている。
恨みつらみを言うのもムカつくので、最高の気分でアスラを狩る姿を見せつけてやる事にしている。
天罰機トリプラ、こいつが俺の愛機、共に二年戦い抜いて生き残った相棒だ。
今日は訓練飛行、アスラとの戦闘も想定されてない。
咲夜「ちょっと明弘、もう少し抑えなさいよっ」
咲夜の天罰機『パールヴァティ』が後ろから付いてくる。
明弘「咲夜っ、せっかくだから楽しもうぜ。」
さらに速度を上げる。
左右に蛇行しながら山々を超え、パールヴァティを完全に引き離した。
趣味で速度重視にチューンしたトリプラ、重武装なパールヴァティじゃ勝負にもならないか……
セラ「オーバースピード、安全速度違反ですよ明弘っ」
ち、口うるさい奴が来やがった。
残念なことに偵察機であるドゥルガーは俺のトリプラ並みのスピードが出せる。
明弘「セラっ今日こそトリプラ最強伝説を作ってやるぜ!!」
今日こそドゥルガーをチギってやるぜ!!
俺は左右にエアドリフトをキメ、セラを徐々に引き離す。
まったく俺のトリプラは最高だぜ。
何かが突然目の前を横切る、数秒遅れて爆音がトリプラのコックピットに響く。
何者かに追い抜かれた風圧だ。
大きさからしてセラじゃない……
あれは天罰機?
天罰機バイラヴィ?
空の機体?
明弘「おい、おまえ空か?」
空「あ、う……わああああああああ」
明弘「何やってんだ?今日が初めてなんだろ?今日くらい安全運転しとけよ……」
空「たっ……た……すけ……て…………」
バイラヴィはそんなに速い機体だったか?
セラ「明弘、バイラヴィを止めて下さい。あの子は我を忘れていますっ。」
明弘「全力で暴走する天罰機をどうやって止めろっていうんだよっ」
セラ「おもいっきりぶつけて下さい、そしたら正気を取り戻します。」
明弘「くそっ、俺のトリプラが傷ついちまうぜ!セラ、直すの手伝えよっ」
俺は呪いの言葉を1ダースをほど吐き、トリプラを迷走するバイラヴィにガンガン何度もぶつけた。
バイラヴィはバランスを崩し、地上に思いっきり突き刺さった。
アスラと戦う為に作られた天罰機はこの程度では壊れないが中身は無事だろうか?
まったく、手のかかる面倒な奴と組むはめになって………最悪だぜ。
『西暦3276年−Atmosphere−』
ミサイルの雨は一通り降り注いだ後、突然やんだ。
セラ「弾切れみたいですね……」
灯火「えっ?セラ……ひょっとしてミサイルが来るのが解るの?」
セラ「はあ……偵察機ですから……解るのかもしれません。自信は無いですけど………」
灯火「ポンコツめ……」
セラ「すいません。」
桜「でもミサイルが降って来るのが予め解れば……」
灯火「っでも、さっき着弾するまで反応しなかったような………」
セラ「故障中ですかね?自信は無いですけど……」
灯火「ダメだ、この子使えない……」
セラ「あ……でもっレーダーありますよ」
灯火「えっどこに?」
セラ「多分……この神社の地下に……あるはずです。自信は無いですけど………」
灯火「ほんとに〜?」
セラ「天罰機があるから……ミサイルが落ちないんだと思います。たぶん。」
灯火「天罰機?」
セラ「最強の天罰機……バイラヴィ………あの子は凄い戦闘機だったような…
そうでも無かったような………」
灯火「ほほう、それ……ミサイル落とせる?」
セラ「対人兵器のミサイルくらいなら簡単に落とせますよ。そんな気がします……」
灯火「おおっ、それはイイね。探しに行こうよ天罰機」
桜「えーっと私は用事があるので……」
灯火「私はマッピングするから桜はランタン、セラは道案内よろしくねっ」
桜「そんなー(ToT」
『西暦2265年−Stratosphere−』
医務室のベッドには目を回し墜落したバイラヴィから担ぎ出された空が寝ている。
いや、気を失っているといった方が正しいか・・・・・・
咲夜「この子・・・・・・1日以上生き残る気が全くしないんだけど………」
いやっまったくその通り。
セラ「でも、バイラヴィは攻撃力が高いから……
訓練次第でなんとかなるんじゃないでしょうか?」
明弘「敵に向かって突撃してドカーン終了だろうな」
咲夜「むしろ巻き込まれる心配をした方がいいんじゃない?」
空「うっんん?」
空が目を覚ましたようだ。
しかし無残な事に出撃指令のベルが鳴り響いた。
このベルが鳴り響いた時、待機中のクシャトリアは一定時間内に天罰機に乗り込まなければならない。
もし間に合わなければ『シュードラ』として全ての人権をはく奪され、大人たちの慰み者としての人生が待っている。
咲夜はいち早く天罰機パールヴァティの方向へ走って行った。
俺も急がないと……しかしこいつ…どうしよう?
出撃指令に一切の例外は無い。
たとえ体調が悪かろうが、目を回していようが・・・
とにかく自分の天罰機に乗らなければならない。
まあ、シュードラになって嬲り殺されるのと、アスラに昇天させられる事・・・
どちらがマシだと思うかは人それぞれだが……
セラ「空っ目を覚まして…急いでください。」
明弘「セラ、とりあえず、そいつバイラヴィに放り込んでおけ」
セラ「はい、…………明弘も急ぐのです。」
特に返事をするでもなく、俺も自分の天罰機トリプラに走る。
あと1年で卒業、頼むぜ!愛しのトリプラちゃん。
『西暦3276年−Atmosphere−』
灯火「で、その天罰機って強いの?」
セラ「はいー私より強いです。」
灯火「幼児より強い戦士・・・戦闘力が全く読めない・・・・・・」
桜「バイラヴィでしたっけ?戦闘機なんですよね…マルチロール機ですか?」
セラ「え〜っと・・・戦略殲滅兵器だったような……強攻突撃機だったような……
よく暴走してたような・・・・・・」
桜「なるほど……」
灯火「ちょっと桜、自分だけ納得してないで教えてよ、
何?何とかロールって美味しそうなのは?」
桜「マルチロール機は対陸海空戦闘機の総称です。」
桜「簡単に説明すると空戦も地上攻撃も海上攻撃も出来る万能戦闘機かな」
灯火「ふーん、海の中も?」
桜「文献によると魚雷というミサイルを撃てる機体もあったみたいね」
灯火「へーそれじゃあ、宇宙もイケる?」
桜「成層圏くらいなら・・・それ以上は無理じゃないかな?」
セラ「桜は兵器に詳しいんですね?」
灯火「この子、遺跡から出て来る兵器の本マニアだから。」
桜「軍事って言ってよね。」
セラ「軍事・・・・・・・・・・・・軍?」
セラ「そういえば地球統合軍の司令部はどこですか?」
灯火「は?何それ?」
セラ「いえ、何かを伝えなきゃならなかったような……内容は忘れたのかもしれません。」
灯火「忘れたら意味がない………このポンコツめ!」
桜「地球統合軍?じゃあセラさんは22世紀の兵器なんですね?」
セラ「さあ?そうなんでしょうか?」
桜「地球統合軍という名称が2161年に使われだしたとの文献があるんですが……
その先500年が謎なんですよ。セラさん知ってます?」
セラ「いったい何があったんでしょう?」
灯火「そんな昔のポンコツ役にたつのかな?」
桜「降ってきているミサイルは20世紀の兵器・・・その200年以上後の兵器なら
ミサイルを打ち落とす事も出来るかもしれませんね。」
灯火「動けばいいけど……でも空を祓う希望が見えて来たっ」
セラ「空を祓う?」
灯火「そう、私はこの島唯一の巫女にして世界最後の巫女、空を祓って世界を平和にするの」
セラ「ミサイルを迎撃すると……いう事ですか?」
灯火「ミサイルの元ごと祓ってみせる。」
セラ「ミサイルの元・・・・・・!?」
灯火「何か知ってる?」
セラ「知ってたような、知らないような……?」
セラは突然頭を抱えて苦しみだした。
桜「セラさん、大丈夫?」
灯火「さっきのミサイル・・・・・・打ちどころが悪かったのかも……」
ところがセラは何事も無かったようにイキナリ静かになり立ち上がった。
セラ「天罰機バイラヴィなら・・・・・・最強の天罰機、あだ名は最悪のバイラヴィ」
灯火「最強で最悪なのっ!?」
セラ「さあ、行きましょう あの子も待ってるような・・・・・・気がしないでも無いです」
『西暦2265年−Stratosphere−』
俺はトリプラのコックピットに滑り込んだ。
コイツに乗ると自然と気分が高揚する。
吐き気がしてゲロる奴もいるようだが…そんな奴ら…はすぐ死んだ。
俺はコイツでアスラを狩る事が実は楽しい。
楽しめるからこそ生き残れる。
今はそれで良い。
咲夜「ちょっと作戦書見た?最悪・・・・・・」
作戦書・・・どれどれ・・・偵察戦隊所族『レトリバー小隊』は索敵の為、
月軌道を周回して帰投せよ。
接敵した場合は殲滅、あるいは離脱せよ。
今は3機しかいない小隊に強行索敵は危険すぎる・・・
そのうち一人は使い物にならないクズ・・・・・・
卒業まで1年を切った俺をどうしても殺したいらしい。
しかし、命令違反は一発でシュードラ確定、考えたくもないような悲惨な日々が待っている。
明弘「咲夜、空、レトリバー小隊はこれより月軌道周回任務に入る」
明弘「俺が先行するっ、咲夜は後方で援護」
空「えっ……あの………ぼくは・・・・・・・・・・・・」
明弘「空、死にたくなければついてこい、嫌なら人間やめて玩具になれ」
空「……………………」
咲夜「ふん、軟弱な奴」
明弘「セラはトリプラの直掩に入れっ」
死んだ前の隊長が犬好きでレトリバー小隊と名づけた、
新しい名前も思いつかないのでそのままにしている。
最初は10人以上いたんだけどな……
明弘「二人とも、なるべくなら死ぬなよっ、死んだらあきらめろ。」
咲夜「ふんっ、つまんねー」
明弘「レトリバー小隊出撃っ」
三機の天罰機は月軌道へ向けて地球を飛び出した。
『西暦3276年−Atmosphere−』
桜「くらいよーこわいよーじめってるよー」
桜は私にへばりついている。
灯火「ちょっと桜、歩きにくい・・・離れてよっ」
桜「いやだよー、灯火がつめたいよー、いじわるだよー」
天空神社祭具殿、その昔遭難者が多数出た事から現在では立ち入り禁止の神域。
内部は迷路のように入り組み、所々崩れている。
私たちは1時間ほど内部を彷徨っている。
セラ「あれ?行き止まりです、多分」
灯火「ちょっとセラっ・・・・・・またなの?」
セラ「はい、こっちだと思ったんですけど?勘違いだったみたいですか?」
灯火「はあ、しっかりしてよ」
セラ「バイラヴィ……どこですかー返事してくださーい」
灯火「それは……いくらなんでも………」
刹那、祭具殿が揺れた。
灯火「えっえええええ?」
セラ「あ、やっぱりここでした」
岩壁が崩れだし奥の扉が開く
セラ「ハッチが埋まってたんですね。多分。」
扉の先から光が漏れる。
え?
光?
セラ「電気消し忘れですか?」
私は絡みつく桜から脱出し、扉の奥へと走る。
金属のようなゴムのような不思議な廊下。
桜「灯火いいいい、まってえええええ」
セラ「灯火、私も行きますよー」
廊下を抜け、広い開けた空間に出た。
私はあまりの光景にその場に立ち尽くす。
巨大な鎖でがんじがらめにされた巨大な船のようなモノ
悪夢の中で見た事があるような、どこか邪悪なフォルム
セラと同じように鎖につながれた姿は……
人々がコレをいかに恐れたかを物語っているようだ。
灯火「これが……天罰機………天罰機バイラヴィ」
『西暦2265年−Stratosphere−』
トリプラは先頭を走る。
前のリーダーは一番後ろで小隊を指揮していたが、俺には性に合わない。
セラ「明弘っ飛ばし過ぎですよ」
明弘「ふんっ、咲夜、空、ついてきてるか?」
咲夜「あたりまえでしょ、誰に物言ってんの?」
空「ううあああああああああ」
空の絶叫が聞こえたが、まあ何とか付いて来ているようだ。
ただ単に暴走して真っすぐ飛行してるだけかも知れないが…
明弘「これから月の重力圏内だ、気をつけろっ」
月の表面が見えて来た、天罰機の無かった時代の巨大な戦艦が多数、横たわっている。
歴史の授業で習った年表も月での戦いの歴史ばかり。
たしかあれは……第13次アルタモノフ界戦で沈んだ戦艦だったか……
毎日毎日戦ってりゃ月がゴミで溢れかえるのも理解できる。
月の地平線が一瞬光り輝き、歌が聞こえて来る。
美しい声……少女のような澄んだ歌声。
真空の宇宙空間で歌とは非常識な連中だ。
明弘「くるぞっ!咲夜、援護頼む。」
咲夜「おまかせっ」
明弘「セラっ、バイラヴィを何とか守れ!」
セラ「はい、明弘っ……気を付けて………」
視線の先に黄金の塊が見えた。
神々しく光り輝く姿……あまりにも美しすぎる人類の天敵………アスラ
「苦しみに祝福を……」
「憎しみに終止符を……」
「その魂に安らぎを……」
宇宙空間なのに何故か奴らの言葉が聞こえる。
まるで仏や神々のような姿……人類に対するイヤミだろうか?
セラ「観世音タイプB、数10」
美しい姿と美しい歌声に一瞬、見とれた。
何度見ても奴らは美しい。
明弘「咲夜っ、対神誘導弾!」
咲夜「言われなくても解ってるって。対神誘導弾全弾発射、いっけえええええ」
パールヴァティから無数の対神誘導弾が発射され、観世音タイプBに吸い込まれる。
セラ「観世音タイプB、8体の撃破を確認」
明弘「あと2匹かっ……オーバーブースト、セラ、排気に巻き込まれるなっ」
セラ「はいっ」
30秒限定のオーバーブースト……重力制御シートでも、
体が押し付けられ息が出来ない。星が線のように伸びる。
光速の100分の1の速度、こればっかりは宇宙空間でしか味わえない。
観世音タイプBが爆炎の中から現れる。
明弘「もらった!」
トリプラのレーザートマホークが観世音タイプBを切り裂いた。
セラ「明弘っ上ですっ」
明弘「わかってるぜ、くたばれっ」
機体を一気に垂直に立てなおし、最後の一体に超接近状態で一撃を加える。
観世音タイプBのどてっぱらに風穴が開いた。
しかし、観世音タイプBの腕がトリプラに届いた。
機体が揺れる。
くそっ近すぎたか?
「もう……いいんだよ……そんなに……苦しまないで………」
明弘「だまれクソがあああああああ」
近接用機関銃ファランクスを連射する。
観世音タイプBの体が引きちぎられる。
接近しないと使えないがファランクスの威力は本物だ、神切り包丁のあだ名はダテじゃない。
粉々になった観世音タイプBの残骸を旋回で吹き飛ばす。
オーバーブーストが切れる。
明弘「見てるかっクソども、俺は今日も生きてるぞおおおおっ」
『西暦3276年−Atmosphere−』
セラ「バイラヴィ、お久しぶりですねー、少し痩せました?」
灯火「ええええっセラ、コレと話が出来るの?」
セラ「ええ、バイラヴィは照れ屋さんですけど、本当はいい子なんですよー、たぶん。」
灯火「はははは……ほんとかなあ?」
桜「ファランクスっこれがファランクスっ、はあはあ……、これ…まさかレーザー光線とか出る穴っ!?」
桜「後ろの穴っこれ、ジェットですか?後方排気ですか?ターボですかっ!!」
桜「しゃっしゃっえ、たまりませんな〜この艶めかしい曲線美」
桜はバイラヴィを一目見てから、いつもの桜だ。
灯火「えーこれは……セラみたいに勝手にわしゃわしゃ動く物?」
セラ「ええーっと、何でしたっけ?何かが入ると動いたような……」
桜「何か?何かとは何ですか!?燃料ですか?液体ですか?固形な何かですか!?」
スイッチONの桜はこんなモンだ。
セラ「桜があんまりジロジロ見るからバイラヴィは照れているのですよー、きっと。」
桜「ところで、ファランクスっ…セラさんのファランクスが出る穴はどこですか、
前ですか後ろですか?まさか口からですかっ?目からですか?」
私は桜の首筋に手刀を叩き込んで場を落ち着かせる。
灯火「え〜つまり動くのに必要な物があれば動くって事?」
セラ「はいー、あーでも、ここにありますよ……二つ」
灯火「どこ?どこに?そもそも必要な物って何?」
セラ「えーっと……アレですアレアレ。なんて言いましたか……」
灯火「ほら、さっさと思い出して」
私はセラの頭を斜め45度からチョップし続ける。
セラ「あ…思い出しましたー」
おおっ古代より伝わる伝統的な機械の修理方法は今でも有効かっ!?
セラ「バイラヴィが動くのに必要な物……それは」
セラの顔が急に引きしまる。
セラ「人間の命です。」
『西暦2265年−Stratosphere−』
明弘「おーい、生きてるか空」
空「はあっはあっ…おっおえええ……」
明弘「何もしてない奴が一番戦った感があるな……」
セラ「相変わらずお見事です。明弘も咲夜も……さすがうちの基地のエースですね。」
明弘「はっはっは…『人類の』エースと呼んでくれっ」
咲夜「セラ、明弘をあんまりほめ過ぎない、調子に乗って無茶するから。」
明弘「調子に乗った時のオレ様がどれほど最強か知ってるだろ?」
咲夜「ふん、まあアンタが落ち込んでる姿なんか想像も出来ないケドね。」
こうして咲夜と軽口を叩いている時、なんかイイ。
セラ「本部…敵小隊…殲滅完了…任務成功です。帰投許可を……はい。了解です。」
セラ「帰投許可が出ました。作成終了です。」
明弘「さて、レトリバー小隊。これより帰投する。オーバー?」
前のリーダーのセリフそのままで、帰投を告げる。
トリプラの機首を反転させ地球に向ける。
丸い地球、青く揺らめく惑星。
こうしてみると地球も悪く無いな
まあ、住んでる奴の99.99%は戦いもせずに生きてるビチグソ野郎どもだけどな。
「君は……」
アスラ!?
どこだ?
セラ「月軌道上に新たなアスラ確認。」
「憎まれもせず……」
しかし、任務は終わった。
ほっといて逃げ帰れば問題無いだろう、後は他の隊がドンパチやってくれる。
「記憶にものこらず……」
そもそもパールヴァティの対神誘導弾も打ち尽くした。
トリプラのオーバーブーストも使い切った。
レーザートマホークやファランクスだけでゴリゴリ戦うのは趣味じゃない
「友達と遊んでた……」
「本当は一人で空を見ていたのに……」
なんだ?
今日のアスラの歌は少し違う。
「好きな人とペアを組んで……」
「君を好きな人なんか……」
「この世界に存在しないのに……」
あーもう、なんだこのメンタルに来る歌は?
「今日も役にたたない……」
人類に嫌がらせをする為に生まれたアスラの歌……
いつもは……もっと抽象的な内容なんだが……今日は変だぞ?
「なんで好きになったの……」
「君は一番好きな人に…一番迷惑な事……したよね………」
「君に好きになられるなんて……一番最悪……」
「本当に可愛そうなあの子……」
咲夜「何?この歌?」
明弘「新しい精神攻撃か?」
咲夜「新しい…いやがらせ…でしょっ……鬱になるわ……」
明弘「まあいいやっ…全機戦闘戦速。地球に帰るぞ」
「死んで良かった……」
「君に好きでいられるより良いよ……」
空「うわああああああああああ」
セラ「ちょっちょっと空、何を……帰投許可が出ているのですよっ」
バイラヴィが反転する。
明弘「おい、空っ!?」
咲夜「何やってんのよ!?地球に帰れるのよっ!しっかりしなさい!!」
「逃げるんだね今日も……」
「お葬式にも行かなかった……」
「でも君に来られるより、幸せだったよ……」
突然爆音が響き、トリプラが揺れる。
これはバイラヴィのオーバーブースト?
明弘「何やってんだ空っ戻って来い!!」
トリプラはオーバーブーストを使い切っているので追いかけようがない。
セラ「空っ空……ダメです。止まって、戻って来て下さい。」
「全員が賛成……」
「君が一番いらない……」
トリプラを旋回させると、巨大なアスラが望遠モニターに映った。
黄金に輝く少女、四枚の羽根……まるで天使のような姿……
ヤヴぁい、あいつ!前のリーダーと小隊の半数を削った奴と同タイプ……
セラ「セラフィムε(イプシロン)!ダメです。一機で戦える相手では無いのですっ
!空、止まって下さい!!」
咲夜「まったく、なにやってんのっ、本当に迷惑な奴……」
トリプラが再び揺れる。
オーバーブースト?
パールヴァティかっ?
明弘「まてっ咲夜、止まれっ!」
咲夜「あのアホ連れ戻して離脱するからっ」
明弘「やめろ咲夜っ危険すぎる、戻って来い!」
バイラヴィとパールヴァティが遠ざかって行った。
セラ「空っ…咲夜あああああああ……」
『西暦3276年−Atmosphere−』
ポコポコ
セラ「いたっいたい、のですよ灯火」
灯火はセラに斜め45度チョップを食らわし続けている。
灯火「うるさい、このポンコツ」
セラ「間違ってはいないのです。多分。」
桜「パイロットが乗って動かす戦闘機!!」
桜「確かに人の命が必要……ところで……セラさん…………どこの穴が……」
イヤーな空気を桜から感じたので桜にも斜め45度チョップをいれる。
灯火「燃料とか…いらないの?」
セラ「油とか土とか……人間のご飯でも大丈夫ですよ。自信は無いですが……」
セラ「ただ……沢山必要かもしれません、バイラヴィは大食いですから…たぶん。」
灯火「じゃあ、セラもご飯で大丈夫って事?」
セラ「はいー、そーめんが一番ですー」
灯火「ほほう……安上がりですな。」
セラ「お腹がすいてるのですー、バイラヴィもー、私もー」
仕方がない……何かエサを取りに戻るか………
灯火「ほら、桜…そんな処でうたた寝してないで一旦帰るよっ」
桜「うっうううう……あれ?私は何を??」
どのくらいのご飯で動くんだろうか?
往復大変だな
灯火「ご飯…燃料がいるから一旦帰るよっ」
セラ「うーん、外に出るくらいなら大丈夫です…
バイラヴィも…そーめん食べたいそうですよっ」
灯火「ん?それは私たちを乗せて外に出ることが出来ると??」
セラ「バイラヴィは出来ると言っているかもしれません。
うどんも好きだと言ってる気がします。」
ポンコツ共のたわ言を真に受けて……イイんだろうか?
灯火「でも、神社ぶっ壊して浮上とかってオチ付かない?」
セラ「ん……エアクロックとか……クロックスとかで大丈夫ですよ。」
全く大丈夫では無いと……
セラ「あっああ、エクアロック?そんな感じのが開きます。」
灯火「はあ?」
セラ「バイラヴィに乗らないと……」
灯火「えっ?何?」
ザーっという音と共に、足元に水が流れて来た。
灯火「何これ?」
セラ「天罰機バイラヴィ、出撃準備開始……搭乗して下さい。」
セラの口調から感情が消えた。
私は何故か倒れている桜を抱え上げる。
灯火「で、穴は?私たちが入る穴はどこっ?」
セラ「なんだーか、桜みたいですよー、灯火」
灯火「黙れっ!急いでんだよポンコツ!!」
セラ「ごーめんなさいなのですー、そこのタラップを上がって…」
灯火「タラップ?この梯子みたいなやつか?」
セラ「はいー、そしたらキャノピー?そんな感じのが開きますー。自信は無いですけど」
灯火「桜、乗れるってよ!コレに!!」
気絶していた桜に芯が生まれる。
桜「マジですか?本当ですか?」
桜「入れるんですか?入れても良いのですか?中に居ても良いのですか?」
灯火「ん、OK!」
わしゃわしゃと梯子を上る咲夜の後を追う…
灯火「あれ?セラは乗らないの?」
セラ「えー私は……直掩に回ります」
は?
まあ、溺れて死ぬこともあるまい…
桜が梯子を渡り終えると、透明なでっかいガラスの箱が開いた。
中には椅子が一つ…
一人乗りじゃん。
まあ、仕方が無いので先に乗り込んだ桜の上にダイブする。
桜「灯火、そんなに入らない。二本も人間はむりっ」
桜をちょっぷ、うたた寝させた後でセラを呼ぶ。
灯火「で、コレどうしたらいいの?」
セラ「大丈夫ですー、バイラヴィが何とかしてくれます。そんな気がします。」
マジかあのポンコツ……ブレないな………
透明な蓋が閉まる。
これで水で溺れる事も無いか……
水がバイラヴィの周りに満ちる。
がくっと衝撃があり、バイラヴィが浮き上がった。
何?
どこに連れてかれるの?
セラ「本部に報告……レトリバー小隊、天罰機バイラヴィ、出撃します。」
『西暦2265年−Stratosphere−』
私は暴走した空の天罰機バイラヴィを追いかけている。
我ながら何やってんのよって話……
ミニブラックホールを利用したオーバーブースト
星々が線を引く、
周囲の時間とパールヴァティの時間がズレる。
私だけの時間が流れ出す……
この瞬間、いつも思う、このまま時間を遡れたら……
子供のころから社交的で友達……だと思っていた人も沢山いた。
私がクシャトリアに選ばれた事を知った両親の放心した顔が忘れられない。
大学に行く為に必死で勉強してたのがバカみたい。
まあテストで目立つと嫉妬されてクシャトリア送りの可能性もあるから、
平均点ギリで抑えといたけどね。
クラスのリーダー的男子の告白を断ったのが、そもそもの原因。
親友だと思ってた子も含めて、その男子が好きだという女子が沢山いて……
まあ、ちょっと言葉が悪くて口論になったのは私が悪かったのかもしれないけど……
そんな下らない事が原因で光速の100分の1…マッハ8800とかってバカげた速度で金ぴかの神様っぽい奴らと戦わされてるって事。
やつらは本当に神様なのかもしれない、この戦いは最後の審判…ハルマゲドンだという説もある。
天罰機……本当に天罰を受けているのは私達の方じゃないの?
みんなの前でクシャトリアに選ばれたと告げられ、基地に連行されてパールバティに乗せられて射出されるまでの記憶が曖昧だ。
あれから1年……同期が次々と宇宙のデブリになったけど……私はまだ生きてる。
あの子達…私が戦い続ける姿をどういう気持ちで見てるんだろう?
少しは悪いと思ってくれてるのかな?
どう?
告った相手、親友、クラスメイトが死線を超えて戦ってる姿は……
別の男子を文字通り、凄いスピードで追いかけてる私をどう思っているのかな?
ついナーバスになってたわね。
とにかくあのアホを連れ戻さないと……
音速を遥かに超えた速度で駆けるパールバティの中に歌が響きわたる。
「何あの女……」
「ムカつく……」
「勘違いしてんじゃない……」
「ちょと可愛いからって……」
咲夜「記憶が読めるタイプ?」
咲夜「その程度の悪口……聞き飽きた!!」
咲夜「特殊相対性理論と音が伝わる仕組みを小一時間説教してやりたいわ。」
レーザートマホークを打つ。
光の塊がパールバティより放たれる。
外した?
いや避けた?
咲夜「マッハ8800で動いている天罰機から放たれた光の速度に近いレーザーを…かわした?」
咲夜「化け物め……アインシュタイン先生に謝れっ。」
『西暦3276年−Atmosphere−』
バイラヴィはトンネルのような穴を進む……上に上がってるのかな?
やがて光が見えて来て……突然青空が広がった。
ここは海?
あ、私たちの島。私たちの村……天空神社がうっすらと見える。
バイラヴィはふわりと浮き上がる。
桜「うーん・・・あれ?私何してたんだろう?」
あ、面倒なのが目覚めた。
桜「えっコレって…飛んでる?浮かんでる?」
セラ「灯火、動きをイメージすれば自由に飛ばせるのですよ。そんな気がします。」
灯火「え〜っと、前に進め……」
バイラヴィは突然凄いスピードで真っすぐ飛ぶ
桜「おおおおおっ、凄い!イメージだけで操作出来るなんて……ロールとか出来ますか?
インメルマンターンとかっ!!」
次の瞬間天地がぐるぐる回転しだした。
バイラヴィは前後左右にぐるぐる旋回し始めた。
灯火「ぎゃああああ……桜、止めて……」
桜「止まれ」
バイラヴィはひっくり返った状態で停止した。
中の私は天井に押し付けられている。
セラ「あ〜バイラヴィは一人乗りなのですよ、たぶん。中の人が考えたように動くので…
二人乗ると運転が大変ですよ〜」
下を見ると背中から光り輝く羽が見えた、セラがこちらを覗き込んでいる。
灯火「いたたたたっ、あれ?セラ……飛べるじゃない。」
セラ「あれ?そういえばそうですね?治ったんでしょうか?」
セラ「バイラヴィと久々に会えたから元気が出たんでしょうか?」
灯火「はあ……ポンコツめ。」
セラ「ん?あれ??」
灯火「今度は何?」
セラ「ミサイルアラート、ミサイルアラート・・・衛星軌道上からの飛翔体を確認、
速度/質量から対人ミサイルJ9と識別」
灯火「ミサイル?」
セラ「着弾予定地……139°20分−38°27分」
灯火「何?どうすればいいの?」
セラ「迎撃しますか?」
灯火「もちろん、出来るなら。」
セラ「じゃあ、飛んでくるミサイルをイメージしながら……」
灯火「しながら……」
セラ「レーザートマホーク拡散モードと叫んで下さい」
灯火「れっ……レーザートマホーク拡散・・・…も……ど」
セラ「もっと大きな声で」
桜「私に任せて!レーザートマホーク拡散モード!はっしゃあああ!!」
くるりと空を向いたバイラヴィから光の束が発せられ、光の束が雲を貫き拡散させた。
セラ「対人ミサイルJ9、全弾破壊を確認、ミサイルアラートを解除します。」
灯火「祓えた……ミサイルを……やったああ、桜、やったよっ!!」
桜「良かったね灯火……」
桜は私をそっと抱きしめた。
『西暦2265年−Stratosphere−』
10−9−8……
私は超音速でバイラヴィの姿を捉えていた。
オーバーブーストが切れる……セラフィムεはブースト無しでどうにかなる相手じゃない。
咲夜「レーザートマホーク拡散モード、発射」
とにかくセラフィムεをけん制しバイラヴィを捉えないと……
咲夜「空、聞こえてるんでしょ・・・・・・スピード落としなさいよ」
空「うわあああああああっ」
咲夜「落ち着いて、アイツの言葉に耳を貸しちゃダメ」
間に合わない……
先にオーバーブーストが切れたバイラヴィがセラフィムεに捉えられた。
くそっ間に合わなかったか……
バイラヴィを抱きしめるセラフィムε
これじゃレーザートマホークを打てない……
5−4−3、オーバーブーストが切れる……
一か八かレーザートマホークでバイラヴィのギリギリ横を狙ってみる。
3−2−1
咲夜「当たれえええ」
パールバティからレーザートマホークが放たれる。
外した…バイラヴィを気にしすぎて的を外し過ぎたか……
オーバーブーストが切れた・・・細かいデブリのせいで機体が徐々に失速して行く…再加速は出来ない……
仕方がない、セラフィムεに有りっ丈のファランクスを打ち込んで一か八か……離脱を………
この状況では空を救えない。
これは仕方がない選択。
一瞬、バイラヴィがセラフィムεから離れる。
敵が一瞬ひるんだ?
バイラヴィはセラフィムεの腕から逃れバーニアをふかし距離を取る。
しかし距離をとっても仕方がない。
咲夜「空、私がありったけの弾を奴に叩き込むからそのまま逃げなさい」
空「………」
咲夜「ちょっと聞いてるの?」
バイラヴィが反転する……まさか戦う気?
咲夜「くそっ……ファランクス起動、全弾装填、
とにかく弾切れまで打ち続けろパールバティ」
もうヤケクソだ、ファランクスを無茶苦茶に連射しまくる。
セラフィムεが前後左右に避ける、こいつ……なんて速さだ………
ファランクスの残弾が切れる警告音が鳴った。
だめっ弾が切れたら……殺される………
カロロロという情けない音を立て……弾倉が空回りした。
ファランクスの残弾が尽きた……
セラフィムεは美しい笑顔を浮かべる。
「おめでとう……」
セラフィムεがパールバティに迫る。
ダメだ……
次の瞬間セラフィムεの脇を光がかすめる。
レーザートマホーク?
セラフィムεは目にもとまらぬ速さで横に飛んだ。
頭上からバイラヴィが衝突する
何?
セラフィムεの挙動を読んでいた?
「何でこんな悲しい事するの……」
空「ファランクスっ」
ゼロ距離からファランクスを撃ち込まれたセラフィムεは粉々に砕け散った」
咲夜「なんて奴……こんな戦い……明弘でも無理。」
『西暦3276年−Atmosphere−』
セラ「そーめん、そーめん、おかわりまだですか〜?」
灯火「まだ…食べるの?」
セラ「はい、燃費悪いんですよ。」
桜「せっセラさん……でっ……バイラヴィは?バイラヴィはどこの穴からご飯を食べるのですか?」
セラ「えーそこのツマミを回すと……キャップが外れます、その穴に何かを入れちゃって下さい。」
桜「何かって……何かってなんですか?燃料ですか?原油ですか?植物油ですか?」
セラ「天罰機は私と違ってエコ設計なので……炭水化物や油、タンパク質、何でも消化して燃料に出来るのですよ」
桜「ほっ……ほほう………」
セラ「でも…バイラヴィも、そーめんが食べたいそうです」
灯火「ほっ…ほんとかな……そーめん入れたら壊れない?」
セラ「大丈夫、というか大好物ですよ」
桜「ほっ本当にバイラヴィと話が出来るんですか?会話ですか?通信ですか?モールスですか?」
セラ「むかーしから、お友達ですよ。ガールズトークって奴ですよ。」
桜「なっなんですと?バイラヴィは女子!?まさか……そんなケシカラン事が………まさか恋バナですか?」
セラ「そっそれは……ぐんじ……きみつ……です。」
顔を真っ赤に染めたセラ……なんかイラッとしたので、茹でたてホヤホヤそーめんを無理やり流し込む
セラ「あっあついのです。私は冷やした……流しそうめんが好きなのですよ。」
灯火「本当に燃料要らないの?」
セラ「まあ、普通に動くだけなら太陽光とタンパク質だけでも大丈夫ですよ。たぶん。」
セラ「宇宙に行くには……お腹がすくので核燃料がいるのかな?自信は無いですが……」
灯火「か、くねんりょう?油みたいなやつ?」
桜「何を言ってるんですか灯火、核燃料……古代の究極燃料……爆弾も作れる凄い物なんですよ」
灯火「爆弾ねえ……」
桜「核燃料さえあれば動き続けられるけど、そーめんも欲しいとバイラヴィも言っているので、おかわりです。」
灯火「とほほー天空神社のお賽銭が…ポンコツのお腹に消えて逝く……」
『西暦2265年−Stratosphere−』
荒い息を繰り返す空……
私は我に返る。
バイラヴィにパールバティを軽くぶつける。
咲夜「空っ、大丈夫?」
空「はあ、はあ…咲夜………さん」
咲夜「『さん』はいらない、しっかりしなさい。」
空「は、はい……咲夜」
咲夜「帰投するわよっ、オーバーブースト使ったから私たちは、
地球から見て月の遥か後方にいる。解る?」
空「そっそうですね……」
咲夜「とにかく月までたどり着く事。スイングバイで加速を得て、
地球に帰るわよ。聞いてる?」
空「はっはい……すいません。」
咲夜「謝る前に行動。最大船速…目標は月!」
空「あっあの……さっきの戦闘で………片方のバーニアが………壊れたみたいです………」
咲夜「まったく、どこまで世話やかせんのよっ」
パールバティからアンカーを射出、バイラヴィをけん引しながら飛ぶ事にする。
バイラヴィとパールバティは並んで月を目指して飛ぶ。
咲夜「ねえ、空…」
空「はい……」
咲夜「なんか色々あったかも知れないけど……
ここでは正気を失った奴が真っ先に死ぬから……」
空「……………………」
咲夜「過去なんて忘れなさい……少なくともあと3年は忘れたフリをしなさい。」
空「……………………はい。」
まあ説教するのは後にするか…またパニくられたら困るし。
咲夜「ねえ空?歓迎会だけど…好きな食べ物ってあるの?」
空「えっ…はい……その………そーめん……です」
咲夜「そーめん?また地味ね……」
空「あっでも……流しそーめん……とか………たっ………たのしい……です。
咲夜「やった記憶が無いわソレ………じゃあ、歓迎会は流しそーめん大会で決まりね」
空「えっえっえ……本当にイイんですか?そんな……」
咲夜「はあ?そーめんくらいで何言ってんの?ちなみに私は肉が食べたいかな?」
空「………………」
咲夜「何?いきなり黙って……肉嫌いなの?」
空「はい……あんまり好きじゃ………」
咲夜「草食系ってヤツ?……男なら生肉をわっしゃんわっしゃん食べなさいよね!!」
空「はっ、はいすいません……」
しょうがない……お姉さんが、そーめん作ってやるかっ。
感謝しなさいよね。まったく。
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プチのサンサーラ
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