恥じて、知って。:32
前回のあらすじ
とある会社員は断れない性格故に、体と心が壊れていた。
そして餅食って死んだ。
季節は冬。
一人の教師とその他大勢の生徒たちは教室で授業の真っ最中である。
眠気を誘うような温い空気も、純粋な興味には敵わない。
「それではみなさん。今日は、召喚の授業を行います。」
「みなさんはどんなのを召喚したいですか?」
「ドラゴン!!」
「神」
「かっこいいアイドル!!」
「自分のクローン」
「ハハ…皆さん様々ですね。先生もすごいのを召喚したいですが、今日は控えめに犬にしたいと思います。」
すると、若い女性は机から、緑色にぼんやりと光る石を取り出した。
「みなさん、これは何かわかりますね?」
「「「召喚石!!!」」」
「でかい鼻くそ」
子供たちは元気に答える。
「全員違います。これは魔術石です。ちゃんと勉強してください。」
咳払い。
「では、私がやってみるので、魔力の流れをよく見ていてください。」
すると教師は集中し始めた。
--何をしますか--
召喚
--誰、もしくは何を--
犬
--状態は--
死んでる
--どのように--
転生
--いつ頃実行--
今
魔力の流れと言ったが、本当は魔術石の質問に心の中で答えているだけである。
この教師は自分をかっこよく見せたいが故に、嘘をついていた。
--了解。--
--ところで、誇張は良くないですよ--
「うるさい」
魔術石から魔法陣が投影されている。
そして、魔法陣から召喚されていたのはモンペ姿の目が死んでいる男だった。
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俺は32年の短い生涯を餅で終えたはずなのに、見知らぬ場所で正座している。
正直かなり困惑しているが、まずは状況確認をする必要があると考え
「すいません。四つん這いになってワンと吠えてください。」
「は?」耳元で何を言い出すんだ。
「お願いします。」
「え」やだ。てか何で首にリードが。
「お願いします。」
目がマジだ。やらなきゃ殺られる。
田中草太郎、32歳。独身。
覚悟を決めて犬になります。
「ワン!!ワン!!」
32年間の人生でたぶん一番恥ずかしい。
沈黙が余計にキツイ。
「先生?」
真面目そうな子が困り気味に説明を求める。
先生ということは、ここは学校か。
それにしても、この子は緑色の肌をしている。
ゴブリンだろうか。
教室を見回すと色んな生徒がいる。
色も形も大きさも違う。
なら、先生もよくよく考えたら”エルフ”なのでは。
「はいっ!!犬!!かわいい!!すごい!!授業!!終わりっっ!!!!」
涙目の”先生”は強制的に授業を終わらせ、逃げるように俺を引きずりながら教室から出て行った。
「かわいそうに」
「今度見かけたら慰めてあげよう。」
わずかに聞こえる憐みの声が俺の心を壊していく。
きっとこのエルフの女も同じだろう。
ここで変に抵抗して何かされるのも嫌なので、充電が切れたロボットのように、無抵抗になる。
そして気づいたら、俺は校舎らしき建物から少し離れた建物の前についた。
「入ってください。」
貫禄がありながらも、少し幼さの残る声で俺に命令する。
「失礼します。」
入ると、”普通”の職員室だった。
席が一つだけなことを除いては。
「それでは聞きます。死んだ目の方。」
「まず、あなたは誰なんですか。」
舐められないようにタメにしとこう。
「田中草太郎。」
「タナカソウタロウ?変な名前ですね。タナと呼びます。」
さよなら”カソウタロウ”。
「私はヒュエル スフォム。好きなように呼んでください。」
「じゃあ、ヒュエルさん。」
「サ、サンッ!?」
ヒュエルさんは急に慌てだした。
「そ、そんな!!サンなんてとても私には!!大きすぎますよ!!」
「ま、待ってくれ。何で。少なくとも、僕、俺は普段、人をさん付けで呼ぶぞ。」
「なんてことしているんですかっ!捕まっちゃいますよ!」
「逆に、なんでダメなんだ。」
その後、ヒュエルさんに教えてもらったのは階級の話だった。
基本的にエルフやゴブリンなど、各種族の中でも階級はあるらしい。
まず一番下が〇〇(種族名が入る)、そこからエリート〇〇、グランド〇〇と上がり、最上級のサン・〇〇が来るらしい。
そして、この国だと"〇〇ノダンナ"が、俺たち日本人(俺は違うが)でいうさん付けらしい。
「そういうことで、これからは"ヒュエル・ノダンナ"と呼んでください。」
「ヒュエルの旦那」
「はい。よろしい。」
そのうち、市場にでも連れていかれたら「安くなってるよ!!」と言いたいなと思う草太郎であった。
読んでくださりありがとうございます。
読者の旦那。前回、言い忘れていたのですが、
タイトルの「〇〇、〇〇。:32」の"32"というのは、
草太郎の残りローンを表しています。
つまり、この世界で何か良いことがあると、数字が減っていく予定です。
ちなみに、この先は僕も知りません。