8 側近、卒業パーティーを視察
~ダニエルの視点~
さすがに王宮の料理人だ。学園のパーティーなのに、すごくうまいっ!自分たちの卒業パーティー以来だな。
「なぁ、俺、学生の頃、お前を見たことないんだけど、何クラスだったんだ」
「A」
あっそ。聞かなきゃよかったぜ。
「それにしても部隊長のさっきのあれ、聞いたか?『見違えたな』だって!ほんとあの人、変なとこ残念だよな」
「予想できてたから、あそこに待機してたんでしょうよ?なあ、恥ずかしいから、そんなに食べるなよ」
「お前と違って、俺は王都に実家がないの。たまには、伯爵家の飯に誘ってくれよ」
「時々、連れて行ってるだろう。母上に言っとくから、ダニー1人で行きなよ。母上は、ダニーのこと気に入ってるから大丈夫だよ」
「バカ言え。伯爵殿に殴られるわっ!」
「あっ、ダンス始まったよ。 ……」
フランが右手で顔を覆いよろめいた。
「おい、フラン、大丈夫か」
「何?何?あれ??ガチゴチじゃないかっ。ステップも間違えてるっ!やはり、練習させるんだったっ!!」
「うわぁ、俺といい勝負」
「本気かっ??
あのな、ダニー。辺境伯となったら、毎年大事な夜会は参加必須だ。側近として僕たちも一緒に行くんだよ。会場で、淑女に誘われたり、流れで誘わなくてはならないこともあるんだよ。
………大丈夫なのか?」
「まじかぁーー!!」
思わず頭を抱えてしまった。
「とにかく、部隊長の結婚式までに二人ともレッスンね。母上に連絡しておくから」
「夕食も、頼んでおいてくれ、な」
すでに料理のテーブルへ行くのも、数度目だ。うまかったなって、思ったものを選んで皿に盛っていった。これに後は、あのオムレツを、と、思ったら、手がぶつかった。
「あっと、失礼、お先にどうぞ」
にっこりと譲る。相手を確認すれば、女生徒だった。そして、よく見たら、皿の中身が同じだった。思わず、目が合い、一緒に吹き出した。
その後、食事の話やら学園の話やらをして、皿が空く頃、フランに耳打ちされた。
「あ、あの、腹も満たされましたし、よ、よかったら、踊りませんか?」
フランに、背中を肘打ちされた。
「下手ですけど、いいですか?」
「もちろん!!」
彼女の手をとって、ホールに進んだ。
ダンスの後、彼女のご両親もパーティーに、参加していて、その場で紹介された。フランがいてくれて、本当に助かった。彼女は、アンジェラ嬢。今日の卒業生で、オディラン子爵家のご令嬢で次女だそうだ。
1年半後、彼女は、辺境伯領へ来てくれて、俺の嫁さんになってくれるとは、出会いはどこにあるかなんて、わからないものだ。
~フレデリックの愚痴~
ヴィオに、赤いものを身につけて来るよう言われた部隊長は、僕を仕立て屋に連れていき、上下赤いタキシードを頼もうとした。全力で反対し、黒の燕尾服に赤い小物を使うことを説得した。
疲れた。
パーティー当日、影から様子を見ていたら、部隊長は、始めからやらかしてくれている。何度も気を失いかけた。
そして、ダンスが始まった。これには本当に倒れてやろうかと思った。
僕は右手で顔を覆いよろめいた。
「おい、フラン、大丈夫か」
「何?何?あれ??ガチゴチじゃないかっ。ステップも間違えてるっ!やはり、練習させるんだったっ!!」
「うわぁ、俺といい勝負」
「本気かっ??
あのな、ダニー。辺境伯となったら、毎年大事な夜会は参加必須だ。側近として僕たちも一緒に行くんだよ。会場で、淑女に誘われたり、流れで誘わなくてはならないこともあるんだよ。
………大丈夫なのか?」
「まじかぁーー!!」
おいおいおいおい、僕の精神力、辺境伯領で大丈夫かなぁ。
「とにかく、部隊長の結婚式までに二人ともレッスンね。母上に連絡しておくから」
僕だけでは、無理です!
「夕食も、頼んでおいてくれ、な」
そんな図々しいダニーに、急に出会いが訪れた。セシルのことでは、予想せず傷つけてしまったし、助け船でも出してやろう。その女生徒は、ドレスを見ると、恐らく男爵家か子爵家だ。ダニーとも爵位的に問題ない。女性の爵位が高いと面倒だからね。
頃合いを見て、ダニーに助言する。
「ダンスをお誘いするのがマナーだぞ」
誘わないのは、女性に恥をかかせる。断られたとしても、恥をかくのは男だ。それが、紳士たるものだ。
「あ、あの、腹も満たされましたし…」
僕は崩れ落ちそうになったが、ギリギリ耐えて、ダニーに肘打ちしてやった。その口説き文句おかしいぞっ!
うん!セシルは、ダニーには落とせない!僕はダニーを傷つけていないっ!
ダニーのダンスを見ていたらしく、辺境伯が僕のところへやってきた。
「ほぉ、ダニーは学園に彼女がいたのかっ」
「いえ、さっき出会いました」
「そんなこともあるのかっ。ハッハッハ」
辺境伯がなぜか嬉しそうに笑う。
「フランは、我が領へ彼女を連れて来るのか?」
「いえ、今は花屋のセシル嬢と親しくさせていただいております」
「おぉ!あのいい体つきのお嬢さんかっ」
「コホン」
本当のことだが、ここで言うべきではない。そう、セシルは、スレンダーだが出るところがはっきり出ている、大人美人だ。ダニーは、僕が本気でヴィオを狙っていると思っていたみたいだけど、ヴィオのことは、妹のようにしか見えない。
「そうかそうか、じゃあ、敷地内に別宅を2棟建てねばならんな。メイドが3人くらいの大きさでいいか?」
なるほど、僕とダニーの心配か。辺境伯領は、基本的に、結婚遅いって聞くし。
「ご配慮ありがとうございます。充分です」
ダニーは、男爵家を継がないのに、メイドいていいのか?まあ、大きな商家なら、メイドくらいいるしな。辺境伯が雇ってくれるのかもしれないし、辺境伯の側近なら、大丈夫か?
ちなみに、僕は父から男爵位と領地を賜る予定。上の兄二人が他国へ婿に行ったので、僕に回ってきた。領地管理は管理人がしてるので、当分問題ない。
ダニーが女生徒を連れて戻ってきた。女生徒がダニーを両親に紹介したいそうだ。
うん、うん。ダニーはヘタレだからね。それくらい積極的な女の子がいいね。
「私も、彼の身元がわかる者としてご一緒しましょう」
やはり、彼女は、アンジェラ嬢、オディラン子爵家だった。それも、次女!ダニーっ!ツイてるなぁ。
僕の伯爵家をひけらかし、身元保証をする。こういうとき本当に便利ありがとう父上。いや、ご先祖様。
辺境伯の側近になる、でも充分だとは思うけど、ダニーが結婚するとき役職が必要なら、武官長でも、秘書官でも、もらえばいい。やる仕事は、一緒なのだから。まあ、確かに『側近』っていう役職はないからね、貴族が役職を欲する場合はある。
で、本当にこの娘と結婚して別宅で暮らすのだから、びっくりだ。この時の僕はまだ、知らないけど。
僕はこうやって、一生、二人のトホホを補っていくんだろうな。
あ~あ、セシルに癒されたいっ。
そうだっ!セシルと結婚したら、男爵領に2週間くらい引き籠ろう。部隊長とダニーの恋を叶えてあげたんだ。それくらいいいよね?
この後、カザンさんは、本人の結婚式でやらかすけど、ヴィオの機転で乗り越えた。二人は相性ぴったりだっ!
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秘匿されていたが、半年も前に婚約をしていたカザシュタントとヴィオリアは、卒業パーティーの翌日には、王妃殿下への結婚許可願いを提出した。ガーリウム王国において、貴族の結婚は、王妃殿下の許可を得て成立するものであるのだ。
卒業パーティーより1ヶ月後、王妃殿下の許可がおり、結婚式より先に、書類上は、カザシュタントとヴィオリアは、夫婦になった。
本物の夫婦になるのは、もう少し先だ。
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