7 『戦乙女』を視察
ウズライザーたちが、ヴィオリアたちを虐めをしていたと国王陛下に告訴した上に、卒業パーティーでヴィオリアたちを断罪しようとする動きをしていた。ヴィオリアたちは、それに対応すべく、準備をした。
ヴィオリアの卒業式の日、カザシュタントたちは、卒業式と卒業パーティー予行練習というものの警護に内密で参加した。内密なのは、ヴィオリアに「見られたくない」って言われてしまったからだ。だが、尚更気になってしまったようだ。
卒業式の後、卒業パーティーの予行練習において、ウズライザーたちは、本当にヴィオリアたちを断罪しようとした。ヴィオリアたち4人は、それを逆手にとり、ウズライザーたち4人の酷い不誠実や不貞を晒し、返り討ちにしたのだ。
「みなさまの不誠実と不貞について、ご理解いただけましたわね?では、」
「「「そういうわけですので、こちらから婚約破棄いたしますわ!」」」
バカな男どもは、その場で沈み込んだ。
ヴィオリアは、いや、かのご令嬢たちは、みな、『戦乙女』だった。
そんな断罪劇の最中、カザシュタントは、ヴィオリアにウズライザーの実態を馬車で聞いてあったにも関わらず、現場で見聞きしたら、男どもの酷さに殴りかかりそうな勢いだったところを、ダニエルとフレデリックに止められた。
バカな男どもの親が、それぞれの子供に罰を与えていく。バルトルガー団長は、ウズライザーを騎士団の下働きに落とし、自分の管轄のもと、10年かけて叩き直すことにしたようだ。
団長が実際にゴミを殴り、自分の管轄で回収再生させるようなので、カザシュタントは溜飲をさげた。
後に『婚約白紙事件』と言われ、なんと本にもなった。そのうち演劇になるかもしれない。
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その後、昼過ぎには、カザシュタントとヴィオリアの婚約と夏前の結婚式が発表された。
ヴィオリアの婚約白紙は確かに秘匿されていたが、カザシュタントたちがマーペリア辺境伯領から戻りすぐに移籍願いが出されて後任人事が行われたことや、カザシュタントが理由をつけてはヴィオリアを連れていたことは、騎士団の中では有名な話であった。ただし、ヴィオリアの相手が騎士団長次男だったため、団員たちは大きな声で噂ができなかったのだ。
勘づいていた者、騙されたと思う者、自分の出世を考える者、などなど、この情報がもたらした影響は、少なくないが、そんなことは、カザシュタントには、関係のない話だ。
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~カザン視点~
卒業パーティー本番当日。久しぶりに隊服ではない正装に袖を通した。黒の燕尾服に赤いカマーベルト、赤いクロスタイ、赤いポケットチーフ。ヴィオに、赤いものを身につけて来るよう言われたのだ。フランにも合格をもらえたし。大丈夫だろう。
待ち合わせの場所へ行く。まだヴィオは来ていないようだ。
学生たちがチラチラと俺を見ていく。確かに俺はデカイからな。騎士団の中でもデカイ方だ。きっと目立つのだろう。
あちらから、美しい女性が歩いてくる。スレンダー美人で体に沿った赤いドレスを纏っている。胸元に咲く黒い薔薇を模したリボンが妖しい。細い首に黒のチョーカーを巻き、細さを際立たせていて、なまめかしい。背中までの艶やかな髪が、サラサラと踊っている。長身を生かした素晴らしい装いだ。
「ハハハ、見違えたな」
バンッ!柱の向こうで壁でも殴ったような音がする。
「ヴィオ、とても綺麗だ」
言ってる俺が赤くなってどうする??ヴィオは、俺よりも赤くなっていた。
「あっちで涼むか?」
俺は、歩きだした。バンッ!また音がした。
「あっ、……。
ヴィオリア嬢、お手をどうぞ」
クスクスと、ヴィオがやっと笑った。
「では、お願いいたしますわ」
そう時間のたたぬうちに、ヴィオの友人たちが揃い、みなで、パーティー会場へと向かう。
「俺はこれで、大丈夫か?」
ヴィオの友人もそのパートナーもみな美形揃いだ。ヴィオも含めて。さらに、俺はぎこちない自覚がある。
「カザンさん。カザンさんが一番素敵よ」
ヴィオがそう言ってくれるから、俺はどこまでも行けると思った。
ダンスは、学園以来だが、体が覚えているものだ。だが、一番年下と思われるヨアン殿(昨日の事件関係の令嬢の弟)のダンスに少し闘争心が燃え上がる。結婚式まで数ヶ月ある。フランに指導してもらおう。
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~ヴィオリア視点~
長身なのに、厚すぎない肩と厚すぎない胸。騎士様らしく、凛とした立ち姿。黒の燕尾服の袖から見える筋ばった手首。
本当に騎士様の理想のような方。
不器用に私を誉めてくれるところも、不器用なエスコートも、とても素敵。
私、自分がこんなに乙女だったなんて、思わなかったわ。会うたびにドキドキが止まらない。
私のお誕生日には、特別なお店を用意してくれたけど、あれはきっとフランさんね。カザンさんは、あんなことできないもの。ううん、あれができちゃったら、カザンさんじゃなくなっちゃうわね。それでも、すごく紳士に対応してくれて、とても楽しかったな。
初めてのお酒は、甘くておいしくて、すぐに火照ってちゃった。
でも、口づけもしてもらえなかったのよね。成人したのだもの。婚約者様からの口づけはされたかったな。
それにね、ちょっと心配。カザンさんは、4ヶ月後の結婚式で、私に口づけできるのかしら?
昨日はウズライザー様に今まで怒っていたことを言えて、すっきりしたわっ!他の3人のみなさんも、それぞれにきっちり言ってやったし、4人の男たちは、みんな罰を受けることになったわ。それをきちんと終了させた彼らと会うようなことがあったら、その時はワインでも奢ってあげたいわね。
本当はね、ウズライザー様には少しだけごめんなさいって、思っているの。だって、カザンさんへのこの気持ちを知ってしまったら、私ってウズライザー様のこと、好きじゃなかったんだなぁって。きっと、あの頃の私は、辺境伯に婿入りしてくれるなら、誰でもよかったのよ。
だからといって、やっぱり、不貞は許せないけどねっ。
とにかく、今はこの人が大好き!
なんて、考えていたら、耳元にカザンさんの、声がする。くすぐったい。ふふ
「俺はこれで、大丈夫か?」
もう、何を心配してるんだろう?
「カザンさん。カザンさんが一番素敵よ」
カザンさんは、真っ赤になって、頷いた。あ~、なんて可愛いらしいのっ!
そうだ、結婚したら、『カザンさん』は変よね?呼び方どうしようかしら?
カザンさんは、ダンスは得意じゃなかった。きっと、今まで女性と踊ったことがないのだわ。ますますステキに見えちゃうわ。
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~マーペリア辺境伯視点~
何はともあれ、ヴィオが卒業して帰ってきてくれるのは、とても嬉しい。うちの一人娘だからな。
それにしても、カザンの不器用さにはドギマギさせられたもんだ。普段そつなく、完璧に仕事をし、武力もあるから、期待していたのに、まさか恋愛下手とはのぉ。
その分、よい側近を持っているようで、よくできてるものだわい。あの三人であれば、ワシの若い頃より、我が軍を盛り上げてくれるに違いない。
よし、そのためにも、フランとダニーをきっちり引きつけておかねばなんな。ちょっと、様子を見てこよう。
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