6 湖畔を視察
騎士団へ戻ると、三人は団長へと挨拶へ行く。
「で、どうだった?」
「極めて順調であります」
ダニエルとフレデリックは苦笑い。
「それはよかった。改善点などは?」
「今のところは、特には」
「そうか。また何か変わったら連絡しろ」
「「「はっ!失礼します!」」」
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寄宿舎への帰り道、早速、部下に捕まる。
「部隊長!マーペリア辺境伯領どうでした?」
カザシュタント:「どうって?」
「いや、ほら……。あのぉ…」
カザシュタント:「真面目な軍だったぞ。力も相当ある」
「そ、そうなんですか。あの、かのご令嬢も夏休みでお帰りになったって聞きましたけど」
カザシュタント:「それがなんだ?」
空気が凍る。
ダニエルとフレデリックが部下を挟み肩を抱いて、Uターンさせる。
フレデリック:「あちらのうまい酒を土産に買ってきた、後でみんなで、やってくれよ」
ダニエル:「俺たちも疲れてるからよ。また今度な」
部下の耳元で説明し、カザシュタントの進行方向とは逆方向に押し出す。
こんなやり取りを4回ほど繰り返すと、カザシュタントは、ダニエルとフレデリックへ言った。
「団長の元へ戻る」
「「は??はい」」
コンコンコン
「入れ」
「団長、失礼します」
「なんだ、お前たち、さっき話したばかりだろう?」
「状況がかわりました。早急に後任の手配をお願いします。引き継ぎなどを考えますと、半年はかかると思われますので」
団長は、目を丸くした後、ニタニタした。ダニエルとフレデリックは、カザシュタントの後で肩を揺らしている。
「カザン、現状を把握できたか。俺もおしいものを失くすことになっちまって、残念だ。だが、拾ったのがお前でよかったよ」
「自分は拾ったわけではありません。捨てられたものではないので」
「確かにな。ゴミ箱に捨てられたのは、こちらだ。回収再生も難しそうだ。
そっちは しっかり頼んだぞ」
「はっ!」
「ダニー、フラン、お前らはどうするんだ?」
「自分は南に住むのもいいなと、考えております」
「自分は南で デートの約束がありますので」
「……そうか。わかった。後任探しは手間取るかもな。二人も気が変わったら連絡しろ。報酬は、考える」
「「はっ!」」
「そうだ。ゴミの再生場所、南にしてやろうか?」
「「「断固拒否いたしますっ!」」」
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「いいのか?お前たち」
「部隊長、1人で大丈夫だと思ってるんすか?」
「ほんとです。ダメダメになったら、誰が埋め合わせするんですか?」
「……すまんな」
「「今さらです!」」
「それにしてもフラン、デートの約束って」
「部隊長だけがいい想いをしてるとは、思わないでくださいね」
「コソ ヴィオじゃないから大丈夫っすよ」
『パーン』ダニエルが頭を抱えて立ち止まった。
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婚約白紙は、秘匿事項なので、堂々とデートするわけには いかない。
『マーペリア辺境伯に、お嬢様の指導を頼まれた』として、剣の鍛錬はもちろんのこと、馬術の指導と言っては遠乗りへ行き、警邏の指導と言っては町デートをし、市井の把握と言っては食事や観劇を楽しんだ。
すべて、部下や同僚、他部隊の者へ言い訳だ。言い訳がうますぎて、その辺の婚約者たちより逢瀬の回数は、ずっと多かった。それでも、カザシュタントは、ヴィオリアの手も握れないのだ。
遠乗りの時、ヴィオリアはカザンからの贈り物のバレッタをしていった。ヴィオリアに見つからないように、フランから説明と説教を受けたカザシュタントは、真っ赤になりながらヴィオリアを褒めていたのは、ご愛嬌。
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一月もしないうちに、辺境伯の王都屋敷に、団長殿と子爵家当主が呼ばれることになった。
『攻勢に出る』と決めたら、早いものだ。
ただし、これも秘匿であるが。
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カザシュタントは、次回の新人研修の頃には、あちらにいたいものだと考えている。もちろん、そのつもりで動いている。ダニエルとフレデリックも。
ダニエル:「いくらなんでも、早すぎでしょっ」
カザシュタント:「なんでだ?俺たちの部下になるんだぞ。自分たちの目で選べるならいいことだろ?」
フレデリック:「部隊長は、ヴィオを王都から引き離したいだけでしょう」
ダニエル:「そういえば、ヴィオの誕生日、どうだったんですか?」
誕生日は、普通にデートをしたいと考えたカザシュタントは、ヴィオリアを連れて朝早くに馬車で王都を離れ、湖の畔にある町へ出掛けた。戻ってきたのは、翌日の夕方だった。
カザシュタント:「初めてだったらしい。顔がすぐ赤くなってな。無理をさせずにゆっくりと与えていったんだ」
ダニエル:「え?部隊長!ヴィオに手を出したんすかっ!!??」
『パーン』ダニエル頭を抱えた。
フレデリック:「ばっかっ!酒の話だよ。
宿も食事場所も僕が予約したよっ。一番奥から2つの1人部屋だっ。もしもがあったら、僕が辺境伯殿に、殺されるよ。セシルに何ていうつもりだ」
ダニエル:「その時には、俺がセシルさんを……」
『パーン』今までで一番大きな音がした。ダニエルは頭を抱えて、座り込んだ。
カザシュタント:「フラン、飯はうまかったし、宿はキレイでよかったぞ。景色もよかったから、ヴィオと散歩をしたんだ。夕焼けも素晴らしかったが、朝の散歩にも丁度よかった。セシル嬢を王都に招いたときには、行ってみるといい」
フレデリック:「そうでしたか。よかったです。それより、口づけくらいしてあげたんですか?」
カザシュタント:「な、なにをバカなっ!」
ダニエル:「え、だってヴィオの成人祝いでしょ?それくらいは許されますよ」
頭を抑えながらダニエルが立ち上がった。
カザシュタント:「そ、そういう問題じゃないっ!」
フレデリック:「部隊長が怖気づいただけだったら、さらに問題ですよ」
カザシュタント:「っ!……そ、それは…」
ダニエル:「まじかぁ!ヴィオ、がっかりしたろうな」
カザシュタント:「え?本当か?」
フレデリック:「女の子は、大人の男には大人の女として扱われたいのです。口づけしなかったってことは、子供扱いされたって感じますよ」
カザシュタントが青褪めた。
ダニエル:「手は?手くらいは繋いんだんですか?」
カザシュタント:「あ、ああ、夕方の散歩の時にな、ヴィオが繋いできた」
フレデリック:「は?それもヴィオから?」
カザシュタント:「よ、翌朝は、俺からしたぞっ!」
「「当たり前ですっ!」」
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ダニエル:「なあ、フラン、あの人、結婚できるのか?」
フレデリック:「結婚はできるだろう。初夜はわかんないけど」
ダニエル:「それがなきゃ結婚の意味ないだろう?婿って意味わかってるか?」
フレデリック:「僕に聞くなよ。僕としては、初夜がどうでも、部隊長が辺境伯領に行ってくれれば問題ないよ」
ダニエル:「セシルさんか?勝手だなぁ。そういえばさぁ、いつまで部隊長って呼ぶ?」
フレデリック:「…結婚式まで、か、な?」
ダニエル:「なんて呼ぶ?」
フレデリック:「普通に」
ダニエル:「そうだな」
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