5 王都への街道を視察
次の日から、カザシュタントはヒドイものであった。ヴィオリアと会えば素っ気なく挨拶だけし、食事時間が合えばさっさと食べて退室し、鍛錬などはそばにも寄らない。
辺境伯まで、落ち着かなくなった。
辺境伯:「お前たちはカザンから話を聞いておるか?」
フレデリック:「はい。その日のうちに」
ダニエル:「うちの部隊長がすみません」
辺境伯:「本人もこういうことには、疎いと言っていたが、あれは疎いのか?ヴィオがダメなのか?」
「「早急に対処いたします!」」
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3日目の夜、とうとう二人はカザシュタントの部屋に乗り込んだ。
フレデリック:「部隊長!何ですか?あの態度は?」
カザシュタント:「何がだ?」
ダニエル:「あれで自覚がなかったら、病気っすね」
カザシュタント:「………」
フレデリック:「やっぱり、僕が…」
『パーン』ダニエルがフレデリックの頭を叩く。
ダニエル:「洒落にならねぇぞ」
カザシュタント:「……………。」
ダニエル:「とにかくっすね、無視はダメでしょう」
カザシュタント:「何をしゃべればいいんだ?それに無視はしてない。挨拶はしているし。今まで何を話していたかもわかららん……」
フレデリック:「はぁ?ほんとに部隊長って…」
ダニエル:「じゃあ、俺たちがいるところで、しゃべりましょう。明日から飯は誘いに来るから。いいっすね?」
カザシュタント:「………わかった……」
フレデリック:「もう、このままでもいいんじゃないかなぁ?」
ダニエル:「いいわけないだろうがっ!とにかく、俺たちは、今から辺境伯殿のところに行って来るっす」
カザシュタント:「な、なんで?」
ダニエル:「辺境伯様は、部隊長がヴィオを嫌っているのではないかと、心配してるんすよ」
カザシュタント:「そ、そんなわけは…」
フレデリック:「部隊長が、辺境伯様にまで、心配かけちゃってるんですよ。しっかりしてくださいね」
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辺境伯:「それで、どうなってる?」
ダニー:「ただ、遅咲きの初恋を拗らせているだけなんで、大丈夫です。俺たちがなんとかします」
辺境伯:「ああ、頼んだ」
フラン:「我々こそ、心配かけてすみません」
辺境伯:「いや、大丈夫だ。これからもよろしくな」
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ヴィオリア:「ねぇ、ヘレン。私、カザンさんに何かしたのかしら?ダニーさんとフランさんは変わらないんだけど、カザンさんにさけられている気がするのよ」
ヘレンは、ヴィオリアより3つ上のメイドで、学園の4年間も王都のお屋敷でヴィオリアを支えるほどヴィオリアに近い存在だ。
ヘレン:「お気になさらなくても大丈夫ですわ。一時的なものでございますよ」
ヘレンは、辺境伯夫人からすべてを聞いている。
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カザシュタントが借りてきた猫のまま、王都へ戻る日になった。カザシュタントは、ダニエルとフレデリックに、無理やり馬車に押し倒し込められた。
辺境伯軍から4人の騎馬隊を入れ、馭者とヘレンを合わせて10名の小規模なものだ。道中、昼食に寄ったり、土産物を見たり。また、夜は宿屋だ。のんびりとした旅程ですすむ。
1日目が終わると、カザシュタントはすっかり復活していた。馬車内の雰囲気がとても楽しかったようだ。これもヘレンのお陰だ。メイドのスキルなのか?
「ヴィオは、かわいいところもあってな、剣筋などを褒めたら赤くなっていたよ」
『戦闘以外もほめてるんだろうな?』と聞きたくなるフランと『タハハ』と苦笑いのダニーだった。
翌朝、乗馬服で現れたヴィオリア。馬車にはダニエルとフレデリックが乗っている。
ヴィオリアとカザシュタントはずいぶん楽しそうで、まるで、乗馬遊びに来ているようだ。時々、競争なんぞしている。
ダニエル:「なんだかなぁ」
フレデリック:「うちの部隊長がお世話になったようで、すみません」
ヘレン:「いえいえ、問題ありませんわ。大変真面目な方ですね。フフフ」
ダニエル:「真面目すぎてダメダメって、なぁ…」
フレデリック:「まあ、復活したのなら、よしとするしかないね。いいたいことは山ほどあるけどさ」
ダニエル:「俺たちの昨日までの苦労は、よぉ?」
ヘレンは、クスクス笑いが止まらない。
フレデリック:「ヘレンさんは、部隊長のことどこまで知ってたの?知ってて、対応してくれたんでしょう?」
ダニエル:「え?そうなんすか?」
ヘレン:「奥様から、ご心配であるとお聞きしております。私はカザシュタント様のご様子からご心配はいりませんよと、お伝えいたしました」
フレデリック:「さすがですね。それにしても、ヴィオは、馬の扱いが上手ですね」
ヘレン:「辺境伯領地に住む子供たちは、大抵乗れますよ。メイドも遠くから親戚の伝手などのメイドでない限り乗れます。
それでも、お嬢様には、敵いませんけど」
ダニエル:「へぇ、逞しいな」
ヘレン:「昔の風習です。スタンピードから逃げるためには、子供でも馬車を操れ、馬にも乗れないと逃げられませんので。初等学校で習うんですよ」
フレデリック:「なるほどねぇ。僕たち王都民は、そういう逞しい精神の人たちに守られてきたってことだね」
ダニエル:「まったくなぁ」
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こうして、予定より遅めの旅路で、すっかりカザシュタントとヴィオリアの雰囲気はよくなった。5日目は、わざわざ1日休暇にして、カザシュタントとヴィオリアは、町デートへと出掛けた。カザシュタントが「護衛はいらない。」と言うし、確かにカザシュタントの実力ならそうなのだろうが、お嬢様を預かっているので、そうはいかない。付かず離れずで、ダニエルとフレデリックが護衛をしている。
二人は小物屋に寄った。かわいいアクセサリーが並ぶ。
「わあ、かわいい!馬に乗るとき、サイドの髪が邪魔なのよね。ピンかバレッタを買おうかしら」
「あ、ああ、いいんじゃないかな」
「カザンさん、これどう?」
かわいいピンを耳の上辺りにあてているヴィオリアは、小首を傾げてカザシュタントに問う。
一瞬で真っ赤になるカザシュタント。ヴィオリアは、それを見て目を丸くするが、すぐに笑顔になる。
『少し年上の方だけど、なんて可愛らしいのかしら。それもカザンさんの魅力の1つね』ヴィオリアも少し赤くなってしまった。
結局、ピンクの小さな宝石の付いたバレッタにした。ピンクはマーペリアの色だ。支払いはもちろんカザシュタントがした。初の贈り物にヴィオリアはたいそうご機嫌だった。
しかし、こんなに雰囲気がよくても手も握れないカザシュタントに、後ろの二人は呆れている。
カザシュタントらしいといえば、らしい。
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8日目、明日は2日遅れで王都へ着く予定だ。王都とマーペリア領地へ無事到着予定の早馬を出した。
その日の馬上では、
ダニエル:「はぁ、なんか疲れたな」
フレデリック:「気を抜くなよ」
ダニエル:「わかってるよ。
それよりさぁ。俺、マーペリア領で、嫁でも探そうかなぁって思ってる」
フレデリック:「ふーん、そうか。偶然だな。僕もそう思ってたよ」
ダニエル:「花屋のセシルさんが美人でさぁ」
フレデリック:「ふーん、そうか。偶然だな。僕もデートしたよ」
ダニエル:「はぁ???」
フレデリック:「王都に戻ったら手紙を書くことになってる。またデートしようって約束したし。
部隊長じゃないんだよ。手も繋いだし、頬に口づけもしたさっ。大人だろ?僕たち」
ダニエル:「まじかぁーー!!」
ダニエルが、馬の首に突っ伏した。ダニエルはまだ、セシルに声を掛けることもできていない。傷になる前でよかった。
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