3 ラブロマンス
先日の約束通り、カザシュタントの元にヨアンシェルが訪れてきた。イメルダリアも一緒だったので、ヴィオリアはイメルダリアと庭園でお茶をすることにした。
カザシュタントとヨアンシェルは、応接室で話している。ヨアンシェルは、カザシュタントの話を細かくメモしている。
「そうですか。では、まだ予定の半分ほどの人数なのですね」
「そうだな、オーリオダム君の提案書は、最終目標といったところだ。ベルトソード・サンドエクも、マーペリア領に着いてから、魔法士たちの足りない部分に気がついたようだからな。まさに『やってみたから気がついた』のさ」
「そうですね。まさか王都の魔法師団の訓練まで変化するとは…」
「ベルトソードも、いや、ジャンバディ伯爵殿でさえ、予想していなかっただろうな。その点は、サンドエク家で聞いてみた方がいいだろうな」
「そうですね。オーリオダム君から発案についても聞きたいですし」
「ヨアン君は、学園を出たばかりだろ?宰相殿にずいぶん可愛いがられているんだな。ハハハ」
「なんだか、そうなってしまいましたね。あの事件が切っ掛けです。やりがいはありそうなので、頑張ってみるつもりですよ」
「未来の宰相殿は、謙虚なんだな。ハハハ」
「それは買いかぶりでしょう。ハハ」
実は、現国王陛下でさえも、ヨアンシェルを次世代の宰相だと思っている。
「結婚式の準備は進んでいるかい?」
「僕はおまけですから。母と彼女が頑張ってくれています。食事にも自信があるようなので、楽しみにしててくださいね」
「おお、そうか。では、うまい酒も頼むよ」
「ハハハ、それは父に伝えておきますね。父も望んでいそうですから」
「ん?ヨアン君はまだ酒を飲んでないのか?」
「いえ、何度か、は。でも、うまいとは思えなくて」
「ハハハ、成人したばかりだもんな。仕事が始まれば、飲むことも増える。すぐに自分の好みが見つかるさ」
ガーリウム王国では、18歳が成人である。ヨアンシェルは、半年ほど前に18歳になった。
「彼女は、一つ年上なのですが、僕の誕生日まで、飲酒を待ってくれたんです。僕の誕生日に、二人でシャンパンを飲みました。あれは甘くて美味しいですね」
「ハハハ!結婚式が近いと熱いなぁ。ここで惚気られるとは、結婚式が楽しみだよ」
惚気ている気のなかったヨアンシェルは、指摘をされて、赤くなった。
「カザンさんたちだって、熱いじゃないですか。先日のオーリオダム君たちの結婚式で、カザンさんが喧騒の様子を見に行ってくれましたよね?」
「ああ、あの『ハンディカム』とかいうやつな。あれはすごい魔道具だな」
「そうです。あの時、ヴィオリアさんが、カザンさんを待つようにって、僕たちを止めたんです。カザンさんを信頼してるんだなって感じましたよ」
「へえ、そんなことがあったのか。妻から信用されているって聞くと嬉しいものだな」
カザシュタントは、ヴィオリアを思っているのだろう。優しい笑顔であった。
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「ヴィオリアさん、あちらでのお披露目会は、いかがでしたの?」
「ヴィオでいいわよ。私もダリアって呼んでいい?」
「もちろん!アリーお義姉様もダリアって呼んでくださるのよ。ふふ」
「もうすっかり姉妹ね。カストは、男兄弟だから、羨ましいわ。あ、でも、カストの側近の二人の奥さんたちとは仲良くしているの。一人はお姉さん、一人は妹って感じよ。その二人と一緒にお揃いのドレスでお披露目をしたの。楽しかったわ」
「3組のお披露目!お揃いのドレスなんて、ステキですわねぇ。そういえば、その妹さんって、同級生の方でいらっしゃるのでしょう?わたくしたちの卒業パーティーで出会われたとか。きゃー!ステキですわね」
「よく知ってるわね??!!」
ヴィオリアは、びっくりしている。
「ヴィオは、結婚式の後すぐに領地へ戻ってしまわれたでしょ?わたくしは、王都だもの。お茶会にはお呼ばれするわ。ステキなラブロマンスのお話はみんな大好きなのよ。ふふふ」
「じゃあ、次のお茶会で、ダリアから報告しておいて。そのラブロマンスの二人は、この夏に結婚するわ」
「きゃー!本当に?ステキっ!何がありましたの?」
「それは、ね。……」
王都に、2ヶ月ほど残ることになっているヴィオリアだ。結局、お茶会でダニエルとアンジェラのラブロマンスを語るのはヴィオリアということになる。
本人たちのいないところで、ダニエルとアンジェラの恋物語は語られていき、吟遊詩人の歌にもなっていく。大変装飾を施されて。出会いは、『王宮料理』ではなく、『目と目があった瞬間に』となる。乙女たちが、好きそうなシチュエーションだ。
「そういえば、わたくしたちのこと、調べている方がいらっしゃるのですって」
「どういうこと?」
「その方のお話ですと、『本にしたいから教えてくれ』と言われたそうですわ」
「その方っていうのは、あの会場にいた人なのね。なんで私達に聞いてこないのかしら?本当のことは教えられないけど」
実は国王陛下も協力者でしたとは、間違っても言えないことだ。
「そうですのよね。発表できる情報を管理するのも含めて、犯人を探したいというのが、ヨアンの考えらしいですわ」
「確かに、噂に歪められるのは怖いわね。私達って、あの人たちからみたら、悪役よね」
「そうですわね。最近有名な『悪役令嬢』みたいですわよね。ウフフ」
「それは何?」
「王都で流行っている小説ですわ。貧乏な貴族のご令嬢が王子様と恋をして王子様の婚約者様がご令嬢を虐めるのですわ。虐めたり、恋の邪魔をするので、『悪役令嬢』なんですわ」
「まあ!でも、私達は、彼女を虐めてもいないし、恋の邪魔もしてないわ。彼女のおかげで大切な人を見つけられたのですもの。今は感謝の気持ちよ」
「本当にそうですわね。わたくしも、ヨアンやアリー様に囲まれていると、幸せだなぁと感じますわ」
「ふふふ、結婚式の準備は進んでるの?」
「ええ。そうそう、わたくしにも義妹ができますのよ。ふふ」
「そうなの?ロン君、結婚するの?」
「ええ、わたくしたちと同じ日に。ロンは、そういうの面倒くさがるから、ヨアンに頼るつもりで、結婚式を同じ日にしたみたいですわ。
わたくしたちも、お揃いのドレスにしたらよかったですわ」
ロンことシェノーロンドは、イメルダリアの弟で、ヨアンシェルの親友である。あの事件で活躍した者の一人だ。
イメルダリアは、普段はシェノーロンドを『シェン』、ヨアンシェルを『アル』と呼んでいるが、外では、みんなに伝わりやすい愛称を使っている。
「大きなお披露目パーティーになりそうね」
「ええ、当日は、わたくしたちの侯爵家は、お菓子やサンドイッチを担当しているんですの。それなら、運ぶことができますでしょう」
「そこを分担するほどの量なの??すごいわね。ダリアの作るお菓子はいつも美味しかったもの!ダリアの家のお菓子なら、絶対美味しいわね。楽しみだわ」
「ふふふ。ヴィオの好きなチョコレートケーキも用意しておきますわね」
「本当に!?嬉しい!!」
2ヶ月後の結婚式が楽しみだ。
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