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マーペリア辺境伯軍の恋愛奮闘記  作者: 宇水涼麻
第六章 最終章 春の訪れ
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2 友人の結婚式

 まだ少しだけ肌寒い春先、オーリオダムとエマローズの結婚式が執り行われた。


 オーリオダムがエマローズをエスコートして、会場へと入ってきた。入場を知った会場の人たちが、拍手と歓声で出迎える。その中を、二人が笑顔で歩く。


 エマローズは、若草色のドレスで、腰から下はふんわりと広がり、白いベールのような布が同じように広がりっていて、若草色が透けている。肘から手首にかけて広がった袖には、白いリボンで装飾され、肩に大きめの白いリボンが形つくられている。

 頭にはシロツメクサの花冠を被り、手には白いダリアを中心とした可愛らしいブーケだ。ダリアをシロツメクサに模したブーケなのだろう。

 オーリオダムの衣装はエマローズに合わせており、白いタキシードで、小物を若草色に、してある。

 背の高いオーリオダムの隣の小さなエマローズは、まるで妖精のようだ。


 サンドエク伯爵邸の誇る芝生の広い演習場に、レッドカーペットがしかれ、その左右に長椅子が並べられている。そこには、すでにたくさんの招待客が座っており、長椅子の回りにも立っている人がたくさんいる。ヴィオリアたち、3組のカップルは、前方に座っている。


ヴィオリア:「エマローズ様、可愛らしいわねぇ」

イメルダリア:「ええ、本当にステキですわぁ」

ゼファー:「アリス(アリーシャ)にも、あの色のドレスはきっと似合うよ」

 それぞれ、新婦への感想を口にする。やはり主役は新婦なのだ。



 オーリオダムとエマローズは、署名台の前まで行くと、そのまま、裏へまわり、会場のみなさんの正面に立つ。


 魔法師団の隊長さんだという方が進行役のようだ。

「では、こちらの宣誓書をお読みください」


 オーリオダムとエマローズで、左右を持ち、宣誓書を少し持ちあげる。

「私、オーリオダム・サンドエクと、」

「わたくし、エマローズ・ナハナージュは、」

「「ともに愛し合い、嬉しいときにはともに笑い、悲しいときにはともに慰め、つらいときにはともに励まし、いついかなる時でも、ともにあることを、ここにお集まりのみなさまに誓います」」


「では、今の宣誓を認める者は、拍手をお願いいたします」

 大歓声と大拍手とともに、まるで花火のようなものが、あちこちの空に舞う。魔法士たちの祝福だ。


 進行役が手を挙げると、静まる

「では、こちらにサインを」


 オーリオダムがサインをし、ペンをエマローズに渡し、エマローズもサインをする。


 進行役が、その書面を高々と挙げ、宣言する。

「ここにいる者、すべてを証人とし、二人の婚姻を認めるものとする」

 再び大歓声と花火の祝福が二人に降り注ぐ。


「では、誓いの口づけを」

 オーリオダムがエマローズのベールをまくり、優しく口づけをした。みんなの祝福が舞う。


 オーリオダムとエマローズは、この世界ではおそらく初の『人前結婚式』を執り行なったのだ。


 オーリオダムとエマローズは、そのまま、隣に用意されたパーティー会場へ移動し、ファーストダンスを踊った。

 クルクルと回るエマローズの笑顔は、本当に妖精のようだ。

 曲が終わってオーリオダムが、片手を離したとき、オーリオダムはエマローズをお姫様抱っこして、くるっとまわった。エマローズは、びっくりしていたが、次の笑顔で、オーリオダムの頬に、口づけをした。


「「「きゃー!」」」

 淑女たちは、小さなわくわくの悲鳴を挙げた。


 大歓声と花火の祝福がまた会場を沸かせた。エマローズを降ろして、二人が会場へ礼をすると、次の音楽が始まり、ダンスパーティーとなった。


 今日の主役の二人とはなかなかお話はできそうもない。

 3組はダンスをパートナーチェンジしながら楽しみ、その後、料理と飲みものを持って、テーブル席へと移った。


イメルダリア:「カザシュタント様、ダンスが見違えるようでしたわね」

 イメルダリアの遠慮のない「去年の卒業パーティーはひどかったけど」は空耳でないだろう。


ヴィオリア:「でしょう。領地でも、ダンスパートナーのお誘いが多くて困っているのよ。ふふふ」


カザシュタント:「みんな子供ばかりだろう。君こそ『お姫様』って言われてるじゃないか」

 完全に惚気になってきている。


アリーシャ:「バレー伯爵夫人様に習われたのでしょう?先日の王城の夜会で、バレー伯爵様がお一人だったので、お話いたしましたわ」


ゼファー:「ああ、あの時の話はカザン殿のことだったのか」


ヨアンシェル:「そうだ、カザン殿、後日、魔法師団の話を聞かせてください。案件を進める例として、宰相に報告書を提出するようにと言われておりまして」

 ヨアンシェルは、アリーシャの弟で、イメルダリアの婚約者だ。イメルダリアとの結婚式の後、王城に仕え、宰相補佐官になることが内定している。


カザシュタント:「ああ、あと1週間はこちらにいる。いつでも辺境伯邸へ来てくれ」


イメルダリア:「あら?わたくしたちの結婚式までこちらにいらっしゃるのではないの?」


ヴィオリア:「私だけ、そうすることにしたの」


カザシュタント:「魔法師団との案件があるので、彼らと戻らねばなりません。私だけなら、3日で王都まで来れますし」


ゼファー:「あの距離を3日ですか?!鍛え方が、違うのですね」

 ゼファーの国タニャード王国は、マーペリア辺境伯領と道は繋がっていないが、領地は隣接しているので、ゼファーには距離がわかるのだ。


カザシュタント:「本当に急げばという話ですよ。できれば、私もそれはしたくないな。ハハハ」


ヴィオリア:「それにしても、今日の結婚式は素晴らしかったわね」


イメルダリア:「ええ、皆様にお誓いするなんて、ロマンチックですわぁ」


ヨアンシェル:「世界を回ってきた彼らしいよね」


ゼファー:「そうだね。国にいると、当然、その神を崇めるからね」


アリーシャ:「ガーリウム王国とタニャード王国が、同じ神を崇める国でよかったですわ」


ゼファー:「アリスはそこまで心配してくれていたの?」


アリーシャ:「だって、結婚式には、神殿は付き物ですもの」


ゼファー:「そうかぁ。アリスは普段から僕との結婚を考えてくれているんだね」


「「まあ!」」

 ヴィオリアとイメルダリアは、アリーシャが赤くなるのを見て、嬉しくなった。アリーシャがとても可愛らしい。


 こうして、6人が話をしていると、サンドエク伯爵邸の外がなにやら騒がしい。カザシュタントは、さっと席を立ち、確認に行く。


ヴィオリア:「私たちが動くとかえって邪魔になるかもしれません。カストの報告を待ちましょう」

 ヴィオリアは、本当に『妻』らしくなっていた。


 伯爵邸の玄関脇に張られたシーツで、今日のオーリオダムとエマローズの結婚式の様子が、そのまま、写し出されていた。そのお陰で、伯爵邸前は、すごい人だかりとなっていた。


 去年、オーリオダムは、友人と共同開発で、いわゆる『魔石ビデオカメラ』を開発した。それは、今までは、防犯カメラとして主に使われていたのだ。だが、今日の列席者に、オーリオダムの共同開発者がおり、その彼が『ビデオカメラ』に革のカバーと取っ手を付けて、いわゆる『ハンディカム』にして、オーリオダムたちの入場からダンス終わりの礼まで、バッチリと撮っていたのだ。それを玄関前で流している。


 この後、『人前結婚式』と『ハンディカム』が流行する。


 カザシュタント、ヨアンシェル、ゼファーは、その日のうちに、『ハンディカム』をいくつか予約した。

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