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マーペリア辺境伯軍の恋愛奮闘記  作者: 宇水涼麻
第六章 最終章 春の訪れ
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1 あれから

 2月の終わり頃、もうすぐ執り行われるオーリオダムとエマローズの結婚式のため、カザシュタントとヴィオリアとベルトソードは、王都へと向かった。ヴィオリアとエマローズは、1年前の婚約白紙事件の被害者だ。


 王都への到着が昼過ぎだったこともあり、カザシュタントは、ベルトソードとオーリオダムのいるサンドエク家に寄っていくことにした。

 サンドエク家の応接室には、ジャンバディ・サンドエク伯爵とオーリオダム、モリアスが待っていた。


 挨拶の後、お互いに魔法師団の報告をする。


ベルトソード:「始めは大変だったが、最後には少しは役にたつようになったよ。正直、やりとげたというより、ほっとしたって思いだな」

 ベルトソードは、隠さず本音を話した。


ジャンバディ:「そのようだな。モリアスからも聞いているし、『メールボックス』でも確認している。

だが、そのお陰で、訓練は劇的に変わった。帰ってきたやつらの本気が伝わったんだ」

 王都の現状が好転していることを強調した。


ベルトソード:「そうか。モリアス、ご苦労だったな。お前の存在あってこそだ」


モリアス:「いえ、訓練の内容は変わりましたが、やらされているという雰囲気はあります。やはり、現地で自分が役に立たないという自覚を持たないとダメなのかもしれませんね。帰還組との温度差を感じますよ」


オーリオダム:「カザンさんや、父さんが言ったように、やってみないとわからないことだらけみたいだね」


ベルトソード:「ダム、お前の提案で変われたんだ。感謝しているよ」


オーリオダム:「兄さん、僕のは机上の話。それを実現させるのは、兄さんだ。まだ道の途中だろ?」


ベルトソード:「ああ、そうだな。まだやれることはたくさんあるんだ。やってやるさ」


ジャンバディ:「カザシュタント殿には、大変お世話になっているようで、申し訳ない」

 ジャンバディとオーリオダムとモリアスが、頭を下げる。


カザシュタント:「やめてください。先日のバイソン狩りなどは、魔法士たちが大活躍だったんですよ。我々も助かっています」


 バイソン狩りの話になったところで、男たちは、童心に返り楽しそうに話した。


 オーリオダムの結婚式の後、カザシュタントたちが帰る時に、魔法士たちも数名連れていくことで同意した。


 3日後には、同じメンバーで、国王陛下の執務室で報告をした。国王陛下は、魔法師団の訓練が地味になったことに、納得していなかったらしい。ここでも、現場との温度差があらわになった。

 国王陛下は、カザシュタントの実践経験を交えた説明でやっと納得した様子であった。


〰️ 〰️ 〰️


 男たちが、王城へ報告へ行っている頃、サンドエク伯爵邸では、ご令嬢たちがお茶会をしていた。

 アリーシャ公爵令嬢、イメルダリア侯爵令嬢、エマローズ伯爵夫人、ヴィオリア辺境伯若夫人である。この4人は、あの婚約白紙事件の被害者たちだ。エマローズは、結婚式はまだだが一年前に入籍しているので、すでに夫人である。


アリーシャ:「ヴィオリアさん、エマローズさん、お久し振りですわね?ご健勝でいらっしゃいましたか?」


ヴィオリア:「あの事件から一年ですね。生活が劇的に変わりすぎて。ほほほ」


エマローズ:「わたくしたち、先日、こちら(ガーリウム王国)へ戻って参りましたの。来週結婚式ですから。みなさんにも、ご出席いただけて嬉しいですわ」


イメルダリア:「わたくしたちの結婚式も再来月ですもの。楽しみですわね」


ヴィオリア:「本当に楽しみだわ。私の結婚式ってもう9ヶ月も前なのね。あっという間だったわ。あの時はゆっくりお礼もいえなかったの。みなさん、ありがとうございました」


アリーシャ:「それだけ充実なさっているのでしょう?お噂は聞いておりますわ」


イメルダリア:「アリー様は、ギルファルト王太子殿下の婚約者様の教育係でいらっしゃいますもの。本当にいろいろとご存知でいらっしゃいますわ」

 イメルダリアは、再来月の結婚でアリーシャの弟と結婚するので、今はアリーシャとよくお茶をする仲なのだ。


アリーシャ:「それだけ王城は、噂好きな方が多いのでしょうね。オホホ」


ヴィオリア:「アリーシャ様のご結婚の日取りはお決まりになりましたか?」


アリーシャ:「それが、まだですの。ゼファー殿下(タニャード王国第2王子)は、急ぎたいご様子ですが、来月、お義兄様の王太子殿下の結婚式が執り行れますの。あと1年は、無理ではないかしら?」


ヴィオリア:「まあ、アリーシャ様は本当に多忙ですのね。お体は大事になさって」


アリーシャ:「ありがとうございます。エマローズさんの結婚式の後、すぐに出発ですの。準備はほぼ終わっておりますのよ」


エマローズ:「でも、ゼファー殿下との仲はよろしいのでしょう?」


イメルダリア:「それは、もう!」

 イメルダリアは、ゼファーの話もアリーシャから聞いている。


アリーシャ:「ダリアさんっ!」

 アリーシャの顔が赤くなった。顔に感情を出すなど、あの事件の前には考えられない。感情を出しても大丈夫な心理状態なのだろう。


エマローズ:「ふふふ、アリーシャ様のそのお顔が見れただけでも、嬉しいですわ」


ヴィオリア:「そうね、アリーシャ様、感情豊かになった気がするわ」


イメルダリア:「愛の力よ!」


「「きゃー!」」


アリーシャ:「わたくしのお話はいまは、よろしいわ。エマローズさん、あちらのお国はどうでしたの?」

 エマローズは、先日までオーリオダムが留学していた国へ、二人で旅行に行っていたのだ。


エマローズ:「ダムがとても可愛がられているのがわかりましたの。ダムの人柄なのでしょうね」


アリーシャ:「そう、そういう方とご一緒なら、楽しそうですわね」


エマローズ:「はい。ずっと一緒にいるのに、少しも嫌になりませんのよ」


 イメルダリアとヴィオリアが、クスクスと笑っている。


エマローズ:「?どうかなさいまして?」


イメルダリア:「以前は『男女のことに興味がありません』っておっしゃっていたから。今はとても幸せそうですわ。エマローズさん」


ヴィオリア:「ええ、さっきから、アリーシャ様に惚気を喋らされてますよ。ふふふ、あの頃(婚約白紙事件の頃)のエマローズさんでは、ありえないことですね。私が嬉しくなってしまうわ。結婚式がとっても楽しみ!」

 エマローズが真っ赤になって、俯いた。この姿もあの頃には見れなかったものだ。


アリーシャ:「ええ、恋をなさっているお顔ですわね。

そういうヴィオリアさんも、『強くならなくてはならない』という雰囲気でなくなったようですわね」


ヴィオリア:「え?そうですか?鍛錬は相変わらず続けてますよ。相手が軍人たちなんで、鍛錬はレベルアップしているはずなんだけどな」


エマローズ:「頼れる旦那様のおかげではありませんの?」


イメルダリア:「まあ!ステキ!そうですわよね。ヴィオリアさん、仕草とか、女性的になりましたもの」


ヴィオリア:「そ、そうかしら?」


アリーシャ:「自分や毎日一緒にいる者にはわからない変化ってございますのよ。先程、みなさんがわたくしのことも指摘なさいましたでしょう。わたくしとしては、あまり変わったつもりはありませんのよ」


ヴィオリア:「なるほど、そうかもしれませんね。イメルダリアさんも、言葉を飲み込まなくなりましたね。私、前はもっと言ってもいいのよって言いたくなりましたもの。必ず考えてから、言ってたでしょう?」


イメルダリア:「そうかもしれませんわ。前は嫌われるのが怖かったですもの。今は、本当のわたくしを見ていただきたいし、見ていただいてるわ」


エマローズ、ヴィオリア:「「ふふふ、惚気ですよ」」


イメルダリア:「ち、違いますわよっ!アリー様にもわかってもらえている安心感のお話ですわっ!」


アリーシャ:「まあ、わたくしのこと、受け入れてもらってますのね。ダリアさん、嬉しいわ」


 女子トークは、いつまでも終わらない。

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