4 側近の災難
フレデリック宛に、王都の母親バレー伯爵夫人から手紙が届いた。
夜になり、フレデリックとセシルに割り当てられた部屋のソファーで手紙を開いた。フレデリックは、手紙を読むと頭を抱えた。
「フラン!どうしたの?お義父様に何かあったの??」
セシルが慌ててフランに駆け寄った。
「あの人、絶対にわざとだよ。もう10年も行ってないトリベール領に行くなんて、おかしいじゃないか。僕たちが新婚だって、わかってるよね?なんで、義姉さんまで」
フレデリックが、ぶつぶつと念仏を唱えているようだ。フレデリックに手紙を渡されて、セシルは、手紙を読んだ。
『フラン、セシルちゃんへ、
二人がこの邸からそちらへ引っ越しをなさってから、もう5ヶ月になりますのね。
セシルちゃんからはいつもお手紙をもらっているのだけれど、やっぱり淋しいわ。
旦那様に相談したら、トリベール領で休んで来なさいって、おっしゃってくださったの。フェリシーさんもお誘いしてみたら、ご一緒にっていうのよ。丁度、子どもたちにも海を見せてあげたかったし。
通り道だから、そちらに寄りますわね。マーペリア辺境伯様には、ちゃんと伝えておいてね。
フラン、反対しても無駄ですよ。このお手紙を貴方が読む頃には、もう邸を出ているわ。
セシルちゃん、会えることを楽しみにしているわね。
母より』
「まあ!お義母様とお義姉様、それに子供たちも来てくれるの?うれしいっ!」
『子供たち』とは、フェリシーの長男5歳シリルと次男4歳ニコラである。二人はとても素直で、バレー伯爵邸に、セシルがお世話になっているときには、よく一緒に庭園のお散歩へ行ったり、ダンスのお稽古を一緒にしたりした。
「来るだけで、済めばいいけどね。出発してるタイミングで手紙出すって、確信犯ですよね、お、か、あ、さ、まっ!」
フランはまたぶつぶつ言っているが、楽しみで仕方のないセシルには、聞こえていないようだ。
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手紙が届いてから、5日目の夕方より少し前、バレー伯爵夫人ご一行が、マーペリア辺境伯城へ到着した。
「バレー伯爵夫人、お待ちしておりました」
「マーペリア辺境伯様、わざわざお出迎えいただきまして、ありがとうございます。息子と義娘が、大変よくしていただいているようで、感謝申し上げますわ。奥さまも、ご機嫌よう。いつもありがとうございます」
「まあ、バレー伯爵夫人、わたくしどもが助かっていますのよ。このようなところで立ち話も、なんですわ。お部屋にご案内いたしますので、後程お茶でもいかがですか?」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、そうさせていただきますわ。フェリシーと子供たちも一緒ですの。
ご挨拶なさって」
「マーペリア辺境伯様、奥様、ご無沙汰しておりますわ。義弟の結婚式では、ご参列いただきまして、ありがとうございます。急な来訪にも関わらず、ありがとうございます」
「「こんにちは!よろしくお願いいたします。」」
「まあ!可愛い子供たちだこと。さあさあ、中へどうぞ」
マーペリア辺境伯夫人もいつになく楽しそうだ。王都でもない限り、お茶会などはなかなか行けない。城下町の女将さんたちと話をするのも楽しいが、やはり、違う遠慮をされているのは感じる。マーペリア辺境伯夫人は、実はセシルが近くにいるヴィオリアが羨ましかったのだ。
やはり、たまにはこういう集まりは女にとって、楽しいものだ。
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客間に入り、辺境伯夫妻が退室すると、
「「セシルぅーー!!」」
セシル:「シリー、ニコ、元気だった?とっても大きくなったのね!」
フェリシーの息子シリルとニコラは、セシルに抱きついた。
シリル:「そうだよ。僕、ピョンってすれば、ベッドのヒラヒラを触れるようになったんだよ」
ニコル:「僕はね、僕はね、葉っぱにピョンってするんだよ」
二人は大興奮だ。
バレー伯爵夫人:「セシルちゃん、元気そうね。フランとは仲良くしてる?」
セシル:「はい、お義母様!フランは、とっても優しいです。お義姉様も、遠くまでありがとうございます。会えてうれしいです」
フェリシー:「わたくしも、セシルちゃんに会えてうれしいわ。お義母様のお誘いにちゃっかり乗らせてもらっちゃったわ。ふふふ」
バレー伯爵夫人:「あら、わたくしも、一人旅より、フェリシーさんが一緒に来てくれて、うれしかったわよ。たまには、男抜きもいいわね。ふふふ」
セシルの隣に立つフレデリックは、いない者のように話が進んでいる。
こうして、お茶の後、晩餐会となり、にぎやかなご一行は、4日間、マーペリア辺境伯城へ泊まった。
辺境伯領軍の練習を見学したシリルとニコラは、大興奮だったし、花屋へ挨拶に行ったバレー伯爵夫人と辺境伯夫人は、夕方まで戻ってこないし、市場へ出掛けたフェリシーとヴィオリアとセシルは、大荷物で帰ってきた。もちろん、辺境伯夫人とのお茶会も忘れていない。
こうして、あっという間に時間は過ぎ、5日目の朝、ご一行がトリベール領の屋敷へと向かう。ここから、トリベール領の屋敷までは、馬車で2日半ほどだ。マーペリア辺境伯様ご家族に挨拶した後、
バレー伯爵夫人:「さあ、では、セシルちゃん、行きましょう」
フレデリック:「は?なんで、セシルが行くんだ?」
セシル:「え?フラン、聞いてないの?」
バレー伯爵夫人:「トリベール領のお屋敷の主人は、セシルちゃんなのよ。お屋敷の主人なしで、行けるわけないでしょう?」
フレデリック:「母上、もうすでに、勝手にメイドと料理人を送っているでしょう?それに、セシル、荷物は?まとめていた気配ないけど」
バレー伯爵夫人:「メイドたちは、あちらで困らないためよ。セシルちゃんのお荷物は、王都から持ってきているわ。帰りにはこちらにおいていくから、安心して」
フェリシー:「クスクス、フラン、お義母様には勝てないわ。諦めなさいな」
フレデリック:「義姉さんまで、そんな……」
セシル:「フラン、私なら大丈夫よ。トリベール領の奥さんとして、頑張ってみるわね。お義母様とお義姉様に、その辺も教わらないと!」
セシルは、結婚前には男爵夫人になることに拒否感を持っていたのだが、バレー伯爵夫人やフェリシーとふれ合う間に、頑張ってみようと、前向きになっていた。
カザシュタント:「フラン、セシルさんがやる気なのは、うれしいことじゃないか。心配なら、お前も一緒に行っていいぞ」
カザシュタントが助け船を出す。
フレデリック:「いえ、仕事がありますから。
母上、わかりましたよ。セシルのことよろしくお願いいたします。義姉さんも」
「「まかせなさい。」」
フレデリック:「セシル、気をつけて。無理はするなよ」
セシル:「フランったら、心配しすぎよ。楽しんでくるわね」
セシルも乗せた馬車は、トリベール領へと向かった。
見送った面々が城の中へと戻る。
ヴィオリア:「私も行きたかったなぁ」
カザシュタント:「ヴィーも誘われたんだろ?行ってもよかったんだぞ」
ヴィオリア:「カストが軍団長になったばかりなのよ。その妻がいなくなれるわけないじゃなーい」
カザシュタント:「ハハハ、そうか。頼りにしてます、奥様」
ヴィオリア:「もう、からかわないでよ。私もカストをとっても頼りにしてるわ」
執務室へと歩く二人のイチャイチャを、後ろを歩くダニエルとフレデリックは、見ていた。ダニエルは、フレデリックの肩を『ポンポン』と二度叩いて慰めた。さすがに今日のダニエルは優しい。
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