1 仕立て屋さん
〜ヴィオリアの嘆き〜
遡ること3ヶ月前、フランさんのお嫁さんのセシルさんが、城内で暮らしてくれるようになったのよ。うれしかったわ。それ以来、模様替えをしたり、お料理をしたり、とにかく、女の子として毎日とっても楽しかった。
私は秋にマーペリア辺境伯城で、結婚報告会があることはわかっていたし、フランさんとセシルさんが王都で結婚式には、私もカストも出席したから、わかっていたの。だからね、
「そうだ!セシルさんたちと私たちの合同お披露目にしましょう!」
と提案すると、セシルさん以外全員が賛成してくれたので、そうすることになったの。楽しみだわ。
「セシルさん、お揃いのドレスを作りましょう!」
私は、張り切って、いつもお世話になっている城下町の仕立て屋さんへとセシルさんと、一緒に行ったわ。
その仕立て屋さんのマダムは、昔、私がまだ7歳くらいの頃には、マーペリア辺境伯領軍に所属してたのだけれど、ある時、「夢は捨てられないのっ!」と、言って軍を退役して、城下町にお店を開いた、『ピー』をお持ちのおねぇさまです。おにぃさまというと蹴られるのよ。元軍人の蹴りはとても痛いの。
エミール:「あら!ヴィオ、いらっしゃぁ〜い」
ヴィオリア:「エミールおねぇさま、なかなか来れなくてごめんなさい。ただいま」
エミール:「おかえりぃ!いいのよいいのよ。新人研修の季節だもの。お城は忙しくて当たり前よぉ」
さすが!勝手知ったるおねぇさま。
ヴィオリア:「エミールおねぇさま、こちらセシルさん、私の旦那様の側近の方の奥様よ」
エミール:「まあまあまあ!噂のセシルちゃんに来てもらえたなんて、嬉しいわぁ!!ヴィオもたまには、いい仕事するじゃなーい!」
ヴィオリア:「たまにですか……ははは」
セシル:「わ、私、噂になってるんですか?私、何かしちゃました?」
セシルが真っ青になって震えてしまった。
ヴィオリア:「エミールおねぇさま、セシルさんを虐めないで」
エミール:「まあ!虐めてなんていないわよぉ。この町では、セシルちゃんはアイドルだったんだからぁ。
町の男たち、みーんなを袖にして、王子様と上手くいったと思っていたら、振りまくっていた、セシルちゃんでしょう?もう、小悪魔ちゃん!」
セシルさんの腕を、右手の人差し指で『ツン』とした。左手は、軽く握って自分の頬に当てている。うん、私の目を細めて見れば、エミールおねぇさまは可愛いかもしれない。デカイけど。
セシル:「な、なんでそんな噂になってるんですかっ!?」
ヴィオリア:「王子様って、フランさんだよね?うーん、確かにこの辺りだと、そう見えるかも。私は本物の王子の実体知ってるから、『王子様みたい』は、誉め言葉とは思えないや。ハハハ」
エミール:「もう!ハタチ前のくせに夢のないこと言っちゃってぇ!」『バッシーン!』
痛いです。エミールおねぇさまは、私の腕は、叩くのですね。私も指で『ツン』がよかったな。
私は腕をさすりながら、説明した。
ヴィオリア:「エミールおねぇさま、王太子が10歳なのは、ご存知ですか?」
エミール:「知ってるわよぉ。この春に任命されたんでしょう。確か、第2王子だったわね。
あら?そういえば、第1王子は、どうしたの?」
ヴィオリア:「不貞行為による婚約者への裏切りと他数々のおバカをやらかして、謹慎してます」
エミール:「まあ、それは、大変ねぇ」
ヴィオリア:「ね、『王子様みたい』は褒め言葉じゃないでしょう」
エミール:「なるほどねぇ。そういえば、ヴィオは、その王子様と同級生だものねぇ」
同級生以上のことを知ってますけどねぇ。
エミール:「まあ、いいわ。それで、今日はどうしたの?」
ヴィオリア:「そうだった。エミールおねぇさま、私、結婚したの」
エミール:「そうなんですってねぇ!あのバカ息子を振れたのは、大正解よっ!」
ヴィオリア:「え?ウズライザー様を知ってるの?」
エミール:「もちろん、知ってるわよ!この城下町では、ある意味有名人ね。15、6のガキが遊びに来て、『俺は将来ここの主だっ!』って威張っていたわ。女の子のいるお店にも一人で行ってたわよ」
ヴィオリア:「うわぁ、知りたくなかったかも。あ、ウズライザー様と、第1王子は友達です。同類です。ダメダメです」
エミール:「やぁだぁ!もしかして、ヴィオも浮気された口ぃ??」
セシル:「え?ヴィオさん、そうなんですか?」
ヴィオリアは、セシルはフレデリックから聞いているだろうと思っていた。
ヴィオリア:「ぐっ!そ、そうですよ。だから、捨ててきてやりました」
『バッシーン!』
エミール:「やるじゃなーい!でも、私ならチョン切るまでやるけどねぇ。ホホホホ」
い、痛い。それにしてもチョン切るなんて、エミールおねぇさまなら本当にやりそうだわ。
エミール:「あらっ!逆に今の旦那様は、すごいじゃなーい!こんなに城下町で擦れた噂が出てこないなんてっ!愛されてるのねぇ!」『バッシーン、バッシーン』
本当に痛いから。でも、余所から見て『愛されてる』なんて、嬉しいな。えへへ
エミール:「セシルちゃんも、安心して、フラン坊やの悪い噂もないわ。ウフッ」
セシル:「!!フラン坊や?」
エミール:「そうよぉ。貴女に振られまくった2週間を知らないのは、モグリよぉ。薔薇の花束を宿屋の女将に贈りまくったって、オホホホホ」
セシルさんの顔が真っ赤です。可愛いな。
ヴィオリア:「セシルさん、そんなに振ったの?」
セシル:「だって、貴族になるって言われたから」
ヴィオリアは、納得した。そういえば、王都でも、セシルは戸惑っていたように見えた。
ヴィオリア:「そんなことより、エミールおねぇさま、ドレスの注文です。セシルさんたちもマーペリア領でお披露目をしていないので、一緒にしたいと思っているの」
エミール:「まあまあまあ!それはいいわねぇ!結婚披露宴をやるのは、聞いてるわ。そのドレスでいいのね?」
ヴィオリア:「はい、そうです」
エミール:「デザインは決まっているの?」
ヴィオリア:「まだ、何も。でも、どうせなら、セシルさんとお揃いのドレスにしたいんですよ」
エミール:「え??なんて??」
ヴィオリア:「うん??お、そ、ろ、い、ですよ」
エミール:「んもぉ!おばかなこと、言わないでちょうだいっ!お揃いなんて、似合うわけないじゃなーい」
ヴィオリア:「ひどいよっ!どうしてそんなこと言うんですぅっ?!」
エミール:「こ・こ・がっ!ち・が・う・か・ら・よっ!」
エミールおねぇさまは、私の胸の辺りを、ふっとい人差し指で『ツンツンツンツンツンツン』しながら、言ったの。私は、最初の『ツンツン』から後ろに下がっているのに、追いかけてきて、『ツンツンツンツン』していくのよ。私には『ツンツン』も痛いのね。そんなに強調されたくなかったわ。悲しい。
エミール:「まあ、でも、やりたいことは、わかったわ。私に任せておきなさいっ!じゃあ、二人の採寸をしましょうねぇ」
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2ヶ月後、エミールおねぇさまから、連絡をもらい、エミールおねぇさまの仕立て屋さんへと、セシルさんと行ったのね。仮合わせなんですって。
エミール:「ぎゃあ!!!あんたっ!たった2ヶ月で、どれだけ太ってるのよっ!」
私にドレスを着せようとしたエミールおねぇさまが、怒っています。
ヴィオリア:「えーー?そうかなぁ?セシルさんと同じ生活しかしてないよ?」
エミール:「あんたは、今まで、軍の男どもにまみれた野生児でしょうがっ!そんな女が、花屋の可愛いお姉さんと同じ生活したら、こうなるわよっ!」
エミールおねぇさまは、私のお腹の少しのお肉を『ギュッ』と摘まむ。もう、泣いちゃうよっ!ほんとのほんとに痛いからっ!
エミール:「私は、ドレスを直すつもりはないからねっ!あんたがダイエットしなさいよねっ!」
セシルさんは、一発オッケーだった。解せない。
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