6 ツワモノ
会議室には、カザシュタントとベルトソードとモリアスが残った。
「ベル、帰還をさせるのは、大変な決断だったな。だが、底上げには必要な決断だったはずだ」
「ありがとう、カザン。モリー、お前を戻すのはキツいが、王都へ生の声は必要だ。すまんな」
「ベルさん、俺は、しばらくこちらには来ません。だから、連携などいい練習方法は逐一『メールボックス』してくださいね」
「ああ、任せてくれ。
カザン、モリーが王都へ戻ったら、代わりの側近と、モリーが認めた者を数名こちらに来させる。また、よろしく頼む」
「ああ、了解した。だが、今回のように、新人と一緒の研修は無理だな。来年からは、新人研修の前にやった方がよさそうだな。魔法士の研修は、春にするか?」
「っ!受け入れを即決していいのか?」
「魔法士と連携できれば、俺たちが助かることには、変わりないんだ。もちろん、魔法士研修は、続けるさ」
「ありがとう。
モリー、春だ!次の春にはがっかりさせないくらい、みんなを鍛えてくれ」
「ベルさん、任せてください!」
そして、三人はみんなと合流し、朝まで飲みあかした。
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寄宿舎で宴会が続いている中、使用人館の前に、二人の影があった。月明かりの下で、話をしている。
「一度、王都に戻ることにしたよ」
バンジャであった。
「そう」
ヘレンの返事には気持ちが見えない。
「でも、来年の春には戻ってくるから」
「それは、何のため?私に言う必要はあるの?」
「確かにな、君にとっては関係ないのかもしれない。だけど、俺には戻ってきたい理由があるんだ。だから、それまで…」
「それまで、何?」
「あの、俺のワガママだってわかっているし、まだ、あんたにいい返事をもらえてないのもわかっているんだ。でも、でも、必ず戻ってくるから、その、あの、待っていてほしいんだ」
バンジャは下を向いてしまった。いつもの自信たっぷりぶりは、成りを潜めてしまっている。
「そう」
沈黙が、バンジャの自信を尚更削っていく。
「私、ここから離れるつもりはないの。ヴィオリア様のお子様のお世話も私がしたいのよ。だから、戻ってくるなら、そのつもりでないと受け入れられないわ。そのつもりがないなら、戻ってこないでちょうだい」
そう言って、ヘレンは玄関の方に歩き出した。
「わ、わかった!来年の春、戻ってきたら、俺、辺境伯軍に移籍するからっ!」
バンジャは、いろんな覚悟を決めた夜であった。
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モリアスたちが王都へと戻って3週間、護衛を勤めた軍人たちとともに、魔法士が6名ほど派遣された。第二練習で、中級魔法を的に当てられる者だけが選ばれたということだ。モリアスの代わりの側近は、アドルフ・サンドスト、モリアスの一つ下23歳。モリアスの弟だ。
このアドルフがなかなかの強者だった。アドルフは、マーペリア辺境伯城へ到着して初日、寄宿舎の前でヴィオリアとすれ違った。その時、
「美しい人、貴女のお名前をお聞かせ願いたい」
と、跪き、初対面でヴィオリアの右手に口づけをした。その場で軍人たちに、袋叩きにあい、ベルトソードにカザシュタントの前へ引っ捕らえられ、土下座させられ、モリアスが許されていた城の部屋ではなく、寄宿舎生活にさせられることとなった。
軍服を着ていた女性が、まさか辺境伯のお嬢様だと思わなかったと、アドルフは言っていた。が、そんな理由を聞いてくれる者たちではなかった。しばらくの間、誰よりもキツい鍛錬をさせられていたが、誰も庇う者はいなかった。
2ヶ月目の魔獣討伐訓練は、新人研修も魔法士研修もうまくいき、次回から、元騎士団中堅層軍人と魔法士とで、連携について練習していくこととなった。
さすがに魔法師団。体力がつき、必要な魔法が何であるかをわかれば、対応できるだけの底力は、あるのだ。
3ヶ月目終了時、魔獣討伐訓練が終わると、新人たちに改めて、辺境伯へ残るか王都へ戻るかの選択ができる。あくまでも、強制でもお願いでもない、本人の希望が認められる。ちなみに、魔法士は、国から派遣されているので、本人たちに選ぶ権利はない。
12人が王都へ帰還を望んだ。それでも、40人を越える新人と、20人の中堅層が、新たに辺境伯軍へと正式採用となった。
2週間後は、カザシュタントとヴィオリアの結婚お披露目、3週間後には、カザシュタントの就任式だ。
マーペリア辺境伯領軍は、今日も騒がしい。
~マーペリア辺境伯領軍奮闘記 第3章 fin~
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