5 魔獣討伐訓練
そして、毎年恒例の魔獣討伐訓練の日となった。新人たちは、人数の関係で4組に分かれ、1日1組、4日に渡り、遠征に行く。といっても、森の浅層だが。
魔法士たちは、まだ無理だということで、完全見学で参加することとなった。2組に分かれて、1日置きに参加する。ベルトソードとモリアスは、毎日参加する。
森へ入ってすぐ、狼系統の魔獣が現れた。数人の新人と数人の魔法士がそれだけで尻餅をついた。予想内。
お昼までに、3回戦闘が行われた。昼食を森の開けた場所で、自分で持ってきたサンドイッチを食べる。午前中の戦闘を思い出して、食事もできないものもいる。実践であれば、
「食うのも仕事だっ!」
と怒るところだが、それも見越して連れてきているので、何も言わない。
ヴィオリアなんぞは、本当に楽しそうにカザシュタントやダニエルと話をして、美味しいそうにサンドイッチを頬張っている。胆の据わり方にも年季が入っているというものだ。
さて、再出発となったとき、ベルトソードが「これ以上進むと、帰ってこれない者が出る。」と進言するので、魔法士たちと戦闘意志のない者は、ここから引き返すこととなった。実は始めからその予定で付き添う軍人を増やしていたし、魔法士も体力のない者から半分選んでいた。フレデリックを中心に、そこから引き返すこととなった。魔法士たちは、魔獣討伐を最後まで行う体力のないことを改めて自覚させられたのだ。
魔獣討伐組は、そこからは順調であったことも皮肉である。
次の日も、体力的に続行できなそうな魔法士5人と戦えなくなった2人の新人が、ダニエルとともに昼過ぎに戻っていった。
3日目の朝、魔法士たちは本来、1日目の者たちを連れていく予定であったが、無理だと判断され、昨日の魔法士の中から希望者は3人だった。
モリアスは、堪らずに訴えた。
「残る者たち、いいか、ここでお名前を出すことも本来失礼なのだが、ご本人がよいと言ってくれたので、言おう。
女性であるヴィオリア様は、今日の3日目も大変お元気でいらっしゃるぞ」
みんながチラリとヴィオリアを見る。ヴィオリアは、にっこりと笑った。
「我らは国民のあの笑顔を守るための魔法師団なはずだ。今ならまだ間に合う。信頼される魔法師団を取り戻そう」
モリアスは、最後には涙声だった。
「今日、ここに残る者たち、お前たちの今日明日の行動については、各自自由とする。城下町内であれば、外に出てもかまわん。
明日の夜、寄宿舎で夕食をとり、その後、話がある。それまでは、自由だ。解散」
「では、こちらも出発しよう」
3日目、4日目は、数名の軍人とベルトソード、モリアス、ダニエル、魔法士3人は別行動で森へ行った。軍人だけでも狩れる場所であったが、敢えて魔法士との連携討伐にして、問題点などを洗ってきたのだ。
カザシュタントたち新人組は、3日目、4日目は、例年通りであった。
4日目の夜、新人の中から、45名が王都への帰還を決めた。そしてまた、帰還を決めた若者たちが自信をなくなさいよう宴会が始まる。
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その3つ隣の会議室では、魔法士たちの話し合いが始まっていた。
魔法士たちの会議に、カザシュタントとダニエルも参加している。ダニエルは、偶然魔法士たちと多く関わるような立場となってきたので、カザシュタントもダニエルをこの会議から外すつもりはなかった。
新人たちは、辺境伯とフレデリックと軍隊長たちに任せておけばいい。
会議室の机は、円卓に組まれていた。これは、ベルトソードからの希望でだ。モリアス、ベルトソード、カザシュタントは並んで座っている。
「今日まで、慣れない環境、慣れない練習で大変だったと思う。それでも1ヶ月、ついてきてくれたことに、感謝している」
ベルトソードは、謝辞から入った。魔法士たちは、怒られるとばかり思っていたので、面食らっている。
ベルトソードは、そのまま続ける。
「まずは、この1ヶ月の感想を聞きたい」
手を挙げた者をモリアスが指名する。初日に、練習の見本にされたバンジャだった。彼は、大変負けず嫌いで、あれ以来何でも率先して加わり、今日の魔獣討伐訓練の3人のうちの1人であった。
「私は、まさに鼻を折られました。それは、魔法についてではなく、考え方についてです。1ヶ月前の私に、どうやって国民を守るのか問いたい。何もできないではないかと言ってやりたい」
1人が口に出すと、みんなが自分でたちの情けなさを口にした。
「僕は今日も魔獣討伐へ行ってきた。軍人たちと、魔獣を討伐してきたよ」
魔獣討伐組のジルだ。ジルは、王都にいるときから、みんなに一目置かれる実力者だ。居残り者たちは、討伐までしていたのは知らなかったらしく、顔を見合わせて驚いている。
ジルが続ける。
「あんなにあんなに練習した上級魔法は、何の役にもたたなかった。王都て見せびらかしていた上級魔法なんかより、初級魔法を即詠唱、無詠唱できた方が役にたつなんて」
泣きながら訴える。
「僕はもっともっと速詠唱を練習する。上級魔法なんかいらない。魔獣の目を狙えるアイスランスの方が数十倍役にたつんだっ!」
実力者ジルの訴えは切実だった。魔獣討伐には見学しかできなかった者でも想像できる訴えだった。
この後も、ああすれば、こうすればと改善点が沢山でてきた。
「みんな、ありがとう。それがここにいるみんなの意志だというだけで、俺は嬉しい。俺たちは、今、変わる時なんだ」
「「「おー!」」」
「「「そうだ、変わっていこう!」」」
「「「やってやろう!」」」
後ろ向きな言葉を出すものなど、誰もいなかった。
「たが、俺たちだけが、この気持ちであっても、魔法師団は、変わらない。魔法師団みんながこの気持ちでなければならない」
みんなが頷く。
「だからこそ、今回、明後日の王都への便で、10名の者に、帰還してもらうことにした」
「「「っ!」」」
みんな動揺が伝わる。
モリアスが口を開いた。
「決して、魔法師団を解雇なわけではない。逆に期待している。
俺が帰還組の責任者だ」
「「「えっ!!??」」」
「俺も帰還する」
バンジャが声を出した。ベルトソードとモリアスは、今回の帰還について、魔獣討伐訓練に参加した三人、バンジャ、フィルマン、ジルには、昼飯時に、この事を相談していた。夕食前に、バンジャから帰還組へ入ると言ってくれた。
実は、バンジャの二人の弟が、今回の派遣における魔法士の追加採用で採用されたのだ。何度か本採用に落ちていた弟たちだった。バンジャは、今回の教訓を誰よりも、まだまっさらな弟たちに叩き込みたかった。
「ベルさんは、俺を次の派遣組には入れてくれると約束してくれた。来年、俺はここに戻ってくる」
バンジャは、強い意志をみんなに示した。
「まだ、マーペリア辺境伯とは、日程の調整中だが、必ず次回の派遣もある。王都に戻ったからといって、気を抜くわけじゃないんだ。王都で、みんなの士気を高めてほしい。その上で、王都へ帰還する者を決めたい。まずは、希望するものはいるか?」
8名が挙手した。いずれも、第二練習で、中級魔法を、的に当てられない者たちだった。
「バンジャを、入れて9人か。これで決まりにする。王都のことは、お前たちに任せる」
「「「はいっ!」」」
「よし!みんながまた戻ってこられるように、今夜は飲もう!あちらに合流してくれ」
カザシュタントの号令で、ダニエルがみんなを連れて行った。
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