3 昼の作戦会議
カザシュタントは、城の執務室で、膨大な資料を端から読んでいき、気になるところやわからないところを抜き出していく。そうこうしているうちに、ヴィオリアがやってきた。
「カスト、お昼ご飯にいきましょう」
「ヴィー、お疲れ様、湯浴みはいいのか?」
「ええ、午後からも鍛練に行くつもりなの。着替えだけしてきたわ」
「そうか、初日から無理はするなよ」
「カストこそ、籠りきりで、体を鈍らせないでよね」
「ははは、確かに言えてるな。気を付けよう」
二人が食堂に着くと、すでにダニエルとベルトソードとモリアスは食事を始めていた。ここでは、お互いに待ったりはしないことになっている。
「お先にやってまーす」
いつもの気軽な感じで、ダニエルが言う。だが、隣のモリアスが、慌てて口を拭き立ち上がった。
「モリアス、気にするな。ここでは、自分のタイミングで、それぞれが食べることになっている。仕事であれ、有事であれ、時間があるときに食べることを当たり前にするためだ」
「モリー、昨日、カザンがそう言ってたろ。有事の際は、みなで飯なんて、食べれないんだぞ。まあ、俺もそんなこと考えていなかったけどな」
「はい」
モリアスは、座って食事の続きを始めた。
ヴィオリアとカザシュタントは、三人の反対側に並んで座った。すぐに食事が運ばれる。昼食は、1枚のプレートにすべてが乗せられてくる。これも、有事の際にさっと食べてさっと片付けするためだ。
メイドたちは、それぞれを理解しているので、プレートに乗っている量が、ヴィオリアとカザシュタントでは、全く違う。
「みなさまの量はまだ把握しておりませんので、遠慮なくおかわりをなさってくださいね」
カザシュタント用の山盛りプレートを持ってきたメイド長が、ベルトソードとモリアスに声をかけた。
「「ありがとうございます」」
「カスト、相変わらず、すごいのね。本当に太ったりしないでよぉ」
「若奥様、それも管理いたしますから大丈夫でございますよ」
「きゃー、メイド長!若奥様はやめてぇ。今まで通り、ヴィオでいいわ」
「畏まりました、ヴィオ様。今日はお暑いので、ヴィオ様には、フルーツを多めにいたしました。お外では、お帽子をおかぶりくださいませね」
「はーい。鍛練場まではかぶるようにするわ」
「ヴィオ!ずいぶん素直なんだな」
「ダニーさんは、メイド長に逆らえるの?」
「無理に決まってるだろっ!」
食堂中に、笑いが木霊した。ベルトソードとモリアスがおかわりを頼んだ。
「ベル、魔法士たちの反応はどうだった?」
空気が緩んだところで、カザシュタントが穏やかに聞く。
「なかなかすごい批判だったよ。ははは」
なげやりな笑いだ。
「ダニーさんがいてくれて、あれですからね。自覚の無さには呆れました」
モリアスも、残念そうだ。
「そうか、午後からは俺もいこう。ヴィーも付き合ってくれ」
カザシュタントには、作戦があるようだ。
〰️
鍛練場には、丸太が立てられ、それから2メートルほど離れた隣には、頭から膝まで隠れる盾を、持ったダニエルがいた。ダニエルから5メートルほど離れて、床に1メートルほどの円が書かれている。そこには、モリアスが、立っていた。
「やり方を説明する。まず、君たちは、丸太に向かって、中級魔法、アイスランスまたはウィンドウカッターあたりかな、それを丸太に当てる。当たったのを合図に隣にいる者が、君たちに向かって走りだす。その盾に向かって、初級魔法を弱く当ててくれ」
カザシュタントの説明に、初級魔法なら、詠唱も簡単だし、出来そうだと誰もが思った。
「まずは、手本だ。モリー、始めてくれ」
モリアスが丸太にアイスランスを当てると、盾を持ったダニエルが走り出す。ダニエルがモリアスの1メートル手前ほどで、ダニエルの盾にアイスボールが当たった。ダニエルは、モリアスの脇を駆け抜ける。初級魔法くらいなら、盾で受け止められる。
「では、次、バンジャ、やってみろ」
ベルトソードが指名したのは、ベルトソードとモリアスを抜けば、実力が5番目ほどの男だ。
ダニエルが先ほどと同じところに立つ。バンジャが、丸太にアイスランスを当てる。ダニエルが走り出す。バンジャは詠唱するが魔法を繰り出す前に盾を持つダニエルに吹き飛ばされた。魔法士たちは、唖然とする。
「つまり、今のは、仕留め損ねた魔獣が向かってくると、初級魔法も当てられないまま、襲われるということだな」
カザシュタントは何でもないことのように説明する。魔法士たちは、少し青ざめてる。
「次、コンスタン、入れ」
ベルトソードが指示したのは、下から5番目ほどの実力者だ。顔は真っ青だ。たが、丸太の隣に立っている人物を見て、「ほっ」とため息をついた。
「ヴィオリア、盾は、顔の前だぞ」
カザシュタントが心配気に声をかける。
「了解っ!」
丸太の衝撃とともに、ヴィオリアが走り出す。盾に衝撃を感じないまま、コンスタンに突っ込んだ。コンスタンは、バンジャより遠くに吹き飛ばされた。ヴィオリアは、ダニエルほど余裕がないので、全力でぶつかってしまったのだ。
「きゃあ!大丈夫?」
「女性に体当たりされた程度では、怪我もしませんよ」
ベルトソードはそう言うが、コンスタンは顔面蒼白だ。もう上半身は起き上がっているので、怪我はないのだろう。心以外は。
ヴィオリアに何かあっては困ると、一応、念のために、モリアスが隣で防御壁をギリギリ詠唱していた。出番はなかったが。
この人選は、昼の作戦会議でのカザシュタントからの指示だ。下から5番目ほどの詠唱なら、間に合わないだろうと予想だが、中堅どころでも、よかったかもしれない。魔法士たちの顔色がそう言っている。
「やり方は、わかったな?丸太がダメになったら、どんどん交換してくれ。2手に分かれて1人2回やってみてくれ」
ベルトソードの指示で分かれ、ベルトソードとモリアスが指導役にまわる。盾役に、軍人二人が立っていた。
1回目は、誰も盾に当てられなかった。2回目を当てられたのも、5人だけだった。今まで、自分に襲ってくることを想定した練習はしてこなかったのだ。
「んー、今日は、次の行程に進むわけには、いかなそうだな」
カザシュタントは、ベルトソードを見る。
「そうだな。今日はこのまま、この練習をしよう。モリアスの方には、成功させた者が行け。軍人殿も、お二人ともあちらでお付き合いお願いします。ダニーもそちらでたのめるかな?」
「了解です」
「こちらは、走り役も自分たちでやれ。自分たちなら、足が遅いから当てられるかもしれないぞ。成功したら、モリアスの方に行ってよし。的をもう一組使おう」
つまり、盾役を長くやりたくないなら、当てろということだ。
午後一杯、この練習に明け暮れたが、モリアスチームに行けたのは、30人中10人。その10人も、スピードを上げた軍人に、何度も吹き飛ばされていた。
魔法士たちの限界で、夕方をまたずに、練習は終わってしまった。そして、自分たちは、この人数で走ったのに、ヨレヨレだ。それに比べ、たった3人交代で走っていた軍人たちとダニエルは、平気な様子なのだ。体力の差にも唖然とした。
「三人ともありがとう、お疲れ様」
ダニエルが労う。
「森の奥まで遠征したときより、楽々だよ。普段の鍛練、これで抜けられるならまた呼んでくれよ。ハハハ!」
「バカっ!軍隊長に聞かれたら、走り込み倍にされるぞっ。ブハハ」
軍人たちの軽口に、さらに辟易とする。
魔法士たちは、体を引きずるように寄宿舎へと帰った。
今夜もまた、今日の練習内容と魔法士たちの現状を書き、ベルトソードはため息をつきながら、ジャンバディに、『メールボックス』送信をする。
魔法士軍団は、翌日も同じメニューであったが、昨日よりボロボロであったにも関わらず、目は昨日より真剣だった。
さらに、その翌日、騎士団中堅層たちが練習に参加できることになっていたが、ベルトソードの指示で、このままの練習を続けることになった。文句を言う魔法士は一人もいなかった。
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