1 マーペリア辺境伯領
マーペリア辺境伯領地は、ガーリウム王国の南に位置し、東西に長い領地で、南側は、8割が防衛壁で西の一部がタニャード王国と隣接している。
防衛壁の南には、深い深い森が広がり、魔獣たちも生存している。その森のさらに向こうは、タニャード王国であるが、この森はどちらのものでもないという認識が両国にある。それほど深く、人が簡単に手にするべき森ではない。
マーペリア辺境伯城は、その森を背に雄壮と建っている。その森を遮るように、城から東へ80キロ防衛壁と等間隔に3つの砦、西へ20キロ防衛壁と最西手前5キロほどに砦、これが国民を守っている。それとは別に、国境壁が西へ40キロ続いており、南西の国タニャード王国との国境を警備している警備砦が1つある。
砦は、森への出入口にもなっている。森には、魔獣が多くいるため、防衛壁を建てているが、森からの恩恵は、獲物であれ薬草であれ果実であれ、少ないものではない。門番に断りを入れれば、森へは行ける。ただし、自己責任で、であるが。
そういう理由もあり、城下町から、東へ2つめの砦町は、大きな冒険者ギルドがあり、それにともない、なかなか大きな町となっている。他の砦町も、ギルドはないものの、村とは呼べない程度には発展している。でも、町に壁が作られているのは、城下町だけなので、有事の際には城下町へと逃げることになっている。
辺境伯城の隣には、砦が併設されている。城壁に囲まれた敷地は、東西に長く、敷地内には、城の西に軍の寄宿舎や使用人館、東に鍛練場や厩舎などがあり、馬番や料理人、掃除夫まで、軍人でない者も多く働いている。仕事に関わらず、みんなで守っているという意識の高い。
ある新人が、若い馬番と寄宿舎前で揉めていた。新人が馬番を足蹴にして、謝らせていたのだ。内容がどうであれ、足蹴にしてまでの問題など起こるはずもない。別々にいたはずの三人の軍人が駆けつけ、『誰のおかげで馬に乗れると思ってるんだっ!』と、有無を言わさず新人を蹴り飛ばした。これは、馬番に限らず、掃除夫やら給仕夫やらに、毎年新人がやらかすことで、その度に軍人たちが何をおいても庇うので、この城では、どんな仕事の者でも、誇りと感謝を持って勤しんでいる。
閑話休題
この敷地内の城から程近いところに、現在2棟の2階建の建物が建設中である。ダニエルとフレデリックの待遇の良さと期待の大きさがわかる。
城壁は、長方形の前に半円状になっており、その北側に城下町が広がる。城下町を囲むように、防衛壁がそびえ立つ。
城下町の大通りは、城壁の正門から真っ直ぐ北に100メートル程伸びた道が、そこから東西に伸びる。
東西に伸びた道は、防衛壁より20メートルほど手前で今度は南北に蛇行しながら伸び、南側には城壁の門、北側は防衛壁より40メートルほど手前で、曲がりまた東西に伸びる。その中央辺りで今度は南の防衛壁正門へと伸びている。
上から見ると、蛇行はしているが防衛壁に沿って四角く見えるかたちだ。このような形をしているのは、大昔の戦争の名残であろう。大昔は、鉄壁の城塞であった。
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そんなマーペリア辺境伯軍に、今年も新人研修の季節がやってきた。
今年はいろいろ重なるため、先発隊と後発隊に分けることなった。
後発隊は、カザシュタントたちの引っ越し荷物とたくさんのお土産と、メイドたちとセシル、辺境伯夫人、魔法師団所属の文官。後発隊の防衛にまわることとなったは騎士団の20歳から23歳の中堅層の20名ほどの兵士である。彼らは王都騎士団を退職して、辺境伯領軍へと移籍した。先発隊より2日遅れての出発予定で、7日かかる日程である。後発の護衛責任者は、フレデリックが務める。
カザシュタントとヴィオリアの結婚式を終え、1週間目の朝、先発隊が辺境伯領へ向けて出発した。5日の日程の予定だ。先発隊は、新人と魔法士たちだ。
今年の新人研修は、カザシュタントの魅力か、はたまた、ヴィオリアの人気か、どちらなのかはわからないが、新人と見習いで100名を越えた。
更には、魔法師団の長期派遣という国家案件の試験的実践も任されているので、魔法士も30名ほど来ている。
ヴィオリアはというと、本人たっての希望で、先発隊となった。ヘレンもそれに合わせて、先発隊に加わる。なんと二人とも、馬車でなく、馬での移動であった。
その間、馬上にずっといることにも、夜営で宿に泊まれないことにも文句一つ言わず、みんなに笑顔で対応し、積極的に手伝う姿に『戦乙女』の名は、ますます上がっていった。そして、密かにヘレンの人気も上がっていった。
それに比べて、思いの外、使い物にならなかったのは、魔法士たちであった。1日目の野営から、手伝いもできないほど動けない者ばかりであった。確認しておくが、彼らは馬車組である。馬上組ではない。
魔法士たちのリーダーベルトソードは、カザシュタントはじめとした兵士たちに恐縮しきりである。側近モリアスは、ぐったりしている者たちに水を配っている。
ベルトソード・サンドエクは、サンドエク伯爵家の長男でオーリオダムの兄である。魔法師団団長ジャンバディの後継者と言われている実力者の男である。24歳。側近モリアス・サンドストも24歳だ。
カザシュタントの指示で、野営料理にも関わらず、スープの具を細かくして、魔法士たちにも無理やり食べさせた。そうでもしないと、5日間などもたないのだ。
2日目の夜、どう見ても弱っている者には、宿をとってやることになった。魔法士たちが20人ほどだった。ヴィオリアとヘレンも宿で泊まるようにとカザシュタントは進言したが、二人は大丈夫だと言い、1日目と同じように、馬車の中で寝た。
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カザシュタント:「予想以上でしたね」
マーペリア辺境伯:「育て甲斐がありそうだな」
ダニエル:「あちらに着いたら、辺境伯様も協力してくださいよ」
マーペリア辺境伯:「そうだな。ワシより体力のないことをわからせてやろう。ワハッハ」
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結局、宿を使ったり、夜営地などの都合で6日目の昼前の到着となった。
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