第3話 始まりの予感
恋人ができた――
卒業式の日、幼馴染の結城舞華に告白されて恋人になった。
しかし、未だに信じられない。舞ちゃんは他人を騙すような娘ではないのは確かだ。しかし本当に俺のことが好きなか?
俺の知る限り彼女には親しい男子はいない。一番親しいのが俺なのは間違いない、しかしそれは幼馴染だからだ。幼馴染としての好感情を恋愛感情だと勘違いしているとかなら有りそうだ。
もしくは、小さな子どもが「パパと結婚する」って言ってるくらいの感情かもしれない。
そこに俺と純香が卒業することによって一人取り残される寂しさを感じて、あの行動に出たと考えると辻褄があうんじゃないか?
それならば彼女の“好き”とう言う感情は勘違いではなかろうか? きっとそのうち本当に好きな相手を見付けて俺から離れていく――
というようなことを澄華に話してみたところ『バカなこと考えてないで、プロポーズのセリフでも考えてなさい』などと言われて電話を切られてしまった。結構いい線いっていると思うんだけどな。
そんな取り留めが無いことを考えていると、学校を終えた舞ちゃんが制服のままウチにやってきた。
「ただいまです。悠くん」
「いらっしゃい。家には帰ってないの?」
直接ウチに来たらしく、鞄を肩に下げたままだった。
「早く会いたかったから、直接来ちゃいました」
そう言って、えへへと笑う。うん、やっぱり可愛い。
「喉乾いているでしょ? 飲み物でも出すから、部屋に行っといて」
「は~い」
スカートを揺らしながら、慣れた様子でトントンと階段を上がっていく。
ジュースとコップを持って部屋に入ると、舞ちゃんは窓際に女の子座りでちょこんと座っている。折りたたみのテーブルを広げコップを置いてから座りジュースを注ぐ。
「はい、遠慮せず飲んで」
「ありがとう」
彼女はストローに口をつけて飲み始める。その様子を見ながら考える。
恋人ってなに話すの? 甘い話ってなに? どうすればいいんだ?
「悠くん」
心の中で混乱していると少し緊張気味の声が聞こえてきた。
「えぇっと、なに」
「えと……その……告白受けてくれて、ありがとうございます。断わられたらどうしようってずっと考えていて」
「お礼言われることじゃないし。好きになってくれてありがとう。うれしいよ、うん」
「でも、悠くん私のこと恋愛的な意味で好きじゃないことはわかってたから……不安だったんだ」
少し俯きながら言う。そのとおりなので、今も不安にさせているんだろう。少しでも安心させてあげたいな。
「でも、好きにさせてくれるんだろう?」
「うん、頑張るからね」
なにか彼女の喜びそうなことといえば……。
「そうだ、デートに行こうか?」
「あ、行きたい」
そう言って顔をほころばせる。それを見て俺も嬉しくなる。
「土曜は母さんとスマホ買いに行くから……、日曜とか空いてる?」
高校になってやっとスマホデビューである。遅くね?
「空いてるよ。埋まってても空けるし」
「それじゃ決まりだな」
あとは場所だな……どこにするか。
「でも、あのね。あんまりお金ないの。だからお金かかる所とか無理かも」
言われて気づく、俺もそんなにない。今月は二人にホワイトデーのプレゼント買ったし、明日クラスの連中とカラオケに行くので金が消える。中学生の悲しさだ。
――学校始まったらバイトしよう。
「あ~、そういえば俺もあんまりないな。ゴメン近くでもいい?」
「そんなの全然平気だよ、一緒ならどこでも嬉しいし。そうだ、お弁当作るから記念公園でも行く?」
「そうだな。お願いしようか」
初めてのデートが決まった。楽しみになってきた。
「胃袋から掴めっていうし、はりきって美味しいお弁当作るから楽しみにしてて」
「それ本人に言っちゃダメじゃないの?」
「そうなの?」
そう言うと二人して笑いあう。
その後は緊張感も解れてきたので、舞ちゃんの勉強をみたり、ゲームなんかして過ごし、最後に彼女を家まで送っていく。
――いつもと変わらないけど、落ち着くからこれでいいか――
お姉ちゃんは妹の恋心にドン引き済