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熱い腕の中で

長く続く、真っ赤なカーペットの敷かれたバージンロードを、私は義兄になったジュリアンと腕を組んで歩いていた。義父に当たるオルレーヌ家当主、エドワード様は足が悪いこともあり、ジュリアンが私をエスコートしてくれることになったのだ。私が一歩前に進み出る度に、ウェディングドレスの長いレースの裾が揺れる。


あっという間に今日のこの日を迎えたような気がする。アーディンの根回しの速さと手際の良さに、私は舌を巻いていた。まだ、どこかふわふわとしたような気持ちの中、一歩ずつ、神父の前で私を待つ彼の姿が近付いて来る。瞳を細めているタキシード姿のアーディンは、輝くほどに美しくて、昔から知っているアーディンというよりも、あの舞踏会の晩に目にした、遠い存在にしか過ぎないように見えた王子の姿を思い出した。彼が私の夫になるのだということが、まるで夢の中のことのように感じられる。


「ローザ、大丈夫? 緊張してる?」


固くなっている私に気付いたのか、ジュリアンが私の耳元で囁き掛けた。


「うん。少しだけ」

「……もし、ローザが少しでもこの結婚を躊躇っているのなら、このまま二人で逃げてしまおうか?」

「えっ?」


驚いて目を瞠り、ジュリアンの顔を見上げると、ジュリアンは微かに笑った。


「何てね、冗談だよ。……でも、君の手を離してしまうのは惜しいな。このバージンロードが、ずっと続けばいいのに」


少し切なげな色を浮かべたジュリアンは、アーディンの姿がすぐ側まで近付くと、最後に私ににっこりと笑い掛けた。


「幸せになるんだよ、ローザ」


私は大きく頷いて、ジュリアンに笑みを返すと、ジュリアンと組んでいた腕を解き、アーディンの前に進み出た。


まず国王陛下に一礼してから、眩しい笑顔を浮かべるアーディンの隣に立ち、二人で神の前に永遠の愛を誓う。結婚指輪を交換してから、私の唇にアーディンから優しいキスが落とされた。緊張の中でアーディンの瞳を見上げると、彼は驚くほど嬉しそうな輝きをその瞳に浮かべていて、私もほんのりと頬に血が上るのを感じた。


私の腕を取ったアーディンが、私を見つめて微笑んだ。


「これからもずっとよろしくね、ローザ。俺の奥さん」

「こちらこそ」


列席者の一番前の列には、瞳に薄ら涙を浮かべている両親の姿が見えた。お父様とお母様が、私に向かって涙目で笑い掛けた姿を見て、私も目に涙が滲むのを感じながら笑みを返した。私が養父母の家にいる時も仲良くしてくれたエレナは、列席者の間から小さく手を振ってくれて、レイラ様もその美しい顔を綻ばせてこちらを見つめていた。ヤドリナお婆ちゃんとディムも、にこにこと目を細めている。オルレーヌ家の義父、笑顔のエドワード様にも私は深く頭を下げた。エリック様をはじめとするアーディンのお兄様たちも、王子らしいきりりとした威厳を漂わせながら、それぞれに笑みを浮かべて私たちを見守っていてくれた。


弾けるような笑顔のカイル様と、ルシファー様、そしてオリヴァー様に迎えられる。


「さあ、いよいよお二人のお披露目ですね」


カイル様の言葉に、私はぎこちなく頷いた。結婚式は限られた列席者の間で行われたけれど、これから、アーディンと私は国民の前に姿を見せることになる。

次期の王位を継ぐアーディンの結婚式とあって、国内は祝祭ムード一色で、賑やかに沸き立っているようだった。


慣れない私の手を、アーディンが優しく取った。


「俺に任せておけば、大丈夫だから。それに、ランスもついているんだ、心強いだろう?」


眩しい陽射しの差す屋外で私たちを待っていたのは、艶やかな白銀の毛並みをしたランスだった。金色の雄々しい翼と角が、きらきらと陽光を弾いている。私たちを見て小さく嘶いたランスの首筋を、アーディンが目を細めて撫でた。


アーディンと私が彼の背に乗ると、ランスはその翼をふわりと羽ばたかせ、軽々と宙に舞い上がった。王宮の前に集まっていた、着飾った国民たちから、わっと大きな歓声が上がるのが聞こえる。


私たちの姿を披露するように、しばらく抑えた高度で飛んでいたランスは、集まった群衆の頭上を一通り抜けると、アーディンが踵に込めた力に応じるように、翼を羽ばたいて高く空に舞い上がった。


「うわあっ……!」


ぐんと高度が上がり、人々の姿が小さくなっていくのと同時に、私たちの眼下に国全体の様子が広がった。迷いの森をはじめとする、こんもりとした緑鮮やかな森も所々に見える。彩り鮮やかな家々の立ち並ぶ街並みや、光を弾く大きな湖も一目で見渡せた。


「とても綺麗ね。これが、あなたのお父様が治め、あなたも将来治めることになる国なのね……」

「ああ。君と一緒にね、ローザ。また、もう少ししたら皆の前に戻らなければならないが、この風景を君に見せたかったんだ」


美しい国を一望しながら、アーディンが私に片腕を回し、そっと力を込めた。私は彼に身体を預け、明るい陽光を受けて輝くその光景をうっとりと眺めていた。


***


その晩、私はずっしりと重かった贅沢なウェディングドレスを脱ぎ捨て、湯浴みをして夜着に着替えると、ふらふらと部屋の中央にある大きなベッドへと向かった。アーディンとこれから二人で過ごすその部屋は、昨日まで過ごしていた部屋よりもさらに広々としていて大きく、ふかふかとしたベッドもまた然りだった。


「うう、疲れたあ……」


一生に一度の結婚式に対する緊張に加えて、慣れない挨拶続きで疲弊していた私は、ぼふりと大きなベッドに倒れ込んだ。


「おつかれさま、ローザ。今日のローザ、とても堂々としていて立派だったよ」


優しい眼差しで、アーディンが私のことを見下ろしている。


「本当に? 私、ちゃんとアーディンの妻として相応しい振る舞いができているのか、とても心配だったのだけれど」

「ああ。文句の付けようがなかったよ」

「ありがとう。アーディンのエスコートが上手だったお陰ね」


貴賓に対する挨拶も慣れた様子のアーディンは、私へのフォローも完璧で、私は笑顔でいさえすればいいくらいだった。


「……それにしても、アーディンは凄く女性に人気があるわよね。今日だって、たくさんあなたに黄色い声が飛んでいたし、挨拶する先々で、綺麗なご令嬢方があなたに見惚れていたもの」

「俺が見つめられて嬉しいのは、ローザだけだよ。それに、ローザの美貌に息を飲んでいる男性陣を、今日は嫌というほど見たからな。君の姿を、あまり人前に出したくないくらいだったよ」


少し顔を顰めたアーディンを見上げてくすりと笑ってから、もう力を使い果たしてぐったりとしていた私は、うとうとと瞳を閉じかけていた。


アーディンはそんな私に微笑みを浮かべると、ベッドの掛け布団の上にうつ伏せになっていた私を抱き上げ、そっと布団の中に下ろしてくれた。


「ありがとう、アーディン……」


彼が私の隣に滑り込むのを感じて、温かな彼の体温を感じながら微睡み掛けていた私の唇に、突然熱いキスが落とされた。


「んんっ……!?」


驚いて目を開けると、アーディンが両手を私の顔の両側について、熱の籠った瞳で私を見つめていた。その口元には、微かに苦笑が浮かんでいる。


「……できれば、疲れている君を休ませてあげたいところなんだけど。今夜だけは、俺に君の時間をくれない?」


(そうだった、今は、結婚式の晩……)


忘れていた訳ではなかったつもりが、あまりの緊張と疲れから、頭の中からそのことがすっぽりと抜け落ちていた。はっとした私に、アーディンはふっと悪戯っぽく笑うと、頭の先から爪先まで、私の身体中に口付けを落とし始めた。


彼の唇が触れた先が、どこも火照るように熱くて、すっかり目が覚めてしまった私は、まるで美しい肉食獣のように見える目の前のアーディンを眺めた。こんなに、もう彼から逃れられないと感じたのは初めてのことだった。昔はあんなに可愛かった彼が、これほど色気の漂う眩いほどの美青年に成長したなんて、信じられないくらいだ。


「安心して、ローザ。大切にするから」


耳元でそう甘く囁かれた私は、くらくらとするような眩暈を覚えながら、私を捕らえているアーディンの熱い腕の中で小さく頷くと、そっと両の瞳を閉じたのだった。

こういう場面を書き慣れていないのですが……甘々な二人の様子をお伝えできればと思いました。


お付き合いくださり、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本編完結直後に番外編! [一言] んんんんん? ですよね。結構作者様の作品は読んできているつもりですが、ひょえええ??とちょっぴり戸惑いました。 メデタシメデタシとなっても山あり谷ありと物…
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