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輝く瞳を見つめて

本日は二話更新しております。

もし前話をご覧でないようでしたら、前話からご覧くださいませ。

「……アーディン。さすがに、これは気が早過ぎるんじゃないかしら?」

「そんなことはないだろう。俺はもう、十分過ぎるくらいに待ったよ」


王宮の部屋で、今私の周りを取り囲んでいるのは、王家お抱えの仕立て屋だった。目が覚めるほどに真っ白な、輝くばかりの光沢のあるシルクのドレスを身に纏った私を囲む彼女たちは、ドレスのウエストや肩口の微調整のために、小さなピンを次々と留めていっていた。


彼女たちの鮮やかな手つきに感嘆しつつも、私はアーディンに向かって、躊躇いがちに口を開いた。


「あの、アーディン。この前、私の身体の採寸をしてもらったのって、まったくドレスを持っていない私に、ドレスを数着誂えるためだって、そう言っていたわよね? まさか、ウェディングドレスまで併せて準備をしてくれていたなんて、知らなかったわ……!」

「まあ、他にもドレスは揃ったことだし、問題ないんじゃない? それで足りなそうなら、もっと用意するけど……」

「とんでもない! 素敵なドレスをこんなに誂えてくれて、もう十分過ぎるくらいだわ!!」


私の横には、滑らかな艶のある生地で仕立てられた、上品な色合いのドレスが数着、ラックに並んで掛けられていた。今までこんなに贅沢な衣服を持っていなかった私には、目がちかちかしてしまうような美しいドレスばかりだ。


アーディンは、私を見つめて楽しげな笑みを浮かべていた。


「どんなに綺麗なドレスだって、君自身の美しさの前では霞んでしまうけれどね。でも、気に入ってくれたなら嬉しいよ」


横で私たちのやり取りを聞いていたルシファー様が、ぽりぽりと頭を掻いた。


「ああ、また始まったよ、王子の惚気が。聞いているこっちまで顔が赤くなりそうだ……」


ルシファー様の隣で、カイル様が柔らかな笑みを浮かべた。


「ローザ様と再会するまで、アーディン様が長い間、どんなお気持ちでいたかを知っている身としては、とても感慨深いですよ。それに、アーディン様のお言葉の通り、本当にお美しいですよ、ローザ様」

「ああ、それは間違いないな。よく似合ってる」

「どうもありがとうございます、カイル様、ルシファー様」


一通りの作業が終わったのか、仕立て屋の女性たちが手を止めた頃、部屋の扉がノックされた。ゆっくりと開いた扉から入って来た姿を見て、私は思わず声を上げた。


「ジュリアン、それにオリヴァー様も!」

「……とっても綺麗だね、ローザ。眩しいくらいだよ」


にっこりと笑うジュリアンに、私も笑みを返した。アーディンが、彼らを見て少しだけ不服そうに口を尖らせている。


「ローザの花嫁衣装姿は、まだ俺が独占していたかったんだがな」

「ローザは、もう僕の家族でもあるからね。義妹いもうとのローザがウェディングドレスを試着してるって聞いて、急いで飛んで来たんだよ」


私は、あの後オルレーヌ家と養子縁組をして、ジュリアンの義妹になった。私は、お父様とお母様の娘に戻ろうと思っていたのだけれど、両親は双頭の竜の世話をしていた時、ワイアット様とベネディクト様の意図に何らか感付いていたようで、アーディンに求婚されている私を、何かしら後ろ暗いことに巻き込むことだけは避けたいと、私の申し出を固辞したのだった。


寂しい気持ちもあったし、アーディンだって気にしないと言ってくれたのだけれど、私の幸せを願って、オルレーヌ家の養子となった方がアーディンとの結婚が円滑に進むと私を説得し、そして「何があっても、ローザが私たちの娘であることは変わらないから」と言ってくれた両親の言葉に、私は最終的に頷いた。それに、ジュリアンが義兄になることを、幼い時分から彼を知っている両親も喜んでいた。両親はこのまま王宮に留まって、あの小屋の動物たちの世話をすることになり、これからいつでも会えるということも、私にとっては嬉しいことだった。


ジュリアンの隣に並んでいたオリヴァー様が、小さく溜息を吐いた。


「悔しいくらいに可愛いな、ローザは。できることなら、僕の隣にいる、君のその姿を見たかったけれどね」

「オリヴァー様……」


オリヴァー様に会うのは、あのバルコニーで話した時以来だった。彼はどうなってしまうのだろうかと、心配で堪らなかった私は、ほっと胸を撫で下ろしていたけれど、まだ今の状況を飲み込めてはいなかった。オリヴァー様は、そんな私の考えを察したかのように、私の側に歩み寄ると耳元で囁いた。


「僕は、もう魔法は使えなくなってしまったけれど、アーディン王子の直属の部下になったんだ。……罰を受ける代わりにね」


アーディンは、オリヴァー様と私を見て頷くと、私に小声で話し掛けた。


「オリヴァーは、魔法が使えなかったとしても、頭抜けて優秀だからな。そんな人材を眠らせておくのは惜しいし、それに、彼が兄上たちの企みに関わっていたことを示す明確な証拠は、一切残っていなかった。疑わしきは罰せず、ってね」


オリヴァー様は、アーディンの言葉に微かに苦笑した。


「僕はこれでも、アーディン王子とエリック王子の前では、知っていることをすべて打ち明けたんだけどね。……彼には敵わないな」


アーディンがふっと笑みを零した。


「オリヴァーは、ローザが将来王妃となる国を良くするためになら、その力を尽くすと俺に誓ってくれたよ。その言葉を、俺は信頼している」

「……まあ、それに、アーディン王子の下にいれば、君にも会えるしね」


少し寂しげな表情をしながらも、彼らしいウインクを送ってくれたオリヴァー様に、私も微笑み掛けた。アーディンがついているならきっと大丈夫だし、オリヴァー様が配下にいるのなら、アーディンだって心強いだろう。


「僕も、昔からローザと家族になれたらって思ってはいたけど、まさか君の義兄になるとは思わなかったな。もし、何か辛いことがあったら、いつでも僕を頼ってね、ローザ」


頷いた私の頭を優しく撫でるジュリアンは、随分と妹に甘い兄になりそうだ。けれど、信頼しているジュリアンが義兄になってくれることは、私にとって喜ばしく、安心感もあった。


コツン、と部屋の窓が鳴り、窓を開けに歩いて行くと、濃茶の瞳と目が合った。その横には、私を見つめてにこにことしているエリック様の姿がある。


「おお、ローザ、素晴らしく美しいドレス姿ですね! ランスも、何だか嬉しそうですねえ」


私は窓を大きく開けると、鼻を鳴らしたランスの首筋を撫でてから、エリック様を見つめた。


「エリック様、ランスと一緒に過ごしていらしたのですか?」


エリック様は、その瞳を好奇心に輝かせて、ランスを見つめた。


「ええ。王家の守護獣にこんなに近くで触れられるとは、感激です。いや、実に興味深くて、私には知りたいことだらけですよ……! さすがにローザやアーディンには敵いませんが、一緒に迷いの森に行ったよしみもあってか、私が近付いても、それほど警戒しないでいてくれるんです」

「エリック王子、やり過ぎて嫌われないように、ほどほどにな……」


ぼそっと呟かれたルシファー様の言葉に、私は思わずくすりと笑ってしまった。


「ローザ、アーディン。結婚式の日取りは、もう決まったのですか?」


エリック様の問い掛けに、アーディンが答えた。


「いや、今相談しているところですが、できるだけ早い方がいいだろうと、そう父上に話しています。ローザのご両親にも、オルレーヌ家の当主であるジュリアンの父上にも、そしてもちろん国王である父上にも、もう俺たちの結婚の承諾はもらっていますからね」


今まで誰もいなかったはずの部屋の端から、突然声が聞こえてきた。


「……そりゃ、王家の守護獣を攻略済みで、これだけ懐かれてるんだから。ローザが王妃になることに反対するなんて、父上だって家臣たちだって、ほかの誰にだってできないよね」

「き、きゃあっ!?」


驚いて振り返ると、そこにはいつの間に姿を現したのか、ダリル様とデレル様の姿があった。二人は私を見ると、頬を染めてその瞳をうっとりと細めた。


「何て綺麗なんだろう、ローザ。今からでも、気が変わったら僕に乗り換えない?」

「僕も大歓迎。……婚約中に過ぎないんだから、まだ時間もあるしさ。そうそう、今、王妃教育も頑張って進めているところらしいね?」


私は、突然現れた彼らに、呆気に取られながら呟いた。


「そんなことまで、よくご存知ですね……」

「今まで貴族教育を何も受けていないはずが、予想外に覚えが速くて驚くほど賢いって、そう伝え聞いているからね」


私は、先日友人になったレイラ様の顔を思い浮かべた。私が渡したリヴル草の軟膏のお礼を、改めて伝えに来てくれた彼女は、私がアーディンの婚約者だと知って青ざめ、洗いざらい今までのことを打ち明けて謝罪してくれた。一見プライドの高そうな彼女だったけれど、思いのほか素直で、素敵な女性だった。

「貴女じゃなかったら、アーディン様のお相手なんて絶対に認めていないわ」と言いながら、王妃教育のサポートをしてくれているのは、実は彼女なのだ。

彼女のお父様は失脚して、キグナス家の当主はその長男に代わったそうだ。家のごたごたに苦労していた様子だったけれど、彼女の弟だとわかったディムに会いたがっていたから、今度、再会の場を設けられたらといいなと思っている。


ダリル様とデレル様を前にしていた私のところに、庇うようにアーディンが飛んで来て、私の腰に手を回した。


「やっぱり、早く君を捕まえてしまわないといけないな。君との結婚が延びてしまったら、次々とライバルが増えそうだ」


私は、アーディンの輝きの強い、美しい琥珀色の瞳を見上げた。


「私は、あなたのことしか見ていないわ、アーディン」


嬉しそうにその端整な顔を綻ばせたアーディンが、私の額にキスを落とすと、私の頬にはたちまちかあっと熱が上った。蕩けるような、そんなに甘い瞳で見つめられたら、どうしていいかわからなくなってしまう。


私はとっくに、アーディンに捕まっていたようだ。私が彼に心を奪われたのは、いったいいつだったのだろう? ……一つわかっていることは、いつも私に真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる彼と、その輝く瞳に込められた深い愛情に、私も今では抑えきれない愛しさを感じているということだった。


彼の隣で一緒に歩んでいけるなら、きっと未来は明るいものになると、そう信じることができたから。アーディンが、私のことを変わらずにずっと想っていてくれたその気持ちも、私にとってはどんな宝石よりも輝く宝物に思えた。


昔と比べてずっと高くなった彼の頬に、私が背伸びをしてそっと口付けると、アーディンは目を丸く見開いた。みるみるうちに、彼の頬が赤く染まる。


「ローザ。君から俺にキスしてくれたのは、初めてだな……!」


アーディンにふわりと抱き締められ、耳元で愛していると囁かれて、顔中に血が上るのを感じた私は、たまらずに、アーディンの逞しい胸に顔を埋めた。

更新が途中でしばらく空いてしまいましたが、最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました!

読んでくださって、心からお礼申し上げます。

早速ですが、甘めの後日談を追加いたしましたので、次話もよろしければご覧くださいませ。


できれば、評価やブックマーク、いいねや感想で応援していただけたら、とても嬉しく思います。

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