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舞台の裏側で

先程まで星が降っていたことがまるで嘘のように、陽が高く輝く空の下で、エリック様とアーディン、カイル様とルシファー様、そしてヤドリナお婆ちゃんとディムと一緒に、私は王宮の中庭に並べられた椅子に腰を下ろした。私の横には、寄り添うようにランスがついている。


エリック様が、ふうっと一つ溜息を吐いた。


「ベネディクトと、彼の家臣や彼に関わったと思われる者たちは拘束しましたし、ローザ、貴女のご両親の安全も確かめました。今、貴女のご両親の元には私の従者がついていますから、ご安心を」


私は胸を撫で下ろして、エリック様に微笑んだ。


「ありがとうございます、エリック様」

「少し落ち着いたら、是非ご両親のところへ。ご両親も喜ぶことでしょう。ただ、先にローザの時間を少しいただきたいのですが、よろしいですか?」


私が頷くと、エリック様は視線を私の隣にいるランスに向けてから、ヤドリナお婆ちゃんに向かって口を開いた。


「ヤドリナ様。できることなら、教えていただきたいのですが。……貴女様は、彼が王家の守護獣だったとご存知だったのですか?」


ヤドリナお婆ちゃんは、エリック様を見つめてほっほっと笑った。


「さあ? 恐らくランスだろうと思ってはおったが、わしも完全に知っていたとまでは言えんな。それに、あの魔法の力を伴う加護の星を、ランスが無事に受け取ることができるのかも、確実にはわからなかったからね」


お婆ちゃんは優しい眼差しでランスを見つめると、言葉を続けた。


「エリック王子。お前さんは、歴代の王の治世の中でも、稀にしか現れなかったランスのような一角のペガサスが、いったいどうやって生まれるか、さっきの星降りを見てわかったかい?」

「彼ーーランスは、空から流れた加護の星を受けて、金色に輝く翼と角を得て、そして白銀の馬体に姿を変えたのですよね。今までも、森に存在していたランスのようなユニコーンか、もしくは馬に近い形の動物が、星から力を授かって完全な王家の守護獣になったと、そういうことなのでしょうか。だから、数百年に一度、星が降る時には、そのような加護を得た守護獣が生まれるのかと」


エリック様の言葉に、お婆ちゃんは小さく頷いた。


「まあ、半分は合っとるかな。だが、少し違っとる。あんな風に加護の星が空から流れるのは、加護を受けるのに相応しい個体が誕生し、無事に育った場合だけなのじゃよ。つまり、もしもランスがこのように健やかに成長していなかったのなら、星降る宵の現象自体が起きてはおらず、このような王家の守護獣も生まれようがなかったのじゃ。金色の翼と角を併せ持つ、白銀の馬体をした守護獣となるに値する動物が、無事に育つこと自体が稀じゃから、加護の星が降ることも滅多にないんじゃよ」


アーディンが、私に顔を寄せているランスを見つめた。


「ローザ、君は昔、怪我をしたランスを助けて、そして彼に懐かれたと言っていたね。ということは……」

「ああ、そうじゃ。もし、ランスがその時に命を落としていたのなら、あの晩、そもそも迷いの森に星が流れることはなかったと、そういうことじゃよ」


エリック様が、不思議そうに首を傾げた。


「では、なぜ、あの星降る宵では、ランスのために星が流れたはずなのに、ランスは加護の星を受け取らなかったのでしょうか?」

「あの時は、少し特殊な事情があったようじゃ。のう、ローザ。お前さんには心当たりがあるんじゃないかい?」


(あっ……)


私はあの晩、流星に照らされた、まだ幼かったアーディンが、獣用の罠に掛かって虫の息になっているところを、ランスの背の上から見付けたことを思い出した。


「うん。あの星が降った夜、私はちょうどランスの背に乗っていて、流れて来た星に照らし出された、魔法の掛かった罠に嵌っていたアーディンに気付いたの。どうか助かって欲しいと願いながら、慌てて彼を罠から外したわ」


ランスを見つめたまま、アーディンが口を開いた。


「……ローザが俺を見付けてくれた時、俺は死にかけていた。身体が少しずつ冷えて来ていたんだが、不思議な声が聞こえて、体温が戻るのを感じたんだ。そのお陰で、ローザが俺を助け出し、治療してくれるまで持ち堪えることができたし、その後も身体に宿った不思議な力を感じていた。……あの時、力を貸すと言ってくれたのは、きっとランスだったんだな」

「ああ、ランスはお前さんに、自分が受けるはずだった加護の星を代わりに譲ったんじゃろうて。守護獣は、自分が守るべき相手は自然とわかるようじゃな。きっと、お前さんの、清く真っ直ぐな心根を見抜いたんじゃろう。そして、お前さんを助けたいという、ローザの気持ちにも応えようとしたのかもしれんな」


アーディンが、そっと自分の右肩の後ろに触れた。


「では、俺に現れた、この金色がかった翼の模様は……」

「それは、ランスがお前さんに貸した加護じゃよ。…それがなかったら、アーディン王子、お前さんは、今この世に生きてはいなかったかもしれんの」

「今の俺があるのも、俺を見付けてくれたローザと、そしてランスのお陰だな」


私は、ランスに生えた立派な金色の翼を眺めながら、ポケットの中から、お婆ちゃんにもらったあの笛を取り出した。


「……お婆ちゃんがこの前にくれた、この笛。これは、何だったの?」

「ああ、それはな。先代の守護獣の角から作られた、加護の星を招く力を帯びた笛じゃよ」

「お婆ちゃん、凄いものを持っていたのね……!」


私がまじまじとお婆ちゃんを見つめると、お婆ちゃんはまたほっほっと笑った。


「それは、数代前の、迷いの森の番人から受け継がれたものなのじゃよ。わしは、時に迷いの森の番人と呼ばれることもあるが、各代の国王の守護獣は、最後は迷いの森に戻り、わしらが看取る。先代の守護獣は、その角にまだ残る加護の力を、当時の番人に託したようじゃな。ただ、それをいつどうやって使うかは謎のままじゃった。当時の番人は、獣たちと会話をすることができたそうだが、使うべき時に、相応しい者が使えば星を呼べると、守護獣はそう言い残したそうじゃ」

「そんな大切なものだったなんて、知らなかったわ……。お婆ちゃん、どうしてこれを私にくれたの?」

「わしの勘じゃよ。あれだけ、迷いの森の動物たちにも、そしてランスにも愛されているローザなら、きっと星を呼んで奇跡を起こせると思ってな。だが、もし……」


お婆ちゃんは、ランスの濃茶の穏やかな瞳を見つめた。


「これはわしの見立てに過ぎないが、ローザが危険な状況にあったあの時、もしも星が降っておらず、ローザを助けるのに間に合わないと、ランスがそう判断していたら。きっと、ランスはローザを助け出すために、アーディン王子に譲っていたあの加護を取り戻してでも、ローザを守りに向かったんじゃなかろうか。……星の加護をランスが得て、その必要はなくなったがね。もう、その加護はランスからの借り物ではなく、お前さんのものじゃよ、アーディン王子」


肯定を示すように、私の隣でランスが小さく嘶く。エリック様が、柔らかな表情で目を細めた。


「すべてが上手く組み合わさって、あるべきところに収まったというところでしょうか。おや? あれは……」


エリック様とアーディンの元に、数人の騎士が走って来た。息を上げている騎士たちは皆、その目を輝かせている。


「国王陛下が、目を覚まされました……!」


エリック様とアーディンは、安堵の表情を浮かべて視線を交わした。


「君が父上を助けてくれたからですね。ありがとうございます、ディミトリアス君」


エリック様の言葉に、ディムもほっとしたように微笑んだけれど、その表情は少し翳っていた。


「どうしたの、ディム? ちょっと暗い顔をしているわ」

「う……ん。国王様が助かったのは、よかったし、誰かを助けられるなら、僕が多少辛くても、構わないけど。……誰かにそれを返すのは、やっぱり、あんまり、気持ちのいいものじゃないね……」


途切れ途切れに、頑張って声を出して話す彼は、やっぱり優し過ぎるくらいに優しかった。ヤドリナお婆ちゃんが、温かな瞳でディムを見つめた。


「……国王陛下が負わされたあの魔法による影響も、お前さんが父親から引き受けていた傷も、返したところで自業自得に過ぎないし、ベネディクト王子に預けたあの音のない世界も、ローザを守ろうとしたからじゃろうて。お前さんが責任を感じる必要はないよ」

「うん……」

「時に、こういう抗い難い流れに巻き込まれることもあるのじゃよ。……だが、そんな風に優しいお前さんじゃからこそ、迷いの森の動物たちにもあれほどに慕われるんじゃろうな。やっぱり、次の迷いの森の番人を任せるなら、お前さんしか考えられんな、ディム」


ヤドリナお婆ちゃんは、驚いた様子のディムに向かって、柔らかな微笑みを浮かべていた。

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