崩れ落ちた王子
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窓から飛び去る双頭の竜を見つめながら、ワイアット様は顔面蒼白になり、がくりと王の間の床に膝をついていた。
「まさか……そんなはずは……」
小刻みに震えながら自らの掌を見つめていたワイアット様は、そのまま頭を抱えると、力なく床の上に蹲った。ワイアット様を取り囲むように、兄弟の王子たちが近付く。一番前に進み出たエリック様が、彼に厳しい表情で尋ねた。
「ワイアット、これはどういうことですか? 説明していただきましょうか」
そして、王の間に集まっていた、固唾を飲んで状況を見守っている貴族たちに、固い声で告げた。
「申し訳ありませんが、しばらく席を外していただけますか。王宮内に、控えていただく場所をすぐにご用意します」
エリック様は、控えていた従騎士たちに目配せをすると、彼らはすぐに貴族たちを王の間から外へと誘導して行った。ジュリアンとオリヴァー様も、私たちに視線を向けてから、他の貴族と一緒に王の間から出て行った。王の間に残っているのは、八人の王子とその従者たち、そして私の両親と私だけになった。
エリック様は、隠し切れない怒りをその瞳に浮かべていた。
「ワイアット……愚かなことを。どうして、あの双頭の竜に対して攻撃魔法を向けるようなことをしたのです?」
エリック様は、床に蹲ったままのワイアット様のすぐ前まで近付くと、彼を見下ろした。
「こんな……こんなことになるなんて……」
呻くように呟いたワイアット様に向かって、エリック様は視線を合わせるように膝を折ると続けた。
「父上の言葉を忘れたのですか。王家の守護獣を表すあの動物は、私たちに魔法の力を授けている源だと言われています。その怒りを買えばどうなるかくらい、少し想像すればわかるでしょう。……ワイアット、あなたは魔法の力を失ったのですね?」
まだ現実を受け入れられない様子ながらも、苦しげに頷いたワイアット様に、エリック様も少し寂しそうにその表情を翳らせた。
「あなたの炎魔法は我が国随一と言われていましたが、惜しいことをしましたね。この国にとっても大きな痛手ではありますが、もう、二度とあなたに魔法の力が戻ることはないでしょう。そして、あなたと一緒に何かを企んでいた彼らも同様でしょうね」
エリック様の冷ややかな視線を受けて顔色を失っている人たちの中には、ちょうど今朝方、あの薬草畑の脇の小屋で出会った女性もいた。この王の間にいた人々の中に、彼女がいた記憶がなかったことからは、ついさっきまで、どうやら他の人物に姿を変えていたように私には思われた。
顔に絶望の色を浮かべ、まともに口を開けずにいるワイアット様を見つめて、今度はエリオット様がエリック様に向かって口を開いた。
「今、ワイアット兄上に説明を求めることは困難でしょう。……ですが、ワイアット兄上が良からぬことを企てていたのは、この状況から明らかなようですね。このようなことを引き起こした以上、責任は取っていただくことになるのでしょうが、今しばらく、落ち着くための時間が必要なのではないでしょうか。……その間、その方たちから話を聞くこともできると思いますし」
エリオット様の視線の先には、戸惑った様子の私の両親が立っていた。アーディンが、エリオット様の言葉を継いだ。
「彼らは、ローザの父上と母上だ。俺の恩人でもある」
エリック様は、さすがに驚いたように、アーディンと私、そして私の両親の顔を交互に見つめると、しばし口を噤んでから頷いた。
「わかりました。……ワイアットと、彼に従っていた者たちを拘束し、地下の懲罰用の石の間へ。監視も付けてください」
「ま、待ってください、エリック様……!」
あの動物小屋の入口で、私たちの足を止めさせた女性の悲痛な声が王の間に響いたけれど、エリック様はただ首を横に振った。
「もしも、あなたたちの無実が証明されたなら、すぐに解放して差し上げましょう。けれど、あなたたちがしていた行動如何によっては、相応しい罰を受けていただきます」
項垂れたワイアット様たちは、従騎士たちに手首を後ろ手に拘束されると、そのまま王の間から外へと連れ出されて行った。




