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穏やかな朝

「ん……」


窓から差し込んでいる眩しい朝陽で目が覚めた。身体を起こそうとして、私の身体に回されている温かな腕に気付く。


(あ、そう言えば……)


横を向くと、私に腕を回したままで眠っているアーディンの姿があった。


(昨日はあのまま眠ってしまったのね……)


こんなに近くにいるアーディンの姿に、改めて頬にかあっと血が上るのを感じた。寝起きでぼんやりしていた頭が、はっと覚める。けれど、隣にいるアーディンから感じられる温かな体温は、安心感があって、とても心地が良かった。

まだ静かな寝息を立てている彼の、陽に透けた艶やかな緑色の髪が掛かった顔は、思わず見惚れてしまうほどに美しかった。長い睫毛が陶器のように滑らかな白い肌に薄い影を落とし、通った鼻筋と形の良い薄い唇が小さな顔を彩っている。


(女性の私よりも、よっぽど綺麗な顔立ちをしているわね、アーディン)


きっと、幼い頃に彼と知り合っていなかったなら、とてもではないけれど、この状況には心臓が耐えられないだろうと思った。アーディンの温もりに包まれて、ほうっと感嘆の溜息を吐きながら彼の寝顔を眺めていると、彼の瞼が微かに動いた。ゆっくりと、彼の両目が開く。アーディンは数回瞬きを繰り返すと、琥珀色の瞳を細めて、ふわりと嬉しそうな笑みを浮かべた。


「おはよう、ローザ」

「お、おはよう、アーディン」


朝陽に照らされたアーディンの笑顔のあまりの破壊力に、惚けたようになっていた私は、力が込められたアーディンの腕に、あっという間に抱き寄せられていた。


「あの、アーディン……」


戸惑っている私の耳元で、アーディンが呟いた。


「朝から、俺の腕の中に天使がいる。夢みたいだ……」


(……!!)


まだアーディンは寝ぼけているんだろうと思いながらも、私は耳までぶわっと熱くなるのを感じた。


「そろそろ、起きましょうか。もうこんなに外も明るいし、ね?」


慌ててそう言って、アーディンの腕の中から抜け出そうとした私のことを、彼は少し不満気に、腕の中に閉じ込めた。


「俺がどれだけ、君のことを待ったと思ってる? ずっと君のことを探して、ようやく捕まえて。もう、君を放す訳にはいかないからね」


間違いなく真っ赤になっているであろう私の顔を見つめて、くすっと悪戯っぽく笑ったアーディンは、私の唇に柔らかなキスを落としてから、ようやく私のことを解放してくれた。


(朝から、刺激が強過ぎるわ……!)


ふわふわと覚束ない足取りで私がどうにかベッドを出ようとしていた時、私は、自分が下りようとしていたその場所に、昨夜突然姿を現したダリル様とデレル様のことを思い出し、身体が強張るのを感じた。それと同時に、去り際に残されたダリル様の言葉が耳に甦る。急に表情を翳らせた私に、アーディンが気遣わしげに尋ねた。


「どうしたんだい、ローザ?」

「昨日の夜、ダリル様とデレル様がこの部屋から姿を消す直前に、ダリル様が言っていたことを思い出したの。王家の紋章に描かれている守り神のうち一匹は、もう居場所がわかっている、って。王位継承権争いもすぐに動き出すだろうって」

「……ほう」


アーディンは、思案気に腕組みをした。


「兄上たちのうち、どちらかが空間を歪ませる魔法を使えると考えれば、その言葉にも信憑性があるな。その居場所がどこであれ、彼らであればそこに入り込むことは容易いだろうから。昨日、兄上たちがここに姿を現したようにね」

「……」


思わず口を噤んでふるりと震えた私の肩を、私の隣に来たアーディンが軽く抱き寄せた。


「嫌な記憶を思い起こさせてしまって、悪かったな。……だが、ローザ。君、兄上たちにかなり気に入られているのかもしれないな」


腹立たしそうに目を眇めたアーディンに、私は尋ねた。


「……それって、どういうこと?」

「あの兄上たちは、基本的には他人にあまり関心がないんだ。まあ、女性に対しては手が早いんだが、深く関わるのは避けているようだったし、すぐに飽きて見向きもしなくなるのが常だったからね。ああ見えて実は慎重だし、軽薄そうだが不用意に情報を漏らすこともない。今まで、彼らが魔法を使うところなんて見たこともないし、恐らく、この王宮にいる者たちのほとんどがその能力を知らないはずだ。……それなのに、ローザには魔法で姿を消すところも見せているし、まだ知られていない貴重な情報も残している。あえてフェイクの情報を残した可能性も考えられなくはないが、俺はそうではないような気がする」

「そう言えば、私のことを気に入ったとか何とか言っていたような気もするけれど。……勘弁して欲しいわ」


ぞっとして顔を顰めた私に、アーディンも眉を寄せながら口を開いた。


「君の、魔法を無効化するという力に、兄上たちが気付いているかはわからないが。君の目の前で姿を消すところを見せているあたり、君のところにまたいつでも来れるのだと、あえて示したかったのかもしれない」

「そんな……」

「まあ、俺が、もう彼らの好きにはさせないがな。これからは、ずっと君の側についていられるし」


アーディンがその指でするりと私の髪を梳いた時、部屋のドアが強くノックされ、押し殺したような声が、ドアの外から聞こえてきた。

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