冷ややかな眼差し
エリック様を先頭に、アーディンに寄り添われながら部屋を出ると、扉の外で、廊下の壁に背を凭せ掛け、腕組みをしている青年がいた。
「部屋の中がかなり賑やかなようだったな。……こんな時に女連れか。随分と余裕があるんだな、アーディン」
青年の棘のある物言いと冷ややかな眼差しに、そして、目の前の彼の髪色を見て、私はびくりと身を竦めた。
(彼の髪色は……)
ディムが見せてくれたのと同じ、鮮やかな濃い金髪を靡かせ、赤味がかった茶色の瞳をした彼は、アーディンに対する敵意を隠そうともしていなかった。
エリック様が、アーディンの代わりに、その青年に向かって口を開いた。
「ワイアット、彼女は私の客人です。そのような物言いは慎んでください」
「はっ。エリック兄上がそうやっていつもアーディンを庇うから、アーディンだってつけ上がるんですよ。もう、アーディンが次期王に決まっている訳でもないのに」
アーディンと、そして私のことを睨み付ける彼の迫力に棒立ちになっていると、横から声が掛かった。
「ワイアット兄上、さすがにその言い方は、あまりに失礼だろう。可哀そうに、そこのお嬢さんが怖がっているじゃないか」
背の高く、がっしりとした体躯をした、青い短髪の青年が、苦笑しながらワイアット様を宥めてから、アーディンと私を振り返った。
「父上の言葉に、皆それぞれ思うところはあるかもしれないが、兄弟間の諍いは褒められたものじゃない。……アーディン、売られた喧嘩とはいえ、ここは買わずに流しておけ」
「ライアン兄上、承知しています」
間に入ってくださった彼と、アーディンの冷静な言葉に胸を撫で下ろしていると、その後ろからくすりと笑う声が聞こえた。
「こんなところで、一触即発の状態にならなくてもいいのにね。巻き込んじゃって、ごめんね?」
私に向かって微笑みを向けた、人当たりの柔らかそうな青年は、ワイアット様とよく似た濃い金髪に、アーディンともどこか似た琥珀色の瞳をしていた。
ワイアット様は、不機嫌そうに溜息を吐いた。
「ライアンだけでなく、お前まで口を挟んでくるのか、ベネディクト。……誰よりも一番、父上の言葉を喜んでいるのは、お前じゃないのか?」
「さあね? 後継者争いを降りるって宣言したライアン兄さんとエリオット兄さん以外は、皆同じことを考えてるんじゃない? まあ、アーディンと、アーディン推しのエリック兄さんは違うのかもしれないけど」
愉快そうに笑みを浮かべたベネディクト様と、その隣に並ぶワイアット様の肩を、ライアン様が叩いた。
「さあ、もう行こう。こんな所で油を売っていても、仕方ないだろう。……エリック兄上、アーディン、邪魔したな」
去って行く三人の背中を、嵐が過ぎ去った後のように感じながらぼんやりと眺めていた私に向かって、アーディンが気遣わしげに口を開いた。
「驚かせてすまなかったな。はじめに話し掛けて来たのが、第二王子のワイアット兄上、間に入ってくれたのが第三王子のライアン兄上、それから、最後に話に入って来たのがベネディクト兄上だ」
「……そうだったのね」
アーディンの言葉に頷きながら、なかなか個性豊かな王子たちのようだと思いつつも、私は、ディムの見せてくれた映像とよく似た髪色をした、ワイアット様とベネディクト様の姿に、背中を冷や汗が伝うのを感じていた。エリック様も申し訳なさそうに私のことを振り返った。
「迷いの森から帰って早々、騒がしくてすみませんでしたね、ローザ。意図した訳ではありませんでしたが、これでローザは、八人の王子全員と会ったことになりますね」
「はい」
「先程の父上の言葉で、状況も大きく変わりました。王位継承権に興味を持つ兄弟たちは、これから腹の探り合いをすることになるでしょう。貴女の存在を、彼らには、もっと隠しておけたらよかったのかもしれませんが……」
「いえ。もし私がこのまま王宮に留まるのであれば、遅かれ早かれ、私のことは把握されたに違いありません。皆様にこの時点でお会いできて、むしろ良かったと思います」
私の両親が崖崩れに巻き込まれる様子を遠くから眺めていた、あの濃い金髪の青年の映像が目に浮かび、私はぎゅっと手を握り締めた。あれは、やはりワイアット様かベネディクト様のどちらかなのだろうか。私は、危険は伴うのかもしれないけれど、どうにかしてあの事故の真相を突き止めたかった。
アーディンが、そっと私の元に歩み寄った。
「ローザ、君が部屋に戻ったら、少しそこで時間をもらえないか。君に話したいことがあるんだ」
「ええ、わかったわ」
廊下の途中でエリック様と別れてから、私はアーディンとカイル様、ルシファー様と一緒に、滞在先の客間へと向かった。




