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王宮の医局へ

アーディンが扉に手を掛けようとした時、背中越しにエリック様の声と一緒に何かが飛んできた。


振り向いたアーディンが、エリック様から放り投げられたそれを器用に片手で受け止める。萌黄色をした巾着型のそれを、アーディンが怪訝な表情で眺める様子に、エリック様が隠し切れずくつくつと笑った。


「まあ、そんなに焦らないでくださいよ、アーディン。貴方には、取り立てて弱点はないと思っていたけれど、ローザのことになると、途端に余裕がなくなるみたいですね」


そして、エリック様は私の方に顔を向けると、微笑みを浮かべたままで続けた。


「……さて、ローザ。王宮には大きな医局があるのをご存知ですか? せっかく王宮にいらしたのですから、よかったら覗いてみてください。王宮の医局に並んでいる薬は、近隣諸国から取り寄せた珍しいものも含めて、膨大な種類がありますからね。もしご興味あればと思いまして。きっとアーディンが貴女をエスコートしてくれることでしょうし……」

「よろしいのですか!?」


私は一も二もなく頷いた。王宮の医局といえば、この王国で一番の規模を誇る医局である。王宮の中でも、医局だけは国民に向かって解放されていて、そこで薬の処方を受けることができる。とはいえ、高価な薬が多く扱われる王宮の医局を使用するのは主に貴族で、庶民にはなかなか縁遠い場所なのだけれど、薬師の中でも選ばれし一部の者しか足を踏み入れることのできないその場所は、薬師にとっては垂涎の、一度は訪れてみたい場所だった。


私の目が輝いたのを見て、アーディンが軽く溜息を吐く。


「興味のあるものにはとことん夢中になるところは、兄上も、ローザもそっくりだな。……で、兄上。この袋には、いったい何が入っているんだ?」

「その中には、医局の薬師用の衣服が入っています。それを身に付ければ、ローザ様も誰にも咎められることなく、好きに医局の中を見て回ることができます」

「わあ、お心遣いをありがとうございます」

「いえいえ。ローザ様の薬の知識は非常に豊富だと聞いています。医局をご覧になったら、また是非ご意見でも聞かせてくださいね」

「はい!」


私の喜ぶ様子を見て、嬉しそうににこりと笑んだエリック様に、私は深くお辞儀をしてから、アーディンに手を引かれて部屋を後にした。アーディンは片手をエリック様に上げ、カイル様もエリック様に一礼をすると、静かに部屋の扉を閉めた。


***


「王宮の医局に入ることができるなんて、夢みたいだわ。楽しみ……!」


急に足取りが軽くなった私を見て、アーディンがふっと笑った。


「ローザ、君がそれほどここの医局に興味があったとは、知らなかったよ。兄上も粋な計らいをしてくれたものだな」

「ええ、凄く嬉しいわ」


カイル様が、一歩引いたところで穏やかな笑みを浮かべている。


「ローザ様にも喜んでいただけて、よかったですね。……それに、恐らく、医局にはまだルシファーがいるのではないでしょうか。まだ王宮に戻ったばかりでしょうし、きっと医局で一休みしていることでしょう」

「そうだな。ちょうどいい、ローザに彼を紹介できそうだ」

「ルシファー様?」

「ああ、俺のもう一人の側近だよ。またカイルとは大分趣きが異なるがな。……少し口は悪いが、あいつのことは信頼して大丈夫だ」


私はアーディンの言葉に頷いたものの、頭の中は薬のことでいっぱいだった。希少な、高い効力のある薬の中には、保存が難しいものもある。迷いの森でも、見付けることはできるのだけれど、保管に苦戦するような種類の薬草や木の実も幾種類かあり、王宮の医局ではどのように扱われているのか、興味津々だった。

私は、様々な薬に思いを馳せる中で、アーディンに聞こうと思っていたあることを、はっと思い起こした。


「そういえば、アーディン。王宮に来る時、オルレーヌの家のこと、もう解決したって言っていたわよね。ジュリアンと、オリヴァー様や、ジュリアンのお父様たちは無事なのよね?」

「ああ、ジュリアンたちは全員無事だよ」


私はほっと胸を撫で下ろした。ジュリアンたちが、これから行く医局のお世話にならずに済むと思うと、じわりと安堵が胸に広がる。もちろん、アーディンが大丈夫だと言っていた以上、無事なのだろうとは信じていたけれど、改めてそう聞いてからふっと肩の力が抜けた。


「怪我人は出なかったの?」

「まあ、狙われたジュリアン達の側にはな。もちろん、オリヴァーも、オルレーヌ家の家人たちにもだ」

「……」


ジュリアン達には怪我はない、ということは、あの事件を画策したマテオ様たちには、怪我人でも出たのだろうかと気になったものの、もう一つ、気になったことがあった。


「アーディンも、オリヴァー様を知っているの?」

「まあ、な。オリヴァーの名前は、王族や貴族の間でも有名だ。あれほど優秀な成績で魔術院を卒業した者は、この国の歴史上でも珍しいからな」

「そうなの……」


私は改めてオリヴァー様の顔を思い返した。軽い調子で接してくれていたけれど、それほど凄い存在だったなんて。


「さあ、着いたぞ」


話しながら歩いている間に、どうやらもう医局に着いたらしい。立派な紺色の照りのある扉をアーディンが押すと、すうっと扉が奥に開いた。

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