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企み

国の五大公爵家の一つであるキグナス家の一人娘レイラは、豪華な家具の設えられた客間で、陽の高い午後に友人とお茶の時間を過ごしていた。


「ねえ、レイラ様。わたくし、もうあの人に飽きてまいりましたわ。……確かに金払いはよくて、ねだれば何でも買ってはくださるのですけれど……」


ほうと溜息を吐いた、栗色の髪をした艶やかな美人のダフネは、日頃からのレイラの取り巻きの一人だった。

レイラは優雅に手元の紅茶を飲むと、ダフネに手元の焼き菓子を勧めた。高位貴族の間で今流行りの有名店の菓子である。


「あら、ダフネ。気持ちはわからなくはないけれど、もう少し、彼に付き合ってあげてはくれないかしら?」


ひくりと顔を引き攣らせるダフネに、レイラは強い視線を向ける。ダフネは諦めたように頷いた。


「ええ、あと少しだけなら。……そういえば、レイラ様。あの方、金色の鷲が欲しいとかどうとか仰ってましたわ。できれば御し易いほうがいいとか。うちの傘下の商会でも、他国で扱う動物で、同じような種類のものがいないか聞かれたのですけれど、見付からなくて。どうしても欲しい様子でしたので、もしあてがってやれれば、多少の無理は聞いてくれそうな感じでしてよ?」


レイラの目が輝いた。


「まあ。それなら、私がどうにかして用意するわ。代わりに、あの方に、一つ伝言をお願いしたいのだけれど……」


レイラがひそりとダフネの耳に囁き掛ける。ダフネはそれを聞いてくすくすと笑った。


「あら、レイラ様、ようやく腰を上げられるのですか。……わかりましたわ、では、マテオ様にそうお伝えしておきます」


ダフネが優雅に席を辞すと、レイラはトントンと人差し指で美しい彫刻の施されたテーブルを叩いた。その顔には隠し切れない苛立ちが浮かんでいた。


(あの女、オルレーヌ家にいることはわかっているのよ)


レイラは、アーディン王子がある令嬢に求婚したという噂を信じられない気持ちで聞いた。しかも、そのお相手は貴族ですらないという。

家格は、解決しようと思えばできなくはない。どこかの高位貴族の養子にでもさせてしまえば済む話だ。けれど、王子に釣り合うほどの高位の家が、どこの馬の骨ともわからない彼女を受け入れるとは思えなかった。

それなのに、彼女は既にオルレーヌ家の庇護の元にあるという。ぎりりと歯噛みする思いだった。


相手が五大公爵家の一角を成すオルレーヌ家では、いくらキグナス家といえど簡単に手は出せない。


レイラの取り巻きであるダフネに並々ならぬ熱を上げるオルレーヌ家のマテオから、ダフネを介して情報を得ていたレイラだったけれど、どうやら彼女にとって絶好の機会が訪れたようだった。


(見ていなさいよ。笑っていられるのも今のうちなんだから)


レイラはゆっくりと立ち上がり、執事を呼ぶためにドアを開けた。きっと、あのマテオは私の提案に飛び付くはずだ。そう確信した彼女の瞳には、まだ見ぬ恋敵に対する憎しみの色が宿っていた。


***


「テラ、随分とよくなったね。……もう翔べそうだ」

「ええ、そうね。思ったよりも回復が早くてよかったわ」


私は、傷がほとんど治り、止まり木の上でばたばたと羽をはばたかせるテラを挟んでジュリアンと話していた。

幼馴染みだったと判明した夜のジュリアンの態度に、翌朝彼と会った時には思わずどぎまぎしてしまったものだけれど、まるで何事もなかったかのような彼の様子に、私もあの日には何もなかったものとして彼と接することにした。……時々、目が合うとあの夜の彼を思い出してどきりとすることがあるものの、どうにかやり過ごしている。


テラは真っ赤に澄んだ瞳をジュリアンに向け、止まり木を移動して少し彼に近付くような動きを見せた。まだジュリアンの腕に自ら乗ることはないものの、見ている限りは随分と彼に気を許してきているように見える。きっと、ジュリアンに心を開くのも時間の問題だろう。


……まさか、金色の鷲で本当に跡目を決めるなんて、思わなかったけれど。

貴族の家には、私には預かり知らぬ事情が色々とあるようだ。私のような門外漢が口を挟めることではないけれど、ジュリアンはテラと心を通わせて欲しいと、そう思った。


その時、トントンとドアが叩かれた。返事をする前に、乱暴にガチャリとドアが開かれる。


ドアの向こう側には、笑みを湛えたマテオ様の姿があった。その手には大きな鳥籠を手にしており、中には金色の立派な鷲が鎮座している。鷲の目は濃い赤銅色をしていた。


マテオ様はふんと鼻を鳴らすと、口を開いた。


「俺はこの金色の鷲と、もう心を通わせているぞ。兄上の前で、近いうちに互いに披露しようではないか。……楽しみにしているからな」


勝ち誇ったような笑顔を浮かべるマテオ様に、ジュリアンと私は言葉を失くしていた。私はなぜか、鳥籠の中の鷲に見つめられて目が合ったような気がして、内心首を傾げた。

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