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唇の熱

アーディンの真っ直ぐな瞳を、私も見つめ返した。


「ジュリアン様と話したのなら、もう彼から聞いているかしら。今は、オルレーヌ家の家紋にもなっている、怪我をした金色の鷲の世話をしながら、回復を待っているところなの。その鷲の回復を見届けて、ちょっとしたお家事情が落ち着いてからでよかったら、ランスと王宮に出向くわ。それまで、待っていてもらえる?」


「ああ、わかった。恩に着るよ、ありがとう。……君が王宮に来てくれた時に、君の力を借りたいことについて、詳細を伝えるよ」


アーディンの艶のあるエメラルドの髪がさらりと夜風になびき、琥珀の瞳が月明かりに輝いている。安堵の色を滲ませる彼の柔らかな微笑みは、思わず見惚れてしまうほどに美しかった。

彼はもう、私が昔知っていた、線が細くて可愛らしかった幼い男の子ではないのだと、立派な青年に成長しているのだと、改めて思い知らされる。


「ねえ、アーディン」


私は思わず声に出していた。アーディンの瞳が煌めいて、私を捉える。


「幼い頃、私のことを好きでいてくれてありがとう。……でも、成長した私のことを、色々とあの頃からは変わってしまった部分もある私のことを、あなたは本当に知っているの? この前アーディンが迎えに来てくれた時、私を好きだと言ってくれて、あなたの気持ちは嬉しかったわ。あの時はそれよりも驚いてしまって、言えなかったけれど。……でもね。あなたが知っているのは、迷いの森であなたを見付けて、家に連れ帰ったあの頃の私で、今の私ではないかもしれないわ」


最後は言葉が少し途切れ、俯き気味になった私に向かって、アーディンは両手を伸ばすと、厩の窓から乗り出していた私の上半身をひょいと抱きかかえた。


「……きゃっ!?」


そのまま彼の腕の中に収まり、すとんと地面に降り立つ。アーディンは、両腕の中に私を抱えた体勢のまま、私の顔を覗き込んだ。


「そうだな、確かに君は変わったよ、ローザ。俺が知っていた幼い頃の君から、さらにずっと綺麗になった。舞踏会でようやく君の姿を見付けた時、まるで女神のように美しくなっていた君の姿に、息が止まりそうだったよ。君が成長していく様子を、できることなら君の側で見守っていたかった。……君が一番辛い時、側にいるのが俺でありたかった。もし、君が、」


彼の手が、優しく私の髪を梳いていく。彼は私の耳元に口を寄せて囁いた。


「あの頃からどこか変わっていたとしても。俺はそれも全部、そのままの今の君ごと愛おしく思うよ。……君の芯の優しい部分は変わっていないと、俺にはわかる。変化した君も含めて、君のすべてを俺は知りたい」


アーディンの手がするりと私の髪から頬に移動して、私の肩はぴくりと跳ねた。私の頬をそっと撫でる彼の手は、とても優しかった。

困惑の中、恐る恐る彼の両眼を見つめると、その瞳の奥には情熱的な色が燻っていた。


「ローザ、君の気持ちを待つとは言ったが、俺は決して君を諦めた訳じゃない。俺は必ず、君を捕まえるよ」


そして、触れるか触れないかというくらいのごく軽いキスを、私の唇に落とした。


「……!」


思わず、私は彼に唇を落とされた口元を片手で覆った。恥ずかしさに、一気に頬にかあっと血が上る。


「もう、幼い頃の俺じゃないから。ちゃんと、目の前にいる今の俺のこと、意識してね?」


悪戯っぽく笑んだアーディンの腕に、そのまま力強く抱き締められる。……しっかりとした、逞しい男性の腕だった。


最後に悔しいくらいに綺麗な笑みをふわりと浮かべると、彼は私におやすみと言って立ち去って行った。


(こんなの、反則だわ……)


ほんの少し触れた柔らかな彼の唇の感触が、頭から離れない。彼が触れた私の唇も、ほんのりと熱を帯びている。


痛いほどに激しく打つ胸を押さえつつ、私は動揺のあまり固まったまま、月明かりに照らされたアーディンの背中が次第に小さくなっていく様子を、ただぼんやりと見つめていた。

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