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跡目争い

私の腕に留まり、少し気を許してくれた様子の金色の鷲を、私はいろいろな角度から観察した。よく見ると嘴の先や羽の金色の中に、少しぼんやりと黒い色が混ざっている。

私は、私の腕にとまった鷲を見ていたジュリアン様を見つめた。


「ジュリアン様、……この子、身体は大きいですが、まだ幼鳥なのかもしれません。この身体つきと……それと、嘴の先や、羽の先に黒い色が混ざっているでしょう? 成鳥になれば、きっと身体の全体が金色になると思いますよ。もしかしたら、羽ばたきの練習中に地面に落ちて、羽を折ってしまったのかもしれませんね。

ところで、この子には名前はあるのですか?」


ジュリアン様は少し恥ずかしそうに頷く。


「ああ。僕はこの鷲にテラと名付けたんだ。……まだ名前を呼んでも、反応してくれる訳ではないけどね」

「テラ、ですか。いい名前ですね」


私はそれを聞いて嬉しくなり、思わず微笑んだ。ジュリアン様の、怪我をした金色の鷲に対する親しみと、そして自ら歩み寄ろうとする姿勢を感じたように思ったからだ。


一通りテラの身体を見た後、その綺麗な澄んだ赤い瞳にいったん別れを告げて、ジュリアン様に用意していただいた部屋まで案内していただくことになった。


一緒に長く広い廊下を歩きながら、ジュリアン様に尋ねてみる。


「あの。私、この辺りに昔越してきたはずの幼馴染みを探しているんです。でも、聞いていた住所はこの辺りなのに、全然それらしき家が見当たらなくて……」


ジュリアン様は私の言葉に首を傾げた。


「そうなんだ。この辺り一帯は、このオルレーヌ家の敷地なんだよ。君の幼馴染みはどの辺りに住んでいるのかな? 近くに数軒、家がない訳ではないんだけれど……」


そして、その美しい顔に少し眉根を寄せた。


「ローザ、君は何者かに追われていると言っていたね。あまりおおっぴらに、君がその幼馴染みを探していると君の存在を晒すのは、得策ではないかもしれない。……この家の近くに君の幼馴染みが住んでいるのなら、いずれ顔を合わせることもあるんじゃないかな。君は、その幼馴染みに会いさえすれば気付くかな?」


私は自信満々にこくりと頷く。


「はい。その幼馴染みは、私がよく遊んだ幼い頃からはっとするほどの美少女だったんです。会えば絶対にわかると思います……!」


ジュリアン様は、そんな私にくすりと微笑んだ。


「それなら、そのうちにきっと会うこともあるだろう。……さあ、ここが君の部屋だよ。自由に使ってね」

「……!」


戸を開けると、広々とした日当たりのよい部屋には、大きな天蓋付きのベッドに、刺繍の美しいソファ、艶のあるローテーブルが並べられ、天井には小ぶりのシャンデリアが下がっている。壁際の棚には本が並べられ、棚の上には高価そうな彫刻が飾られていた。

今まで私が住んでいた部屋とは雲泥の差で、贅沢過ぎるその部屋だったけれど、全体的に上品に纏められたその部屋は華美に過ぎず、居心地の良い空間になっていた。


身の危険もあるし、今はここに匿って、住まわせてもらえるだけでもありがたいのに。想像以上の部屋に、私は驚いて目を瞬かせた。


「あの、ほんとうに、私にこんなに素敵なお部屋を貸していただいても、よろしいのですか?」


ジュリアン様は目を細めて、至極当然のことのように頷いた。


「ああ、もちろんだよ。気に入ってくれたならよかった」


そう言って、彼は人の良さそうな笑みを浮かべていた。


***


翌日、早速ジュリアン様とまたテラの様子を見に行った。昨日はようやく餌を口にしてくれたお陰か、テラは少し元気になったようで、生気のあまり無かったルビーのような瞳も輝きを増している。


ジュリアン様と二人でテラの様子に胸を撫で下ろしていた、その時。ドンドンと、乱暴に部屋の戸を叩く音がした。こちらが返事をする前に、ガチャリと扉が開く。

そこに立っていたのは、恰幅の良い一人の男性だった。私たちより一回りくらいは年上だろうか。テラに向き合っていたジュリアン様が振り返る。


「どうなさいましたか、叔父上……?」


ジュリアン様のその声音にも、目にも、緊張の色が浮かんでいることにはっとした。彼の叔父だという男性は、忌々しそうに顔を歪めて口を開いた。


「ジュリアン。少しその鷲が餌を食べたくらいで、調子に乗るなよ」

「……どういう意味ですか?」


冷ややかに返すジュリアン様に、いつもの穏やかな親しみやすさは微塵も感じられない。


目の前の男性は、少しだけ片方の口角を上げた。


「お前は兄上の妾腹の子にすぎない。兄上の世継ぎが病で他界したからと、兄上がお前を探し出して連れてきたからと言って……本当に兄上の血を引いているかも、怪しいものだ。お前が本当にオルレーヌ家の世継ぎなら、お前が拾ってきた金色の鷲を治すくらいは当然できるだろう。伝えられているように、この家の家紋にもある金色の鷲は、オルレーヌ家の守護鳥。そして、代々意思を通じ合わせてきたとも言われる。それを、仮に手を拱いて見殺しにするようなことがあれば、お前に後継ぎなど務まらん。もしそれができないのなら、俺が家督を継ぐからな」


それだけ言い捨てると、男性は大きな足音を響かせて歩き去ってしまった。何事かと驚いて目を見開いた私に、ジュリアン様は苦笑する。


「見苦しいところを見せてしまったね。……叔父は、僕がこのオルレーヌ家の跡を継ぐのを反対しているんだ。さっき彼が言っていた通り、僕は妾腹の子供で、もともとは別に暮らしていたんだが、父の息子……僕の兄に当たる人が他界して、父が僕を迎えに来たから、僕がここにいると、そういう訳さ。叔父は、いつだって僕を追い落とすための都合の良い言い訳を考えている」


ジュリアン様は、溜息混じりにそう言うと、テラを見つめた。


私は、こんなにも破格の条件で、テラの世話人として迎えてもらった理由を理解する。……彼の叔父の言い分は、そもそも随分と無茶な理屈だとは思うけれど。


貴族の間では、テラのような希少種の動物が、特殊な意味合いを持つことがあるらしいという話を聞いたことはあった。このような珍しい動物には特別な加護があるとか、魔法の力を秘めているなどという噂は耳にしてはいたけれど、庶民の私とは縁のない話だったし、そういう話が確かにあるのだと、目の前で知ったのは初めてのことだった。迷いの森で仲の良い、一風変わった動物たちの顔が思い浮かび、貴族にはそういう特別扱いをされているのだろうかと、どことなく不思議な感じがした。


テラは、その輝くような赤い瞳でジュリアン様を見つめると、次に、私の両目をじっと覗き込んだ。

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