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なろう劇場 婚約破棄編

作者: 他界

「公爵令嬢レージョ・ウア・クヤック。貴様との婚約を破棄する!」


 ラ・ノーヴェ王国第二王子メイン・コゥ・リア・クタイションの宣言が、王立学園の卒業パーティー会場に響いた。

 今年は第二王子が卒業生として参加するため、その保護者として国王までもが訪れるその会場は、例年以上に絢爛に飾り付けられている。その中で宮廷楽団の演奏に合わせて踊る貴族達の姿は絵画のように美しかったが、大声の宣言によって演奏は止まり、ダンスが中断された者達は何事かと原因に目を向けた。

 そこにいたのは声の主たる第二王子と、相手である公爵令嬢。さらに王子の周りにはその側近である高位貴族子息達が侍っている。

 そして、第二王子の腕に抱きついている場違いな少女。小動物じみた仕草で王子にしがみ付くピンクブロンドの少女は、ドレスこそ煌びやかだが、その振る舞いに貴族のような品が見受けられない。


「貴様がテンシェ・イヒロウィン男爵令嬢にした悪逆非道な振る舞いは目に余る。第二王子の名において貴様を国外追放に処す」


 一方的な物言いに辺りはざわめくが、公爵令嬢をかばう者はいない。誰も王族と敵対したいとは思わないからだ。


 貴族が存在する王制の国。当然ながら身分制度が厳格に定められている。

 平民は貴族に逆らえないし、貴族は王族には逆らえない。逆らったものには厳罰が処されることになる。その罰には死刑すらありえた。


 それを考えれば国外追放はまだ充分に温情といえた。訴えが正当なものなら、だが。


 第二王子は放蕩の限りを尽くすボンクラとして有名で、逆に公爵令嬢はそんなダメ王子を支えるために政略で結ばれた才媛で知られている。

 第二王子の悪評は日に日に酷くなっていき、先日成人たる十五の誕生日を迎えると、「大人になったからには『色』を学ぶため」などと称して女遊びにハマっているのは、貴族のみならず平民でも知らない者はいないほどだ。


 この場の誰もが内心では理解していた。王子の言はただの冤罪で、気に入らない婚約者を追い出し、気に入った女を囲い込みたいだけなのだ、と。

 しかし身分制度に逆らうほどの覚悟を持って異を唱える者はいなかった。


「かしこまりました。では御前失礼いたします」

 公爵令嬢もまた諦念を浮かべながら、抵抗することなく去っていく。


 これが物語であれば、健気な令嬢を助けに来てくれるヒーローによる逆断罪が始まるのだろうが、残念ながら現実では王家に正面から逆らうような命知らずはいないのだ。


 第二王子と男爵令嬢が勝利の笑みをこぼし、パーティーの再開を告げる。

 居合わせた貴族達は王子の暴走ぶりに思うところがありながらも、それを口に出すことなく、表面上は和やかな談笑を再開するのだった。






 一ヶ月後、国境を越えたすぐにある隣国の街で、一人の少女の遺体が見つかった。

 身ぐるみは剥がされ、金目の物どころか服の切れ端一つない全裸で、残っているのはせいぜい暴行と性行為の痕くらいだ。無残な状態だったが、整った顔立ちややけに綺麗な肌などから、貴族であることは容易に判断できた。被害者の特徴は、先日国外追放された公爵令嬢にそっくりだったため、その末路までを想像するのは簡単だった。


 国外追放処分を受けた娘を公爵は助けなかった。王家に睨まれた娘を助けたら一族郎党までもが処分されかねない。公爵本人のみであればまだしも、他の家族や親戚、使用人や領民達までを巻き込んでまで王家に立ち向かうことは、娘を愛していた公爵にもできなかったのだ。貴族籍から娘を外し、「もう赤の他人です」と言い張るしか道はない。

 そうして平民になった公爵令嬢は、花よ蝶よと育てられた環境から一転、すべてを自分でどうにかしなければならない生活になった。しかし金の稼ぎ方も知らず、日常生活すら満足にできない小娘一人。ましてや貴族として磨かれた美少女が、護衛の一人もおらず、警戒も杜撰となれば、悪人にとってはいい鴨だ。


 こういう結末になることは当然だった。


 公爵もわかっていたとはいえ、実際に娘の死を知るとショックを受け、一気に老け込んだ。そして娘を自分勝手に処分した第二王子に、そんな第二王子の止めず我儘放題を許していた王家に、忠誠心など欠片も抱けなくなった。

 何より娘を見捨てた自分を許せなかった。

 爵位を返上する書類を提出すると、その書類が王に届き引き留められる前に一族と国を出た。


 公爵領に住む民も、少なからず国を去っていく。

 才媛で知られる娘同様、その親である公爵も賢君として知られ、領を発展させてきた立役者。

 跡を継ぐ形で代わりにやってきた領主は、愚かではなくとも前任者に遠く及ばず、また前公爵家に対する王家の仕打ちに義憤を覚える民からの目は厳しい。

 結果として、早めに見切りをつけた領民も公爵を追うように国を出たのだ。




 公爵家を取り潰す形になったが、王家としてもそれは本意ではなかった。


 王家も第二王子の暴走を許していたわけではない。勝手なことをした第二王子の王位継承権を剥奪し、臣下の一人へと落とした。

 だがダメ王子とはいえ王子である。その言葉を簡単に翻しては、王家全体の威厳がなくなりかねない。

 すでに発せられた言葉を取り消して見せるか、それは見過ごして単に不出来の始末をするか。

 どちらも王家がダメージを受けてしまうのは同じ。今回は後者が選ばれただけだ。

 公爵令嬢一人と、王家全体の威厳であれば、王家が優先されるのは当然でもある。


 結果的にこの判断は失敗だった。


 公爵令嬢が死に、公爵が去った。王子は継承権を失ったが、死んだわけではない。

 貴族からすれば、明らかに王族が悪いにもかかわらず、非のない貴族が殺されるのも止む無しと、王が考えているのも同然だからだ。

 身分社会においては当然の考え。だがそれで最上位貴族でさえ簡単に殺されるのであれば、次が自分でない保証などどこにもない。

 その時自分は、王の方が偉いから仕方ないと潔く死ねるだろうか?


 聡い貴族はさっさと国を見限る覚悟を決めた。

 公爵領の現状、国民の流出を知れば、国が傾き始めていると気づく者もいる。もちろんこれから立て直せる可能性もあるだろうが、もし立て直せたとしても今の王家ではいつ切り捨てられるかわかったものでもないのだ。

 忠義のために残る貴族の方が多い。しかし、命あっての物種、そう考える者も少なくなかった。


 そうして貴族が夜逃げしていく中、空いたポジションに収まって利益を得ようとする貴族もいた。

 だがそうしたものの多くは利己的だ。存分に甘い汁を啜って、国を立て直そうとするまともな貴族の邪魔をする。

 有能な者が減り、有害な者が増えたことで、政治が滞り始め、国庫は減り、補填するために重税が課せられる。無関係な民も国の旗色が悪いことに気づき始めた。

 公爵領以外でも逃げ出す者が徐々に増え始める。爵位などという重いものを背負っていない分、始まれば早かった。


 税を納める民がいなくなり、著しく減る税収を賄うために一人頭の税率を引き上げ、そのせいでさらに人が逃げて減っていく。

 負のスパイラルに陥った国が完全に破綻するまで十年もかからなかった。


 最終的には自滅という形でラ・ノーヴェ王国の歴史は幕を閉じた。

 重税に苦しむ民の中に革命軍が生まれたり、軍の縮小を見た周辺国が侵略を考えたりもしていたが、それらが実際に行動に移すよりも早く、王家は支配力を失い瓦解した。

 その頃には領を持つ貴族達はすでに王家との関わりを断って事実上の独立を果たしており、利己的な貴族は現実から目を背けるように国庫を浪費しての豪遊で生き急ぐ有様。

 もはや王権など存在しなくなっていたのだ。


 暇を出された使用人が最後の挨拶に伺った時には、行き詰ったことを悟っていた王族達が玉座の前で自刃していた。

 そこにはかつての第二王子と、その妻となった元男爵令嬢の姿もあり、逃げようとしていたのか足の腱を切られて拘束され、二人だけ他人の手で介錯されていた。






 後の世ではラ・ノーヴェ王国の凋落、その始まりとなった第二王子の愚かぶりは広く知られ、『王子の婚約破棄』といえば因果応報による盛大な破滅を意味する慣用句として有名である。

 実際に王族がそのようなことをした場合、ほぼ確実に無礼討ちが許されるそうな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 清々しいまでのざまぁで面白かった [一言] 公爵令嬢には幸せになって欲しかった...(´;ω;`)
[一言] スカッとはしません。無念も晴れません。 けど、現実はこれくらい後味の悪いものなのかもしれないです。でも報いを受けた分、マシなのかもしれません。 とりあえず、王子ザマァ。
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