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双誓のカランコエ  作者: 刻の昏
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結末

お兄ちゃんと椎名さんと共に、事務所に戻ってくる。心配していたお兄ちゃんの怪我も、事務者に着く頃には治っており、改めてお兄ちゃんの能力には驚かされた。


しかし傷は治ったはずのお兄ちゃんの表情は変わらず暗い。きっとわたしとの喧嘩を引きずっているのだろう、罪悪感が胸を占める。


早く、きちんと話をしなければ。


事務所に戻ると、まなちゃんを含めた3人がわたしたちを迎え入れてくれた。まなちゃんはわたしたちが帰ってきたことを確認すると、目に涙を浮かべながら駆け寄ってくる。


「し、雫、蕪、おかえり……っ!」

「ごめんね、まなちゃん。ただいま」

「た、ただいま」


まなちゃんは嬉しそうに笑う。

そのまま、お兄ちゃんのお腹辺りに視線を移すと今度はその顔を真っ青にさせた。


そういえば、傷は塞がっているけれど服は破れており、また血に塗れている。二階堂さんや、聊さんもお兄ちゃんの傷跡を見て険しい表情を浮かべておりわたしと椎名さんは急いでこれまでのことを3人に話した。


その間お兄ちゃんは着替えるために一旦部屋を出て行く。


一連の流れを説明すると、二階堂さんは顎に手をやり考える素振りを見せる。


「また册山くんが蕪くんに接触してきたってことか。その理由は特能の意思なのかな」

「いや、特能は関係ないと思う。あくまであいつの独断だろ」


あの時、咲くんはお兄ちゃんを殺すようなことを言っていた。もし今回の件が特能からの指示なのであれば、殺すのではなく前回のように連れて行く方法を取りそうなうなものだ。


おそらくそういう観点から、椎名さんも今回の咲くんの行動が彼の独断によるものだと判断したのだろう。


「今回は彼の意思だったとしても、いつ特能側の指示で動くかわからないから油断はできないね。今回、蕪くんは彼に無力化させられたわけだし」

「嬢ちゃんの能力は無敵だと思ってたんだがな〜、嬢ちゃん自身の精神状態に左右されるって弱点が敵さんにバレてんのはまずいかもね」

「そ、そんな…」


聊さんが、真面目な声色でそう言う。

重い事実に、部屋の空気までも重くなったのを感じた。


そんな中、わたしは一人とてつもない罪悪感に襲われていた。


「すみません、わたしがお兄ちゃんを追い詰めてしまったからこんなことに」


そもそもわたしがお兄ちゃんにあんなことを言わなければ、お兄ちゃんは精神的に弱ることもなくそれを咲くんに利用されることもなかった。


この状況は元を辿ればわたしの責任になる。


またみんなに迷惑をかけてしまったことに落ち込んでいると、二階堂さんはわたしを責めることなく大丈夫だと告げる。


「遅かれ早かれ少なくとも册山くんには蕪くんの能力の弱点は知られてたと思うよ。とにかく今回、全員無事に戻って来れたことをまずは喜ぼう」


今後のことは蕪くんも含めて全員で話し合おう、と付け足すと彼はわたしの顔をじっと見つめた。


彼の視線の意味が分からず、わたしは首を傾げる。


「そういえば、蕪くんとはきちんと仲直りできた?一緒に帰ってきたから大丈夫なんだとは思うけど」

「一緒に帰ってきたのは緊急事態だったから。話すんのはこれから」

「なんで蓮が代わりに答えてるのかねえ」


二階堂さんの質問に、何故かわたしの代わりに答えた椎名さんは聊さんに突っ込みを入れられる。それをスルーした椎名さんはわたしをじっと見つめる。


彼の視線を受けたわたしは再び二階堂さんに向き直った。


「椎名さんの言う通り、まだちゃんと話せてなくて。これから話そうと思ってます」


それだけ言い切って、椎名さんの方を横目で見ると彼は満足げな表情を浮かべていた。

それだけでなんだか安心してしまう。


わたしたちにとって、大事なのはこれから。

きちんと2人で話をして、お互いのことを知らなきゃいけない。


「雫、大丈夫?」


まなちゃんが心配そうに声をかけてくれる。

さっきのことがあったから、わたしが無理をしていると思ってくれているのだろうか。


わたしはそんな優しい彼女に対して大丈夫だと返す。


「きちんと話すことは大事だと思うよ。頑張ってね、雫ちゃん」


二階堂さんの激励に頷くと、背後から足音が聞こえてきた。その後すぐに着替え終わったお兄ちゃんが事務者に顔を出す。


替えの服を持っていなかったお兄ちゃんは、二階堂さんの服を借りていた。


「すみません、服借りてしまって。後日洗ってお返しします」

「気にしなくていいよ。サイズ大丈夫そうでよかった」


お兄ちゃんはもう一度だけ二階堂さんに頭を下げると、今度はわたしの方に向き直った。

その表情はやはり浮かないもので、胸が痛くなる。


まずは、謝ろう。

そう思った瞬間、わたしが口を開くより前にお兄ちゃんがわたしに向かっても頭を下げた。


「雫、本当にすまなかった。また、お前を追い詰めてしまった。俺は、兄失格だ…」

「どうしてお兄ちゃんが謝るの?!わたしが、お兄ちゃんに酷いこと言ったんだよ?」


まさかお兄ちゃんから謝られるなんて思わなくて、思わず彼に詰め寄る。

謝るべきは、傷付けたわたしだ。


お兄ちゃんは何も悪くないじゃないか。


それなのに彼は、やはり申し訳なさそうにわたしと目を合わせようとしない。


「お兄ちゃんごめんね、わたし自分のことばっかりで全然お兄ちゃんのこと考えられてなかった。お兄ちゃんは、いつもわたしを心配してくれてたのに」


わたしがそう言うと、お兄ちゃんは驚いたように目を丸くする。まるでわたしの言葉が信じられいとでも言うように。


そしてすぐに否定の言葉を並べる。


「ち、違うんだ雫。お前は何も悪くない。俺が、俺がお前を傷付けたんだ。俺がいるから、お前はいつも辛い思いをする…!俺が、悪いんだ!」

「そんなわけない!お兄ちゃんはいつもわたしのために一生懸命になってくれてる!なんで、そんな風に言うの?!」


段々とヒートアップしていく言い合い。

お互い譲らず、折れることを知らない。


みんなの視線がわたしたちに集まるが、そんなこと気にすることもお互いのことに集中する。

二階堂さんたちも、わたしたちの口論に口を挟むことはなかった。


お兄ちゃんはとうとう頭を抱えて、叫ぶ。


「違う違う違う!俺が!俺がいるから、悪いんだ。俺なんて存在しなければよかった、そうすればお前も幸せになれたのに…!」


_____我慢の限界だった。

いつまでもわたしの話を聞かずに自分だけを責め続けるお兄ちゃんに、わたしは手を振り上げる。


パシンと、頬を打つ音が部屋に響いた。


まなちゃんが、えっと声をあげる。

お兄ちゃんもまさか叩かれるとは思っていなかったらしく、呆然とした表情を浮かべてわたしを見た。


悔しさ、悲しみなど、様々な感情に襲われて溢れそうになる涙を堪えながらわたしは叫んだ。


「わたしの幸せ勝手に決めないで!!お兄ちゃんがいなきゃ幸せだったなんてそんなわけないでしょ?!」


いいことばかりだったわけではない。

それはわかっているけれど、わたしはお兄ちゃんがいたから一人ではなかったのだ。

あの事故の時、お兄ちゃんまで失っていればわたしは本当に一人になってしまっていた。


二人でだからこそ、生きてこれたのにそれを否定なんてしてほしくない。

わたしは、今までずっと話してこなかったことを全て吐き出す。


「今まで色々あったよ。周りの人たちにお兄ちゃんと比べられて、それをお兄ちゃんに慰められて惨めな思いもしたこともある。でも、それは全部ちゃんとわたしを見てくれてたからかけてくれた言葉ってこともちゃんと分かってる!」


こんなことを言ったら、お兄ちゃんを余計に傷つけてしまうかもしれない。お兄ちゃんは善意で言ってくれていたのに、それをわたしが気にしていたのだから。でも、わたしはもう隠し事をするのはやめる。

たった1人の家族であるお兄ちゃんには自分の気持ちを全てぶつけると決めたのだ。


もちろん、わたしだけではなくお兄ちゃんにも同じようにしてほしい。


お兄ちゃんは何も言わない。

わたしの言葉をただ黙って聞いている。


「お兄ちゃんが、一緒にいてくれたから。だからわたしここまでこれたんだよ。だから、いなければよかったなんて言わないでよ……!!」

「雫、でも俺は……」


それだけ言って、またお兄ちゃんはわたしから逸らして黙ってしまう。

ここで引き下がっては、これまでと変わらない。わたしだけが気持ちをぶつけていては、わたしたちはいつまで経っても変わることなんて出来ないのだ。


わたしはお兄ちゃんに近づいて、両手を握る。

お兄ちゃんが目を逸らしても、わたしはもう逃げたりしない。


「わたしたち、お互いに遠慮しすぎたんだよ、家族なのに。わたしは全部言ったから、お兄ちゃんもわたしにぶつけてよ。全部受け入れるから!」


「……本当に、雫は、……眩しい。」


くしゃっと歪んだ様な、何処か自虐的な、そんな風に笑うお兄ちゃん。

そんな表情をわたしに向けるのは初めてで、握る手の温度が少し低いことを改めて気付かされた。


「……俺は、雫の事をずっと、とても素敵な人間だと思っているよ。逆境に飲み込まれそうになっても、頑張るお前がとてもとても、俺からは魅力的に見えていた。だから俺は、俺と比べて「出来ない」と言った劣等感を持つ人達が自分の輝きを俺のせいで失ってしまうことを、ずっと悔いている。」


手が少し震えているのを感じる。自信の無さそうな表情や逸らされる目線からは、普段の「何でも出来るお兄ちゃん」を感じさせない。お兄ちゃんが必要以上に物事を悪く捉えてしまうネガティブ思考な持ち主の事は知っていたけれど、自分のせいだと此所まで押さえ込んでいる感情をわたしには隠していたんだ。


「俺は努力もせずに才能を与えられたつまらない人間なのに、皆は俺と他人を比べて俺を出来ると評価し、褒めてくれる。虚しいくらいに伸ばした手の有り様も分からない存在だったのに!」


出来る人間だからこその葛藤。正反対のわたしには理解出来るはずの無い感情。

握る手に力が籠もる。ぎゅっと締め付けられるような力が、言葉よりもお兄ちゃんの苦しみを訴えかけてくる。


「でも俺はお兄ちゃんだから、そんな考えの姿を雫に見せる訳には行かないと気を張り詰めて、もっとちゃんと出来る兄で居なくてはと、必死だった。そんなんだから、俺には何もお前のことが見えていなかった。……雫、俺達にはお兄ちゃんが居ただろう。(カエデ)兄さん、いつも俺達に優しくしてくれた。」


「うん……。優しかった、わたし達が喧嘩した時、いつも宥めてくれて、仲直りをさせてくれた。」


(カエデ)お兄ちゃん。事故で両親共々失ってしまった、わたし達の大事な兄。


「俺は、あの事故の後から、……花兄さんの代わりになろうと必死だった。花兄さんの様にならなくては、雫を守らなくては、いつも優しく俺達を引っ張ってくれていた兄さんの様に。俺が雫の兄さんになるんだ。そう、思い詰めて。」


「……そうだね、わたし達、生まれた時は確かに「双子」だったよ。兄妹の関係じゃなくて、同じ存在。対等な関係だった。」


わたし達が生まれた時は、「(アカネ)」「(シズク)」とお互いに名前で呼び合って、先にお腹から出てきたお兄ちゃんのことを「兄」と認識をしていなかった。それはお兄ちゃんもそうだったと思う。小さな頃の記憶は微かでしかないけれど、少なくとも呼び方は「お兄ちゃん」では無かった。


「両親を失い、兄さんを失い……残された二人で生きていくしか無いと定められた時、俺は唯一の家族となった雫をどうしても失いたくなかった。これ以上、哀しい思いをしたくないと思った。でも俺が俺で有ることには、雫を守っていける自信も無かった。兄さんなら、どうするんだろう。兄さんなら、こんなとき。兄さんなら、兄さんなら、ってことある毎に花兄さんを思い浮かべるようになった。」


「いつの間にか、わたしのお兄ちゃんになってくれてたんだよね。」


「違う、それは俺が……嫌、でも、その気持ちに必死になりすぎて、お前のことを表面上も見てやることが出来ず何度も傷つけてきた。俺がちゃんとした兄さんになれなかったから。」


お兄ちゃんの視線が下を向く。


何を言っても自分を責める言葉を止めない彼に、これ以上なんと声をかければいいかわからなくなる。

けれどここで諦めてしまっては今までと何も変わらない。覚悟を決めてわたしはもう一度口を開いた。


「わたしだって同じだよ。わたしだって自分のことしか考えてなかった、お兄ちゃんのこと何にも見てなかった。

だから何度もすれ違っちゃたんだよ。今こうやって折角ちゃんと話し合えたんだもん、

これからはなにかあったら我慢したり遠慮したりするんじゃなくて話そう?」


なるべく落ち着いた声でそう語りかける。すると今まで下がってしまっていたお兄ちゃんの視線がやっとわたしと合った。

まだ浮かない表情を浮かべるお兄ちゃんににっこりと笑いかける。


少しでも、安心してくれるように。もうわたしは、お兄ちゃんに守られるだけの存在ではいたくない。

昔のように完全に対等な存在には戻ることはできないかもしれないが、わたしたちは双子。

一緒に生まれ、生きてきた唯一無二の存在なのだ。どちらか一方だけが負担を背負う必要なんてない。


「わたしはもう大丈夫だよ。もう誰かに比べられたからって傷ついたりしない。だってこんなにわたしを大切に

思ってくれているお兄ちゃんがいるんだもん。だからもうそんなに気負わないで」

「でも……」

「でもじゃないよ!お兄ちゃんがなんて言おうと、わたしはもうお兄ちゃん一人に頑張らせたりしないし、遠慮だってしないんだから!覚悟してね!?」

「え、えっと……」


ビシッとそう言いきると、お兄ちゃんはぽかんとした表情を浮かべてわたしを見ている。

本当はお互い遠慮せずに接し、助け合っていきたいところではあったが今までお兄ちゃんと話していてその様子から、

現状お兄ちゃんがわたしに頼ったり思ったことを話すということは難しいであろうことがわかってきた。


きっと今まで兄であり続けようとしてきてくれたことが癖づいて、すぐに変わることは難しいのかもしれない。

それならば、わたしがもっと成長してお兄ちゃんが自然と頼れるような人間になればいい。


お兄ちゃんが必死にならなくてもいいように、わたしが強くなって見せる。


「……わたしのことで今まで無理させてごめんね。」


もうこんなことで謝るのも最後だ。

そう思って謝罪の言葉を口にすると、お兄ちゃんが再度違うと首を振る。

何が違うのかと首を傾げていると、今までの弱弱しい雰囲気と打って変わって力強くこう言った。


「雫、これだけは勘違いしないでくれ。俺は、確かに花兄さんのようになろうと必死になっていた。

でもそれは、仕方なくやっていたわけじゃない。俺だって雫がいたから、頑張ろうと思えたしここまで生きてこられた。

……だから、謝ったりはしないでほしい」

「……うん。ふふ、じゃあこれで仲直り、だね。わたしお兄ちゃんの気持ち聞けて嬉しかったよ」

「な、情けないところを見せてしまってすまない。それと雫、さっき言っていたことだがあまり無理は……」


「も~!それがだめなんだって!大丈夫だから!困ったことがあったらちゃんと話す!そういう意味でも遠慮しないってば!」


すっかり和やかな雰囲気になったところで、周りの視線に気が付いた。

そういえば、話し合いに夢中になって忘れていたがここは事務所で周りにはほかの皆さんもいたのだった。

その事実に気が付き、猛烈な恥ずかしさに襲われる。


全員の様子を確認してみると、まなちゃんは泣きそうな表情を浮かべ、二階堂さんはニコニコと笑顔を浮かべていた。

聊さんと椎名さんはにやにやと笑いながらわたしたちのことを見ている。


「うん、二人が仲直りできたみたいでよかったよ」

「あ、蕪、頬大丈夫……?!」

「いやあ~若いねえ……見てるこっちが照れちゃうよ」

「よくあんな恥ずかしいこと言えるな、尊敬するわ」


それぞれ異なる反応をされて、対応に困る。

お兄ちゃんの方を見るも、わたしと同じく困惑の表情を浮かべていたが、

すぐに全員に向けて頭を下げていた。


「今日は、皆さんにご迷惑をおかけしてしまいすみませんでした」


お兄ちゃんの謝罪の言葉聞いて、わたしも頭を下げて謝罪を述べる。

たしかに今日一日、二階堂さんたちには大変な迷惑をかけてしまっていた。


頭を下げたわたしたち二人を見て、二階堂さんが優しい声色で気にしないでと声をかけてくれる。


「さっきも言ったけど、君たち二人がきちんと話せたみたいでよかったよ。ね、蓮?」

「は?オレはこんな面倒なこともう絶対関わらないからな」

「そんなこと言っちゃて~嬢ちゃんたちが仲直りできるか真剣に見てただろ~?」

「黙ってろ、つぶすぞ」


いつも通りの和やかな雰囲気に思わず笑みがこぼれる。

それはわたしだけでなく、隣に立つお兄ちゃんもまた柔らかい表情を浮かべていた。


今日改めてここに来られてよかったと思った。

ここに来たからこそ、傷つくこともあったが結果としてお兄ちゃんとも話し合うことができ、

完全には解決できていなかったコンプレックスとも向き合うことができた。


まだまだこれからではあるが、気分は段違いに前に向いている。


(……わたしが、こう思うことができたのは。)


未だ聊さんと口喧嘩を繰り広げる椎名さんに視線を移す。

落ち込んでいる時に、探しに来てくれて大事なことに気が付かせてくれた。

彼がいたから、お兄ちゃんときちんと話し合おうと思えたのだ。


この騒動のきっかけは彼の言動によるものではあるが結果としていい方向に

落ち着いたのだから、先程全員に謝罪はしたが個別でお礼も言っておきたい。


その後今日は解散する流れとなったが、わたしはお兄ちゃんに先に帰ってもらうよう

伝えると、パソコンをいじり始めた椎名さんに声をかける。

彼は視線はパソコンに向けたまま、何と返事をしてくれた。


「今日はありがとうございました。おかげでお兄ちゃんと話し合えました」

「お前、馬鹿だろ。元はと言えばオレの言動で面倒なことになったのになに感謝してんだよ」

「今日喧嘩になっていなかったとしても、いつかはきっと同じことになっていました。

でも椎名さんと話していなかったら、きっとこの結果にはなっていなかったと思います!

だから、ありがとうございました」


もう一度お礼の言葉を述べると、椎名さんはパソコンの画面から一瞬だけ視線を外しこちらを横目で見る。

しかしすぐにその視線は目の前の画面に戻り、めんどくさそうな表情を浮かべながら口を開く。


「お前、まじでなんでそんな恥ずかしいことばっか言えんだよ。別にお前ら二人見てて気持ち悪かったから、

思ったこと言っただけ。そんだけだから感謝されるようなことじゃねーよ」

「それでもわたしにとってはありがたかったので!」

「あっそ」


このままでは堂々巡りになると察したのか、椎名さんはそれ以上否定はしなかった。

それに満足したわたしは、これ以上は迷惑になるかもしれないので帰ろうかと考えていると

椎名さんが再び話し始めた。


「そういや、お前オレらの前でさんざん頑張る宣言したんだから、もうちょっと役に立てよ。

今のところマジで役立たずだからな」

「うっ……もちろん頑張ります。そのためにも、また能力の特訓お願いします!」

「めんどくせ……」


口では嫌そうにしているが、きっと彼はわたしにこれからも付き合ってくれる。

口は悪いが、なんだかんだ言って面倒見がいいことはこれまで関わってきた中で分かっているのだ。

そう確信して、わたしはそっと笑みを浮かべた。

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