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双誓のカランコエ  作者: 刻の昏
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興味

____どうやら、オレは目の前の女の地雷を踏んでしまったらしい。


「わたしだって、頑張ってきたんです!!どうして、いつもいつも比べられなきゃダメなんですか!!!何も知らない貴方にそんなふうに言われる筋合いない!!」


オレの放った言葉に、涙を流しながら反論する女に対して面倒なことになったとは思うが、かと言ってできることもないので特段焦らずただ目の前の状況を眺める。


目の前の女、橒月雫は一言で言えば役に立たない人間だ。知り合ってから何故か関わる機会が多かったが、コイツには迷惑かけられた記憶しかない。


そして、こいつの双子の兄である橒月蕪。

こいつとは妹ほど関わってきたわけではないが、妹よりは余程使い物になる印象だ。


それをそのまま伝えたところ、どうやら地雷だったようで今に至る。

本当に面倒なことになったと思う。


昔から大抵のことは平均以上でこなせていた為、できないことに対するもどかしさなどからは無縁で生きてきたことから正直目の前で泣くこいつを全く理解ができない。

そもそもこいつは自身の能力以上のことを為そうとする。それだから失敗するというのに懲りずに行動をし続けるのだ。そんな無駄なことを繰り返すこいつを理解するなどきっとオレには一生掛かってもムリだ。


しかし、このままではますます面倒なことになる。

どうしたものかと考えあぐねていると橒月は部屋を飛び出そうとするが、兄によって止められていた。


妹を落ち着かせようと必死の形相を浮かべる兄。


「し、雫、俺は、お前が頑張っていること……!」


しかし、妹を想って発した言葉は先程のオレと同じくアイツの地雷を踏むことになる。

妹の言葉により、兄が絶望にたたき落とされる瞬間をオレは他人事の様に眺めた。


最初にアイツの地雷を踏み抜いたオレが言えることでは到底ないが、この一連の流れからあの言葉を投げかけるのはある意味で残酷だ。比べられる対象からの慰めなど、惨め以外の何物でもないだろう。


(……まあ、オレには関係ないけど。)


あの2人の関係性が崩れようとも、オレには関係がない。


妹は兄の手を振り払うと、そのまま事務所を出て行った。

残されたオレたちの間には気まずい沈黙が流れる。


いつもであれば郁弥が場を取りなすが、アイツですら蕪にかける言葉が見つからないのだろう。

まなは涙目で蕪を見つめ、憲史郎は特に焦った様子も見せず残った酒を煽る。

オレはというとどのタイミングで自身の作業に戻ろうかと考えていた。


続く沈黙に苛立ちを覚え始めた頃、今までずっと俯いて一言も発しなかった蕪が真っ白な顔に下手糞な笑顔を浮かべて、震える声でこの空気を破った。


「あ、お、俺……、ほんとダメですね。雫のこと余計に怒らせてしまいました。あはは、その、すみません。少し頭冷やしてきます……!」


それだけ言うと誰とも目を合わせることなく、妹に続き部屋を出て行った。

その表情や、後ろ姿からはまるで生気を感じない。まさしく絶望のどん底という言葉がぴったりだ。

さすがに今のあいつを一人にするのは何をしでかすかわからない分、危険だと思う。


(誰か行くだろ、オレじゃなくても別に。あんな状態の人間の相手とかめんどくさい)


きっと今のあいつは誰のどんな言葉もいい方向には受け取らない。

そんな人間の相手なんて、オレができるわけがない。こういう時は郁弥辺りがうまくやるに違いないだろうから、放っておいても問題ないだろう。


そう思い、他のやつらが行動を行動するのを待っていると、一番に動いたのは意外にもまなだった。


「ま、まな、蕪のところいってくる……!」

「お~待て待て、まな。今お前が嬢ちゃんとこ行っても役立たずだと思うよ~」

「で、でも、放っておけないでしょ……!?」


憲史郎が、蕪を追いかけようとするまなを制止するもいうことを聞かずに駆け出そうとする。


憲史郎の言う通り、今の蕪をまなが追いかけたところで事態が好転するとは到底思えないがこのバカは、そんなことお構いなしだ。


(どいつもこいつも、なんでそんな無意味なことばっかすんのかな。意味わかんねぇ)


無駄なことは嫌いだ。

できるかどうかわからないことなんかに時間をかけるなんて、面倒この上ない。

なのに、橒月もまなも進んで面倒を背負う。


その結果、どうにもならなくて傷付いても同じことを繰り返す。

学習能力がないのかなんなのか、見ていて本当にイライラする。


止められたにも関わらず納得していないまなは憲史郎に反抗をし続ける。一方の憲史郎はそれを軽くかわしており、平行線の状態が続いている。そんな中、郁弥がヒートアップしていくまなの肩を掴み2人の間に立つ。


「2人ともストップ。ここで言い争ってても意味ないよ。憲史郎の言う通り今の蕪くんをまなが追いかけるのは得策ではないと思う。俺が探してくるから、まなは憲史郎とここで待ってて。心配しなくても、蕪くんはちゃんと戻ってくるよ」


郁弥のその言葉に、まなが先程までの出ていきそうな勢いを落ち着け、しばらく黙った後小さくうなずいた。


「まなは郁弥の言うことは聞くよな~」

「うるさい。ふ、郁弥は憲史郎みたいな嫌な言い方しないもん」

「ありがとう、まな」


郁弥はまなの頭を撫でると、今度はオレに向き直った。


嫌な予感を察したオレは郁弥が口を開く前に顔を歪める。

こういう時こいつが何を言うかということは長年の付き合いからわかっている。

先手必勝だといわんばかりに、オレは郁弥が余計なことを言う前に口を開く。


「やだ」

「まだ何も言ってないよ。さっきも言った通り、俺は蕪くんを探してくるから蓮は雫ちゃんのことよろしくね」


決定事項の如く妹の方を捜索を指示してくる郁弥に対してもう一度拒否の意を示す。

しかし、そんなことを聞き入れる男なはずもなく顔に笑みを浮かべたままオレの逃げ場を奪っていく。


「君たちの会話は聞いてたけど、あれは蓮が悪いよ。意図的ではないとは言え、雫ちゃんの触れられたくない部分に触れたんだ。蓮だって触れられたくないことはあるよね。君はうまく隠しているから、他人に気づかれることも指摘されることもないかもしれないけど、もし土足で踏み込まれれば怒るでしょ?同じことをしたんだからきちんと彼女に謝っておいで」


(……触れられたくないこと、ね。こいつマジで性格悪い。)


優し気な表情、声色とは裏腹に放ってくる言葉はナイフのように鋭く、反論の余地を与えない。

自分の都合よく動くように、相手を誘導しているのだ、あくまで自分の意思で動くように。


オレも口が立つほうではある自覚はある。

ただこいつ相手となると言い合っても無駄でしかなく、言い負かせた記憶がない。

今回だって、そうだ。


オレは、小さく舌打ちをした後郁弥たちに背を向けてそのまま部屋をでた。


「蓮に言うことを聞かせられるのは郁弥だけだな~怖い怖い」


部屋の中から、憲史郎のアホ声が聞こえてきたので、後で蹴ると決めた。



事務所を出たオレは、とりあえずあてもなく歩く。

仮にこのままあいつを見つけたとして、どうするべきなのかはわからない。


(めんどくせぇ、落ち込んでるやつへの声のかけ方とか知らねえし。)


そもそもの話、オレの言葉でこんなことになっているというのに本人が現れてまともに話ができるのだろうか。

逃げられるか、追い返されるかの二択のような気がしてならない。


しかし、あいつを連れ戻さないことには郁弥が納得するとも思えない。


「どうすりゃいいんだか」


今まで、こんな風に悩んだことはなかった。

オレの物言いで周りのやつらが離れていくならそれまでだったし、自分から追いかけるなんてことはしたことがない。

どうして出会って間もない女のために普段しないようなことをわざわざ悩んでまでしなくてはいけないのか、考え始めると苛立ちが湧いてくるが、今はそんなこと考えている場合でもない。


オレは思考に集中するために、イヤホンを取り出すと耳に装着しフードもかぶる。

外界からの音を遮断すると無駄な思考が取り除かれ今必要なことだけを考えられるのだ。


ひとまずあいつを見つけたら、郁弥の言う通り謝罪の言葉でも並べるのが手っ取り早いだろう。

お人好しのあいつは、謝罪をする相手を無下にすることはおそらくないはずだ。


(まあ、オレは自分が悪いとは思ってねえけど。それで解決するならなんでもいい。)


そのあとは適当に話をして事務所に連れ帰れば郁弥も満足だろう。

オレがあいつに言われたのは、連れ帰るということだけなのでその後のことはほかのやつらが勝手にやればいい。どうせ、あの双子のことだ。もう一度会えば勝手に仲直りするに違いない。


ひとまず一連の流れを計画し、ふと辺りを見渡すといつの間にか初めて橒月に出会った川沿いの道の側までやってきていた。

あいつを連れ戻す方法は決まったが、肝心のあいつを見つけられない。しかし、あいつの行きそうなところなど見当もつかないのが現状だ。兄も戻ってくる可能性のある自宅に戻っているとは考えづらいが、友人宅などをオレが知っているわけもなく。


思わずため息を吐きそうになった時、ふとあるものが視界に入る。


(あそこ、あいつと初めて会った場所だな。)


目線の先にあるのは、オレが特能の連中に絡まれ橒月に出会った例の橋だ。

あの時は、特能のやつらをボコしているのを誰かに見られるのが面倒で人目につかないところを選んだのに、あのバカが乱入してきてそのうちの一人に目をつけられたのだ。

早く帰るように促してやったのに、オレを心配してなどというアホみたいな理由でなかなか帰らなかった。そのおかげで、あいつは兄と一緒にいる際に能力者に襲われ、あいつ自身も能力者になった。


あの時オレのところに来なければ今もあいつは何も知らず普通の生活を送っていたはずだ。

もちろん、兄である蕪も。


(ほんと、バカだよな。大変な目に合ってるのにオレに一言も文句言わねえし。)


あの時オレがあの場所を選ばなければ、あいつがオレを見つけることもなかった。

オレに恨みを持ってもおかしくないのに、少しも態度に出さずそれどころかオレたちの役に立とうと奮闘する。

オレなら、面倒に巻き込まれたとさんざん文句を言っていただろう。


やはり、あいつのことは理解ができない。

一体、何があいつをそうさせているのか。


(知ったところで、だけど。)


知ったところであいつに対する評価が変わるわけではない。

使えない奴に変わりはないし、接し方だって今までと変わらない。ただ、今少し興味は湧いてきた。今までそんな風にあいつのことを考えたことはないが、一度気になると知りたくなるのがオレの性ではある。今まで周りにはいなかったタイプの人間だからだろうか。相変わらず、共感も理解もできるとは思わないが。


とにかく、今はあいつに会うことが先決だ。

オレはなんとなく少し離れたところに見える橋に向かって歩く。


目的の場所に近づいてきたとき何の気なしに川の方を見てみると川の側の芝生の上に座り込んでいる橒月を見つけた。


(うわ、いた。)


予想外の発見に一瞬近づくことをためらってしまう。

まさか、ここにいるとは思わなかったのだから仕方ないだろう。


しかしこのままここでこうしていてもどうしようもない。

オレは側にあった階段を使って、あいつの元へと向かった。

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