特能幹部2
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もう振動しなくなった携帯を制服ポケットに無理に突っ込みながら、
僕は特異能力者矯正更生機関の表口が空くのを待って、中へと入った。
表口は、通常外部からの来客用として作られているので、
幹部の僕が此処から入るのは異質だ。
だが、少しばかり手順が面倒な裏口に行く余裕は今の僕には無かった。
受付の女が驚いた顔をして僕を見たが、難癖を付けられては堪らないと思ったのか
直ぐに目を逸らしている。
(.....クソが)
一般客も、特能の人間も掻き分けエレベーターへと乗車しては、直ぐに閉めるボタンを連打。
とっとと部屋に戻って寝てしまいたい。
嫌な事は消し去るに限る。
蕪さんの写真でも眺めて、すやすやと僕は良い夢を見るのだ。
エレベーターが、音を立てて動き出した。
幹部のフロアまで一直線、誰が止めても乗せてなんてやるもんか。
だが、そんな僕の思いとは裏腹に、2階でエレベーターは停止する。
(あぁ、誰がかボタンを押したのか。
面倒な事しやがって__)
直ぐに握りしめた拳で閉めるボタンを押そうとしたが、ドアを開けて見えた顔は、予想もしていなかった人物だった。
「.....戻ったか」
「........何で、貴方が此処に。」
「お前には関係が無い。今日頃戻って来るのは分かっていた、仕事は後で纏めて伝えさせる。直ぐに取り掛かれ」
「........」
顔が覆い隠れる不気味な仮面を付け、感情の起伏を感じない冷淡な声で、僕の顔もろくに見ず吐き捨てるのは、僕ら幹部を取り纏める男だ。
此処、特異能力者矯正更生機関の総司令の殆どがコイツに一任されてると言っても正直過言では無いと思う。
ロクに返事も出来ないまま、僕はただ頷いてエレベーターを動かした。
重苦しい機械の箱に、2人。
沈黙の居心地の悪さに、何の気まぐれか、僕は先程の疑問点を口にしてみたが
直ぐに口にしなければ良かったと後悔することになる。
「あの、リーダー、何故、僕が戻ってくると」
「貴様が奴とうまくいかないことなどハナから見えていた。
母親に追い出され、居場所が無くなり、いずれ戻ってくるなんてこと、容易に想像が着くだろう」
「....ッ、蕪さんと、...僕は結ばれる運命ですから」
「阿呆臭い。人間は自分の欲望の押し付け所を見付けては、大層素晴らしく銘を打ち掲げる。」
「なッ......!!!」
ガタン、とエレベーターのドアが開くと同時に、リーダーは僕の事などまるで居ないもののように、目もくれず歩き出した。
聞かなければ、良かった。
堪らず後ろ姿に叫ぶ様に、言う。
「僕は、蕪さんを___!」
「册山 咲。貴様は欲望を押し付けれれば誰でも良かった。アカネとやらじゃなくともな。」
「っ!」
「___貴様は愛されたいだけの、只の子供だ。」
「待っ....」
僕が反論をする前に、エレベーターのドアは固く閉じてしまった。
後は只、僕が押した階、目的地まで僕の体を運ぶのみだ。
「クソッ....!!!」
頭を抱え、壁に凭れ込む。
違う、違う、アイツの、リーダーの言葉が図星だった訳なんかじゃない。
言いたい放題言われて何も言えなかったことに苛立っているんだ。
誰でも良かったんじゃない。
僕が愛されたくて、蕪さんを愛した訳じゃない。
この気持ちに大層な名前を付けて酔いしれているんじゃない。
あの時、全く見知らぬ他人だった僕を、怪我をした僕を優しく扱ってくれて、
まるで僕の失って忘れかけていた愛情を与えてくれたような、呼び起こしてくれたようなそんな気がしたから。
____決して、僕の欲望を押し付ける場所を探していた訳じゃない。
そんなんじゃ、ない。
「あの」
「...はぁ?」
急に前から声を掛けられ、目線を向ける。
いつの間にか、エレベーターは目的のフロアに停止していたようだ。
前に居るのは、20代くらいの若い女。
丁度、あの忌々しいオンナ、雫の様な長い黒髪をしていた。
「す、すみません...!間違って私、この階に来ちゃって、その、すぐ降りますのでエレベーターに乗っても良いでしょうか?」
どうやら、コイツは特能へ所属したての様だ。
此処には指定された人間しか入れないと言う事は知っている様だが、誤って此処に来てしまい、
慌ててエレベーターを使用し戻ろうとした際に、凭れかかったままの僕が居ることに気付き、声を掛けたのだろう。
「.......あは、おねーさん、運が最高に悪いね」
「え?」
「ううん、なんでもないよ...」
ああ、タイミングも、姿も、最高に悪すぎる。
可哀想な、おねーさん。
何も分かっていない彼女へ、
僕はにっこりと微笑んであげた。
「____機嫌の悪い時に、声掛けんな、クソ女」
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「あースッキリした」
「ちょ、咲、お前ほんと何やってんだよ...」
金髪のやたら軽薄そうな男、望月響也が
音を聞きつけて、自室から出てくる。
僕は苛立ちに任せて、さっきの女を能力で滅多刺しにしてしまった。
まだ息はあるようだが、至急手当てをしないと間に合わないだろう。
悲鳴を聞き付けた救護班が、慌てて女を運んで行く。
「あはは、良かったねぇ、救護班に間に合いそうで」
「嫌、なんも良くねーって...どうしたんだよ、咲」
運ばれていく女を馬鹿にしたように鼻で笑いながら、
響也に目も向けず、僕は自室へと歩みを進める。
「ふふ、可哀想。蕪さんがいたらすーぐ治してくれるのに。
僕ら特能の救護班じゃ、一日は掛かるんじゃないかなぁ。」
「おい、咲!」
「うるさいなぁ」
後ろから少し大きな声で呼び止められて、すこぶる不愉快だ。
仕方なく立ち止まって、響也の方を向く。
いつになく真剣な顔で、ああ、ダルい話でもされそうだ。
「ほんと前からおかしいって、そんなに蕪って奴が__」
「あ?」
____コイツ、今なんて言った?
僕の蕪さんに、僕の僕の僕の僕の
誰にも渡さない僕だけの僕の
大事に決まってる 壊したいくらい
好きだよ 好きでおかしくなる
「お前も、僕と、蕪さんの、邪魔するの?」
「そう言う訳じゃねぇよ、ただ最近本当に」
「僕と蕪さんを邪魔する奴は絶対に許さない、僕のこの気持ちを否定するな」
「いや、だからさ」
おかしい? 僕が? 僕はおかしくない 間違っていない
「これ以上僕の邪魔するなら、さっきの女みたいにお前の妹の内臓を執拗に刺してやるから」
「は?お前妹に手出したらぜってー許さねぇぞ」
妹、そう言葉に出した瞬間に響也の表情が怒りの感情を孕む。
その表情を見て、なんだか胸辺りが強く痛み出した。
あれ?、なんだこの感覚。
「何が大事なのさ、あんなの。いらないでしょ」
その感情の答えを知りたくなくて、浮かんだ仮面越しの言葉ごと吐き捨てるように彼から、踵を返そうとした。
「っ.....!!」
途端、強く、胸倉を掴まれたことに驚きを隠せない。
初めて間近で見る、響也の怒った顔。
混乱で、目が泳ぐ。
「ちょ、何してんのあんたら!!!」
「あっ....わ、悪い...」
「......」
その空間を破って入ってきたのは、キラキラと光るスマホケースが付いたケータイを片手に持った女、傍充 姫裸だ。
響也が慌てて、僕の掴んでいた胸倉を離す。
「びっくりするわー...でっかい音したと思って、騒ぎ収まってから確認しに来たら二人なんかしてっから、何があったわけ」
「....何もない そろそろ僕を部屋に行かせてくれない?今、疲れてるんだ」
「...あ、ああ、引き留めて悪かったな、咲」
僕は、二人の顔をロクに見れもしないまま、その場から離れて振り返りもせず、自室へと戻っていった。
後ろから、うるさい姫裸の声が響いていた。
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