日常
「でね...お兄ちゃん...失礼だと思わない!?」
「そうか..それはまた酷い話だな」
わたしは兄と食卓を囲みながら、先程のことを話す。あまりの苛立ちにご飯を食べる手が止まっていた。
一通り内容を話し終えたところで、味噌汁を啜り終えた兄が優しく微笑んだ。
「でも、雫に怪我が無くって本当に良かったよ」
「...お兄ちゃん、ありがとう」
兄の名前は「橒月 蕪」。
下睫毛が長く、整った美形な顔立ち。
運動神経も抜群で、勉強も出来てしまう、まさに完璧。
わたしとは二卵性の双子なのだ。
.....神様って不公平だよね。
「でもその人達は一体何をしていたんだろうな?全く検討も付かない」
「んん~わかんない。結局何も聞いてないし...」
ようやくハンバーグに箸を伸ばす。怒りを込めて空気を抜いただけあって、良い出来だ。
確かに、あの人達は何だったんだろう。我を忘れていたけれど、よくよく考えたら変な出来事だった気がする。
「とにかく、危ないところには行っちゃダメだからな。」
「う、...だ、大丈夫だよお兄ちゃん!」
「大丈夫じゃない。....雫は女の子なんだし、何かあってからじゃ遅いんだ。お兄ちゃんとの約束。」
「わ、わかってるよ...」
ゆびきりげんまん、小指同士をつないで、約束をする。
兄は酷く心配性だ。それでいてネガティブだ。最悪の事態を想定して、良く落ち込んでいる。
会社勤めでもその性格が災いしているようで、夜魘されていることが多い。
わたしも、そんな兄が凄く心配だ。
「ごちそうさま、美味しかったよ」
「良かった~!今日のハンバーグは上手にできたんだよね!」
「片付けは俺がやるから、雫は先にお風呂入っておいで。」
「うん、わかった!ありがとう~」
席を立ち、お風呂用品を自室に取りに向かう途中で兄が「あ、雫」と何かを思い出したように呼び止める。
「ん?なに~?」
「そう言えば洗剤が残り少なくなってたんだ、明日はお休みだし...一緒に買い物でもどうかなって」
「うん!大丈夫だよ!」
明日は特に予定も無いので、二つ返事で了承する。兄は返事を聞くと嬉しそうに微笑んだ。
「わかった、じゃあ、明日。」
「うん!!楽しみ~」
お兄ちゃんとのお買い物、久々で楽しみだなあ。
どこに行こうか、そういえば新しいケーキ屋さんが出来てたんだっけ。そこにも行きたいし、
お兄ちゃんのお洋服とかも見たいな、なんて思いを馳せて上機嫌。
今日あった変な出来事なんて、明日の楽しみな出来事にかき消され、
わたしはすっかりと忘れてしまっていた。